無責任野郎! 武蔵丸 清治   作:アバッキーノ

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C07 アナコンダとハゲ

 空閑が三雲と雨取に誘われてボーダーに入隊することを承諾したころ、清治は一人キッチンにいた。

 夕食の後片付けをしているのだ。洗い物は宇佐美と一緒にやってしまったが、自宅から持ち出した調味料などがいくつかある。

 今日使ったものの中にはそろそろ無くなりそうなものがあった。補充しなければならない。

 ふと顔を上げると、いつの間にやら迅がキッチンに入ってきていた。普段と同じ、人によってはどこかふてぶてしく感じる笑みを浮かべている。

「何か用きゃ?」

 普段のように軽い口調でそう尋ねる清治だが、用向きがどうやら少々重そうだということは薄々気が付いていた。

 普段のように軽く声をかけてくるのではなく、こちらの様子をうかがうかのような態度を迅が清治に示すときは、だいたい何か面倒なことに彼を巻き込もうとしている時の彼の癖である。

「もう帰るのムサさん」

 一応はそう聞いて来るが、この後仮に清治に何か予定があっても、とりあえず面倒ごとを押し付けるつもり満々の聞き方だ。

「おお。この後諏訪っちさんトコに行く予定なんじゃ」

 清治も当たり障りなく答える。答えつつ、今日のこの予定はキャンセルだなとも考えていた。

 以前にも述べたが、清治は麻雀は壊滅的に下手だ。にも拘わらず諏訪隊主催の麻雀大会に何度も参加しているのは、つまりは諏訪隊の面々と遊びたいだけなのである。

 遊ぶネタが麻雀だからやっているだけで、清治本人は勝敗自体はどうなろうと構わない。

 そして、いつも(主に堤に)巻き上げられているのであった。

「悪いんだけどさ。その前に支部長室に来てくれないかな。ウチのボスがムサさんに頼みたいことがあるんだって」

 玉狛支部の支部長である林藤の名前を出してはいるが、結局それも林藤が迅の話を聞いて決めたことなのだろうことは想像に難くない。 

 やれやれといった態で肩をすくめると、清治はここを片付けてから行くと言った。

 清治が戦闘隊員として所属する鈴鳴支部にしてもそうだが、支部長室という部屋には様々な資料が置いてある。

 ボーダーの活動規定に関することや、民間との折衝の際のマニュアル、非常事態時の一般職員の行動規範などが置いてあり、玉狛支部も無論同じようなものである。

 にもかかわらず、そこがボーダー支部の支部長室ではなく、場末の三流ゴシップ雑誌の編集長室のように思えてしまうのは、林藤の醸す独特の雰囲気のせいかもしれなかった。

 それが良いわけではないのだが、それでなくても支部のトップの執務室と言えば、どのような人間にも無条件にプレッシャーを与えるものだ。

 そうしたものがないのは、ここの支部のある意味特色のようなものかもしれなかった。

「よく来たな。まあ楽にしてくれ」

 普段の通り飄々とした口調で林藤が清治に言う。この部屋にいる三人は、ボーダー本部の人間が見れば、人を食ったような連中ランキングのTOP3と言える人物だった。

 まあ、普段からそうかしこまった態度を示すわけでもない清治にとって、楽にしろと言われても苦笑するしかなかった。

「んで話ってなんすか? 染川町の新しいキャバクラのこと?」

 絶対にそうではないことを知りつつもそういう清治の言葉に、林藤はくいついた。

「お前もう行ったのか? どうだったよおい」

 話の主題とは1mmも関係の無い新しいキャバクラの話をひとしきりし終えると、ようやく話が本題に入る。

「本部のトップチームの連中が、遊真の黒トリガーを奪いに来るんだそうだ」

 さもありなんと思えなくもない話だったが、それでも清治は驚かずにはいられなかった。本部としては黒トリガーの確保のために手段を択ばないということなのだろう。

「ぢゃが、それじゃあやってることは強盗でっせ。あの人ら、顔だけぢゃのぉてホンマの悪人になるつもりなんですかね?」

 普段とは違う、ひどく抑揚のない声で清治が言う。

「お前さんに言うまでもないことだが、そんだけ黒トリガーがエラいシロモノだってことさ。だがな。これだけはどうしても渡すわけにはいかないらしいんだ。なあ迅?」

 林藤にうながされ、迅が空閑の黒トリガーについて説明を始める。

 話の最初は面白そうな顔をしていた清治だが、やがてその表情を改めた。珍しく真剣な顔をして迅の話を聞いていたが、話が終わると突然気がふれたかのように笑い始めた。

 朗々と響く笑い声には心底楽しそうな響きがあったが、その響きの中に何か不吉な毒のようなものが含まれていることは同じ部屋にいる林藤と迅にははっきりと分かった。

 ひとしきり笑ったあと、清治は呼吸を整えると顔を上げた。

「さて… で、わしはどいつを狩ればえぇ?」

 正面から見据える林藤がたじろぐほどの暗い目のまま、笑顔で清治はそう言った。

 

 結局その日は諏訪隊の隊室に行かいことにした清治は玉狛支部に(なぜか)ある『自室』に泊まり、翌日朝から行われる新人に対するレクチャーに付き合うことになった。

 早速宇佐美がこれからのことについて三雲らにレクチャーを行う。

 既にボーダーの入隊し、正規隊員となっている三雲は良しとして、空閑と雨取にはボーダーの戦闘員としてのイロハを教え込む必要があるのだ。また、三雲にしても知らないこともあるだろう。

 まじめくさって宇佐美が説明する。迅は傍らに控えて補足をする役回りである。清治はと言えば、途中で要らないチャチャを入れる役だ。役と言って良いのだろうか。

 ランク戦の説明をひとしきりしたあとは、雨取のポジションの話になった。

 空閑は雨取は戦闘員になるべきだと主張した。先日の旧弓手町駅で測定した彼女のトリオン量を踏まえてのことである。

 規格外と言っても良いそれを活かすためには、オペレーターよりも戦闘員になる方が良いのは間違いなかった。

 空閑がそう言った時、宇佐美と雨取が清治の方を見た。当然昨夜の清治とのやり取りを思い出してのことである。

「? なんね?」

 まるで昨夜の自分の発言など全く覚えていないかのようにそう言う清治に、宇佐美は少し拍子抜けした。

「いや、ムサさん昨日は千佳ちゃんは戦闘に向いてない的なこと言ってたじゃん」

 それぞれの表情で自分を見る一同に苦笑しながら清治は答えた。

「まあ、そもそも入隊そのものがどうかと思うが… もう入ってもうた以上、今更どうこう言うもんでもなぁ。それに、おチカちゃんの希望を叶えるためにゃ、ユーマの言う通りオペ娘よりも戦闘員の方が良かろうて」

「わたしも… 自分で戦えるようになりたいです」

 力強くそう言う雨取を見て、清治はひとつ頷くと

「ま、そういうことぢゃ。で、そんなにトリオン量がすげぇんなら、ロングレンジで戦うポジションのがえかろうねぇ」

と言った。

「ポジション…?」

 そこで宇佐美がボーダーの戦闘員のポジションについて説明を始めた。

 近接戦闘を専門とするアタッカー、中距離から銃型あるいは弾型のトリガーを使用して戦うガンナー(あるいはシューター)、長距離狙撃を専門とするスナイパーである。

 余談だが清治は初対面の人に自分のポジションを聞かれると

「くるくるぱー」

と答える。くるくるぱーな答えだ。

 宇佐美がいくつかの質問を雨取に投げかけた。どのポジションに適正があるかを確認するためだったが、有り体に言えば戦闘員に向いていると思える答えは全く返ってこなかった。

「すみません… 取り柄がなくて…」

 雨取がそう言ってうなだれる。

「えっ。ううん。大丈夫だよー。参考にしているだけだから」

 すかさず宇佐美がフォローを入れるが、やはり雨取はしょんぼりとして下を向いてしまった。

「…メガネくんや。なんぞ言うべきことがあんのではないのかね?」

 葉を詰めたパイプに火を入れながら清治が促す。

「あ。ムサさんだめだよ~。ここ禁煙なんだから」

「堅ぇこと言うなよしおりん。今必要なのはリラックスできる環境ぢゃ」

 やがて清治のパイプから、『タバコ』という言葉からは想像もつかないバニラの香りが漂いはじめる。

「…いい香り」

「ふむ… なんだか甘い感じですな」

 雨取と空閑が口々に言う。実際清治のパイプの香りは年長のボーダー所属者の中では評判が良かった。タバコの臭いを嫌う加古でさえ

「ちょっとしたアロマ気分ね」

と言うほどだ。

 清治の咥えた、表面に砂を焼き付けたような加工が施されたパイプの先から、白い煙が漫画のような輪を描きながらいくつも天井に昇っていく。

 時にそれを強く吹き出して白い輪を作る。いわゆる『煙の輪』である。

 暫くすると、辺りにはパイプの煙独特の少し焦げたような、それでいて芳醇で甘い香りがリビングを包み込んだ。

「で、メガネくん?」

 その場にいた全員が嗅ぎ慣れない紫煙の香りを楽しんでいる中、清治が促す。

「あ。はい」

 三雲は促されるまま、雨取について色々と話しはじめた。短距離走はそうでもないが、長距離走は早いこと、まじめで我慢強く、地味な作業をこつこつと行うのが得意であること、柔軟性が高いことなどだ。

「ほうほう。さすがによう見とるのぉ」

 ニヤニヤしながら清治が三雲をからかう。それをよそに宇佐美が何やら分析している風にホワイトボードに何か書いている。

「ふんふんなるほど… よし。わかった!」

 そう言って雨取の資質に合ったポジションを発表しようとした宇佐美は、しかし発言を迅に横取りされてしまう。

狙撃手(スナイパー)だな」

「あー!! 迅さん!! アタシが言いたかったのに!」

 そんなやり取りの最中、突然リビングに現れた人物がいた。

 

「あたしのどら焼きがない!!」

 騒がしい足音で廊下を歩き、けたたましい音を立てながらリビングのドアを開いた少女が、開口一番に叫んだ言葉がそれだった。

 彼女の名は小南 桐絵。ボーダーのアタッカー内でも屈指の戦闘力を誇り、ボーダー内の女子隊員の中でも屈指の美少女として名高い人物だ。

 もっとも、彼女もまたボーダーのアタッカーのほとんどがそうである通りバトルジャンキーで、より強い人物と模擬戦を行うことを非常に好む。しかし、最近彼女が対戦相手として忌避している人物がこのリビングにいた。

「よ。きりちゃんおひさ」

「ぎゃぁ! ムサがいる!!」

 数日前に行った清治との模擬戦が、小南にはトラウマになっていた。

 清治にノーマルトリガーを使用させての模擬戦は、小南にとっては非常に意義あるものだった。

 この条件での戦いにおいて、清治よりも小南の方が実力は上であるということは、衆目の一致するところだ。

 だが、この二人が実際に戦うと、俗に言う『千日手』の様相を呈するのだった。

 相性の問題だった。悪いのではない。むしろお互いに相性が良すぎたのである。

 小南と清治は戦闘時の思考と嗜好が非常に良く似ていた。そのため、トリガー構成をオープンにして行う模擬戦においては、相手が何をしてくるかというのが分かりすぎるほどに分かるのである。

 常にお互いがほぼ完璧に相手の行動の2手3手を読めてしまう戦いのため、何か大きな『きっかけ』でも無い限り決着がつかないのだ。

 いわば、某昔の拳法アクション漫画の最終回で、互いに流派の最終奥義を極めた者同士が戦った時のようなものだった。

 この状況に小南が奮い立ったのは言うまでもないことだろう。どうやっても勝つことができない相手(負けもしないのだが)に、なんとかして勝ちたい。そう強く思うことができなければボーダーの戦闘員、とりわけアタッカーなどつとまらない。

 辟易なのは清治だ。顔が合えば模擬戦をせがまれる。さほど熱心な戦闘員ではない清治は、気分が乗らないときはしたくはないのだが、とにかく小南の誘い方は強引なのだ。

「どうしてあたしとしてくれないの!?」

 という、聞きようによっては盛大に多くの誤解を招きそうな発言を素で行うのだからかなわない。

 そして具合が悪いことに、このワードを放てば何故か(本人は意識して無かった)清治が言いなりになるので、模擬戦以外のこと、例えば件のどら焼きをせがむ時にもこの言葉を使うようになった。無邪気なだけに非常にたちが悪い。

 清治にしてみれば、相手に負けたいとは思わないが、彼は戦闘員兼エンジニアでもある。そうは見えないかもしれないが一応それなりに忙しい身だ。余暇の時間のほとんどを彼女との模擬戦に費やすわけにもいかないため、小南とはまったく逆のベクトルで彼女に勝利する方法を模索しなければならなかった。

 こうした二人の研鑽は、知らない間にお互いの戦闘力を飛躍的に向上させた。メテオラも使用する小南との模擬戦は、清治にとってはシューターやガンナーとは違う意味で中距離戦闘における大きな経験となったし、特別に強化してある孤月を使用する清治の間合いで戦うという経験は、小南にとって近接戦闘におけるまたとない経験となった。

 その日。清治は本部所属の戦闘員である影浦 雅人から秘策を授かっていた。影浦は暴力事件を度々起こすボーダー屈指の問題児だが、清治との関係は良好だった。たがいに「カゲ」「ムサさん」と呼び合う間柄であり、しばしば清治が

「ハゲ」

と呼び、影浦が

「ハゲはアンタだ!」

と言い返すのがテンプレートになっている。

 迅を除けば、影浦は最も清治からうまい棒をもらっている人物だ。

 また、メディア対策室長である根付を影浦が殴るという事態が発生した折も、処分の軽減を求めて密かに清治が手を回したこともあって、清治は影浦隊全員と親しい関係だった。

 その模擬戦の折、清治は珍しく孤月とは別にスコーピオンを2本セットしていた。使い慣れないトリガーのはずだが、そこはやはり剣術使いだ。小南からすれば

――― まるで3刀流ね…

と思わしめるほどであった。

 ごく小さく風を切る音がした。小南自慢の『双月』が、まるで軽い剣でも扱うような速さと正確さで清治の肩に殺到する。

 迎え撃つ清治は余裕があるわけではないが、それでも十分に体をかわしながらその切っ先を払う。

 しかし、払われたはずの小南の双月は、恐ろしいほどの速さで下段から清治の腹を狙ったのである。

 これは小南のオリジナルの技ではない。その前に行った模擬戦で清治が小南に放った技だ。

 思いがけない攻撃に、清治はその斬撃を受け流しながらも体勢を崩されてしまった。何万回も繰り返してきた模擬戦において、初めて見せた隙らしい隙だった。

 このチャンスを小南が見逃そうはずがなかった。だが、勢いのままメテオラを放とうとする彼女の口を、なんと清治のスコーピオンが貫いた。

 思わぬ事態に驚愕した小南は、その攻撃が『どこから放たれたか』を知ってさらに驚愕することになる。

 影浦は、自分の必殺技を清治に伝授していた。メインとサブの両方にセットされたスコーピオンを連結させて遠距離攻撃を行うという荒業である。

 『マンティス』と命名されたその技を、清治は誰しもが驚き呆れる場所から放ったのである。それは、奇襲戦法としては極めて効果が高く、この攻撃を受けた相手のダメージ(主に精神的な)は計り知れないものがあった。

 清治がマンティスを放ったのは股間からである。彼はそれを『アナコンダ』と命名しようと思っていたらしい。

 おわかりだろう。股間から伸びたモノが小南の口に飛び込んだのだ。色々な意味で最悪である。

 偶然とはいえ(少なくとも清治はそう言い張った)酷いものとしか言いようがない。

 さらに悪いことには、これが二人の戦いにおける、初めての決着らしい決着であった。

 以来、あれほどしつこく清治を模擬戦に誘っていた小南は、当然ながら彼を避けるようになったのである。

 さらに、清治の呼称もそれまでは『さん』つけであったが、先の通り呼び捨てになった。これもまた当然の帰結だった。

 

 小南に続いて木崎と烏丸 京介がリビングへとやってきて、迅のしょーもないガセ情報で小南がひとしきりからかわれたあと、迅は本題に入った。

 三雲たち3人がA級を目指していること、空閑と雨取の正式な入隊まで三週間ほどあること、そしてその時間を利用して3人を鍛えようというものだ。

「具体的には… レイジさんたち3人にはそれぞれ、メガネくんたち3人の師匠になって、マンツーマンで指導してもらう」

「はあ!? ちょっと勝手に決めないでよ!」

 迅の提案に小南が反発する。

「あたしまだこの子たちの入隊なんて認めて…」

「小南」

 言い募る小南の言葉を迅が遮る。

「これは、支部長(ボス)の命令でもある」

「…! 支部長(ボス)の…!?」

 支部長命令とあっては、さすがの小南もこれ以上ゴネるわけにはいかない。

「林藤さんの命令じゃ仕方ないな」

「そうっすね。仕方ないっすね」

「…」

 口々にそう言う木崎と烏丸。小南としては認めがたいことであるが、なかなか素直に首を縦に振ることはできなかった。

「なんやきりちゃん。まだゴネるんなら、今すぐわしと模擬戦すっか?」

「うぐっ!?」

 彼女のトラウマの種が、よりによって一番嫌なことを提案してくる。以前とは完全に逆だ。

 結局清治の言葉が止めとなり、小南はしぶしぶながら3人の入隊と彼らを指導することに同意した。

 彼女が空閑を、烏丸が三雲を、木崎が雨取を指導することが決まると、清治は席を立った。

「ムサさん。もう帰るの? てっきり特訓手伝ってくれるのかと思ってたのに」

 宇佐美の言葉は、迅を除いたその場に居た全員の気持ちを代弁したものだった。

「わしがあんまりこっちの子らの世話焼いとったら、ウチの連中がヤキモチ焼くかもしれんけぇの」

 冗談めかしくそう言うと、清治はそそくさと帰って行った。

 さて、3組の師弟たちはそれぞれ特訓に入ったのだが、一番最初に訓練室から出てきたのは烏丸・三雲組だった。

「三雲。おまえ弱いな。本当にB級か?」

 思わずそう口にしてしまうほどに三雲は弱かった。

――― だが…

 時折目を見張るような動きを見せることがあったのも事実だった。今の所その『動き』が戦闘の経過に結びついていないのが問題なのではあるが、こうしたことはちょっとしたきっかけがあれば驚くほど簡単に身につくことを、烏丸は自身の経験から知っていた。

 三雲が良い動きを見せたのは、主に攻撃を躱す時だった。まるで攻撃がそこに来ることをあらかじめ予測しているかのような動きをしばしば見せたのだ。そしてその動きは少し烏丸本人に似ていた。ということは、烏丸に動き方についてレクチャーしてくれた給料泥棒に似ているということにもなる。

「ところで三雲。お前ムサさんに教えてもらったことがあるのか?」

「あ、はい。ラッドの捕獲の時や、最初のトリガー調整の時に少し」

――― 頭の向きっちゅ~か、顔を向ける方向が体の向きとチグハグなんよね。今度から気ぃつけることぢゃね

 入隊後暫くして、現在風間隊に所属する歌川や、嵐山隊に所属する時枝らに対して、少し差をつけられたと感じていた頃、悩んでいる烏丸に清治がそう声をかけたのだ。

 直接具体的な指示や指導を受けたわけではないのだがそう言われた烏丸は、何となくその点について気をつけながら自らの過去のログをチェックしてみた。

 最初は気が付かなかったが、見ていると確かに、特に自分の攻撃を躱された後に相手を追う時にどこか違和感があった。あからさまではないが、体を向けている方向と顔を向けている方向がわずかに違う。どちらかの反応がどうやら遅れているようだ。

 気づいてしまえば、後はやることは1つだ。反復練習を繰り返して、とにかく体全体の動きを意識する。最初はややぎこちなかったが、やがて意識しなくとも体の向きと顔の向きがスムーズになってきた。

 この後、木崎に正式に師事し、やがて玉狛支部へと移籍した烏丸は、通りすがりの立ち話のような感じで的確なアドバイスをくれた清治に対する感謝と尊敬の念を失ったことは一度もなかった。減ったことは何度かあるが。(例のアナコンダ事件などで)

 こうして、玉狛支部の新人に対する特訓が進んでいる頃、ボーダー本部にも大きな動きがあった。ネイバーフットに遠征に出ていたボーダー最精鋭部隊が帰還したのである。




個人的には「ぎゃぁ! ムサがいる!!」と影浦とのやりとりのくだりが書けたので満足です(*´ω`*)

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