ちょっと忙しかったため、今日も短めです。
ふと、酷い眠気が体にのしかかっているように感じた。このまま眠ってしまうのも良い……しかし、何でか知らないが、目を覚まさないといけない気がする。
重たい体を無理やり動かして眠気を覚まさせ、眼を開かせる。
「…………なんだここ?」
そこは、俺が何度も見たはずの宿屋の天井ではなく、まさしく闇と呼ぶにふさわしい色をした世界であった。天井も、床も、壁と思われる側面の物も、ただ漆黒に染まっていた。
…………なぜ俺はここにいるのだろうか。というか、ここはどこだ?アクセルの街にこんな施設があったとは思えないが……路地裏のひとつの家屋の中に、こんな風に塗装したところがあってもおかしくないか。
幸いと言えばいいのか、髪が背中を撫でるように触れたため、俺の体はまだ女の子のままだろう。となると俺はまだ生きている可能性……生きている?なぜそんなことを思ったのだろうか?まぁ、いい。とりあえず、動かなければ事態は解決しないだろう。
部屋全体が黒ではあるが、照明と思われる明かりもちらほら見当たる。俺の職業である
とにかく、歩いてここがどこか調べなければ。
どうやらここは長い一本道らしい。さっきから周りを見ても扉も見当たらない上、草などの植物も見当たらない。そして同じ黒色しかない。正直見飽きた。かれこれ一時間は歩いたと思うぞ。
にしても本当、ここはどこだろうか。こんなに長い一本道だ、少なくともアクセルの街ではないことは確かだろう。しかし、誘拐された記憶はないんだが……というか、俺は今まで何をしていたんだ?
カズマ達と依頼を受けて、雪精の討伐をして、俺が「『コンプレスグラビティ』」して動きを遅くしたり、めぐみんが爆裂魔法を撃ちたそうにしていて、それで、それで…………
「ッッ!?いってぇ…………」
その後がひどい頭痛がして、思いだせない。一体何があったのだろうか……
一旦、思い出すのは後にしておこう。今はここがどこかの探索だ。とにかく、脱出してカズマ達と合流せねば…………あ?
「…………あっちから、何か聞こえた?」
もしかしたら、俺を誘拐した犯人がいるかもしれない。とりあえず、ばれないように音を立てずに近づこう。いざとなったら俺のスキルで何とか対処ができるかもしれない。
ただ、『ウィスパースター』が強く警告している言葉が気になる。【万物の王を見るな】とは、いったいどういうことなのだろうか。万物というくらいだし、このウザったい空間を作り出したやつがいるのだろうか。会ったらぶん殴ってやろう。…………よし、進もう。
~~~~~~~
その音がする方に近づくにつれて、その音の正体もわかってきた。
太鼓と思われるものと、笛と思われるものだ。太鼓の方は酷く激しいリズムを刻み、フルートの方は単調に聞こえてくる。これは何らかのスキルを発動するための準備なのか、そのスキルを維持するためにやっていることなのか。それともこの音自体がスキルの効果なのか判別がつかない。
そんなことを考えつつ歩いていたら、目の前に扉があった。そう、扉である。見たことない模様が描かれたり、線と形がすべて狂ったようにも見えるが扉である。
変化も何もなかった一本道の終わりにこんな扉がある時点でいろいろと怪しい。しかも、音も扉の先から聞こえてくるとかもうアウトだろ。どう足掻いてもここに首謀者がいることは確実だろう。とはいえ、『ウィスパースター』が警告を発していたということは危険があることは確かだろう。
扉にそっと触れる。鍵が掛かっている様子はなく、少し押しただけでも動いた。動いた際にできた隙間からそっと覗いてみる。
そこには、玉座に座って眠っている銀髪の女の子と思われる幼子と
絶えず形を変える謎の生き物が太鼓と笛を奏でていた。
「…………!?………………どういうことだ?というか、何だあれは!?」
少なくとも俺が見たことない生物に嫌悪感を覚えるものの、何とかそれを無視できるレベルではあった。
見た限り、あの女の子は鎖などで縛られていそうではないが、魔法か何かで動きを制限している可能性があるだろう。眠っているのも、魔法で眠らされたためだろうか。
問題は、あの不定形の生物だ。あの太鼓と笛はこの状況を引き起こしたと思われるものだ。あれらを破壊すれば俺は元の場所に戻れるのだろうか、どうなるかが全く分からないが、強襲してあれらを破壊すればなとかなるかもしれない。『コメット』で狙うようにすれ
「あらぁ……そんなことしちゃだめよぉ?眠っている子は起こしちゃダメって知らないのぉ?」
!?背後からの声!いつの間にいたんだ!
振り返るとボンテージを思わせる黒の革の服を身に纏い、腹部が膨らんでいる褐色肌黒髪の女がいた。あの腹には子でも孕んでいるのだろうか?
「そんなことどうでもいいわよぉ、ただ、それをしちゃこの世界がどうなるか分からないしぃ……あらぁ?なんで端末がここにいるのかしらぁ?」
…………世界?あれは世界に干渉、または概念などに干渉できるほどの物だろうか?
そして、端末、か?どういうことなのだろうか。
「……ま、いいわぁ。とにかく、ここは貴女がいちゃダメな場所よぉ。はやく元の場所にもどりなさぁい」
女がその言葉を言った瞬間、俺の後ろにあった扉から霧がかかったかと思ったら、次の瞬間には巨大な門に変わっていた。これも何らかのスキルによるものなのだろうか?よくわからなくなってきた。
「それじゃぁ、またねぇ。私も貴女の事は応援しているから頑張ってねぇ。あ、それとあんまり死んじゃ駄目よぉ?死に過ぎたらペナルティとかついちゃうわよぉ」
……待て、死んじゃ駄目って俺が死んだみたいじゃないか!どういうことか説明しろ!
「うるさいわねぇ……今は話すことなんかないからさっさと行きなさぁい」
女の言葉に門が開き、俺はその門からの強力な力に抗えず、引きずりこまれるようにその門に入っていった。
―――――――
「……………………!!…………タカ、……きて!ユタカ、大丈夫!?」
…………うるさい……誰だ、今ものすごく眠たいんだからもう少し眠らせてくれ。
「あ、今反応があったわよ!ほら、少し動いたわよ!」
……うるせぇ。大きな声なんぞ出すな。頭が痛くなる。
「ほら、今も動いた!顔だって少ししかめているでしょ!謝って!回復すらできない駄女神なんて言ったこと謝って!」
「いや、その割には意識だってまだ戻ってきてないんだが……というか、俺には動いたようには見えなかったぞ?」
「うるさいわね!ちゃんと私が動いたって言っているんだから動いたのよ!」
………………………………いい加減にしろ。
「………………二人とも、うるさいです。何をそんなに争っているのですか?」
「あ!ほら、ちゃんと復活したじゃない!私のやっていたことは間違っていなかったのよ!」
「んなもんほとんど結果論だろうが!さっきまで魔法が効かなくて大慌てしていたのは誰だよ!」
駄目だこいつら、人の話を聞く気がない。さっきまで眠っていたみたいだからどんな状況か聞きたいのにまたコントしてやがる。
…………めぐみんとダクネスに助けを求めるように目線を送ったら、そっと目をそらされた。おい、お前たちの仲間だぞ、何とかしろよ。
「いい加減にしなさいこのヒキニート!ちゃんと戻ってきたんだからさっき言っていたことを訂正して謝りなさい!」
「はぁ!?なんでそこでヒキニートっと言われなくちゃいけないんだよこの駄女神が!」
…………腰に差していた非常用のナイフの刃の所を持って、二人の頭を柄で殴っておけば落ち着くだろうか。
落ち着かせた(物理)二人と見捨てた二人から聞いた話をまとめると、カズマと俺はあの冬将軍に首を撥ね飛ばされたらしい。で、カズマと俺にアクアが『リザレクション』を掛けたとのこと。カズマの方は天界規定やらなんやらで揉めたがアクアが脅したことによって蘇生はできたらしい。
で、問題が俺の方で、カズマと話していたこの世界の神では俺の存在を観測できず、魂がどこかに行ってしまって復活が出来ず、アクアがアークプリーストの魔法を色々試してみたがそれでも無理だったらしい。それでも諦めずに再度挑戦しようとしたら俺が目を覚ましたとのこと。
……あそこの話はしておいた方が良いのだろうか。少なくとも、この駄女神ともう一柱の神では知らなかったなら、あまり言わない方が良いな。どう考えても厄ネタにしかならん。とにかく、ここは適当に誤魔化しておこう。いつの間にか目を覚ましたら二人が喧嘩していたって感じに。
俺の誤魔化しの言葉に皆納得してはいたみたいだし、これで良いだろう。こんなものに巻き込ませるのはやめておいた方が良い筈だ。
その後、アクアの提案で今回の依頼はこれで終了になった。アクアから首をはねられたんだからしばらくは安静しておいた方が良いとのことらしいので、宿屋の手伝いも冒険者稼業も一旦休むか。
にしても、玉座に眠る……太鼓に笛……そして、あそこで出会った子を孕んだ褐色肌の黒髪の女……どこかで聞いたことがあるが、気のせいだろうか?
あと、作者はドSでもリョナラーでもありません。
ただのセクハラ好きな普通の人です。