ご了承くださいませ。
季節は巡り、あのデュラハン討伐があったと思ったら気づいたらもう冬になっていた。この世界の弱いモンスターは冬になると冬眠して過ごし、手強いモンスターだけがいる過酷な世界となるからだ。そのせいか、冒険者たちも基本的に宿屋や街中で過ごしているらしい。この時期に冒険に出かけるのは日本から来た転移者だけとのこと。
そのおかげで宿泊兼労働の場である宿屋も大忙しである。冒険者たちが汚した部屋や物の掃除、宿泊の受付の案内に客から頼まれた用事の解決など大変忙しくて困る。その分宿屋は稼ぎ時であるから呼び込みとかもやっている。
さて、この時期のモンスターは本当に手強いものばかりだ。正確には弱いモンスターがいなくなるため、高難易度の依頼が残っていたというだけであるが。ともかく、とにかく手強いことだけなのは確かなのだ。例えば、そう―――――
「ここに魔剣グラムがあると聞きました!どうか、それを僕に譲っていただけませんかぁぁぁぁぁっ!」
人がとても忙しそうにしているのに
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ここまでミツルギが来たのも王都で探し回った結果か、はたまたカズマがやっとばらしたかのどっちかだろう。俺個人としてはバレるまで思ったより短かったな、という印象である。せめてこの時期でなければよかったのだがな!
が、それはそれ、これはこれだ。
「…………今は忙しいので後にしてください。こちらに価値すらない話をされても困ります。」
その話はあとでだ。今の俺は他の従業員と一緒に働いているんだ。仕事の休憩時間か終わった後にならいいからそれまで待っておいてくれ。
いや、なんでそこまで落ち込むんだ?俺、当たり前のことを言っただけだよな?魔剣は譲らないとか、また別の所に売ったとかなんて言ってないんだがな…………はぁ……
「……ちょうど、宿の空き部屋が一つあるのですが、そこにお泊り頂けるのならお客様のお話としてお付き合いいただけるのですが、いかがでしょうか?」
「…………!!分かりました、お代はいくらでしょうか!」
せめてそこがどんな部屋か聞けよ。部屋が一つしかないんだから後ろの女の子たちと一緒になるんだが、それでいいのだろうか?それか他の宿屋に泊めさせるつもりだったのだろうか……いや、ただ考えてないだけだろう。
「……それで、魔剣グラムでしたらもう贈り物としてプレゼントしたので私は持っていませんよ?」
「ちくしょおおおおおおおおおおおっ!!」
だから話を聞けよ、なんでそこで走って去ろうとするんだ。そこでどんな奴に送ったかを聞いておけよ。あ、そこの女の子たち、そのイノシシ連れてきて―。今度から首輪でもしておいた方が良いんじゃないだろうか。
「なるほど、この宿屋のお爺さんの贈り物、ですか。色々と早とちりしてすみませんでした。」
「……気にしないでください。こちらも誤解のあるような話し方をして申し訳ありませんでした。」
まさかただ話し始めたら急にダッシュするとは思わなかったぞ。まぁ、俺もちょっと意地悪な話し方をしたからとはいえ、あそこまで猪だったとは思わなかったぞ。
というか、謝るのならこっちの女の子たちにも言えよ。この子たちがいなかったらそのまま放置していたぞ。
「………………二人とも、苦労しているのですね」
「まぁ、そこがキョウヤの面白いところでもありますし……」
「なんだかんだでかっこいいところあるし……」
割れ鍋に綴じ蓋か。このダメンズ好きが、こんな良い子に慕われているんだからしっかりと答えてあげろよイケメン野郎。股間についているブツもぐぞ。
「とにかくこの様子ですとまだ忙しそうですね……とりあえず、軽くでいいですのでなぜお爺さんに魔剣を贈ったのでしょうか?」
「…………なんかかっこよかったからです。それに、お爺ちゃんは昔、剣が使えたと聞いたのでそれで贈り物としていいかな、と思ったからです。」
「へぇ……それでですか。そう思って頂けたのならあの剣も誇らしいですね。」
「…………とりあえず、私はもう持っていませんので、交渉はお爺ちゃんと話し合ってください。」
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「はああああああああああああっ!!」
「ぜやあああああああああああっ!!」
現在、雪をかき分けた草原にて、ミツルギとお爺ちゃんが楽しそうに剣の打ち合いを行っている。特にお爺ちゃんが。
…………どうしてこうなった。
それもこれもミツルギとの交渉で、錆落とししたいとか言って闘うって発想が思い浮かんだお爺ちゃんが悪い。俺に勝ったら魔剣を返すとか、そんなノリで良いのかよ。後でお婆ちゃんにしこたま殴られようが俺は知らん。自分だけで頑張れ。
まぁ、護衛の冒険者を連れずに行商人をしていたからなんとなくは想像がついていたけどさぁ……お爺ちゃんだけでなくお婆ちゃんにお兄ちゃんまで冒険者とか思わなかったぞ。
「お爺さん、なかなかやりますね!」
というかお爺ちゃん、なんで自分の身長よりもデカくてゴッツイ剣振り回してんの?あれで身体が衰えたとか冗談かよ。あと、左腕の手甲から時々魔法か何かで爆発が出ているんだけど、あれあくまで牽制用の攻撃だよね?地面が思いっきりえぐれているんだけど。てか職業が
お爺ちゃん、まさかとは思うけど、ガッツって名前じゃないよね?違うよね?トラウマとかないよね?
「うがああああああああああああああああっ!」
「うわっ!と、まさかここまで激しいとは思いませんでしたが、これで終わりです!」
あ、ミツルギの斬撃がお爺ちゃんの鎧を砕いた。というかあの巨剣の猛攻を掻い潜って攻撃するとか度胸あるなぁ…………これで勝負は終了、ミツルギの勝ちだな。
「キョウヤ、お疲れ様!」
「あのラッシュを躱すなんてすごいわ!」
「最後のラッシュは本当に紙一重の差でしたね、何とか躱せてよかったです。さて、それでは魔剣を…………」
お爺ちゃん大丈夫?久々に動いたんだから無理は……え、これくらいはまだまだって?それならお婆ちゃんを呼んできて鎧を壊したことを言っても大丈夫そうだね。あ、こら、なんでそれは嫌だって泣くんだよ。壊したのは自分だろうが、しっかりと叱られてこい。
「えっと……取り込んでいるようですみませんが、約束通り私は勝ちましたので、この魔剣は譲ってもらう、でいいですね?」
「…………それでいいと思います。お爺ちゃん、今は何か壊れていますのでお好きなようにしてください。」
「そ、そうですか……その、頑張ってくださいね」
「…………応援感謝します。ところでお客様、今晩はうちの宿屋で泊っていくのでしょうか?魔剣も帰ってきましたし、泊まっていただかないのでしたら代金はお返しいたしますが……」
「いえ、せっかく払いましたし、泊まらせていただきます。魔剣だけもらってさよならもあまり気分が良くありませんしね。それに、この宿屋もなかなかの評判だと聞いていますのでこれから楽しみですね。」
そうかそうか。それならしっかりと任せてくれ。ただ、今泊まれる空き部屋はキングサイズのベッドしかないがな!こいつもなんだかんだでヘタレだろうし、夜は手を出せなくて存分にムラムラするがよい!
イケメンでハーレムなんぞ作りやがって、羨ましいんだよ。性別的に女の子と付き合えない俺からのプレゼントだ。喜んで受け取ってくれ!ふーはっはっは!
翌日、こいつらの部屋の掃除をしようとしたらヤルことヤッたのか、それっぽい臭いや液体の跡に大慌てした。くそっ、くそっ!他の部屋でも言えるが、こっちは色々と気恥ずかしくて困るんだよ!せめて臭いくらいは換気して取り除いておけよ!