忙しかったんや…
疲れてたんや…
いや、今も疲れてますけどね(^^;
ヲッサンになると気力を充実させるのが年々難しくなるのです。皆さんも年取りゃわかります(´;ω;`)
迅が三雲と空閑を呼びに出て行った後、宇佐美と清治は並んで機器の調整や接続などを行っていた。
それまで会議は粛々と続いていたのだが、戦略的見地から意見を求められた清治が言ったのだ。
「新型と直接の交戦経験があるのは、木虎隊員と三雲隊員のみ。それと、空閑隊員も何か知っているかもしれませんな」
珍しく神妙な顔をして発言した清治の言葉に城戸が首肯したのである。
さて、会議が中断している間に忙しく機器の面倒を見ている宇佐美と清治を林藤はぼんやりと眺めていた。
この2人はエンジニアとしては宇佐美が先輩で、清治は彼女に色々教えてもらうために一時期は玉狛支部に足繁く通っていた。
例の清治の私室はその時に作られたものだったが、以降も清治は時々支部を訪れては自慢の日本料理を振る舞った。
その時必ずと言って良いほどに宇佐美も並んでキッチンに立った。ちょうど今のようにである。
「お似合いだな。お2人さん」
その時と同じように、息ピッタリに作業をすすめる2人に林藤が声をかける。すると
「それは無い」
とこれまた息ピッタリに2人が返事をする。以前と全くいっしょだった。
実際の所は分からなかったが、玉狛のキッチンでそう返事を聞いた時、林藤は一応聞いてみた。
「それじゃお前らはお互いをどう思っているんだ?」
問われて2人はしばらく考えたあと、ほぼ同時に応えた。
「めんどくさい兄貴」
「無駄に手のかかる妹」
この後お互いのこの意見に対してどういう意味だとぎゃーぎゃー言い合っていたが、何だか見せつけられているようで林藤は苦笑したものである。
「じゃ、あとの調整はアタシがやるから」
宇佐美にそう言われて清治は会議机のそばまで下がると、その場でポケットから煙草を取り出した。いつも吸っているパイプではなく葉巻だった。
「お。めずらしいな。どうしたんだ?」
葉巻に興味を覚えた林藤が声をかけた。
「ああ。まるゆさんの影響ですよ」
「なんだそりゃ」
一部の変態紳士たち(貴腐人含む)が嗜む巨乳美女と貧乳美女と美幼女(いずれも二次元)が大量に登場する、一部ではロリコンホイホイとの呼び名も高い某ソーシャルゲームから派生した非公式キャラクターのことを林藤が知らないのも無理はなかった。
やがて清治が咥えた葉巻から、彼が普段愛用するパイプ煙草とは多少異なるものの、嗅いだ者の心を癒やすような優しく甘い香りが漂いはじめた。
「へ〜。そいつもなかなか良いもんだな」
「なんすけどね。これバカ高いんすよ」
「ふ〜ん。いくらなんだ?」
「一本3,600円」
これには、聞いた林藤だけでなく聞くともなしに聞いていた他の連中も驚いた。
「一本て! お前そんな高級なもん吸ってんのか」
「わしもネットで注文した時は1箱の値段だと思っちょったんですよ」
「それでも十分高いだろ…」
林藤の言う通りだった。喫煙者である彼をしてそう言わせるくらいなのだから、非喫煙者である会議室内にいた他の者たちの心中は推し量るまでもないことだろう。
「もう少し安いの無いのか?」
「5本セットで千ちょっとのやつがあったんで、今度はそれにしようかと」
「それも結構高いなぁ」
「わしゃたっさんみたくチェーンスモーカーぢゃなぁですけぇの」
「お。言ったなこいつ」
2人の話題は、煙草からお互いの近況、果ては三門市内のいかがわしい店のことへと流れていった。
内容が内容なのでさすがに忍田が注意しようと思った時、ちょうど迅が空閑たちを連れて戻ってきた。
彼らの到着を待って会議が再開された。冒頭で空閑がここに呼ばれた理由を忍田が説明する。
ボーダーが行った調査の結果、おそらく4年前よりも規模の大きな
「おまえが
いつもの高圧的な態度で言い放つ鬼怒田の言葉に、恐れ入るわけでもなければ反発するわけでもなく
「なるほど。そういうことならおれの相棒に訊いたほうが早いな」
と空閑はあっさりと言い放つ。
空閑に促されて登場したレプリカと、レプリカがトリオン兵だという事実が議場内をざわつかせたが、『彼』はそんなことには全く頓着しなかった。
レプリカの関心は会議に出席している面々の心象には全く向かっていなかったのである。彼が気にかけていることは1つしかなかった。
『ボーダーの最高責任者殿には、私の持つ情報と引き換えにユーマの身の安全を保証すると約束していただこう』
レプリカのこの言葉には、当然ながらある種の『試し』だった。彼のこの言葉に対する城戸の返答はおおよその見当はつく。
問題はその返答に『嘘』がないかということだ。この面については空閑自身のサイド・エフェクトで確認を取ることができる。
だが、城戸が返答をよこす前に声を上げた人間がいる。
「そういやアレかいね。隊務既定に『黒トリガーを許可なく使用してはならない』とか、そんな意味の条文ってあったかいの?」
会議の纏う空気を完全に無視した脳天気な声の持ち主が誰かなど問うまでもないことだろう。
「そんなのあったら、俺もムサさんもとっくにクビだよね」
相方と言っても良い男が問いかけに応えた。
「ですよね〜」
言って二人で笑い出す。ひとしきり笑ったあと
「何がおもろいねん!」
「いや、ムサさんが話ふったんじゃん!」
何というか、特にクオリティの高いわけでもない漫才を見せられて全員がそれぞれの反応を示したのだが、この場において鬼怒田だけがこのやりとりの真意を看破していた。
――― 楔を打ちおったな!
最初にレプリカの申し出を聞いた時、鬼怒田は
――― しめた!
と思った。従うという言質さえ取ってしまえば、後はどうとでもこちらで解釈することができる。
一番ありそうなのは黒トリガーの使用であり、実際会議が始まる前に林藤が城戸に対してその点を指摘している。
だが、そうせざるを得ない状況であったとしても、事後にそれを理由に空閑を処断することも、できると言えばできるのだ。
そうした、空閑側からすれば懸念となる事項を、先ほどの清治と迅のやりとりが払拭してしまった。それぞれに理由があるのかもしれないが、そうした事が以前にあった2人を処分していない以上、空閑のみが処分されるというのは道理に合わない。
少なくとも黒トリガーの使用について彼を処断することができなくなってしまったのである。
「ボーダーの隊務既定に従う限りは、隊員空閑 遊真の安全と権利を保証しよう」
それぞれの考えを知ってか知らずか、城戸は無表情に言い放った。彼としては、かつての盟友の息子に複雑な感情を持っているのだろう。
――― まあいい。他にもやりようはあるはずだ。
それにしてもと鬼怒田は思う。空閑が現れてからの清治の立ち位置がどうも曖昧だ。
鬼怒田の感覚では、清治はいわゆる『城戸派』寄りの人間のはずだ。確かに所属は鈴鳴支部ではあるし、玉狛支部の連中とも親しく接してはいるが、清治が心底に秘めるものが『憎悪』という言葉では追いつかないほどに苛烈であることを知らない人間は、ボーダー上層部で知らない者はいない。
そんな清治が今、空閑の擁護のために迅と結託している風に見える。迅と親しいのは先刻承知ではあるが、清治にしても迅にしても
「それはそれ。これはこれ」
という考え方のできる人間である。
さらに言えば、清治はその辺りの線引きがかなり峻厳だ。そこのところが鬼怒田には分からない。
だが。と鬼怒田は思った。
清治にしても迅にしても、これまでボーダーに資する形になるように様々なことをやってきた。それぞれの能力に応じて、それぞれの形でボーダー全体に貢献してきたのである。
今回のことにしても、おそらくそれぞれの思惑があり、結果として空閑を擁護する形になっているに違いない。少なくとも鬼怒田はそう思った。あるいは、そう思うことにした。
『確かに承った。それでは
レプリカの持つデータを追加した配置図は、その場にいた人間がことごとく嘆息するほどのものだった。
会議で防衛体勢の確認を行った後、空閑に三雲、鬼怒田と根付が退席した状態でさらに戦術、戦法についての詰めが行われた。そして、その中で重要な情報が迅からもたらされた。
「連中が攻めてきた時、ムサさんはここにはいない。そんで、間に合うかどうかは五分ってとこだな」
彼のこの発言によって、敵の侵攻の日は3〜6日後であろうことが特定されるのだった。理由は簡単だった。清治のスケジュールだ。
清治は意外にも上層部の覚えが明るい。そのため、根付や唐沢などは自分の次の人材として清治を見ているという面があった。現在は清治の直属の上長である鬼怒田もそれが良いと考えている。
彼としては、開発室の中で清治を出世させるのにはためらいがある。清治の普段の行動や言動、エンジニアとしての実力を考えると、今よりも責任の思い仕事を彼にさせるのは困難だろう。
そんなわけで清治は3日後から2日間、市外のスポンサーの元を回る唐沢と出かけ、翌日は根付と共に市内の報道各社を回ることになっていた。清治が開戦に間に合わないということは、おそらくこの期間内に敵が攻めてくるということなのだろう。
さらに言えば、戦闘そのものに清治が間に合わないということは、清治が市外に出ている可能性が高いということになる。であれば、考えられるのは唐沢と出かける2日間ということになる。
深刻な状況であると言えた。清治は黒トリガーの使い手である。また、他の隊員と違って『
「ま、たいしたことねぇんぢゃね?」
そう言うのは当の清治である。清治からすれば、当日の戦力ダウンはともかく、いつともなく現れるかもしれない敵の襲来時期が絞り込めたことの方がはるかに大きい。その日のために戦力を集中運用する方が、彼自身が戦闘に加わることよりも良いと考えているのだ。
清治のそうした考えはともかく、迅の言葉から清治を防衛の戦力と考えることが基本的にはできない。そうした考えで戦力配置を考える必要があった。
ここで役立ったのは三輪と清治が連名で提出した防衛案であった。基地から見て西および北西方向はなだらかな下りとなっている。
敵は基地周辺にしか出現できないため、市街地に向かうにはこの方向に最初に向かうと思われた。その位置に迅と天羽を向かわせることが決定した。特に北西方面は空き地に近い状況のため、天羽を配置する方がより効果的だ。
また、非番の者も含め、学業などに支障が無い者はできるだけ臨戦態勢で基地で待機する。もっとも、ボーダーの主力のほとんどが高校生以下であることから、基地に詰めることができる戦力は限られていると見て良いだろう。この他、細々としたことを決めた後、この会議も散開した。
会議室を後にした清治を呼び止めたのは風間と三輪だった。3人で廊下を移動しながら、会議では議題にならなかったさらに細かい作戦について互いに意見を交換する。
「たっちーが基地防衛に入る以上は、蒼さんとこが機動戦力としては一番重要になります。奮戦期待しとりまっせ」
「それなら俺達より玉狛だろう。それに三輪はどうする?」
風間の質問に対する清治の応えは、普段の彼しか知らない人間からすれば驚くほどに的確だった。
「玉狛が隊として最強なのは認めますがね。あんにらは戦闘が長引けば長引くほど不利になる。いわばとっておきの予備戦力てやつです。こうした戦力を投入するには時機を得る必要がある。蒼さんトコは違う。墜とされることがなけりゃ、最初から最後まで戦場で威力を発揮し続けるでしょうよ。三輪っちには、隊や他の連中とは別に基地周辺に張り付いてもらいます。よね?」
「ああ…」
隊にはそれぞれ特色があった。風間隊の場合は3人で固まって連携をすることによって、他のA級部隊の3部隊に匹敵する戦いができる。彼らにしかない特色である。
他の隊はと言えば、隊として固まって動くのもさることながら、個別に行動する方が能力を発揮できる状況もある。特に三輪隊の場合は米屋、奈良坂といった各ポジションの上位ランカーがいる。彼らは状況を見てそれぞれに動く方が良い場合もある。
特に奈良坂はスナイパーだ。長距離攻撃ができる駒として隊とは別の場所でも必要とされる人材でもある。
三輪は彼らと比べて突出したものを持っているわけではないが、攻撃においても防御においても隙無く行動ができる。隊での戦闘時はアタッカーの米屋の動きをサポートする役割も果たしているため、メイン・サブ両方の働きを十全に行うことができるのだ。
基地の防衛は最重要事案ではないが、最悪民間人を非難させる必要がある場合もある。三輪が基地防衛に加わればそうした『想定外』の出来事にも上手く対処できるというわけだ。
「ところで蒼さん。夜ヒマだったら玉狛に行きませんか? 今晩はレイジさんがカレーを作るらしいから、わしがカツを揚げてカツカレーに…」
そこまで聞いて三輪は2人の元を離れた。屋上へ出て街の様子を最終確認するためだった。
どうでもいいことですが、ムサさんの目下の悩みは『好きな食べ物がインスタ映えしないこと」なんだそうで。
うまい棒、唐揚げ、とんかつ、ウィンナー、カレーなどなど…
茶色い食い物ばっかりやんけ!