ちょっとした空き時間で書いたものですので、色々とツッコミどころがあったりしますが、ご了承ください。
さて、頼まれた証拠集めであるが……その作業は正直困難だとしか言いようがない。そもそも今回カズマが連れていかれた理由が、まず暴走したコロナタイトをテレポートしたこと、コロナタイトを領主殿の屋敷にテレポートしたこと、領主暗殺の疑い、それによる反社会的な存在もしくは魔王軍の関係者の疑いなどぐらいだろうか。まあ、カズマがやってきた他の罪状を考えるときりがないが、今回のはそれだけだと思う。
問題はこれらすべてを正当に証明する物的証拠がないことだ。あの時は気が急いていたため、そういった言動や行動を記録した映像媒体やメモとかはない。そもそも、こんなことになるとは想定していなかったぞ。
とにかく、今こちらが提示出来うるものは状況的な証拠のみ。それも証言のみの状況で、一番の鍵となる、テレポートを行ったウィズは魔王軍関連の質問をされると危険なため不可。その場にいた俺も、事前に聴取されているからあまり効果は薄い。精々、カズマの悪評を緩和するくらいだろう。
で、残っているのがアクアなのだが……正直不安でしかない。あの駄女神のことだ、碌なことしかしない気がしてくる。めぐみんやダクネスが傍にいてサポートはしてくれるはずだろうが、「この女神である私なのよ!カズマの無罪なんてちゃちゃっと証明してくれるわ!」と大変心強いお言葉を頂けた。…………カズマ、やっぱり脱獄した方がましな気がしてきてたまらない。
まあ、裁判を行う際にもあの嘘を感知する魔道具があることだろうし、カズマの発言で罪が無いと判断してくれることを願おう。あとは……駄目だ、こういう時には何を用意しればいいか、思いつかない。とりあえず、俺が弁護人側で証人として呼ばれた時にはしっかりとカズマの無罪を証明できるように受け答えの準備くらいはしておこう。今はそれくらいしか、思いつけない。
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とうとうカズマの裁判を行う当日である。裁判所には数多くの人間が駆け付けており、なんだかんだでカズマたちの影響があることがうかがえる。この結果によって、カズマの罪の重さが決まってしまう。死刑になるかもしれない可能性だって、十分にあり得るのだ。とはいえ無罪を勝ち取ることは難しいだろう。せめて、領主殿の屋敷の修繕費ぐらいまでに収まってくれるよう祈ってはいるが……まあ、こんなところにいる俺が祈っていても皮肉にしか思えないか。
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遂に裁判は始まった。検察官が罪状を述べている自体は、皆で話し合って想定したものではあった。途中にアクアが何も考えずに「異議あり!」と言ったり、カズマが多少誇張した内容で無罪だということを演説していたりしたが、流れとしては自分が知っている裁判の流れと一致していると思う。さて、お互いの主張を述べ合った後は証人を呼んでの己の主張の裏付けを行うのだが……検察官の選んだ証人がどれもなぁ……
最初に現れたのがクリス。その登場にカズマ達も驚いていた。実際、俺もクリスが検察官の証人として立つという事を聞いた時は驚いたぞ。しかし、クリスもデストロイヤー討伐には参加していたとはいえ、カズマの罪状を裏付けるものは持っていたか?
「という事でクリスさんは、公衆の面前でスティールを使われ、下着を剥がれたとお聞きしました。このことに、間違いはないですね?」
「えーと、間違いではないんだけど……でも、あれは事故だったって言うか……」
……?何でそんなことを聞き出してきたんだ?そこから何か証拠でも出させようとしているのだろうか?
「わ、私、見たんです!路地で、パンツを振り回しているところをっ!」
急に傍聴席からそんな声が現れた。いや、こういった場合って席からヤジとかを飛ばすのって駄目なんじゃないか?実際の裁判を良く知らないし、ドラマでもあまり見ていなかったから何とも言えないが……
「!!その男とは?」
「そ、その……」
おい検察官殿、そんな証拠にもなりそうにないのを……あ、魔道具は反応していないし、カズマの悪評を高める分にはいいのか。悪印象の方が有罪に持ち込みやすくなるからかー……すっげえ適当だな。そんな甘すぎるような理由で罪を決めれる程、法というものは軽い物だったのだろうか。
あと、女の子も顔を背けつつカズマを指差すな。一気に面倒な気配がしてきたぞ。
「事実だという確定が取れただけでも結構です。ありがとうございました」
「あ、あのっ!?まだ言いたいことはあるんだけど!」
おい、クリスが発言しようとしたのを遮ってまで終わらせるとか、司法職としていいのかよ。
次に現れたのが魔剣を持っていたミツルギと仲間の女の子二人。ミツルギの方はともかく、女の子たちの方はカズマにとっても熱い視線を送ってくれている。これが裁判の時の証人で無ければ喜べたんだろうなー。
「ではミツルギさん、あなたは被告人に魔剣を奪われ売り払われたとお聞きしましたが、これは事実でしょうか?」
「ま、まあ、大体はその通りです。でも、魔剣は知り合いの方が返却してくれたし、元々あれは僕が―――」
「はい、ありがとうございます!次はそこの方々にお願いします!」
「え、ちょ、ちょっと!?」
……ええ……?確かにそうではあるけど、そこに至る経緯とか説明できないとダメじゃないか?こんなの、証言として扱えるとは思えないけど……?ま、まあ、まだこの世界での裁判とか知らないし、これが当たり前……なのか?
三人目というか、順番でミツルギの仲間の子たちが証言を行っていた。
「そしてそちらの二人は、魔剣を取り返そうとした際に公衆の面前で下着を剥ぐぞと脅されたのですね?」
ああ、そういえばカズマがそんなことを言っていたような気が……まあ、似たようなニュアンスでは言ってたはずだな。
「そうそう、脅されたんです!『俺は真の男女平等主義者だから、女の子相手でもドロップキックを食らわせられる』とか!この卑怯者!」
「そうなんです!『女相手なら、この公衆の面前で俺のスティールが炸裂するぞ』とか!」
あー、言ってた言ってた。そんなこと言ってたなー。でもあれって、喧嘩を売ってきたのはそっちの方じゃなかったっけ?そもそもカズマとの勝負の結果自体はミツルギ君も納得はしていたんだし、それに茶々を入れるのはそっちから何だから、そう言われても仕方ないんじゃないとは思うんだけど……まあ、カズマのあの返し方はないが。
「お、俺も見ました!確かに怪しい手の動きで……あれはアヤシイ手の動きでした!」
「新しい意見、ありがとうございます!下がってもらって結構です!」
また傍聴席からそんな声が出てくる。……無罪はもう無理なような気がしてくるな。頑張れ、カズマ。なんかもうこの時点で傍聴席から色々な声が上がっているが、証人はもう一人いるんだよな。
「では最後の証人として、あのデストロイヤー討伐戦で同行していたユタカさん、お願いします」
その声に合わして舞台袖から登場する。いや、検察官よ。何かあったら協力はするって言ったけどさ、俺があいつらとは友達だって言ってたじゃん。何でこっち側に立って友達のことを悪く言わないといけないんだよ。やっぱり司法は腐っていやがる。カズマ達も俺の登場に目を見開いているし……すまん、本気ですまん。それと、屋敷を吹っ飛ばされた領主らしき人間からの目線がきつい。全身を舐めまわしているような視線に寒気が立つ。
「それではユタカさん、まずお聞きしたいのですが、貴女もクリスさんと同様にスティールで下着を剥がれたとお聞きしましたが?」
「……え、と、そうではありますが、あれはあくまで、私がどんなスキルなのかを知りたくてやってもらっただけで……」
……なんでこんなこと聞くんだ?そもそもあれって、俺の自業自得じゃないか?それが何の証言になるんだ?
「では、その後に下着の返却はしてもらいましたか?先ほどのクリスさんなどは返却はしてもらえたそうですが、その場で目撃した方々の証言ではそういった場面は見られなかったそうですが?」
「………………その、返してもらっては、無い、ですが……?」
おい、こんな発言がカズマの罪状の裏付けになるのか?こっちはすっごい恥ずかしんだけど、それもただカズマの悪評につなげる為とかは嫌なんだけど。
「では次に、被告人のパーティーと共に湖の浄化を行う際に、オリに入れられてブルータルアリゲーターの囮として使われたという事も聞きましたが?」
「……入れられはしましたが、納得の上ですよ?」
こいつ、カズマの不利になるようなことなら何でもするつもりなのか?というかこの質問の後に来るのも何か想像つくんだけど。
「ですが、街中でもオリに入れられたままだったそうですが、これには何か理由があるのでしょうか?」
「………あの時はブルータルアリゲーターの攻撃が激しくて、オリから出ると攻撃されそうなイメージが沁みついていて、怖くて出れなかっただけですよ?」
―――チリーン
畜生。なんでこんな答えにくいときに限って鳴るんだよ。
「嘘を吐くことは感心しませんよ。しっかりとお願いします」
「……………………その、あの、あの時は……お、
「すみません、よく聞こえなかったのでもう一度、はっきりとした声でお願いします」
こいつ!人が言いたくないことを、こんなところで言わそうとするんじゃねえよ!睨んでも涼しい顔して受け流しやがって!
「…………だ、だから、えっと、その……襲われた時に、怖くて、つい、も、漏らしちゃったのが、バレるのが、は、恥ずか…………ううううぅぅぅぅ…………」
殺せ、いっそ殺せ。
こんな歳になってまでお漏らししたのがバレるとかどんな罰だ。しかも、数多くの人たちの前で言わせやがって。怒りと羞恥で顔が熱いし、頭もクラクラするし、涙が出てきやがる。……耐えろ、これまでの証言を言わせているスピードから、もうすぐ終わるはずだ。ローブを思いっきり握って耐えろ。
「……大変答えにくい質問をしてしまい申し訳ありませんでした。こちらの証言は以上です。証言をしていただいた方々、ありがとうございました」
……それにしても傍聴席からの声が「変態が……!」とか「ひどい……」とか「なんて屑なんだ……」とか聞こえてくるのはわかる。だが、「正直興奮する」とか「お漏らし……ふぅ……」という声はいったい何に反応したんだ。お前らの発言の方が酷いわ。
「異議ありです!こんな証言、今回カズマが行なった罪の証拠になっていないです!カズマの性格が曲がっているのは認めますが、だからと言ってこんな言いがかりをつけられてはたまりません!」
「そうよ、マシな根拠を持ってきなさいよ!」
っと、流石に今の証言にめぐみんが食い掛ってきた。まあ、あんなので罪が決まるなんて言ったら司法なんて意味がないしな。
「根拠?よろしいでしょう。ではもっと、確たる根拠を出しましょう!一つ!魔王軍幹部であるデュラハン戦において、結果的には討伐できたとはいえ、街に大量の水を召喚し、洪水による多大な被害を負わせ―――」
その声にアクアが耳を塞いだ。いや、そこで塞いだって意味なんじゃないか?
「二つ!連日、町の近くで爆裂魔法を放ち、街の近辺の地形や生態系を変え、あまつさえこの数日においては、深夜に爆裂魔法を放ち、騒音によって住人たちを夜中に起こし―――」
続いてめぐみんも耳を塞いだ。いや、それで耳を塞ぐってことはやましい気持ち、あるのかよ。それだったら、もっとましなところで放つなりしろよ。というかカズマ関係ないことばっかりじゃねえか。
「そして三つ!被告人にはアンデットにしか使えないスキル、ドレインタッチを使ったという目撃情報があります」
カズマまで耳を塞いでどうするんだ。冒険者だから、アンデットを倒す際に目撃して習得したとかじゃないのか?
「そして最も大きな根拠として、貴方に魔王軍との交流はないかを尋ねた際に、交流が無いといった発言に、魔道具が嘘と感知したのです!これこそが、証拠ではないでしょうか!!」
……カズマ、ああいったのは大概、あいまいな表現で回避すれば……いや、教えてなかったな。それで不意打ち気味に答えてしまったのだろうか。まあ、うん、これはもう無理なんじゃないか?もしくはウィズを売るくらいしか減刑できないんじゃないか?検察官側に立っていた俺が言うべき言葉ではないが。
「もういいだろう?そいつは間違いなく魔王軍の関係者だ。わしの屋敷に爆発物を送りつけてきたんだぞ!死刑にしろ!」
あ?領主のおっさんがなんか急に声を荒げて叫んでいた。この状況だと有罪なのは確定なのに、急に何を言ってるんだろう。何か急ぎの用事でもあるのだろうか?
「違う、俺は魔王軍の関係者なんかじゃない!テロリストでもない!」
「何をいまさら、あなたの証言が嘘であることは確認している!」
と思ったら、今度はカズマまで叫び出した。検察官も反論はしているが、カズマは勢いで突っ込んできている。
「いいか、魔道具をしっかり見ていろ!言うぞ!
―――俺は、魔王軍の手先でも、テロリストでも何でもなああい!」
………
……………
…………………
魔道具には、何の反応もなかった。これが故障か動作不良と言い張れたのならいいが、俺の証言の際ではしっかりと反応している。それならば、カズマの今の発言は、嘘でも何でもない、真の言葉だという事になる。
検察官も眉を寄せて裁判長に異議を唱えているが、今の発言で有罪であるという事は難しいと思ったのだろう。異議は却下され、重い溜息をついていた。
「よって、被告人、サトウカズマ。あなたへの嫌疑は不十分とみなし、無罪であると―――」
ああ、やっと終われるか。もうこんな面倒なことは結構だ。
「―――駄目だ、裁判長。わしに恥をかかせる気か?もう一度言う。その男を死刑にしろ」
……は?いきなり何言いだしているんだ、こいつ。そんな脅迫をしたこと自体があれだろ、う……
!!!???何だ、今のおぞましい嫌悪感は!?『ウィスパースター』の警告よりも、もっとおぞましいナニカは!?いきなりの圧力で、お腹の中のもの全てが逆流するようなナニカは!?
「いえ、今回の事例では怪我人も死者も無く、流石に死刑を求刑…………いえ、そうですね。確かに死刑が妥当だと思われます……ね?」
……今の嫌悪感の影響によるものなのだろうか、検察官の発言も急に方向を転換させた。本人も、何故か困惑そうにしているのが奇妙だ。
「今何か、邪な力を感じたわ!この中に、悪しき力を使って事実を捻じ曲げようとした人がいるわね!」
アクアもあの嫌悪感を感知したのだろうか、必死に声を上げている。……こんな状況でやるような奴なんぞ、愉快犯でも無ければあの領主でしかない筈なんだがな。魔道具だって反応していない、アークプリーストという神聖職が信憑性をもたらしてくれている。
「悪しき力……。神聖な裁判で、何か不正している者がいる、と?」
「ええそうよ。この私の目は、そこの魔道具よりも精度が高いわよ!何を隠そうこの私は、この世界に一千万の信者を有する水の女神!女神アクアなのだからよ!」
――チリーン
「なんでよおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
わあ、信憑性が一気になくなった。どうするんだよこの状況、今ので切り返しが出来そうだったのに、変な見栄を張ったせいで台無しになったじゃねーか。
それと領主よ、そんなに青い顔をしてアクアを見つめていれば、今の奇妙な現象の犯人が誰か言っているようなものだぞ。こんなのでよく鬼畜外道や魑魅魍魎が跋扈する貴族たちの所に居れるのかが不思議なくらいな顔だぞ。
「……被告人サトウカズマ。貴女の行ってきた度重なる非人道的な問題行動、および町の治安を著しく乱してきた反社会的行為などを鑑みるに、検察官の訴えは妥当と判断。」
おい、裁判長まであの現象にかかっちまったのかよ。こういった明らかな洗脳を防ぐような魔道具とかの設置はしていないのかよ。こんなんじゃ、これまでの裁判でも捻じ曲げられてきたようなものが多数あるんだろうな。
「被告人は有罪であると考えられ、よって、判決は死刑と――――」
「―――裁判長、私の話を聞いてもらえないだろうか」
…………なんだ、今度はダクネスが急に話し出した。この裁判も、割とどんでん返しばっかりのゲームのような展開で、どう反応すればいいのかが分からない。ともかく、あのパーティーの中ではましな方のダクネスだ、何か策はあるはずだろう。
そう考えつつ見ていたが、胸元から何かを取り出して裁判長や領主に見せていた。よく見えないが、ペンダントのようなものではあった。
「この裁判、申し訳ないが私に預からせてはくれないだろうか。なかったことにしてくれと言っているのではない。時間を貰えれば、この男が必ず潔白であると証明して見せる」
……でも、なんだろう。いつものドMの姿とはかけ離れている凛とした姿には違和感を覚えてしまう。
「それは……!し、しかしいくらあなたの頼みでも……!」
「アルダープ。あなたには借りを作ることになるな。私にできることなら何でも一つ、言うことを聞こう」
おいダクネス、流石に何でもという条件は危険じゃないか?少なくとも、悪い噂しかない相手に、そんなことは……いや、ダクネスのことだ、どんな目に遭うのか計算に入れているんじゃないだろうか。
「何でも……!なな、何でも……!」
「そう、何でもだ」
それにしてもこの領主、よく女性相手に舐めまわすような真似をしているな。強烈な女好きなのだろうか。しかし、ダクネス相手には趣味が悪いと思わざるを得ない。
「……いいでしょう、他ならぬあなたの頼みだ。その男に猶予を与えよう。では、裁判長?」
「……分かった。では、被告人カズマの裁判は保留とする!」
……とりあえず、カズマがすぐさま死刑にならなかっただけまし、と考えておこう。