この素晴らしい占星術師に祝福を!   作:Dekoi

34 / 41
えー……長らくお待たせしてすみません。
色々と考えたのですが、ダクネスの見合いやキールのダンジョンの所はカットさせてください。

それと、今回こんなタイトルなのにバニル君が出てきていません。申し訳ありません。
バニル君とどう向き合わせるか悩んでたら筆が止まってしまったので……本当、どうしよう。


第29話 ダンジョンアタック

 結局あのあと、めぐみんと一緒に風呂に入ったことはそういった、アレ的な理由じゃないという誤解は解いてもらった。

 が、やっぱりというか、全力で奇声を上げつつ逃げる俺と「待ってくれ!」と声をかけて追いかけるカズマとの珍走劇を街の住人に見られてしまい、カズマ達が何かしたのやら何かの痴話喧嘩でも起こしたのやら、挙句の果てには宿屋の娘が鬼畜ロリコンな変態に襲われそうになったという大変迷惑でしかない噂が出回った。

 

 そのせいでお爺ちゃんやお兄ちゃんのカズマを見る目線がきつくなっていたり、お婆ちゃんが他の奥方との会話でカズマの動向を調べていたりと少々窮屈な迷惑をかけてしまった。ついでに噂が出回っている数日は、宿屋からあまり外へ出させてはもらえなかった。

 

 まったく、俺がいくら誤解だと告げても『辛かったんだね……もう大丈夫だよ……』的な視線はやめて欲しい。実際に何かあったわけでも無いのにそういった勘繰りは鬱陶しいものでしかない。そのせいで泊まっている人たちからもいろいろ聞かれるし、ミツルギからも「何かあったら、是非とも頼ってくれよ!」とか言われるし……!

 

 

 というかあの発言で暴走する俺も俺である。カズマが俺にそんな感情を向けるなんて自意識過剰でしかない。カズマだって女性の選り好みくらいはしただろうし、貧相な体の俺をそういったもので見るわけない筈だ。

 まったくもって、自分の精神を疑わざるを得ない。そもそもなんだあの反応は。なにが「うにゃああああああああああああああああっっ!!」だ、どこの女の子だ馬鹿野郎。もっと冷静になって考えろよとしか言いようがない。

 

「それで、キールのダンジョンで謎のモンスターが大量に湧き出していているのです。現在はダンジョンの周囲のみの被害に留まっているのですが、いつこの街に被害が発生してもおかしくないと判断されました。そのため、湧きだした原因の調査とモンスターの駆除を依頼しに来ました」

 

 ……さて、いい加減現実逃避はやめて、いい加減人の話を聞こう。ちょっと考え事をしていて聞き逃すとか失礼にもほどがある。

 

 

 ~~~~~~~~ 

 

 

「……そうですか、それでしたら協力させていただきます」

「本当ですか!なら、準備が出来次第、ギルドに集合してください。他の方も来てからの出発にしますので、よろしくお願いします!それでは、また他の冒険者の方に声をかけてきますので失礼します」

「……頑張ってきてくださいね」

 

 さて、検察官の……セナだっけ、の話はキールのダンジョンというところから、未確認のモンスターが出現している。その被害はまだ少ないとはいえ、このまま湧き続けるとダンジョン周囲の生態系に変化をもたらす可能性がある。

 特に、ダンジョンから湧き出ているため、そのダンジョン内でモンスターを召喚している高位の存在、下手したら魔王軍の関係者のような人類に敵対する者がいると推測される。

 もしこのまま放置してそのモンスターが溢れかえってきたら、生態系どころかこの街やその住人まで被害をもたらす可能性があると判断し、そのモンスターが湧いている原因やその駆除、並びに敵対的な存在がいる場合は討伐を行うといったものであった。

 

 本来なら魔王軍あたりのくだりは一蹴できるような考えであるが、この街は魔王軍幹部や機動要塞デストロイヤーの襲来があるだけに否定できない。しかも、それらの討伐をしていたのだ、魔王軍もいくら初心者の街と言えど警戒を始めて、何らかの行動を起こすことも否めないのだ。

 事実、デュラハンもこの街や周囲に何かを調査していたため、それ自体を探りに来る可能性だってある。

 

 そのため、ギルドも重い腰を上げてあの検察官と協力して冒険者に呼び掛けているのだろう。報酬も、モンスター一体あたりの値段こそ安いが、この時期のモンスターを狩るよりかはまだ安全なんだろう。少なくとも、冬将軍や一撃熊、白狼の群れの討伐なんかよりはましだろう。

 

 しかし、この街にいるのは初心者、もしくは男性の中級者くらいなものだ。ダンジョン内という狭い空間と言えども、人数は必要だ。それこそ、一回の調査で終わらずに後詰めのパーティーと交代しながらになるだろうな。

 

 ……まあ、一番はなんだかんだで性能だけは最も強いといえるカズマ達のパーティーが参戦することが一番なんだがな。本当、あのパーティーは性能や能力だけを見るならこの街に留まるべきでないくらいの強さなのに、性格やら借金やらがな……。

 とはいえ、あいつらも検察官がいる前で好印象を見せるために、この依頼は受けると思うから、上手くあいつらのサポートに回れるようにしておきたい。

 個人的にも、この依頼は出費が多かったり、経験値があと少しの所でレベルアップとかがしそうな感じだから、受けておいて損はないだろう。

 

 

 

 さてと、モンスターの特徴も聞いてあるからそれ相応の準備をしてから行こう。

 

 ……まあ、いつものローブにナイフかダガーのような俺でも扱えそうな短剣類だけなんだがな。いや、あのモンスター相手だと危険だから鎖帷子でも……今まで着たことないのに、こんなのを着てまともに動けるだろうか?たぶん体力が持つ気がしないし、やめておくか。

 

 

 

 ―――――――――― 

 

 

 

 ギルドに集まった人数はダンジョンという狭い空間を考慮してか量よりも質を考慮した結果か、数人程度に収まっていたがレベルとしてはこの街の中では高めの人たちだ。それに検察官も含めての即席のパーティーではあるが、俺自身は何度か組んではいるから連携はできるだろうし、大丈夫のはずだ。

 

 しかし、それはこの街の中ではという事だ。他の街にはもっとレベルの高い奴はいるだろうし、今回の調査と駆除はそいつらが来るまでの時間稼ぎか露払いなんだろうか。まあ、この冬という時期にしては珍しく弱い敵だから、俺は一向にかまわないんだけどな。

 

 というか、ミツルギたちはどうしたのだろうか。他の長期の依頼にでも行ったのだろうが、せめてギルドから何か説明でも受けているとは思うが……まあ、ここにいない時点で考えても仕方がない。

 

 

 

 さて、雪がまだ積もっている道を半日ほど掛けて歩いて到着したのが、例のダンジョンだ。このダンジョン自体はもう他の人の手によって探しつくされ、宝や新しい通路なども無くなっているダンジョンのはずだ。宿屋に泊まる連中やギルドで借りパーティーを組んだ奴からも、精々新人がダンジョンに慣れるための練習場所として使うくらいで普段は寄り付くこともない場所だという。

 モンスター自体も下級の悪魔やアンデットが湧くくらいで、今回の謎のモンスターの目撃情報も最近という事から、らしい。

 

 そんなダンジョンからは変な仮面を付けた人形が一列になって行進していたり、寝転がっていたり、土で何かを作っていたりと微笑ましい。これでモンスターと知っていなければ、何か精霊や妖精の類か、もしくは人形でも扱う職業の人の私物かと間違えるほどだ。

 

「サトウさん!ご協力、感謝します。御覧の通り、何者かがモンスターを召喚しているようです」

 

 あ、やっぱりカズマ達も来ていたのか。

 

「モンスターが湧きだしている原因はまだ掴めておりませんが、もし、召喚の魔法陣を発見された際にはこちらの札を貼ってください。強力な封印の魔法が込められた札ですので、それを貼っていただければ召喚は止められます。他の方も所持していますが、足りなくなった際や戦闘中などで紛失してしまった場合は言っていただければ他の札も渡しますので、よろしくお願いします」

 

 それにしてもこの検察官は、なぜこんなところまで来ているのだろうか。何か戦闘できる技能や支援できる能力でも持っているのだろうか。

 

 

「えっちょっ!?な、なに!?……って、あら?何かしら。甘えているのかしら」

 

 ってアクア、何でそのモンスターに引っ付かれているの。というか、そのモンスターのこと、知らないのか。

 

「……あの、アクア、今すぐそのモンスターを引き剥がした方がいいですよ?」

「え、別にいいわよ。攻撃だってしてこないんだし、見てるとムカムカしてくる仮面だけど、こうして甘えられると段々と可愛く見えて…………きゃああああああ!!」

 

 あ、駄目だったか。せっかく止めておいたんだけど……まあ、しっかりと言わなくて申し訳ないではあるが。

 

「……このように、謎のモンスターは動いている者に取り付き自爆するという習性を持っていまして。冒険者ギルドでも対処に困っている状態なんです」

 

 そう、このモンスターは見た目こそ可愛らしい人形なのだが、その正体は自走式爆弾という碌でも無いモンスターだ。体格も小さく、ふくらはぎくらいの大きさだから近接攻撃するのも難しそうな相手ではある。幸いにも自爆するという特徴からかそこまで頑丈という事ではないから遠距離で弓矢や魔法で倒すのが一番なんだろうが……正直、数が多すぎて倒しきれる自信がない。

 

 さて、どうするか……って、悩んでるときにいきなりまた爆発が起きたよ。今度は何があったんだ。

 

「……うむ、これならいける。私が露払いのために前に出よう。カズマ達は私の後ろについて来い」

 

 おいダクネス、お前あの自爆を素で耐えたのかよ?いったいどんな頑強さだ。あれで攻撃が当たれば文句なしのクルセイダーなんだがな……。ってカズマ“達”?ダクネスの目線は俺を向いているが……まさか、俺も“達”に入るのか?

 

「それなんだがな、カズマは今回では弓矢を持ってきておらず、攻撃する際は剣だけで少々危険だ。めぐみんも、ダンジョンでは爆裂魔法は使えないし、流石の私でも暗闇での戦闘は難しい。

 ならばめぐみんはダンジョン前で待機していざという時に備える。カズマには周囲をランタンで照らしてもらい、私が正面で謎のモンスターを攻撃し、自爆を受け止める。その際に漏らしてしまった敵をユタカに任せたいのだが……」

 

 ……ダクネスがまともなことを言ってる!?いや、ダクネスは性癖以外はまだ真っ当だからアレか。しかし、こういったのは大概がカズマかめぐみんが発案するから驚いた。

 

「……私はそれでも良いのですが……あの、検察官殿、どうすれば良いでしょうか?」

「こちらも人数に余裕はありますので構いませんよ。気心知っている方たちの方が連携などもしやすいでしょうしね」

 

 だそうだぞ。

 

「……という事ですので、よろしくお願いします」

「ああ、盾としてあのモンスターの自爆から守り切って見せるから安心してくれ。むしろ、全力でモンスターを呼び寄せてもいいからな!全力で音を出しておびき寄せてもいいからな!」

 

 遠慮しておきます。

 

「それじゃ、私もめぐみんと一緒にここで待ってるからね」

 

 あと、ちゃっかり休もうとしているアクアがいるんだがどうする気なんだ。

 

「おいこら待て!お前も一緒に来るんだよ!めぐみんと違って、お前はダンジョン内でもちゃんとできることはあるだろうが!」

「いやあああああああああっ!もうダンジョンは嫌なの!ダンジョンに入ると、きっとまた置いていかれるわ!そうよ、そして大量のアンデッドに追いかけられるのよおおおっ!」

 

 あのアンデッドなんかを絶対許さないアクアに何があったんだ。

 

 

 

 ―――――――――――――― 

 

 

 

 結局、アクアは連れてこずにめぐみんの護衛役として置いていくこととなった。どうせ休めることを喜んで何か遊んでいる気がするのは、アクアへのある種の信頼が積み重なった結果と言えるのだろうか。

 

 カズマ達は以前このダンジョンに挑戦したことがあるらしく、道のりも地図に記していたからか迷うようなことはなかった。

 

「しっかし、なんでこんなに明るいんだ?前来た時はスキルを使わないと見えないくらいだったのに、このくらいの暗さならある程度見えちまうし、ランタンの意味もあまりないな」

「……?以前来た時は、明るくなかったのですか?」

「ああ、あの時は『千里眼』というスキルを使って探索していたからな。あれが無いと見えないくらいには真っ暗だったんだぜ?それなのにここまで明るいと、召喚している奴とか謎のモンスターが何かしているかじゃないのか?」

 

 ふむ……確かにダンジョン内は薄暗いとはいえ、一部屋全体くらいなら見える程度の明るさだ。少なくとも、ここでランタンが消えたとしても、出口への道筋を覚えていれば何とかなるくらいだ。

 

 ダンジョンというのは、防衛する側としては暗い方が奇襲とかもしやすいだろうし、探索もしづらくなるはずだ。それに暗闇という事はランタンなどで片手はふさがるし、警戒もしなくちゃいけない。それで時間がかかれば冒険者の対策も練りやすいだろうし、暗い方のままが便利のはずだ。

 それなのに明るくするという事は、明るくするというデメリットと釣り合う何かがあるのだろうか。単純にこのモンスターが周囲を明るくするのならそういう生態であると考えられるが、そう簡単であるわけないだろう。

 

 

 

「フフフ。ハハハハハハッ!カズマ、見ろ!当たる、当たるぞ!こいつらは私の剣でも当たる!」

 

 

 

「……ところで、アレは放置していてもいいのですか?」

「もう、放置していてもいいんじゃないかな」

 

 そんなことを考えているが、カズマにはあれを止める気は無さそうだった。

 

 実際、俺もあそこまで喜んでいるダクネスを止める気は無い。というか、下手に止めるとこっちに剣と爆発が飛んできそうで厄介だ。しかし、ここらへんで止めておかないと後続の冒険者たちと離れてしまうんじゃないか?

 

「……カズマ、そろそろ止めないと後ろの人たちと―――」

「おおい、ちょっと待ってくれ!もっとゆっくり……ひぃ!?張り付かれた!おい誰か、こいつを剥がしてくれ!」

「『コメット』ッ!」

 

 ちっ、横に空いていた隙間から飛び出してきやがった!というか、出口からもモンスターが帰ってきているし!

 

「おわあ、来んな!こっち来るなあああ!」

「こ、こっち助けてくれえええええ!」

 

 完璧に奇襲されている!一旦あいつらを助けないと危険だ。一旦ダクネスを盾にしてモンスターから離さないと!

 

「……カズマ!一旦後ろの人たちを助け―――」

「よしダクネスその調子だ!そっちを真っ直ぐ!ガンガン進め!」

「よし任せろ!」

 

 ………………え?なんかあいつら、先に進んで言っているんだけど。もしかして、気づいていないのか?それなら、声を掛ければ……いや、ダクネスの奴がガンガン進みつつ爆発させているから声も聞こえるかどうかわからない。

 

 …………い、一体どうすればいいんだ!?このままカズマ達についていくと他の冒険者が見殺しになってしまうし、他の冒険者を助けるとカズマ達を見失ってしまう。

 

 どうする、どうするべきなんだ俺!今すぐ決断しないと、時間が無駄にかかってしまい最悪のパターンに陥ってしまう!どうする……どうする……!?

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………すまない、カズマとダクネス。お前らを見捨てるようで申し訳ないが、俺はいったんここで他の冒険者たちを助ける。後ですぐ追いつくから、あまり無謀なことはしないでくれよ!

 

「……ッ!『コンプレスグラビティ』!あなた方は、一旦下がってください!私がモンスターと闘います!負傷しているなら今すぐ脱出してアクアの治療を受けてきてください!戦える方がいるなら、壁の隙間などから出現するモンスターに気を付けて戦ってください!ある程度動きは遅くしていますので、その隙を狙ってください!」

 

 とにかく、今はこっちのモンスターを何とかしないと!

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。