この素晴らしい占星術師に祝福を!   作:Dekoi

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いつも以上に遅くなって申し訳ありません。
今更ですが、閑話を投稿させていただきます。

久々に書いたのもありいつも以上の駄文です。ご了承ください。
また、申し訳ありませんがいつも以上に誤字脱字が存在するかもしれません。


閑話6 ハロー、ユメセカイ

 お尻の痛みを気にしつつお爺ちゃんたちに自分が改めて元男だということを話してから翌日、冒険者ギルドからようやくこの前のダンジョンアタックの報酬金がもらえた。

 額こそ少ないものの、この冬という危険な季節にはありがたい値だ、大切に扱おう。

 

 せっかくだし、もう一度お酒を飲みに行ってもいいかもしれない。この前まで飲んでばれるような眼を避けるために我慢していたが、もうこの街では冒険者に限らず多少の知り合いには知られている。それならば、我慢せずにはっちゃけても良い筈だ。

 

 

 

 まあ、今回は、諦めよう。お酒の魅力につられそうになったが、我慢だ。……我慢だ。

 というのも、以前から考えていた魔道具の件についての相談をしに行くためだ。今まではウィズという産廃か超高価な物しか仕入れてこない人にしか相談が出来なかった。

 いや、多少見る目はあるんだろうが、その大半が売れることなく消えていく駄目過ぎる効果を持つもの、残りがその効果に見合った値段のせいで売れ残っているものばかり仕入れてくるんだからどうしようもない。流石の俺でも桁が7つや8つのを即決で買えるほど度胸はない。

 カズマの?あれはただの援助と実利が重なったからだから関係ない。正直こちらとしても得であったから何も問題はない。

 

 しかし、今はバニルという話がまともにできる存在がいるのだ。うざかったり、人の恥部や秘密を抉ったりするようなやつではあるが、公爵と名乗っているだけあって物を見る目は肥えているのか、鑑定眼はとても優秀なのだ。

 それとともに、アンデット化したための影響下は知らないがウィズの腐りきっているとしか思えない目利きによる被害者でもある。被害者である。もう一度言う、被害者である。

 友人であるウィズの店で働き始めたかと思えば、最初の仕事が売れるものと売れない物の仕分けという悲しい作業。それも腰に泣きつくウィズに説教をしながらの作業という、内情を知っていれば涙しか出てこない仕事だったらしい。

 

 さて、そんなバニルも今ではウィズの店でのまともな店員として受けている。悪魔であることはギルド側も把握しているのだが、一度は討伐されて二代目として名乗っていること、魔王軍の幹部はやめたことから存在することを黙認されている。もっと簡単に言うなら、関わるのが面倒だから放置されている。

 それに、見通す悪魔としてその客に見合った商品をしっかりと進めてきてくれ、相談事も解決できるから人気はあるのだろう。……うざいこととかは除くが。本当に、人の傷や恥部をえぐり取って喜悦に浸るのは悪魔としての性として諦めるが!

 

 ……とはいっても、今日はもう遅い。報奨金を貰った後、それ以前に今日の俺は宿屋で働いていたところをギルドに呼ばれて報奨金を貰ったからだ。その後もとんぼ返りで宿屋の仕事に勤しんで太陽はとうに沈み果てある。

 特に今日の宿仕事は、宿の廊下や受付のカウンターに忘れ物が多く、小さな袋に詰められた小銭や少し黄ばんだタオル、挙句の果てには冒険者の命ともいえる剣や弓、貴重品としか思えない銀色の鍵など、いつもとは考えられないほどの大量の忘れ物の処理に追われていたのだ。

 通常は宿屋の倉庫にしまっておいて申し出た人に返すといった形なのだが、今日はいつも以上に倉庫がいっぱいで、宿屋やギルドで飲んでいたり休んでいたりする人に聞きに回っていたりと大変だったのだ。

 

 結局、小銭入れや剣、弓矢といったのは持ち主が見つかったが、奇妙な言語が彫られている銀の鍵を持っていると名乗り出る人はいなかった。わざわざダクネスにも聞きに行ったが、こんなものは見たことがないとのこと。最終的に、布を敷き詰めた小さな木箱の中に入れておいて保存といった形となった。早く名乗り出てくれる人がいるといいが……

 

 

 

 

 

 そんなわけで現在の外は細々とある街頭と所々にある店から漏れる光、そして頭上から注がれる月光のみだ。

 この時間では、ウィズも店を閉めているはずだ。……アンデットとはいえ、流石に24時間営業であるとは思えないしな。夜に使う照明代だけでも大変なことになりそうだし、そんな余裕があるとも思えないし、今日はいったん諦めよう。

 

 また今度、暇な時があればいいだろう。それで前買った黒水晶にマナタイト結晶、そして今回の報奨金で新しい魔道具でも作って貰おう。

 

 さて、今日はもう寝よう。いつもより早いとはいえ、この宿で使うロウソクやランタンに掛かるお金もできるだけ削っておいた方がいいだろう。

 元男であるのに、いまだに住ませてもらって仕事をさせてくれる一家に申し訳ない。今回のことも含めて恩返しをできるように、迷惑にならないようにしなければ。

 

 

 従業員用の服から寝間着の服に着替えてっと、それじゃ、おやすみだ。明日はギルドで冒険者稼業の方だから、迷惑を掛けないようにしっかりと良い睡眠をとらなければいけないし。

 …………お尻はまだ痛いから、うつ伏せで寝ておこう。

 

 

 

 ――――――――――――― 

 

 

 

 ふと気づいた時には、俺は立っていた。目の前には真っ黒だが海を思わせるような巨大な水面がさざ波を立てており、空は厚い雲で覆われており太陽か月かといった判断もつかない。

 周りを見渡せば、雲に覆われているためか知らないが薄暗く、いや薄暗いどころではない。まるで煤を思わせるような黒い霧が周囲を包んでいる。おかげでここがどこかの判断がつかない。

 

 とはいえ、少なくともアクセルの街周辺にある地形ではなさそうだ。アクセルの街周辺にある水辺は、俺とアクアはオリに入れられた湖が思い浮かぶが、この黒い海は、もっとそれ以上の広さがある。

 こんな広いの、宿屋に来た客の噂話でも、地理に詳しいギルドの人の話でも聞いたことがない。そもそも黒い海な時点で聞いたことすらないが。

 

 ……さて、どうするべきか。俺が記憶していた限りでは、俺は寝間着に着替えてベッドにもぐりこんだはず、その後も毛布の暖かさにウトウトしたと思ったらこれだ。

 何か誘拐でもされたのだろうか?それにしては奇妙な場所に置いて行かれているがな。

 

 …………寝間着?さっきまで気づかなかったが、俺の服が寝間着から、冒険者での装備である紫のローブと帽子に革の靴になっていた。

 わざわざこんな着替えまでして誘拐とか、いったいどんなユニークな変態なんだろうか。俺が目覚めてしまうというリスクを無視してこれに一旦着替えさせるとか、どんな技を持つ変態なのだろうか。やだ、フェチズムもここまで極まるとすさまじいものを感じるな。

 

「誰が変態だ!誰が、変態だと、言った!?儂は少なくとも、貴様の言う変態なんぞではないわ!!」

 

 ふと考えていて下を向いていたが、頭上から掛けられた声に顔を上げる。

 

 そこにいたのは、黒い海を悠々と泳ぐ奇怪な生き物の上に巨大な貝殻を乗せて、その上に仁王立ちしているムキムキマッチョな白髪白髭な男だった。

 

 …………どこからどう見て変態じゃねーか!

 

「だから、儂は変態じゃないと、言っておるだろうが!!わしの名前はノーデンス。この『偉大なる深淵』の主にして、旧支配者の復活の阻止や外なる神の介入の妨害を行っている神だ!!……くそっ、誘い出したはいいが、あまり時間はなさそうじゃな……」

 

 なんか急に叫んだと思ったら、今度はブツブツと喋り出して一体どうしたのだろうか。気分でも悪いのなら、俺をさっさと帰して毛布にくるまった方が得策だと思うのだが。

 というか、この変態こと、ノーデンスの様子を見る限り、俺の考えていることはそのまま伝わっているような気がするのだが、それはきっと気のせいなのだろうか。

 

「……はあ、あいにくですまないが、貴様がここにいられる時間もあまりないから手短に言わさせてもらおう……貴様は、その旧支配者や外なる神に目をつけられているのだ!」

 

 …………。………………いや、急に言われても何が何だか分からないのだが。神ならアクアのようなやつが思い当たるが、旧支配者に外なる神?そんなの……あれ、どこかで聞いたことがあるような……

 

「手っ取り早く言わせてもらうのならば、強大な力を持った邪悪なる存在だ。貴様にも心当たり自体はあるじゃろう?貴様が取得できる異能の中に、異名を持った忌まわしき奴らの名前を何度も見たことがあるだろう?」

 

 異能……ああ、うん、スキルのことか、それならばいくらでも見たことがある。正直、ふとした瞬間に間違って取得してしまいそうで怖い。というか、あれを取得した時の効果って何なんだ?

 

「ふん、そんなもの考えるまでもなく碌でも無いことだろうな。むしろあいつらのことだ、そのスキルというのから貴様に干渉してくることであろうな」

 

 まじか。

 

「マジだ」

 

 …………うん、興味本位で取得していなくて良かった。本当に、よかった。だからと言って、こいつの言っていることを鵜呑みにするのも、危険ではあるがな。はっきり言って、幾らなんでも胡散臭すぎる。こんな変なところに誘拐しておいてあれに関わるななんて、妖しさ満点だ。せめて誘拐した理由くらい話してくれてもいいと思うのだが。

 

「……まあ、それは否定せんがな。こちらとしても、できるだけ接触は避けておいた方があいつらに勘づかれなくて済むからな。かといって、何もせずに指をくわえて世界が滅ぶなんてことは防ぎたいからな。申し訳ないが貴様に『銀の鍵』を送っておいて誘拐まがいのことをしたことは謝ろう」

 

 おい待て、今の言葉に色々とツッコミどころしかないのだが。世界が滅ぶとか、あの銀色の鍵はお前の物だったのかとか、接触で勘づかれるってどうやってとかいろいろ聞きたいのだが。あと、いい加減誘拐した理由を話せよ。

 

「……む、いかん、霧が濃くなってきおった。では、そろそろ別れの時だ、また会いたい時は貴様に送り付けた『銀の鍵」を使ってまた来るとよい。……まあ、あまり接触すると面倒なことが起きる故に、何かあったときだけにしておけ。いいな?」

 

 ノーデンスの言葉に周囲を見渡せば、いつの間にか黒い煤のような霧は俺らの周辺にまで迫ってきているように濃くなってきていた。どうやらこの霧はここにいられるタイムリミットのようなもの、なのか?

 

「……ああ、そうだ、貴様が現在願っていた道具、餞別代りにくれてやろう。起きた時を楽しみにしていろ……安心しろ、貴様に害がないように調節しておる。それでは、また此処で会おう!」

 

 その言葉を皮切りに、黒い霧は俺を包み込んだ。その異様な匂いと色に、目を閉じて顔を手で覆った。

 

 ……いや、格好良く締めたところすまないが、なんで俺、わざわざここに呼び出されたの?たったあれだけを言うために誘拐するとか、神って何考えているのかさっぱり分からない。

 

 

 

 ―――――――――――――――― 

 

 

 

 両手から漏れだしてくる光に顔をしかめつつ手を離せば、そこはいつもの部屋の天井。顔を横に動かせば、中途半端に閉められた窓からは淡さを通り過ぎて力強い光が漏れ出している。まるでさっきまでの出来事が嘘のように静かな朝であった。

 

 …………夢、か?それにしては色々と濃い夢であったが……いや、夢なんてものはこんなものだ。大概の夢なんてものは突拍子もないのが普通なんだ。だから、こんな夢を見てもおかしくはないはず。

 

 というか、この光からして、今朝は少し寝坊気味、だな。今日はギルドで以前約束していたパーティーとの冒険者稼業だ。遅れないようにしておかないと……

 

 …………ん?枕元に……なんで、こんなところに昨日倉庫にしまっておいた銀色の鍵が?

 

 ……これ、もしかして夢の中で言っていた『銀の鍵』か?……一応、今は持っておいてお爺ちゃんとかに相談しておこう。流石に夢の中でこれが必要になってくるかもしれんなんてこと、信じてもらえないかもしれないが……言うだけ言ってみるか。

 

 さて、着替えてナイフとか装備の用、意…………なんだこれ。なんか、前まで黒水晶とかマナタイトが置かれていた棚に……ひ、ふ、み……12個ほどの、鈍く淡い虹色を放つ結晶が転がっていた。

 まさか、これが餞別の道具、なのか……?正直、これだけ見てもどんな道具なのか全く分からないのだが。むしろ、これは素材の一種なのか…?

 

 って、ヤバい!ゆっくりしていたら、もうすぐ時間だ。とりあえず、これは帰ってから確かめよう。今はとにかく着替えていかなくては!

 

 

 

 ――――――――――――― 

 

 

 

 帰ってから気になってみたから探ってみれば、魔道具用の素材にと元々棚に置かれていた黒水晶とか、マナタイト結晶、その他諸々の素材がなくなっていた。

 

 …………やっぱり、神を自称している奴は大概が碌でもないことをしてくれるようだ。

 


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