キャベツ狩りの翌日、今日は休みだ。
ギルドにまた行っても、もみくちゃにされる可能性もあるし、カズマにまた会うのも気まずい。いや、気まずいのは俺だけなんだろうが。カズマが俺のパンツでオ、オナ……そんなことをしたかもしれない奴と会うのもなぁ。……こほん、しかしカズマがそんなことをしたということの確証はない。むしろそういった専門の施設ですっきりした可能性の方が大きいだろう。
うん、だから、何で俺はこう考えただけで顔が赤くなっているのだろうか。俺はそっちのケはないはずだし、むしろ嫌悪感が出てくるはずなのだが、もしカズマが俺のパンツで……と考えるとなぜか羞恥の感情の方が出てくる。昨日で終わりだと思っていた顔への熱が段々と高まってきている。いや、俺は別に自分の下着くらいをどう使われようと何も困らん、いや困りはするがそこまで気にしはしない筈だ。なぜここまで考えて…………
…………~~~っっ!ええい!なぜ俺が男の、それも下の事情で一喜一憂せねばならんのだ!そもそも俺はノーマルだ、女の子の方が好きだ!精神が大分毒されてきているかもしれないが、俺は男だ!もうこの思考は一旦止めだ!下手に考えても意味がない!
というか街中でそんなことを考えている俺もまごうことなき変態なのだろう。周りからの目も怪しくなってきているし、さっさと目的地まで行こう。
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そんなこんななことを考えつつ、やっと目的地に着いた。そこは小さな、マジックアイテムを扱っている魔道具店。ゆっくりとドアを開けると、ドアについている小さな鐘が涼しげな音で俺を出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ……あ、ユタカさんこんにちは!」
その音につられて店主がこちらに声をかけてきた。名前は確か……
「…………ウィルさん、こんにちは。」
「ウィズですよ、ユタカさん。」
ああそうだ、苦笑しながら名前を訂正する女性は、たしかウィズだったなそうだったな……なんか思いっきり偽名臭い名前だな、おい。ウィザードから取ったのか、ワイズマンからの由来だろうか、まぁ、どちらにせよ本人がその名前で名乗っているのなら特に突っ込んでおかないでおこう。俺もあんまり人のこと言える立場じゃないしな。
「…………何か面白そうなものがないか今日も冷やかしに来ただけです。特に客って訳でもないので歓迎は不要ですよ。」
「そんなこと言いつつ時々しっかり買っていってくださるじゃないですか。」
くすくす笑うな。気にいったものを買うのがおかしいか。
この店、ウィズが経営している魔道具店は基本ガラクタ、もしくはそれ以上の産廃がメインの商品だ。基本的にだれも買わないようなものばかりを店に置いている。のだが……極低確率で、お宝と思うレベルで良い効果を発揮する魔道具もあったりする。もしくは俺には意味があるが他の奴にとってはあんまり意味がない物だったりするのが見つかったりするのだ。
まぁ、その効果に見合った値段なことは基本ないのがなぁ……。もっと安ければ使いようがあるものの、ウィズが取り扱っている魔道具は基本高価だ。下手に消耗品として使っていこうならば借金で家が建つほどに高い。
さて、新しく入荷した商品を眺めるのもあれだし、俺の探している本命を聞かないと……
「…………ウィズ、やっぱりなさそうですか?」
「探してはいるのですが……申し訳ありませんが、今回も見つかりませんでしたね。」
「………ん、ウィズはその分探してくれていますから、ありがとうございます。それに無理を言っているのは私の方ですしね、やっぱり私の方でも探してみますね。」
探しているものは俺の武器になりそうなものだ。そもそも
それで俺が今探している候補が水晶玉と望遠鏡だ。望遠鏡は星を見るという観点から思いついた発想だが、正直こっちは使える気がしない。望遠鏡からビームやら隕石を打つわけでも無いしな。それに高価の為、安定した収入が稼ぎづらい冒険者稼業では微妙だろう。で、現在の本命が水晶玉だ。水晶玉に星空を投影すれば屋内で使えないスキルも使える可能性が出てくると考えたからだ。……まぁ、そう上手くいく気もないが試してみないことにはわからないだろう。
それでウィズに探してもらっているがなかなか良いものは見つからないらしい。まぁ、頼んでいるのはこっちだしまだ強敵と言える相手はいないからゆっくりと待とう。いざとなったら自分で星を模ったアクセサリーでも作ってそれでスキルの威力上昇や精度上昇を狙ってもいいかもしれない。
スキルで思い出したが、今習得が可能なスキルには当たり前といえるが星や惑星に関するものが大多数だ。しかし名前だけではどんなスキルか分からないし発動条件もよくわからない。そもそも俺は天体学のことについては全くの初心者だ。名前すらも碌に当てにならないレベルだ。今あるポイントと相談しつつ取得していかなければいけない、な。
それと大多数と考えた理由が、昨日新しく習得可能になっていたスキルのせいだ。その名前が
話が脱線した。とにかくこのスキルを習得する気はない。幸いと言っては何だが、このスキルが必要としているポイントは異常なまでに高く、この一生では取得されないとでも考えた量だ。そりゃ、一応神ではあるしな、人間からそんなものになるわけがない。そもそも俺はクトゥルフ神話のことなんざ詳しくないからどのくらい危ないか知らないし、文字を見るだけで自分にかかる制限も大きそうだしな。それよりかはもっと他のを選んだ方が良いだろう。
…………とりあえず、ウィズの店に来た用事は終わった。休みだし、暇つぶしにウィズと談笑してから帰ろう。
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それから数日、俺はいつも通り臨時メンバーとしてモンスター発見レーダーをしていたり、ついでにジャイアントトードを爆ぜ潰したり、商人一家と談笑したり、ウィズと目当てのものを探していたりしていた。
そして今日、やっとキャベツ狩りの報酬が支払われた。俺も調査の報酬金として50万エリスが支払われた。…………でも、このお金は商人一家に渡すつもりだ。もうずっと宿に泊めてもらっているんだ、いつまでも何かしなきゃ、なんて口だけのお礼で済ませるほど俺は子供ではない。とはいえ一家に恩を返す方法はまだ思いつかないため、今回のお金はあくまで宿代を返す程度の気持ちでいる。それまで親切にしてくれた分のはまた別の機会で返しておこう。
「なんですってえええええ!?ちょっとあんたどういうことよっ!」
…………またアクアか。もうギルドの連中もアクアがこうして叫んでいることに慣れてきたのか、無視している。どうせ買ったものが碌でもない物だったのか、借金でもしてどやされているのだろうか。
どうやら聞いていると若干違ったようだ。キャベツ狩りの報酬金があまりにも少なくて受付にクレームを入れたが、捕獲したのが安い方のレタスばっかりだったそうだ。何とも運のない話だ。そしてキャベツ狩りの報酬金がどうせ入ってくるからと酒場に大量のツケをしまくったらしい。
…………絡まれないように声は聞こえる程度に離れておこう。絡まれたらお金を根こそぎ持って行きそうだし。というかパーティーで組んでいるなら山分けにしているかと思ったら、今回は各個人で手に入れた報酬をそのままっと言っていたらしい。大方、めぐみんやダクネスがあまり獲れなかったのを見て思いついたのだろう。
というかカズマ、百万ちょいってどんだけ捕まえたんだこと。スゲーなアイツ。あ、アクアがカズマに泣きついた。まぁ、馬小屋暮らしもそろそろきつくなってくるだろう。賃貸か宿に乗り換えるつもりなのだろうか。
「そんなあああああ!カズマ、お願いよ、お金貸して!ツケ払う分だけでいいからぁ!そりゃカズマも男の子だし、馬小屋でたまに夜中ゴソゴソしているの知っているから、早くプライベートな空間が欲しいのはわかるけど!五万!五万でいいの!お願いよおおおお!ユタカに返さなかったパンツ――――」
「よし分かった、五万でも十万でもお安いもんだ!分かったから黙ろうか!!」
………………………………はっ、お、おれはなにもきかなかったぞカズマ!
「あのーユタカ、顔が赤いですが大丈夫でしょうか?」
「…………だ、大丈夫れすので、気にしないでくだしゃい!」
「噛んでいますよ?」
「…………聞かなかったことにしてください。」
アクアと一緒に檻に突っ込むべきか、他のことをやらせるか迷うなぁ……