関係ないけど、しばしば三雲と誰かのカップリングを書いている人を見かけます。
…水沼先生と三雲とか誰か書かへんかな(^^
迅が風刃を本部へ返上し、その見返りとして空閑に関して本部はこれ以上手出しをしないことを約してから、およそ2週間ほど経過していた。ボーダー本部も玉狛支部も、少なくとも表面上は平静を保っている。
本部による空閑遊真強襲部隊を清治が迎撃したことについて、何らかの訓戒なり処分なりが鈴鳴支部にもあるものと思われてはいたが、実際にはそうしたものは何もなかった。
鈴鳴支部長にのみ受けた連絡によれば、先の『演習』において清治が発見したトリガー関連の不具合はボーダー全体に資するものであり、それをもって清治の行動を不問に処するとのことだった。有り体に言えば功績と不行跡でチャラにするという通達であった。
さて、そんな自分にとって損にも得にもならない戦闘になりゆきで巻き込まれた清治が、この2週間ばかりの間『無責任エンジニア』の渾名を返上するのではないかと言うほどに働いていたということを知る者は少ない。
きっかけはもちろん例のトリガー使用者に対するハッキングと本部作戦コンピューターへの侵入であった。これらは清治が初めて発見した、極めて重大な問題であった。
この問題に対処するため、清治と寺島に回収班の山田と水戸が加わり、鬼怒田直轄のチームとして問題の解決に当たることになったのである。
近年こそ回収班に回って後進に道を譲っていた山田要蔵だが、古参のエンジニアたちの間では伝説のエンジニアとしても名高い人物だった。現在のトリオン技術の根幹を作り上げたのは鬼怒田であるのは間違いないが、それも彼の考えを技術レベルで可能にした山田の存在が欠かせなかったというのが多くのエンジニアたちの認識であり、また事実でもあった。
体型もあいまって威厳たっぷり、かつ高い実績とそれに伴う大上段な態度・言動がトレードマークとなっている鬼怒田とは反対に、落ち着いた理知的かつ紳士的な印象を与える人物である。元々は戦闘隊員であったこともあり(戦闘での実績は芳しくなかったが)体型も実にスマートだ。年上好きの若い女性に人気のありそうなタイプである。
水戸裕子は最初から開発室での勤務を希望していた。鬼怒田の遠戚であり、その技能の高さからエンジニアとしての評価は高いのだが、開発室で行われている全ての業務におて平均よりある程度高い能力を持っていたがために、いわゆる器用貧乏と認識されてしまっていた。
濡れたような美しい長い黒髪に、均整のとれたまゆ毛、豊かなまつげに大きな、深い藍色の瞳。
美しく通った鼻筋にキュッとすぼまった唇。
ふくよかな胸ときちんとくびれたウェスト。
そして細すぎない、程よく丸みを帯びた脚。
こうした、仕事とは関係のないルックスの面で注目されているという事実について、彼女は普段から忸怩たる思いを抱えていた。
それだけに、今回の外部からのトリガーへのハッキングの調査については並々ならぬ意欲を持っていた。
いずれにしても、鬼怒田や寺島、そして清治をして『回収班でくすぶっている』人材にスポットが当たる形になった。ちなみに、清治は開発室に入って以降、ずっと山田の薫陶を受けてきた。清治がエンジニアとして最低限の働きをなんとかこなすことができているのは、一重に彼のおかげだった。
それだけに清治は、山田と再び仕事ができることを喜んだのだが、中身が中身だけに清治への負担は大きなものとなったのは辟易だった。
もっとも、全体から見れば清治の仕事は他のメンバーと比較すると楽な部類に入ってはいる。彼らが問題点を解決する間はすることは特になく、穴を塞ぐとその成果を検証するべく外部からハッキングをかけるといったものである。
以前見つけた穴へ侵入した方法では侵入できないことを確認すると、今度は寺島と二人で新しい穴を探す。その作業をほぼ無休で繰り返すわけだが、清治には残念ながら活動時間に限界がある。
山田は自分の仕事の間であっても清治に気を配り、もしおかしな兆候が見られるようであれば強制的に休みを取らせた。そのため、他のメンバーと比較すると楽な状態ではあったが、やはり清治にはなかなかに堪える。
ほぼ1週間はその作業に費やし、寺島と清治が発見した穴およびその亜種と思われる穴を完璧に塞ぐ。その作業が終わると、今度は開発室メンバーの中で清治よりも外部侵入などに詳しい人間に3日かけて作業を引き継ぐ。戦闘員も兼ねている清治が、開発室の仕事のみにベッタリ張り付いているわけにはいかないからである。
予定されていた防衛任務ギリギリまで引き継ぎがかかってしまったため、清治は開発室から休みもなく防衛任務に当たることになった。普段と比べて動きに精彩を欠いたのにはこうしたわけがあったからである。
さらにだ。10日以上開発室と防衛任務につきっきりだったがため、清治のサイド・エフェクトである『女子力』をアテにしていた女性隊員たちが順番待ちの列を作って待っていたのだ。
こうして清治は、ヘトヘトなまま彼女らのネイルケア、ハンドケア、ボディケア、ヘアケア、メイク、恋の相談(こちらはあまり役に立ってない)などで八面六臂の活躍を見せたのである。
「ぐへぇ〜…」
自分でも情けないと思うような情けない声を上げて休憩スペースのテーブルに突っ伏す清治。普段のあの静かな休憩室ではなくランク戦ブースに近いここで休んでいるのは、単にそこまで移動する気力が残っていなかったからである。
つい先程まで加古のネイルの手直しをしていた。細かく神経を使う作業だったので休みなしで行うのは本当に大変だった。遠い休憩室に行く気力がわかないのも、情けない声を上げて机に突っ伏せているのも仕方のないことだった。
「あ。ムサシさんヤッホー!」
清治とは対象的に元気いっぱいといった感じで声をかけてきたのは日浦だ。彼女も先ほど、清治に洗顔フォームについて相談していた。
「おお茜ちん。相変わらず元気ぢゃね」
疲れた顔を見せずにそう言う清治だが、先ほどの様子から清治が疲れていることに気が付かないほど日浦も抜けてはいない。
「大丈夫? ちゃんと休んでるんですか?」
「いやぁ。それがなかなかの…」
苦笑しつつ清治は、彼女の後ろから彼女の苦手そうな人物がやって来るのを見た。
「やっと見つけたぜ。ムサさん」
声をかけてきたのは影浦隊の隊長、影浦雅人である。
他者の感情が自身に刺さるという稀有なサイド・エフェクトを持つ彼は、それ故に苦労している人物でもあった。元々粗野な性格だったというのもあるかもしれないが、他者からの悪意は彼にとって非常に不快であり、そのために周囲に対して攻撃的なのだ。
そんな影浦だが、清治からはどんな感情も刺さってこないため付き合いやすい人物だと判断している。また、清治も他者に対して隔てを持つタイプでもなく、むしろ隔てを設けようとする相手にたいしてもずかずかと近づいていく(迷惑な)タイプなので、友誼を持つことになんの困難も障害もなかった。
さて、清治とは親しい付き合いをしている影浦だが、その他の多くの隊員からは嫌悪あるいは忌避されている。というのも、彼の自分の感情に対して非常に素直な行動はしばしば周囲との問題に発展するからだ。
一番有名なのは、メディア対策室長の根付に対する暴力沙汰だった。ボーダーの外向けの体面を重視する根付にとって、影浦はトラブルメーカー以外の何者でもなかった。その点を注意したのが事の始まりだった。
これについては上層部でも除隊を含めた重い処分を検討していたが、影浦隊の隊員の懇願や清治の根回しによって影浦個人のポイントの大幅な減点と当時A級上位だった影浦隊のB級への降格という形で決着が着いた。
この時の清治の動きは、彼の普段の行動と評判を知る影浦隊の面々を驚かせもし、喜ばせもした。以来彼らは清治と非常に親しい間柄になっているのである。
「よぉハゲ。なんかわしに用きゃ?」
「だからハゲはあんただっつってんだろが!」
彼らにとっては普段のやり取りなのだが、周囲で聞いている者にとっては不穏に思えるものだ。日浦にとってもまた例外ではない。
「ああ?」
彼女の感情が刺さった影浦が日浦を睨みつける。
「ひっ!」
「おいおいカゲや。年下の女の子にそげなツラしちゃいかんで。ところで、わしに用があったんじゃろ?」
清治に穏やかに諭され、影浦は1つ舌打ちをすると
「ひかりのやつがあんたを連れて来いってうるせぇんだよ」
と言う。言われて清治は、仁礼に毛先のカットとブラッシングを頼まれていたことを思い出した。
「そう言や頼まれとったんじゃったの。んじゃ行くか。茜ちんまたね」
そう言うと、清治と影浦は連れ立って去って行く。その後ろ姿を日浦は何となく眺めていた。
ふと、清治がすすすっと影浦の後ろに回りこむ。影浦はそれに気づいていない。こんな光景を日浦は、いつだったか隊の先輩の熊谷といっしょに見たことがある。
そして、その時と同じ行動を清治が影浦に食らわせた。臀部を抑えこんで倒れる影浦を、清治が指を刺して笑っている。
しばらくして立ち上がった影浦は、逃げる清治を追いかけていった。
笑い転げながらその光景を見ていた日浦は、しかし気づいていなかった。本来影浦にこうした行為を行うことなど不可能であるということを。
清治が影浦隊の隊室で仁礼の下僕としての務めを全うした夜、ボーダー本部にある清治の部屋を訪ねてきた者がいた。三輪である。
彼はあの『演習』以降、ずっと悩んでいた。今の自分の立ち位置と、そうだと信じていたボーダーの立ち位置に。
一体自分はどうしたら良い? これまで自分がやってきたことは何だったのか? そもそも、彼らはなぜネイバーに肩入れした? 疑問は尽きなかった。
――― 分からない…
分からないことは誰かに聞くのが一番だった。だが、内容が内容だけに誰に聞いても良いというものでもなかった。ほとんど眠らず、食事も取らずに考えた末、三輪は自分の嫌いな人物に敢えて質問してみようと考えたのだ。
だが、迅に聞いてもおそらくのらりくらりと言を移すだけだろうと思った三輪は、迅よりはいくらかマシな話しができそうな清治を質問相手に選んだのである。
「あら三輪くん。いらっしゃい」
部屋に入って三輪を出迎えたのは、なんと加古だった。彼女はかつて共に東の隊で彼の薫陶を受けた仲である。
もっとも、三輪が驚いたのは清治の部屋に加古がいたからだけではなかった。どこからどう見ても個人の部屋には見えなかったのである。
一言で言えば、小洒落たバーカウンターだった。美しい赤褐色のマホガニーを使用した無垢材のシックなバーカウンターは、本格的なアイリッシュバーにありそうなそれである。同じくマホガニーで作られた足掛けリングつきのハイチェアは、まるでカウンターとセットで制作されたようである。
よく見れば、ラックには上層部の名前の書き込まれたタグの下がっている酒瓶も置いてある。どうやらここは、年長者がしばしばやってきているようだ。
加古が言うには、清治がいる時は彼自身がカクテルを振る舞うこともあると言う。現に今、加古の手にしたカクテルグラスに入っているものも先ほど清治に作ってもらったものだそうだ。
「さすがに本職にはかなわないけど、これはこれでなかなかのものよ」
楽しそうに言いつつ飲み物を口に含む加古を見ながら、それならば当人はどこにいるのだろうと三輪は思った。
「清治くんなら、奥の部屋で玲ちゃんと一緒にいるわよ。何してるのかしらね」
イタズラっぽい表情を浮かべて言う加古の言葉に、三輪は二度目の衝撃を受けた。
加古の言う玲ちゃんとは、那須隊隊長の那須 玲である。自身で弾道を設定できる追跡弾であるバイパーの弾道をリアルタイムで設定できるのは彼女と出水にしかできない芸当である。
また、自身が病弱であることも手伝って儚げな美少女である彼女にはボーダー内部に隠れファンが多数いることでも有名だった。
そんな彼女とちゃらんぽらんかついい加減な清治に接点があるとは、三輪には思えない。
そうこうしているうちに、件の二人が奥の部屋から出てきた。
「あら三輪くん。こんばんわ」
那須は三輪隊に所属する超凄腕のスナイパー、奈良坂のいとこである。そのため、他隊ではあるものの三輪とは面識があった。
「あんれま三輪っち。… なんか大丈夫きゃ?」
睡眠不足などですっかりやつれてしまっている三輪をさすがの清治も心配したが、それに対する三輪の返事は射殺さんばかりの凄まじい眼光での睨みであった。
「それじゃあ武蔵丸さん。今日はありがとうございました」
何となく場の空気を察した那須が言う。
「玲ちゃん帰るの? なら、私が車で送ってくわ」
体の弱い那須が、一人で夜道を歩くのはあまりにも危険である。だが、加古は清治が作ったカクテルを飲んでいる。飲酒運転はご法度である。
「ああ。そりゃ大丈夫ぢゃ。ありゃぁノンアルカクテルぢゃけぇの」
清治が加古に作ったカクテルは、ノンアルコールだったのだ。アルコールが入っていないため未成年も呑むことができるのだが、清治は成年にしかそれを振る舞うことはない。
清治の持論では、ノンアルコール飲料は酒の味が分かる大人のための飲み物だからである。
「不思議な取り合わせじゃろう」
二人を送り出したあと、振り返りながら清治が三輪に言った。
那須が清治を訪ねてきたのは、清治が彼女の研究に協力するためだと言う。病弱な彼女は、トリオン体と健康についての研究レポートをボーダーに提出し、そのできの良さを買われてボーダーに入隊した変わり種である。
「お玲ちゃんのレポートにゃ、わしも含めた『弱い人間』の未来がかかっとるからの。お玲ちゃんは先天的に、わしは後天的事由で、な」
そう言いつつ清治は三輪を室内に招き入れると、ハーブティーを淹れはじめた。
「ものを食うとらん胃にコーヒーはあれぢゃしの。長ぇ話しになるんぢゃろ?」
椅子に座ってからも自分をまっすぐに睨みつける三輪に苦笑しながら、清治はガラス製のティーカップにお湯を注ぐのだった。
余談だけど、恋愛要素もえぇなぁと思って考えてはみたのですが、どうも良さそうな話しにならんのですよ。
ヒロインをというのであればみかみかがえぇなぁとも思っていたのですが、色々な方面から怒られそうな気がする(^^;