この素晴らしい占星術師に祝福を!   作:Dekoi

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作者の疲労ゆえ、尋問のシーンは次回に回ってしまいます。ご了承ください。
次回こそは……でも、常識人で通っている主人公に手荒な尋問はなさそうですかね?


バニルさんの口調とか真似できる気がしないけど、早く出したいなー(愉悦感


第25話 ろうごくくらし!

 街の中央区に存在する警察署。普段なら、そんなところに行くこともない俺だが、カズマの目線にやられてつい、こんなところに来てしまった。……というか、何で俺はカズマと同じ牢屋に入れられているんだ?普通、居場所ごと変えるものではないのだろうか?せめて、男と女の牢屋は別にするものだろう、何故だ。

 

「それはだな、この寒い時期に稼げなかった馬鹿者たちが安全で、かつ無料で冬を越そうと思って、最低限の生活は保たれる牢屋に入ろうとするせいだ。おかげでこの時期の牢獄はいつも満員なのだ。お前には申し訳ないが、こいつと同じ牢屋に入れさせてもらう。少しの辛抱だ、信用している仲間なんだし、冒険中とかでそういった経験はあるだろうし我慢してくれ」

「おい、なんで俺が襲うこと前提で話しているんだ。というか俺って一応街を救ったヒーローなんじゃないのか?本当に牢屋に入れられんの?」

 

 カズマよ、少なくともこいつは俺たちを疑っているんだ、話を聞くつもりがない。一旦諦めておけ。あと、俺はカズマとは知り合いか友達だと思っているが、仲間ではない筈だ。

 

「詳しい話は明日聞く。今日はここでゆっくりと過ごすがよい」

 

 それを合図に、騎士たちは俺らを楼の中に押し込んで錠をした。そして、踵を返し去っていった。

 

「おい!ちょっと待ってくれ!……おいって!……おい……マジかよ……」

「……カズマ、打ちひしがれるのは良いですが、まずはこの環境を見てからの方がいいですよ」

 

 鉄格子が嵌った窓からは寒気が吹き込んできており、この部屋に明かりを灯すランタンなどはなさそうだ。そのせいで、この牢屋も肌寒く感じる。寝る場所と思われるところには数枚の毛布、部屋の隅には小さなトイレ……トイレ?

 

 ……え、囲いとかも無しに、カズマにみられる可能性大で、トイレしなくちゃいけないの?

 

「……あー、その、催した時は正直に言ってくれ。耳ふさいで後ろ向いておくからさ、今はそれで我慢してくれ」

「…………た、助かります」

 

 どんな羞恥プレイだ。これで男の時なら平気で行えるが、生憎今は女の子かつ謎の羞恥心が湧いているせいで、こういった行動もうかつに取れなくて困る。

 

「それにしても、最低限という割に毛布とかも薄いな。これじゃ、裁判の前に風邪でも引いてしまいそうだな……これを二人で分けるとか、もっと寒くなりそうだな」

 

 カズマが毛布を手繰り寄せて調べていた。前の住人が使ったままで洗ってもいないのか、若干異臭もある。が、それくらいは我慢しておかないと……しかし、カズマも言っていたが毛布がかなり薄い。幸い、俺の服はローブにマント、さらに厚めのマフラーに手袋もしているから多少は凌げそうであるが、カズマの方は急いで呼び出されたためらしく、あまり厚着を着ている様子はない。そのためか、カズマの体は震えているようにも見える。早く暖を取ってあげないと、風邪をひいてしまいそうだ。この場には治療が行えるアクアがいないため、風邪だけでも重症化するかもしれない。それだけは防がなくては……!

 

「……それでしたら、カズマに毛布を多めにあげますので……いっそ、二人で使えば大丈夫ですが……まあ、冗談―――」

「良いなそれ、そうしようか」

 

 …………あれー?

 

 

 

 ―――――――― 

 

 

 

「……カズマ、そちらは寒くないでしょうか?」

「俺の方は十分だが、ユタカはあまり毛布にかかっていないだろ。大丈夫か?」

「……私の方は、多少厚着ではありますので気にしなくても大丈夫ですよ」

 

 現在、俺とカズマは背中合わせで寝転んでいる。晩飯は持ってきてくれたものを手早く取り、エネルギーを無駄に消費しないように静かに寝転んでいる……ということになっている。

 

 本当の話は、カズマの精神状態では疑いを晴らすための作戦会議とかは無理そうだから、今日は一旦休んでということになった。時間は有限ではあるが、少し話し合った後、牢屋に入れられたショックから立ち直ってしまったせいで「日本に帰りたい……もう嫌だ……」と三角座りで泣いていた。そんな状況で今後のことを話したってさらに悪化させてしまうだろうから、今日は打ち止めにしておいた。というわけで、風邪に対抗するため、エネルギーの消耗を抑えるべく寝ているというわけだ。

 

 

 しかし、窓が窓としての機能を果たしてくれていない。窓にはまっているのは鉄格子だけで、風邪や空気を塞いでくれる布一枚すらないのだ。おかげで、牢屋の部屋の中はどうしても暖まってくれない。いくら最低限とはいえ、これではまともに生活することも難しいのではないだろうか?

 

「……なあユタカ。俺、無事に無罪だって証明されると思うか?」

 

 しばらく経ってから、カズマが問いかけてきた。

 

 正直言って、状況だけの証拠しかないため無罪だと証明するのは難しいと思うのが本音だ。それに、領主の屋敷は爆発させたことに関しては事実なのだからそれの弁償はしなくてはいけないだろう。実行犯こそウィズだが、それを命令したのはカズマだ。そのために責任として負わされてしまう確率は高いだろう。

 

 ……しかし、今のカズマにはそういったことを言うとさらにネガティブになってしまうだろう。そのため、おいそれとそんなことは言えない。だからと言って、何も言わないのもあれだが……

 

「……大丈夫ですよ、きっとめぐみんやダクネスが証明してくれるはずですよ。それに、私だってテレポートの場面に居たのですから、ちゃんと証言の場面があれば大丈夫だって言えますよ」

 

 今は、そんな慰め程度の言葉しかはけない自分に嫌気が差す。少なくとも、俺個人はカズマたちのことは友達と思っているのだ。友達が困っている時、泣いている時に支えになることすらできなくて、何が友なのだろうか。

 

「……そっか。そうだな、ちゃんと俺には仲間が……仲間が……アクアにめぐみん、真っ先に掌返さなかったか?」

「……そ、それはほら、カズマを助けるための作戦を練ろうと考えてああやったのではないでしょうか?」

 

 我ながら、苦しい言い訳である。

 

 

 

 ――――――― 

 

 

 

 ふと、遠くに爆発音と、小さな振動が発生した。この爆発音に振動……めぐみんの爆裂魔法だろうか?目元をこすりつつ、窓の方を見て……『ポラリス』を発動した。幸い、窓からは空が見えるし月だって見えるのだ。おかげで『ポラリス』による情報収集は可能だ。

 

 やっぱりめぐみんの爆裂魔法と思われる巨大な炎の柱が見えた。その爆発範囲にめぐみんを背負って走るダクネスが見える。……あいつら、いったい何をしようとしているのだ?って、急に見えなくなった?何かのせいで外が見えなくなったために、スキルの効果が切れたのだろうか?

 

「カズマ。カズマ!ねえユタカ、カズマを起こしてくれない?」

 

 窓の外にいたのは、何故かアクアだった。月の位置を見るに、もう十二時過ぎの深夜と思って間違いないだろう。碌でもないことかもしれないが、とりあえずカズマを起こしてアクアの所に行かせる。眠そうではあるが、カズマの無罪になることを見つけたのかもしれない。

 

 二人がぼそぼそと話し合っていてよく聞こえないが、やはり国家転覆罪なだけあって死刑はあり得るらしい。それに、冒険者のような身元不明の奴なんぞ、領主の権力で強引に殺しにかかってもおかしくないようだ。

 

 まあ、それは領主の噂を聞いていれば嫌でもわかる。宿屋に住んでいる以上、そういった話は耳元に勝手に入り込んでいくのだ。

 

 ところで、そんな説明だけに来たわけでも無いだろうに、いったい何をしに……ん、カズマに何か渡した?そしたらすぐに去っていったが、いったい何をするつもりだったのだろうか?

 

「……カズマ、何だったのでしょうか?というか、扉に向かっていって、どうかしたのでしょうか?」

「いや、ちょっと試したいことが……」

 

 ……別に逃げ出そうとしてもいいが、ここの錠は現代日本から持ち込んできたと思われるダイヤル式のだぞ?針金と何かスキルを使って外せるのだろうか?

 

 カズマもそれを見て諦めたのか、針金を全力で窓へ投げ捨てた。

 

「……寝るか」

「……そうですね、お休みなさい」

 

 

 

 ――――――― 

 

 

 

 無事翌日になり、カズマとはどんな質問が来るか、それにどう答えるかを話し合った。カズマにはテロリストか魔王軍の手先と思われている以上、そういった質問もしてくるだろう。そのため、そういった質問が来ても慌てず、出来るだけ正直に答えるようにしておいた。こういう時に下手に嘘を吐いて俺の証言と喰い違ってくると、面倒なことになってくる。今回の場合は、カズマに不利なように働くためである。

 

 あの検察官は、カズマに対してかなりの偏見な目で見ていたと思う。それもそのはず、カズマには基本、悪い噂しかないためだ。火のない所に煙は立たぬというが、カズマの場合、どれもこれも実際にやった、もしくはやったと思われることが多数なのだ。それでは悪い目でしか見ないのも、検察官としては駄目であるが納得してしまう。

 

 とにかく、出来るだけ誠実に答えること。無実だと分かって相手が非を認めてもそれで調子に乗って失敗しないようにすることだけは伝えておいた。アクアとかを見ていればわかるだろうが、よくいらないことをしてというのは誰にも考えられることだ。是非とも注意してほしい、いや、冗談抜きで。

 

 

 ~~~~~ 

 

 

 そんなことを話しつつも検察官を待っていたが、俺たちの処理で忙しかったのか、来ることはなくまた夜を迎えることになった。本来は、『交信(コンタクト)』でめぐみんやダクネスから情報を収集もしたかったが、カズマの精神状態を鑑みるに放置してしまうと危険な可能性もある。そのため、今日一日もカズマに構うといった形になってしまった。それとついでに、トイレも無事に……いや、なんか覗き見られたような気はするが気のせいだろう。無事に終え、眠ることにしたのだが、今晩は昨夜よりも冷え込んでいるためか、二人で毛布を使うだけではカズマが凍えてしまうだろう。

 

「……あの、臭かったりしたら、ごめんなさいね」

「いや、そういったのはないが……本当に、こんな風にしてもいいのか?」

「……カズマが凍えそうになっている時に、悠長なことを言っている暇はありません。これはそう……え、えっと……」

「ああすまん、無理して言おうとしなくてもいいからな?言えないのなら、それでいいさ」

 

 というわけで、現在は昨夜よりも近くに、というか背中をくっつけていたり、抱き着いたりして横になっている。漫画とかでは割とよくある物であったが、これが意外と馬鹿にできない。何せ人肌というものは思った以上に暖かいものだ。服というものを経由してはいるものの、長時間くっついていれば体温も伝わってくるからだ。

 

 ……まあ、漫画だと男の子と女の子とかがやっていたんだがな。あいにくやっているのは男の子と、元男のロリっ娘だ。どんなことがあってこんな状況になったんだ。異世界での女の子のフラグだというのに、カズマには大変申し訳なくなってくる。

 

「……今日、尋問はなかったとはいえ、明日には絶対にあるんだろうな…………」

「……きっと、大丈夫ですよ。カズマはちゃんとこの街を守ろうとしたのですから、ちゃんと無罪だって証明されますよ」

 

 カズマもいつもはクズマだとかカスマだなんて言われているが、元は平和な日本で生きていた16歳の少年だ。せめて年長者である俺が、支えてやりたいところだ。

 

「……カズマ、私は大人なんですから、愚痴ぐらいなら聞いてあげますからね。今は元気を出して、明日に備えましょうね」

 

 そう言ってから、カズマの背中に抱き着く。俺が言っていると考えると、虫唾が走るような言葉や行動だらけだが、これでカズマが元気になってくれるならば、今はできるだけ努力をしよう。

 

 

 

「……ん?また爆発音に、振動が?」

 

 まためぐみんの爆裂魔法だろうか。何かの陽動でやろうとしているのはなんとなく察したが、深夜に爆裂魔法は街の住人に迷惑なんだからやめてやれよ。というか、昨日はこの後アクアが来ていたが……流石に来ないよな?

 

「カズマ、ねえカズマ起きて!」

 

 ……流石に二度目は見つかるんじゃないか?

 

 毛布から出たがらないカズマを宥めてからアクアの所に向かわせる。まあ、せっかく暖まったというのにまた寒いところは嫌だもんな。

 

 またカズマとアクアの話を盗み聞きしていると、どうやら昨夜の爆裂魔法の犯人は見つかったようだ。まあ、この街で使えるのはめぐみんとウィズくらいだしな。そのウィズも、深夜とかに住人の迷惑になるようなことはしないだろうしな。

 で、今回はばれないようにと覆面をかぶせてきたって……だから、爆裂魔法を使っている時点でバレるだろうが。

 

 アクアも昨夜は警察署の前でずっと待っていたらしく、頭に雪を積もらせて、職質までされたらしい。それなら、何か箱の中とかに隠れておけばよかったんじゃないか?というか、雪精を狩りに行った時の厚着はどうしたのだろうか。

 

 

 で、昨夜のピッキング作戦は錠がダイヤル式だったため失敗に終わったが、今回はどうするつもりなんだ?

 

「今回はちゃんと考えてきたわよ!昨夜はやり方がまどろっこしかったわね。だから、今回は糸鋸を用意してあるわ。二人が稼いだ時間はあまりないんだから急いでやるわよ!」

 

 何と、糸鋸を使っての脱獄を狙うらしい。わお、昨日よりも現実的な脱獄法だ。それも俺とカズマとアクアの分を用意しているから、その分の時間短縮も可能だ。

 

 ……それで、どこの鉄格子を切り落とすつもりなんだ?錠が掛けられたのならできなくもないが……窓の格子?俺らの身長だと届かないだろ。何、肩車でしてやれってか?それでも届きそうにはないんだが。

 

「大丈夫よ、私だって馬鹿じゃないわ。二人の分の踏み台も持ってきたから安心して!」

 

 ……カズマの分のはでかすぎて格子に通らないし、俺が使うと思わしき長めの踏み台は使うにしても、すぐに倒れてしまいそうなほどバランスが悪そうに見える物なんだが?

 

「で、その踏み台とやらはどうやって中に入れるんだ?」

「…………ちょっと、待っててね!」

 

 そう言い残して、アクアはどこかに行ってしまった。しばらくすると、

 

「違うんです、これはその、カズマに必要なもので、差し入れに……」

「踏み台なんて差し入れ、聞いたこともないですよ。というか、この時間に何ですか?昨日もこの辺をうろついていたって聞きましたが?それに、あのお嬢ちゃんの保護者らしき人たちが押し掛けてきたせいで現在は厳重警戒になっているんですから、現在差し入れとかは無理なんですよ。ほら、諦めて帰った帰った!」

 

 …………アクアたちの前向きさは見習うべきかもしれない。カズマと一緒に糸鋸を窓へ、全力で投げ捨てた。

 

「……すみません、うちのおじいちゃんたちがご迷惑をおかけしました…………」

「いや、気にすんなって。これはユタカが悪いことじゃないんだから、ま、今日も寝て明日に備えようぜ。それじゃ、お休み」

「……お休みなさい、カズマ」

 

 

 今日の夜はカズマとアクアに対する申し訳なさと、恥ずかしさやらなんやらで眠れる気がしなさそうだ。

 

 

 




おまけ
とある方へのインタビューにて

???「ええ、ユタカは自分のことを臭いとか言っていましたが、そんなことはありませんでした。なんと言えばいいのでしょうか、穏やかな太陽と、優しい月のような、優しい香りがしましたね。それに、夜に一緒に寝ている際には、おずおずと俺のことを抱きしめて、口下手なのに精いっぱいの言葉で慰めてくれたんですよ?そりゃ、とっても……ねえ?」


……おや? 商人一家の ようすが……!?

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