無責任野郎! 武蔵丸 清治   作:アバッキーノ

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ちょい短めで。


F04 対新型戦

 風間隊が新型との戦闘に突入した。彼らの主目的は敵の撃破と共に諏訪の救出だったが、直前になって清治から妙なオーダーが入った。

『ちょい長めに戦って』

 その一言だった。そして、風間にはそれで十分だった。要するに情報を取って欲しいということなのだろう。

 清治は新型がこのタイプだけではないと推察したのだろう。今目の前にいる敵は近接戦闘が得意なタイプのようだが、例えば防御に特化した遠距離攻撃が得意なタイプがいないと誰が言えるだろう。

 打撃と電撃だけのタイプならそれで良い。だが、次に始末する相手がそうであるとは限らないというわけだ。

 ならばなぜ風間隊だったのか。その答えは単純明快で単に彼らが『強い』からだ。

 隊の成績こそA級3位ではあるが、隊長としての資質も高く戦闘力も高い風間。彼の考えを体現できるだけの強さを持った歌川 遼と菊地原 士郎。彼らを完璧なサポートで勝利へと導くオペレーターの三上 歌歩。

 A級2位の冬島隊は前衛向きではないし、1位の太刀川隊については今回は隊としてよりも個として動いてもらうことになっている。隊として動く場合どうしてもガンになる人物が所属しているというのもあるが、太刀川隊の面々はどちらかと言えば戦闘に特化した隊でデータを取るための戦い方は不得手であるということもある。

 ラービットに遅れを取るどころか、その気になれば圧倒することもできる彼らは、必要であればデータロガーになることもできる。

 何にしても、現状新型の情報が少なすぎる。そして、東をはじめ戦略・戦術への理解度の高い者ほど情報がどれだけ重要かを理解している。

 単に戦闘力で圧倒するだけでは勝てない相手も存在する。特に今回は防衛戦であり、敵を完全撃破することよりも、いかに敵に多くの出血を強いて早めに撤退させるかがポイントになる。

 風間の感覚では、ボーダーにおいて清治以上にその面でアテになる人間はいない。彼の言葉で清治を表するなら

「最も効率良く味方を消費して敵に多大な打撃を与えるのが上手い」

人材だそうだ。

「掴まれるなよ! 電撃にも注意しろ!」

 戦いつつ風間が部下に注意を促す。だが、この場合菊地原の返事は端的にこの敵への的確な評価だったかもしれない。

「捕まりっこないですよ。こんな単純な動き…」

 まさしくその通りで、ラービットのこれまでの攻撃はその腕を振り回す単純なものだった。確かに驚異的なスピードとパワーではあるが、見切るのはさほど難しいものではない。

 だが、次の敵の攻撃はまるで菊地原のそんな言葉に反応したかのようなものだった。なんと、自らの足元を攻撃し、その衝撃で粉塵を巻き上げたのである。これには全員が少々驚いた。

 これまでのパターンでは、敵の攻撃は基本的に一定だった。モールモッドはブレードで最短かつ最適な斬撃を繰り返すし、バンダーは適した状況であれば遠距離攻撃をしかけてくる。バムスターは捕獲用であり、こうした武器は持っていなかったが堅い装甲と重量を活かした突進はそれなりに破壊力がある。

 だが、どれもこれもそれだけだ。モールモッドの攻撃は合理的であるが故に慣れてしまえば読みやすい。バンダーは接近してしまえばバムスターとさほど変わらない。で、そのバムスターも弱点である『眼』を狙いさえすれば苦戦するような敵ではない。

 だが、ラービットはそれらとは完全に違う個体であるということがこれでハッキリした。この敵は状況によってはこちらを牽制したりフェイントを仕掛けてくる。これまでの敵よりも複雑な動きをすることができるのだ。良いデータだ。

 風間と歌川は素早く彼らの得意なステルス戦術に出た。菊地原は囮となる。これには当然ながら理由があった。

 まずは風間・歌川と菊地原の攻撃力だ。風間らの方が菊地原と比較すると攻撃能力が高い。

 次に、実はこちらの方が風間隊にとっては重要な理由だが、菊地原のサイドエフェクトだ。

 単純に言えば耳が良いというだけだった。地味と言えば地味だが、その話を聞いた清治が真っ先に情報を渡したのは当時B級隊員だった風間と、その頃は本部に所属し、風間隊の1人だった宇佐美だった。

 彼らは早速当時はまだC級だった菊地原に誘いをかけ、彼が加入すると彼の『強化聴覚』を全隊員が共有するという前例の無い戦闘スタイルを編み出したのである。

 菊地原のサイドエフェクトもさることながら、このシステムの構築には宇佐美の手腕に依るところが大きかった。また、早くから俊敏な戦闘スタイルで高い評価を得ていた風間と、新人王争いに食い込む高い実力を持った歌川の戦闘力も相まって、まさに破竹の進撃で風間隊はA級へと駆け上がったのである。

 この場において言えば、たとえ粉塵による目くらましに遭おうとも、菊地原の耳を持ってすれば、敵がどの方向から、どういう角度で、どれくらいのスピードと威力の攻撃を仕掛けてくるかなどまるわかりだ。

 そして、風間隊に入って鍛えられた菊地原の今の戦闘能力を持ってすれば、その気になればカウンターを食らわせることも可能なのである。だが、清治のオーダーを受けた風間からの指示は迎撃ではなく囮だった。

「うわぁ… やだなぁ…」

 至極当然のセリフを吐いた後、菊地原はラービットの攻撃を真正面から受けるハメになった。もっとも、先の通りどんな攻撃が来るかは分かっているので問題なく受け身を取ることができる。

 全ての衝撃をというわけにはいかないが、攻撃を受け流して吹っ飛ぶ菊地原をラービットが追う。その隙を風間と歌川が見逃すはずが無かった。

 ほんの一瞬の差で弱点である『眼』をガードされたが、データを取るためにはそれで十分だった。装甲の硬さと敵のセンサーを把握するには申し分ない。

「菊地原。装甲が堅いのはどのあたりだ?」

 これまでの戦いで、菊地原は他者には雑音でしかない戦闘時の音で敵の装甲についてかなり正確に把握していた。特に堅いのは両腕と背中、そして頭部だ。

「これ削り切るのけっこうしんどいですよ」

 だが菊地原の言葉に対する風間の返答は不敵なものだった。

「薄い所から解体(バラ)していけばいい。まずは耳、足、それから腹だ」

 実に清治の好みそうなセリフである。

 

 彼らが玄界(ミデン)と呼ぶこちら側の世界と、彼らの住む近界(ネイバーフッド)の境にある、仮に緩衝空間と呼ばれる場所に、アフトクラトルからの遠征隊の艦が浮かんでいる。

 『人』がやってくる以上は遠征艇が必要なのはボーダーにしても彼らにしても同じことだ。背の高くない椅子と細長いテーブルが置いてある。ちょっとした会議室のように見えなくもない。

「おいおい… もうラービットとまともに戦えるヤツが出てきたぞ」

 戦況的にはあまり良くない事実を、さも楽しそうに語っている。酷く無骨な声音の持ち主だ。

「いやはやこれは… 玄界(ミデン)の進歩も目覚ましい… ということですかな」

 やや年かさな印象を受ける落ち着いたその声音には、やはりこの状況をどこか楽しんでいるかのような楽しげな響きがあった。

「たいしたことねえよ。ラービットはまだプレーン体だろうが」

 他者を嘲弄するような響きの声音で若者がそう言い放つ。

「いやいや。分散の手にもかからなかったし、なかなかに手強いぞ」

 最初の無骨な声が応える。かなり上背のある男のようだ。

「我々も出撃しますか? ハイレイン隊長」

 先程の相手を見下したような口調の若者よりも若干若い響きの声が、隊長たる人物に問いかける。

「お前たちが出るのは玄界(ミデン)の戦力の底を見てからだ」

 ハイレインと呼ばれた彼らの隊長がそう応えた。

 彼は様々な手を打ってきた。彼らの目的はトリオンの奪取ではあるが、彼らの『事情』を鑑みれば、単純にトリオン量の多い人間を攫ってくれば良いというわけではなかった。

 だからこそ事前に可能な限り相手側の情報を入手し、念入りに作戦を練って来たのである。

 彼らの隊長は慎重だった。前回の改良型ラッドの一件からボーダーの隊員の数(彼はそれを兵の数と捉えているようだ)から、今ラービットと交戦している風間隊以外にも、それに比肩する戦闘力を持った小隊がいる可能性がある。

 部下の戦闘力に疑いを持っているわけではないが、風間隊と同等レベルの複数の小隊に囲まれれば彼らとて敗北しかねない。貴重な戦力は然るべきタイミングで投入するというのが彼の基本スタイルだった。

玄界(ミデン)の猿相手にビビりすぎなんじゃねーの? 隊長さんよ」

「口を慎めエネドラ。上官に対して無礼だぞ」

 軽薄な物言いでそう言う若者に、もう一人の若者が苦言を呈する。もっともな諫言だが、エネドラと呼ばれた相手の若者にはただ不快なだけだったようだ。

「あ? てめーこそ誰に口利いてんだ? 雑魚が」

 このやり取りで十分に彼らの関係性が分かるというものだ。

「お二人にケンカをされては船がもちませんな」

 初老の男に穏やかに諭され、若い男は舌打ちしてその矛先を遠征艇と隊長に向けた。自分を出せば敵を一掃できるとわめき始める。

「確かにそろそろ体を動かしたいものだな」

 『皆殺し』という物騒な言葉を否定しつつも、大柄な男も自ら出撃したいようで、兄でもある隊長に談判する。

「もう少し我慢しろ。すぐにお前たちの出番は来る」

 ハイレインはそういうと、自らの傍らに控える者に声をかけた。

「ミラ」

「はい。次の段階に進みます」

 ミラと呼ばれた副官と思われる女性が静かに応えた。

 実に清治の好みそうなタイプである。




あ。また主人公出番ナシ(^^;

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