無責任野郎! 武蔵丸 清治   作:アバッキーノ

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なんかわし、今日アップする予定の話を先週アップしてますね(爆)
ま、自らに課したノルマですから可能な限りは守って行きまっせ!


D03 ハンター参戦

 嵐山隊が三輪たち(前線に3人いることから『隊』ではないと判断した)と交戦している辺りに移動しながら、清治は別な人間がそこに1人近づいて来ていることに気がついた。

――― おやおや。ありゃぁ当真ぢゃの

 苦笑しつつ清治はそう思った。

 当真 勇は清治をして『傑物』と言わしめるスナイパーだ。奈良坂が台頭してくるまでは当真と、今は行方不明となっているあるスナイパーがボーダーのスナイパーランキングで常にトップを争っていた。

 最近では奈良坂とトップが入れ替わることもしばしばあるが、腕前については当真の方が上だった。ランキングが入れ替わるのは、単に当真が訓練をサボるからである。

 ちなみに、比較的熱心に訓練にいそしむ清治だが、当真が珍しく訓練に参加すると訓練中に二人でつるんで遊び始める。一応訓練メニューを消化しているのだが、間でいらない遊びをいくつも挟むので周囲の隊員にはそこそこ迷惑であった。

 彼らは密かにこの二人を『ハゲふさコンビ』と呼んでいた。

 当真の性格上、当たる可能性の低い射撃はしない。未来を知ることのできる迅に対して狙撃を行うのは彼の矜持に反することだ。そこで彼は、より効果的に戦うために嵐山隊の方に移動してきたというわけだ。

――― やれやれ。これだと最悪わしがリーゼン当真を()る必要があるわけか

 模擬戦ならばともかく、戦闘で親しい友人と戦うことになるのはあまり気持ちの良いものではない。だが、清治はこれも『演習』と割り切ることにした。

 清治がそんなことを考えているうちに、迅の方でベイルアウトした者が出た。風間隊の菊地原だ。どうやら迅はいよいよ本気で太刀川たちを墜とすつもりらしい。

――― そんなら、()()()を起動するかの…

 清治は、タブレット端末を取り出すと『枝』がきちんと張れていることを確認して何かの実行ボタンをタッチした。

「これが上手くいったらいったで、後始末が大変ぢゃのぉ」

 まるで他人事のようにそう言いながら、清治の姿は視認することの難しい闇の中へと紛れ込んで行った。

 

 分断された『態』を装っていた嵐山隊は、さらに分断を余儀なくされていた。

 三輪と米屋、そして太刀川から指示された出水 公平が嵐山隊と対峙していた。出水について清治は、シューターの理想だと考えている。そして、その考えを持っているのは清治だけではない。彼を知るボーダーのほとんどの人間が同じような感想を抱くだろう。

 現に、非常にプライドの高いことで知られている二宮が、年下である彼に対して教えを乞うほどなのである。

 年長者でありながら下の者に下問して恥じることのない二宮の態度も尊敬すべきものだが、彼にそう思わせるほどの能力を出水は持っている。

 多くのボーダーの戦闘員は、出水の豊富なトリオン量と、それに裏打ちされた圧倒的な火力、射撃精度と複雑な作業である合成弾の合成について評価しているが、清治はそれらはもちろんのこと、現場での洞察力と判断力、そして考えの柔軟性を高く評価していた。

 実は出水と清治は、太刀川隊のオペレーター国近を通してかなり親しい間柄であった。国近はボーダー屈指のゲーマーであり、しばしば清治の『女子力』サイド・エフェクトの世話になっている。

 清治は清治で、アセンブラと呼ばれる古くからあるプログラミング言語を使って、古き良き8bitコンピュータゲームのようなゲームを作ることを趣味としている。

 このゲームはボーダー内でも意外に好評で、ゲーム好きな年少の隊員に人気が高い。出水は、国近といっしょに清治が作成した試作ゲームの試験プレイをしているのだ。ゲームバランスの良いものを作るためには必須の作業である。

 余談だが、そんな清治の作る『レトロゲー風』ゲームの一番のファンは、メディア対策室長の根付である。

 その出水の『フリ』に、嵐山隊の佐鳥 賢がつり出されてしまったのである。しかし、これについて彼を責めることはできないだろう。それだけ出水のフリが巧妙だったのだ。

 一方、まんまとつり出された格好の佐鳥だが、彼もまた能力の高いスナイパーである。両手にイーグレットを携えて行う『ツインスナイプ』は彼の唯一無二の技であり代名詞であった。

 もっとも、他のスナイパーたちからすれば、両手が塞がる上に隠密行動に不可欠なカメレオンやバッグワームを起動できなくなるこの狙撃法をわざわざ行わないというのもあるかもしれなかった。佐鳥のこれを習いたいと言ったのは、ボーダー広しと言えども清治一人だった。

 清治の意図はツインスナイプを習得することではなかった。その習得を通して、足場の安定しない場所での狙撃や利き手ではない方でのスナイプの方法を習得するつもりだったのである。

 狙撃の腕前は当真らに一歩譲る佐鳥だが、狙撃時の状況に左右されないという点においては彼らよりも実戦向きだと清治は考えている。

 戦闘の中で利き手を失い、そんな中でも仲間のために射撃をしなければならないケースがスナイパーにはあり得る。その際、利き手が無いので命中しませんでしたでは済まされない。

 いかなる状況、いかなる体勢であっても狙撃精度が落ちないというのは、それだけですでに希少かつ貴重な能力である。佐鳥はそれを天性のものとして持っているのである。

 もっとも、そうした素晴らしい能力を評価している人間は少なかった。スナイパーというポジションが他と比べて地味な上、普段の佐鳥のおちゃらけた態度が災いして彼自身の評価を下げてしまっているという悲しい現実があった。

 自身も普段の自身の行いから軽く見られる傾向のある清治からすれば、佐鳥は同じ臭いのする生き物だった。相身互いというか、同族意識というか、そういったものが無いとも言い難い。

「佐鳥めっけ」

 それにしても驚くべきは出水のトリオン量だ。アイビスの威力を考えれば、よほどのトリオン量の差がなければシールドなど貫通してしまう。そして、普段のおどけた態度とは裏腹に佐鳥はスナイパーランキング4位に名を連ねる実力者である。

 そもそもスナイパーは、その一撃必殺の性格上トリオン量が豊富でなければ務まるポジションではない。簡単に言えば、そのポジションをチョイスできるというだけで既にトリオン量的にはボーダーの水準を上回っているということだ。

 そんなスナイパーの、しかも上位ランカーである佐鳥のイーグレットによる狙撃をシールドのみで防いでしまうとは。

「陽介。スナイパーを片付けろ」

 即座に三輪が米屋に命じる。

「木虎」

 スナイパーは長距離狙撃ができる分、近寄られるとひとたまりもない。相手が三輪隊のエースを佐鳥に差し向ける以上、嵐山としてもエースの木虎にフォローを命じるのは当然だった。

 

 迅の放った第二撃を躱して、驚くほどの速さで太刀川が間合いを詰める。風間と歌川がカメレオンを起動したことに一瞬気を取られた迅は、危ういところで太刀川の攻撃を受け止めた。

「誰が負けて帰るって?」

 良く知る男の見せる、良く見る顔だった。太刀川は戦闘で手を抜くタイプではないが、この表情を見せる時は本気だ。

 当然と言えた。かつてはライバルであり、今は恐るべき黒トリガーを手に自分の前に立ちはだかる相手。本気で行かなければこちらが墜とされてしまう。

「できれば全員がいいな」

 いつもの茶化すような口調で迅は答えたが、実際にはそれほどの余裕はない。間合いを詰めた戦いになると風刃の特徴である遠隔斬撃の効果は低い。また、近間での立合いになると太刀川に分があるのは先刻承知のことだった。この間合いで太刀川に勝利しえる人間はボーダー広しと言えども2人しかいない。

 一方、一旦姿を消した風間と歌川は通信で風刃の性能を確認、というよりは風間が歌川にレクチャーしていた。

 物体に斬撃を伝播させることができるということ。攻撃範囲は使用者の視界の範囲であること。遠隔斬撃は放てる回数に制限があり、それを超えると一度リロードする必要があるということ。

 風刃からたなびいている光の帯の数は現在8本。つまり、遠隔斬撃はあと8度行えるということになる。

「あれがゼロになると再装填(リロード)の隙がある。その隙を逃さず殺しきるぞ」

 歌川に指示すると、今度は奈良坂と古寺に指示を出す。指示は2つだ。

 1つは太刀川の援護。例え太刀川の方が剣戟の腕前が上だとしても、迅を圧倒するほどの力量差があるわけではなかった。迅に当てることは困難だったとしても、援護射撃によって戦いにくい状況を作る必要がある。

 もう1つはある意味苛烈だった。

「俺たちに当てても文句は言わん」

 当初は説得を試みた彼を清治は『身内には甘い』と評したが、一旦戦闘になると話は別だった。例えどのようなことになっても必ず迅を堕とす。誰かが生き残りさえすれば黒トリガー奪還命令は遂行可能だと判断してのことだった。

 太刀川は徐々に迅を追い詰めて行った。大きな力量差があるわけではないとはいえ、やはり剣での勝負では太刀川の方が一枚上手である。一合、二合と互いに剣を撃ちあううちに、徐々に体勢が悪くなっていく。

 さらに、そうして悪い体勢になってしまった所を、奈良坂・古寺の両スナイパーが効果的に射撃する。未来の見える迅はそれに対処するが、そのたびに太刀川の回避は不能、防御も難しい斬撃がうなりをあげる。

――― こんなことなら、ムサさんにこっちもちょっと手伝ってもらや良かったな

 真剣にそう思いつつも、これもまた迅の思惑通りではあった。剣の腕前では自身を上回る太刀川を相手取るためには、『剣』で勝負していたのでは勝ち目が無いことは明白だった。

 そこで迅は一計を案じる必要があったのである。

「もう逃げ場はないぞ。黒トリガー」

 迅が追い込まれたのは、既に放棄された一般家庭のガレージだった。一般家庭とはいえ裕福なのだろう。自動車を2台ばかり収めることができる比較的広いガレージだ。

 迅を追ってガレージに脚を踏み入れた太刀川を風刃の斬撃が襲う。壁を伝って天井へ。そして天井から太刀川へ向かって強烈かつ回避不可能な斬撃が放たれる。

 その瞬間だった。姿を隠していた風間と歌川もガレージ内へ姿を表す。背後を取った歌川は迅に組み付き、間合いを詰めた風間は足から出したスコーピオンを地中伝いに迅の足へ刺す。

()()()()()か…!」

 未来視のサイド・エフェクトの持ち主である迅だが、起こりえる未来の全てを完全に読めるわけではない。また、仮に全てを読めたとしても、読んだ全てを完全に記憶できるわけではない。

 いずれにしても迅の動きが止まってしまった。風刃の斬撃は既に7発放っている。あと1撃のみで残り全員を相手取るのはいかにも難しい。

 その時だった。歌川の視界の端を新たな敵の姿がよぎった。()()を手にした清治の姿である。

「武蔵丸さん!?」

 歌川のその声よりも遥かに速く清治が風間に肉薄する。だらりと下げた手に握った孤月を、一挙動で肩まで持ち上げた速度は驚嘆すべきものだった。だが、当の風間本人は清治の接近に気がついていないようである。

 とっさのことで、風間をかばうべく歌川が迅から手を放す。その瞬間、風間・歌川両名ごと旋空で両断すべく動いていた太刀川の右腕と、歌川の動きに驚いて1/4歩ほど下がった風間の左足を風刃の斬撃が薙ぎ払った。

「ふぃ〜」

 ギリギリのところでようやく思い描いた形に持ち込むことができた迅は1つ大きなため息をついた。

 そして、先ほどの歌川の不自然な動きについて、ようやく思いを巡らせるゆとりができた。

――― ムサさんだな。きっと。こっちは構わないでって言っといたのに

 とはいえ、そのおかげでどうやらこちらは勝利が確定のようだった。もっとも、迅としてはまた清治に助けられたという思いの方が強いのではあるにしても。

 

 再び嵐山隊の方に目を戻すと、2箇所で戦闘が行われている。三輪・出水と嵐山・時枝、少し離れた無人マンションの中では、米屋と木虎がそれぞれ戦っている。

 当初は互角に切り結んでいた米屋と木虎だが、徐々に米屋が押し始めた。近接戦闘の単純な能力比較では米屋の方に分があるようだ。しかも、先に清治によって米屋の槍は握りの長さを自在に調整できるように改修されている。狭小エリアでの取り回しは驚くほどに改善されているのだ。

 外での戦闘も激烈だ。時枝と三輪のアステロイドの打ち合いを皮切りに、合成弾以外のガンナー及びシューターの使用するほぼ全てのトリガーを駆使してのすさまじい銃撃戦である。

 射手の好きな軌道を設定できるバイパーというトリガーで出水が嵐山を狙う。一般的なシューターやガンナーであればこの軌道は予め自分の戦闘スタイルに合わせて設定しているが、彼は戦況に合わせてリアルタイムで軌道を設定することができる。

 これは他者には不可能な芸当であり、ボーダーのシューターおよびガンナーの中でも彼と那須隊の隊長である那須 玲にしかできない離れ業である。

 この攻撃を、嵐山はシールドで防ぐ。だが、出水の狙いはさらに別にあった。

 シールドで防ぐといっても限界がある。シールドを広く展開すればそれだけ使用するトリオンが薄くなるため強度が下がる。それを防ぐために攻撃を受けている箇所に集中して展開するのが普通だ。

 だが、そうなれば『今現在攻撃を受けていない』ところはがら空きになる。出水はそこを狙ってさらに追尾弾であるハウンドを放つ。

 思わぬ方向からの狙撃から嵐山を救ったのは『できるキノコ』時枝だ。素早くシールドを展開して出水のハウンドから嵐山をガードする。

「サンキュー充」

 時枝は自身の戦闘力も相当だが、得意とするのは嵐山との連携およびサポートである。二人の連携は清治からすれば『二人で四人分』と言わしめるほどのレベルである。

 刹那、三輪の放った鉛弾(レッドバレット)が嵐山を襲う。これは直接的な破壊力は皆無だがシールドには干渉しない。故にどれだけシールドを展開しても防ぐことはできず、防御するにはそれを躱すしかない。

 並の射手の放ったそれであれば、嵐山ほどの使い手であれば難なく全弾躱してしまったことだろう。だが、それを放ったのは三輪である。非凡な射手と言っても良い彼のそれは、撃つタイミングも狙った場所も極めて的確だった。そして、その性質上ただ1発当ててしまえば目標は達成できるのである。

 嵐山の足に2発命中し、すぐに重しに変化する。1つの重さはおよそ100kg。トリオン体であっても自由に動くことが難しくなる重さだ。

「よしよし。足が止まったな。シールドごと削り倒してやる」

 圧倒的火力で嵐山を墜とすべく、出水がアステロイドを大量に放つ。仮に時枝と嵐山の二人でシールドを展開しても防ぎきれないであろう弾数だ。

 命中するというまさにその瞬間だった。まるで存在そのものがかき消えたかのように嵐山が姿を消した。そして、思いもよらぬ場所に唐突に出現する。

「出水後ろだ!!」

 三輪が大声で指示を出す。嵐山は試作トリガーである『テレポーター』を使用して窮地を脱し、かつ効果的に時枝と二人で出水を挟撃できるポイントに瞬時に移動したのである。

「テレポーターか!」

 シールドを展開しつつ離脱を図る出水に、嵐山と時枝の放つアステロイドが容赦なく降り注ぐ。

 なんとかその場を離れることができた出水だったが、軽くはない傷を負ってしまった。

「おい出水。動けるか?」

 問いかける三輪に出水がなんとか答える。

「大丈夫… 心臓と頭は避けた… けどあー… トリオンがもったいねー」

 ボーダーでもトップクラスのトリオン量を誇る出水だが、それだけで嵐山隊ほどの使い手と渡り合うことができるとは思っていない。しかし、それが自分にとって最大の武器であることも知っている。それ故に、僅かなトリオン流出でさえも惜しむのである。

 さて、マンションの中では木虎と米屋の戦いも佳境に入っていた。徐々に米屋が木虎に追い込んでいたが、その木虎がついに後退をやめたのである。

「おっ。逃げるのはここまでか?」

 言いつつ槍を振るおうとする米屋の利き手が、妙なベクトルで引っ張りあげられる。

「… ワイヤー!?」

 この隙を木虎が見逃すはずもなかった。彼女は米屋に押し込まれている態で後退しつつ、密かにワイヤーを張り巡らせていたのである。

「暗くて全然見えなかったでしょ?」

 見事な作戦だった。現に米屋ほどの使い手の心臓… トリオン供給帰還をスコーピオンで貫いている。

「終わりね」

 勝敗は決した。だが、ここは戦場だ。勝敗が決した後であってもできることがある。

「… と思うじゃん?」

 米屋は自身が戦線から離脱する前に相手にダメージを与えるための手段に出た。木虎ごと外に飛び出したのである。

 米屋の意外な行動に木虎は驚いたが、その真意をすぐに理解した。移動用のオプショントリガーであるグラスホッパーを持たない木虎は、空中で体勢を立て直す術を持たない。

 そして、外では三輪と出水という、腕に覚えのあるオールラウンダーとシューターがいる。彼らにとって木虎は『落ちてくる的』でしかないのである。

「弾バカ! 出番だぞ!」

 米屋が出水に呼びかける。

「誰が弾バカだ。ハチの巣にするぞ」

 言いつつ出水は大量のアステロイドを放つ。木虎はシールドを張るが、彼女のトリオン量ではとても凌ぎきることはできないだろう。

 その時だった。時枝が木虎をサポートしてシールドを展開し、出水のアステロイドを見事に防いでしまったのだ。

「時枝先輩!」

「マジか」

 木虎と出水がそれぞれ口にするその間に、さらに驚くべきことが起こった。

 その時枝を狙って当真がイーグレットを放ったのである。ノーマークだったため、そして当真の精密な射撃の腕前のため、正確に時枝の頭部を撃ちぬいたのである。

 三輪と出水を含めた全員が完全に虚を衝かれた。これぞスナイパーの真骨頂であり醍醐味である。

 当真はさらに木虎を狙った。当然のことだったが、これは時枝に防がれた。誰よりも早く状況を認識した彼は、自分と共に隊のエースである木虎を墜とさせるわけにはいかないと考えたのだ。

 時枝は落下しつつも木虎の腕をつかんで引っ張った。木虎の落下速度が一瞬上がり、彼女の頭部を狙った当真の弾丸は左足に命中するにとどまったのである。

時枝(とっきー)と木虎の片足か。まあ損はしてないな」

 米屋はそう言ったが、実際には大きな損をしたことになるのが後になって分かることになる。ここに至って、ついに清治の参戦の条件が揃ったのである。

 ただ、彼らはそのことを知らないし、知っている嵐山たちにしてもそのことに心をくだく余裕は無かった。

「すみません嵐山先輩。詰めを誤りました」

 自身にも厳しい彼女らしい言葉で木虎が詫びた。

「反省は後だ。まだ終わっていないぞ」

 嵐山の言う通りであった。当真がこちらに移動してきた以上、清治を除外すれば佐鳥を入れて人数は五分。相手は出水が多少トリオンを漏出させたとはいえ戦闘に支障の無いレベルだ。

 対してこちらは三輪の鉛弾と当真の狙撃によって、嵐山と木虎の足は削られてしまっている。機動力からすれば圧倒的に不利な状況であった。

「これで3対2」

 三輪は佐鳥のことを頭数に入れるのを忘れている。

「しかも2人とも足は封じた。このまま…」

 言いかけた時、何かが凄まじい速度で飛来するような空を切る音が聞こえた。その瞬間、何か細長いものが出水の眉間を貫いたのである。

「!!」

「!?」

「!!」

「!!」

「!!」

 当真も含め、その場にいた5人がそれぞれに驚く。その間にも出水は緊急脱出してしまった。後に残ったのは、彼の頭部を貫いた棒状の何かである。

 米屋の持つ槍のそれよりやや長めで、直径は約3cmほど。白とも灰色ともつかぬそれの持ち主を、その場にいる全員が知っていた。




ジャンプ漫画らしい引きにしてみたつもりですがいかがでしょう?(^^

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