この素晴らしい占星術師に祝福を!   作:Dekoi

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また遅れて申し訳ありません。

今回は長文の上、色々とごちゃごちゃとし過ぎた軽くシリアスな駄文です。
読み飛ばしながらの方がお勧めします。
割と説教臭かったり面倒臭い感じだったりしますので、ご注意ください。

……申し訳ありませんが、個人的にあれな部分があるため、後々修正するかもしれません。
もっとまともな文章を書けるようになりたいです……


第31話 逃走失敗

 再び見た景色は、星々が浮かんでいる暗い空でなく、いつも俺が目にしていた宿屋の天井だった。窓から差し込んでくる光は柔らかくも眩い白さから、現在の時刻は朝から昼ぐらいなのかと思う。

 

 ……ダクネスに蹴り上げられて地面か木あたりにぶつかって気絶した後、誰かがここまで運んできてくれたのだろうか。ここまで運んできてくれた人には感謝しないといけないな。

 そういえば蹴られていた胸に傷とかは……ないな。これもアクア辺りがやってくれたのかな、また何か奢ってやればいいだろうか。

 

 しっかし、デュラハンの時もデストロイヤーの時も、あと今回もだが気を失うことが多すぎる。今回は肉体的による意識消失とはいえ、前までのは魔力の欠乏によるものだ。何らかの対策は取るべきなのだろう。

 ウィズはあまり頼りにできんが、マナタイト結晶みたいに魔力の消費を肩代わりする物を探してみてもいいな。

 

 そうそう、俺がこうして無事でいるという事はあの悪魔は討伐したか、最低でも撤退くらいまではさせたか?悪魔に取り付かれたダクネス相手にどう戦ったが知りたいものだ。

 あんな強力な身体能力を持っているダクネス相手をどうやって取り押さえたのか、それともアクアのまぐれの一発が当たったか、もしくはカズマの策が上手くいったか。見ていない身としてはどんな形か気になって仕方ない。

 

 それにしても、この時間だったら冒険者たちの声で宿屋は騒がしいはずだが今日は全くない。外からもそういった声はせず、とても静かだった。

 ……あ、もしかして悪魔討伐を記念して宴会とかしているのかもしれないな。デュラハン討伐の時も、ギルドのそこらかしこで酒を飲んでいたしありえなくもないな。

 ちょうど腹も減ってきているし、俺も一緒に混ざりに行ってもいいかもしれないな。あまり飲めないが、久々に酒を飲んでみてもいいかもな。いっそ、アクアたちのようにどんちゃん騒ぎを起こすのも楽しいかもしれないな!

 

 ははっ…………。

 

 

 ………………ははは。

 

 

 ……………………はあ。

 

 

 いい加減現実逃避は止めよう。

 

 あの状況、俺が自身の性別を偽り隠していたことはバレた筈だ。

 悪魔が言ったことだと言い訳しようにも、俺の動揺で魔法が解けてしまったことは事実だ。少なくとも、俺に性別的な物の問題があることは間違いないはずだと疑われるだろう。

 

 まあ、あんな醜態を晒したところで何か言えるというわけでも無いのだがな。俺が騙していたことは事実なのには変わりないし。

 

 というか、なんで俺はあそこで動揺したんだ?確かにばらした事への憤りや排斥されることへの恐怖はあった。それはあの悪魔もそんなことを言っていたし、間違いないはずだろう。

 

 だが、今まで魔法が途中で解けるなんてことは魔力切れ以外ではなかったはずだ。少なくとも、感情の揺らいだことによって、魔法が解けるなんてことはなかったと断言できる。

 なのに、それが起こったという事は……あの悪魔が何かしたのだろうか?にしては、そういったそぶりは見えなかったし……。

 

 

 ……もしかして、自分の中でそのことがとても強いショックであったからか?

 

 馬鹿な、そんな感情が溢れただけでそんなことが起こりうるのか?そもそも、俺はそういった感情が噴出して動揺することは……

 

 することは……

 

 ……心当たりしかしねえ。何かあるたびに慌ててたり、パニックになったりした記憶がありまくる。もしかしたらそんなことも起こりうるかもしれない、と心にとどめておこう。

 

 

 

 

 ……さて、これからどうするべきか。

 

 こんなことがあった街にそのまま居続けるほど、俺のメンタルは強くない。むしろ、今すぐ飛び出してしまいたいくらいだ。

 

 俺はここに住んでいる人たちとは違う、完璧な異物だ。人間に限らず、生物は自分とは違う存在に攻撃や嫌悪ことがあるが、そんな中で過ごせるかと問われると無理だとしか言いようがない。間違いなく排斥、いや排除されるだろうな。

 それにめぐみんやダクネスはともかく、アクアや他の冒険者の中では口の軽いものもいるだろう。そうなればこのアクセルの街に俺のことが噂される。

 

 そんな後ろ指差されてまで居たくないし、それでお爺ちゃんたちに迷惑がかかるようならなおさらだ。まずここから出ていくのは決定でいいだろう。

 

 アクシズ教ならそういったのがあっても受け入れてくれるだろうが……祀っている神がアクアだし、あまり選択肢に入れたくない。だが、ないよりかはましだ。考えてはおこう。

 

 

 さて、今簡単に思いつくのが一旦ほとぼりが冷めるまでどこかに行くべきだ。しかし、どこが良いだろうか。この世界の地理はあまり詳しくないから何とも言えないが、人伝に聞いていくしかないか。

 それに、そこが良いところだったなら、そのまま暮らした方のも悪くはない。

 

 それじゃ……黙って出ていくのも不義理ではあるし、知り合いやお爺ちゃんたちに一言言ってから出ていこう。話をしてしまうと決意が鈍ってしまいそうだが、今まで世話になっておいて黙って消えるのはちょっと、な……

 

 あ、お婆ちゃんおはよー。ちょっとこれから……え、何で泣いているの!?待って、俺の話より先に泣き止んで!

 

 

 

 ――――――――――― 

 

 

 

 なんか俺、数日寝込んでいたらしい。理由は分からないが、それだけ眠っていたという事はそれだけ体への負担がかかっていたのだろうか?

 謎ではあるが後回しだ、今はそんなことを考えれるほど暇ではない。

 

 とりあえずお婆ちゃんはお爺ちゃんとかお兄ちゃんを呼びにどっか行ったから、その隙に抜け出してきた。そうでもしないと、またもみくちゃにされて話を切り出せそうにないからな。いったん落ち着かせておかないと面倒だ。

 

 ……で、一応冒険者ギルドに来てはみたが、やっぱりというべきか、ここに人の気配が密集している気がする。

 窓からのぞいてみたら、中ではカズマ達のパーティーに検察官殿が疑った詫びと魔王軍幹部討伐の感謝を読み上げているところだった。周りには多数の冒険者たちの姿も見える。

 

 この様子ならしばらくは出てこなさそうだし、他の冒険者と顔を合わせる必要が無くて助かる。

 ……正直、カズマ達の誰かにはこの街を出ることを言いたかったではあるが、この状況なら出てこれなさそうではあるし諦めよう。

 それに、あいつらとは冒険者の中でも一番に接していたから、怖い。一番に接して、親身になっていただけに、これが裏切りの感情として積もって、積もって……

 

 っ!駄目だな、やっぱり会うのはやめておこう。想像だけで吐きそうになるなんて、やっぱり俺の精神は脆いな。

 今ここで会っても、互いにとって悪いことしか起きない、起きない筈だ、もう会わない方がいいだろう。

 

 ……後ろ髪を引かれる思いを耐えて、別の所に行こう。

 

 

 

 ―――――――――――――― 

 

 

 

 別の所といっても、あんまり出かけたりしなかった弊害か、行くところが公衆浴場くらいだった。日常的に使っているとはいえ、親しい人もいないし挨拶とかはしなかった。

 そういえば、友達なんてものも正体がバレないように薄い縁でしかないから、あんまりいないから挨拶する人はいなかった。

 

 ……ま、まあ、こういう時に役立っているようで何よりだ、過去の俺よ、流石だ、うん。今更ボッチが何だ、そんな者は諦めるほかないだろう。

 それに、ラスボスとしてお爺ちゃんたちがいるのだ。そんなことで躓いていてはいけないな。

 

 さて、あと行くとしたらウィズの店くらいだろう。サキュバスの店にまで顔を出す必要はないし、女の格好で言っても混乱されるだけだからな。知られているとはいえ、いちいち面倒なことはしなくてもいいだろうし。

 

 それにしても、なんと言えばいいのだろうか?ちょっとどこかに行ってくる程度にするか、もしくはしばらく旅に出てくるか……まあ、その時の勢いでいいか。

 ウィズ相手だし、そこまでかしこまった言い方じゃなくてもいいはずだろうし。

 

 さてと、軽く一呼吸を入れてからドアを開ける。いつもの涼しげな鐘の音が心を安らげてくれる。

 また別の商品でも仕入れたのか、いつもとは違った匂いがしてちょっと楽しくなって―――

 

「へいらっしゃい!己が悲劇のヒロインだと思い込んでいる中二病真っ盛りな娘、いや元男よ!その匂いがこの我輩が仕入れた香水だ、欲しいならしっかりとお金を落としていけ!おっと、何だその殺意に満ち溢れた憤怒は、この悪魔公爵である我輩にとっては美味としか言いようがないぞ!」

 

 ―――なぜ、貴様がここにいる?

 

 見通す悪魔、バニルよ!

 

「なんだその目は、今にも魔法を撃ち放ちたくて仕方なさそうじゃないか。我輩、貴様にやった仕打ちに心当たりしかないがな!まあ、とりあえず一旦落ち着け、そんな感情的では話などまともに行えないだろうな。しかし汝は我輩に聞きたいことなど、いくつもあるはずだ。我輩としては悪感情を頂けるからそのままでもいいが貴様は別だろう?あと、ここで魔法を放つと商品にひび割れや故障が発生してしまい、ただでさえ食費を削って商品を仕入れているウィズが大泣きするぞ?それでもいいのなら是非とも放つがよい」

 

 っ!っ!!

 

 …………ちっ、流石にここで暴れたら駄目だな。今は大人しくしておこう。

 

「ふむ、一旦矛を収めてくれたようで何よりだ。それでは矛を収めてくれた礼に、我輩に聞きたいことを答えてやろうではないか。そうそう、ウィズへの別れの挨拶などは後でいくらでもさせてやるから安心しろ」

「……そんなこと、あなたは悪感情を頂くという行動を取る以上私の心を見通しているはずです。それなら別に話す必要もないと思うのですが?」

「そんなもの、貴様の悪感情を得るために話させているからだ。ほら、ちゃっちゃと話して我輩に舌包みをうたせるがよい。そもそもだが、貴様の素性なんぞ知っているから今更我輩相手に猫なんぞ被らなくてもいいのだが?まあ、ウィズは今店の奥でまたよくわからん物の整理に行っているから知らんがな!」

 

 ああ、そうか!それだったら取り繕うこともしなくて楽でいいな!だからといって、今更元の口調に戻すのも業腹だ、変えずにおこう。

 

「……それでは、なぜあの場で私の正体をばらしたのですか?」

「フハハハハ!そんなこと自分でも気づいているだろう!人が多数いるところで知られたくない秘密をばらされるというのは、大変悪感情を生み出すのに優秀な手段だからに決まっているからだ!まあ、我輩はこの手段を用いるのはあまり好かんがな。どうせやるなら絶世の美女に化けて男に近づき、散々惚れさせた後に『残念、実は我輩でした!』と言って相手に血の涙を流させる方が好きなのだがな!」

 

 こいつ、本当に碌でもねえな。あ、悪魔だから碌でもないといけないか。

 

「貴様、あまり我輩を馬鹿にしているとバニル式目ビームをくらわすぞ?まあ、これは一度使うと目が焦げてしまうという欠点があるから一度も使ったことがないがな」

 

 なんだそのロマン技のビームは、というか目が焦げるなんて大丈夫なのかよ。

 

「何、それに関しては大丈夫としか言えんが安心しろ。ついでに一つ忠告させてもらうが、汝の秘密とやらは遅かれ早かれバレることに違いはなかったはずだ。今回は、それがまだ良い方向に持っていけたことについて、我輩に感謝してもいいのだぞ?」

 

 ……は?何言っているんだ。バレることはまだいい、それでなんで良い方向って話になるんだ?

 

「これは見通す悪魔としての見識だが、貴様は先ほど我輩が言ってた、『残念、実は我輩でした!』のそれと同じことをやるはめになるところだったのだぞ?それならば先にある程度知られておいた方が、汝にも相手にも気持ちが楽であろう。それも、汝が一番懸想している……待て、気づいていないのか?」

「いえ、急にそう言われましても混乱して何が何だか……」

 

 一気に言われて、頭がこんがらがってきて、理解が追い付かない。

 

「ふむ、それならここでは言わないでおこう。どうせ我輩が言った所で、貴様は信じる気は無いからな。むしろその方がおもしろ……こほん、とにかくそのまま隠し続けているよりも、今のうちにバレておいた方が貴様にとっては吉であるはずだ。そのくらいは自分で考えろ」

 

 こいつ……!……落ち着け、俺、相手のペースに乗せられるな。悪魔相手にいくら言われたところで気にしないようにしろ。

 

「……次にですが、あなたは討伐されたのではないですか?冒険者ギルドの方では、あなたを討伐したことでカズマ達の嫌疑や感謝として色々やっているそうですが、いったいどういう事なんでしょうか?」

「それに関してだがこの仮面を良く見るがよい」

 

 仮面?別に何の変りもないんじゃ……なんだ、この記号は?えーっと、ローマ数字の2?

 

「うむ、貴様はあの後の顛末について知らなさそうだが答えさせてもらうが、なんやかんやあって我輩はあの娘ごと爆裂魔法で消滅したのだ」

 

 ばっ!?爆裂魔法ってよくそんなことに耐えたな!いや、あそこにはアクアという能力だけは最高のアークプリーストがいるからおかしくはないが。

 それにしたって消滅したのになんでここにいるんだ?

 

「その爆裂魔法で残機が減ってな、現在は二代目バニルという事だ!」

 

 ふざけんな、悪魔が残機制とか聞いたことがねーよ!あれか、亀の甲羅を延々と踏み続けていれば永遠に生きられるような存在かよ。

 

「馬鹿め!悪感情を得ずして永遠に生きる悪魔なぞ悪魔ではないわ!そもそも我ら悪魔にとって、人の悪感情は糧にして、永遠の退屈を紛らわさせる最高の娯楽!そんなものを手放して生きるなど邪道も邪道だ!だから我輩はこうして貴様をおちょくって遊んでいるのだろうが!」

 

 てめえ!

 

「うむうむ、相変わらず汝の憤怒は美味である!先ほどからずっと垂れ流しているおかげでとても大助かりだ。そのお礼にこのバニル君人形を進呈しよう」

 

 ………………この人形はありがたく貰おう。だが、こんなもので簡単に懐柔したと思うなよ!

 

「……うわっ、チョロ」

 

 うるせえよ!いいじゃねえか、この人形、ダンジョンから歩いてくるモンスターに似て可愛らしいし、ちょうど抱き締めやすい大きさなんだし。夜眠るときとかにちょうどよさそうだし。

 

「まさかそのまま受け取るとは思わなかったが……気にいったではあるし、よしとしよう。ほれ、そこまで睨むでない」

 

 ……おお、なかなかモフモフしているな。くれた相手が相手とはいえ、しっかりと大切にしよう。

 

「……なんと言うか、奇妙だな。精神や感情は男であるのに、ところどころ娘の嗜好と入れ替わっているような、矛盾しているような存在だな」

「それこそ今更です。こっちに来てからは口調も女の子のそれにしていましたし、女の子の体になってから生活だって変わってきているのですし、それで段々と毒されてきているのでは?」

「それにしては奇妙だから言っておるのだ。……おっと、調べてみたいが珍客が来たからやめておこう。それに、貴様にとっては益のある客であるからな、しっかりともてなしてやろう。ウィズ、貴様もいい加減こっちに来んかい。聞き耳なんぞ、胸を張って言える行いではないだろう?」

 

 ん、珍客だと?確かにこの店に来ること自体が珍客ではあるが、バニルの言っているのとは違うだろうしな。というか、俺にとって益のあるって何だ?

 

 というか……

 

「……ウィズ、さっきの聞いていたのですか?」

「あ、あはは、私も似たような立場ですし、お気になさらずに……」

 

 ……そういえばウィズはリッチーだったな。元男とリッチー、どっちも知られたら面倒なこと間違いなしだな。ついでにここには悪魔もいると来たもんだ、それだけ聞いただけでは絶対碌でもない作戦を考えていそうだな。

 

 あとバニルよ、何故そんな笑顔を浮かべている―――

 

 

「よ、よお、ウィズ、ちょっといいか……って!?」

「へいらっしゃい!店の前で何やら恥ずかしい台詞をはいて遠い目をしていた娘よ、汝に一つ、言いたいことがある。まあ嫌いな奴ではなかっとよとのことだが、我々悪魔には性別がないのでそんな恥ずかしい告白を受けても……おっと、これは大変な羞恥の悪感情、美味である!どうした、膝を抱えてうずくまって?そこで口を開けたまま固まっている男からも『すんごい要求』とやらで残っていた理性が削れていったのか?まったく、その場に居たかったではあるが、そんな顔を浮かべるという事はどれだけの羞恥だったか、実に味わいたかったな!……もしくはここにいる娘の衝撃的な事実に未だ理解ができておらんのか?」

 

 ―――カズ、マ、それにダクネスも?!

 

 なんで、なんでここにいるんだ!?ギルドで、表彰されていた筈なんじゃ、そのまま宴会とかになりそうだったのに、

 

 カズマ達とバニルたちが会話しているが、頭に入ってこない。いや、混乱しているからか?

 ……駄目だ、心臓がうるさすぎて集中できない。いったい、俺に何が起きているんだ?

 

「フハハ!焦燥感に起こりうることへの恐怖、御馳走さまである!やはり貴様は我輩の糧としてはとても優秀な存在であるな!」

 

 バニルが俺を見て何か言っているが、それも上手く聞き取れない。

 

 と、とにかく、ここから一旦離脱しないと。

 

「ま、待ってくれ!ユタカ待ってくれ!」

 

 く、来るな!こっちに、来るなっ!?

 

「っあぅ!」

「……白か」

 

 痛っ、なんでこんなタイミングで転ぶんだよ……おいバニル、お前何か仕込んでいただろ!こんなドアの近くから都合よく香水の瓶が転がってくるなんてことないだろ!そこでニヤニヤしていないで何とかしろよ!

 

「あー、ひとまず取って食うような真似はしないから安心しろ。お前の事情はよく分からないがとりあえず話だけでも聞いてくれ。こっちから無理に探るようなことはしないから、な?」

「宿屋の主人たちに聞いたりしたが、ユタカの事情は私にもわからない。だが、少なくとも害することをないとクルセイダーの誇りにおいて誓おう。だから、せめて友であった私の言葉を聞いてくれないか?」

 

 …………どうする、べきだ。カズマもダクネスの表情も真剣そのものではある。

 

「……ひとまず冷静になれ。貴様のそれは疑心暗鬼を生じてしまい、自身の妄想を肥大化させて怖がっているだけに過ぎん。我輩は貴様に益のある珍客だと言ったのだ、少しくらいまともに聞け」

 

 ……………………っ。わかっ、た。話だけは聞いておくため、カズマ達の言葉に頷いておく。

 だが、いつでも逃げれるようにドアの傍にいておく。

 

 

 

 ~~~~~~~~ 

 

 

 

「……というわけなんだ。他の人が何を考えているかは分からないが、表向きとしてはいつも通り接しておく形に収まったって訳だ。この街の人たちはお前を排除しようとか、そういったことはないから安心してこの街にいてくれ」

 

 カズマとダクネスの話を要約すると、あれは悪魔の言ったことだから信憑性が低いし、仮にその通りだとしても神の被害者という何か隠さなきゃいけない事情とかがあるだろうからあまり聞いたり探ったりとかはしない、とのことらしい。

 もう元男と知られている時点で手遅れだとしか言えないのだが……まあ、無理に探られるよりかはましか。

 

 とはいえ、それで安堵できる状況かというと微妙だ。一応落ち着いているとはいえ、これは知られた時点で問題だし、それで奇異の目線を浴びることは確実だ。それで俺がまともに落ち着けるかどうかが不明だ。

 

 それに、このことでお爺ちゃんたちやカズマ達に嫌われるのは、いやだ。でも、俺が原因でお爺ちゃんやカズマに困ったことが起きるのは、もっといやだ。

 

「……その、お爺ちゃんとか、お婆ちゃんとか、お兄ちゃんは、何か言っていましたか……?」

「…前に見舞いに行った時に聞いてみたが、主人殿たちはそういったことは気にしてはいなかった様子ではあったし、それにユタカがどんな存在であれ、一度迎え入れた以上はしっかりと受け止めるとも言っていた。本当に優しい人たちでよかったよ」

「そう、ですか……」

 

 お爺ちゃんたちがそう言ってくれたのは嬉しいけど、やっぱり俺がいたら、宿屋にくるお客さんも減りそうだし、やっぱり出て行った方がいいかも、知れないな。

 

「……なあユタカよ、一つ聞かせてくれ。お前はなぜそこまで、この街から出ていこうとするのだ?お前がこの街にいることで不快な目に遭うのが嫌だから、という理由ならわかるが、私にはそれ以外にもあるようにも見えるのだ。どうか、聞かせてくれないか」

「……だって、今回の事で嫌われるかもしれませんし、私のせいで迷惑になるかもしれないじゃないですか」

 

 知らない人に侮蔑の目で見られるのが怖い。親しい人に嫌われるのが怖い。親しい人が自分のせいで苦しむのが怖い。

 

 自分の、酷く利己的な欲望に吐き気がする。そんな汚い姿も、見せたくない。

 

「そんなこと、友である私が気にするとでも思っているのか。たかが元は男であっただけ、それも何か事情があってこそなのにそれで嫌悪するほどの器量じゃないさ。それに、迷惑な内容によっては……んんっ!」

「おいダクネス、こんなところで発情すんじゃねえ。……まあ、俺は少し思うところはあるが、それでもユタカが騙す目的でそんなことをするとは思えないしな。それにこのパーティーくらいになれば、困ったことなんてものしょっちゅうだから平気さ」

 

 ……二人の言葉は嬉しく思うが、親しくしているから、信頼しているからそれで負担になることも怖い。怖い、のだが……

 

「だからさっきから言っているだろうが、私はユタカの友なんだ、そのくらいなんて気にしない」

「俺もユタカのことは色々と世話になっているしな。ほら、そんなことより早く他の奴にも顔合わせて、無事だったこと教えてやろうぜ!」

 

 うわっ!いきなり手を引っ張って走るな!また転んでしまうだろうが!

 

 …………。

 

「…………その、ふたりとも、ありがとう」

 

「ああ、どういたしましてだな!」

「こちらこそな!とりあえずお礼を言えるくらいになってきたならよしだな」

 

 

 

 

「……フハハハハ、これにて一件落着、でいいか?まったく、ただの怖がりな良い子ちゃんが隠していた秘密で震えていただけだったか……果たして、それは本当なのだろうか?」

「バニルさん、急に変なことを言いだしてどうかしたのですか?」

「……気にするな、ところで今回仕入れてきた産廃は何だ?今すぐ出したらバニル式目ビームで消し炭にするだけにしてやろう」

「さ、産廃って何ですか!!今回こそしっかりと売れる良い物なんですよ!」

 

 

 

 

 ――――――――――――――― 

 

 

 

 そのあとは、冒険者ギルドでカズマの嫌疑が晴れたこととバニル討伐を祝しての宴会に参加できた。

 その時に居心地が少し悪かったから酒を飲んで、べろんべろんに酔っぱらってカズマやめぐみんとかに絡んだりして楽しく過ごした。

 

 で、夜遅くまで飲んで宿屋に帰ったら、ずっと心配で待っていたお爺ちゃんやお兄ちゃんたちから軽く涙声で怒られ、お婆ちゃんも泣きながら抱きしめられた。

 

 ……ごめんなさい。

 

 

 

 




この宴会の様子でも今度の閑話のネタにしようかな……
その場合、忙しくなる前に書きあげなくちゃ……













【挿絵表示】


パザー様がこの作品の主人公のイラストを描いてくれました。
パザー様、誠にありがとうございます!

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