この素晴らしい占星術師に祝福を!   作:Dekoi

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今回も主人公は影が薄いです。
もっと出番を増やしたいけど、なかなか思いつかないです……。


第12話 ミツルギキョウヤ

街についても俺とアクアは、仲良くオリの中で座っていた。アクアは相変わらず生気が抜け落ちた表情でいるし、俺も俺でローブの下の方を見られないように隠しつつ座っていた。そろそろ宿屋に着くから出たいとはいえ、この染みを見られないようにするにはどうすれば良いのだろうか……

 

「め、女神様っ!?女神様じゃないですかっ!何をしているのですか、こんな所で!」

 

……アクアのことを言っているのだろうか、急に叫び出した男が駆け寄ってきて鉄格子を掴んだ。と思ったら鉄格子をたやすく曲げてきやがった。こいつ、あのワニですら耐えたオリをこんな簡単に曲げるとは相当な筋力を持った男だ。襲われたらひとたまりもないし、大人しくしておこう。ちょっと怖い。

 

「……おい、私の仲間になれなれしく触れようとするな。貴様、何者だ?知り合いにしては、アクアがお前に反応してないのだが」

 

……誰だこいつ、ダクネスってこんなまともに話す奴だったのだろうか。……いや、あのドMも今のこいつもダクネスのひとつなのだろう。むしろ、こっちの方がダクネスの雰囲気に似合っている気がする。

 

というかアクアよ、お前の知り合いならいい加減気づいてやれよ。黒目茶髪に日本とかにいそうな顔立ちとか転生者関係だろ。

 

「……ああ!女神!そう、そうよ、女神よ私は。それで?女神の私にこの状況をどうにかして欲しいわけね?しょうがないわね!」

 

この言葉だけ見るとアクアが世話焼きな人に見えるが、それはれっきとした誤解だ。むしろカズマが世話を焼かざるを得ないことが多いはずだろ。

 

「……あんた誰?」

 

転生させた奴の顔ぐらい覚えておけよ。いや、送った人数によっては仕方ないかもしれないが……

 

「何言ってるんですか女神様!僕です、御剣響夜ですよ!あなたに、魔剣グラムを頂いた!!」

「…………?」

 

というかこいつの後ろにいる女の子、ずいぶんと可愛い子たちだ。異世界でハーレム生活とかどこのテンプレだ、羨ましい。せめて俺にも男という性別だけでも分けてくれないだろうか。本当、女の子とか能力とか魔剣とかいらないから、性別だけ、性別だけでいいからよこせ。本当に、性別だけでいいから。

 

 

――――――― 

 

 

「……馬鹿な。ありえないそんなこと!君はいったい何考えているんですか!?女神様をこの世界に引き込んで!?しかも、今回のクエストではオリに閉じ込めて湖に浸けた!?」

 

その後、カズマがアクア(と俺)をオリに入れた事情を話したら、ミツルギ、思わずいきり立ってカズマの胸ぐらを掴んでいた。何処の少年漫画だ。いや、この構造はむしろBLの薄い本の方が書かれてそうだな。

……まぁ、ミツルギからすれば恩人をオリに入れてワニの餌にしたようなもんだしな、多少仕方ないところもあるか。それに、同意の上とはいえ別の女の子も餌に使ってたしな、うん。

 

「ちょちょ、ちょっと!?いや別に、私としては結構楽しい毎日送ってるし、ここに一緒に連れてこられたことは、もう気にしていないんだけどね?それに、魔王を倒せば帰れるんだし!今日のクエストだって、怖かったけど結果的には誰も怪我せず無事完了した訳だし。しかも、クエスト報酬三十万よ三十万!それも全部くれるって言うの!」

「……アクア様、こんな男にどう丸め込まれたのかは知りませんが、今のあなたの扱いは不当ですよ。そんな目に遭って、たった三十万……?あなたは女神ですよ?それがこんなちっぽけな……。ちなみに、今はどこで寝泊まりしているんです?」

「え、えっと、皆と一緒に、馬小屋で寝泊まりしているけど……」

「は!?馬小屋ですか!?」

 

それを必死にアクアが止めるように言葉を掛けるが、その言葉を聞いてさらに感情が荒ぶってきているな。これくらいで感情が揺れるようならまだまだ甘いところがあるな。

あとカズマをこんな男とか言うな、お前、カズマのことを全く知らないくせにそれだけを判断材料にするとかダメすぎるだろ。異世界に馴染んできたのなら、見た目に裏切られることくらい想定しておけよ。

それにたった三十万……?こいつ金の価値すら知らんのか?大方その魔剣で高難易度の依頼を成功してきたから分からんのだろう。馬小屋への反応もそういう事なのだろう。

 

「おい、いい加減その手を離せ。お前はさっきから何なのだ。カズマとは初対面のようだが、礼儀知らずにもほどがあるだろう。」

 

いい加減、ダクネスが怒ってミツルギに言っていた。めぐみんも爆裂魔法の詠唱を唱えているようだし、カズマ、仲間に愛されてるじゃないか。もしくは、それだけミツルギが嫌いなのだろうか。

 

「…………クルセイダーにアークウィザード?……それに、ずいぶんと綺麗な人達だな。君はパーティーメンバーには恵まれているんだね。それなら尚更だよ。君は、アクア様やこんな優秀な人達を馬小屋で寝泊まりさせて、恥ずかしいとは思わないのか?さっきの話じゃ、ついている職業も、最弱職の冒険者らしいじゃないか。」

 

酷い皮肉だな。むしろこいつらはカズマがいないとどうなるか分かったもんじゃない爆弾たちだというのに。というか、その優秀な人達を纏めているカズマはいったい何なのだろうか。

そして俺はガン無視か、実にいい度胸だ。後ろの女の子二人は俺をどう扱えばいいのか分からなさそうに見ているというのに。

 

……それとアクアとカズマ、お前らがヒソヒソとしている話は聞こえているぞ。最初から宿屋に泊めてもらった身としては割とダメージが来る。

 

「えっと、キョウヤ。オリの中にも女の子が――――」

「君たち、今まで苦労したみたいだね。これからは、ソードマスターの僕と一緒に来るといい。もちろん馬小屋なんかで寝かせないし、高級な装備も買い与えてあげよう!」

 

話しかけてあげたんだから聞いてあげろよ。後ろにいた女の子、無視されて軽く涙目だぞ。というか、ハーレムのメンバー増やして後ろの女の子たちに愛想つかされないだろうか。

あまりの態度にカズマのパーティーもドン引きしている。話を聞かない猪ですらお断りだってのに、それにナルシスト分が足されて嫌悪感が増しているようだ。

 

「えーと。俺の仲間は満場一致であなたのパーティーに行きたくないみたいです。俺たちはクエストの完了報告があるから、これで……」

 

そう言ってカズマが話を締めくくった。…………おい、話は終わったんだからカズマの前に立ち塞がるな。お前は「はい」を選ぶまで意地でも話をループさせる王様か。というか、この後の展開が目に見えるな……。

 

「僕と勝負しないか?アクア様を、持ってこられる『者』として指定したんだろう?僕が勝ったらアクア様を譲ってくれ。君が勝ったら、何でも一つ、言うことを聞こうじゃないか。」

「よし乗った!!じゃあ行くぞ!」

 

うん、やっぱりだった。カズマもそれを予想していたのか、限界だったのかは知らないが、素早く剣を抜き襲い掛かった。というかアクアを賭けの対象にするのなら、魔剣をささげるレベルでの何でもだな。カズマ相手にそれとかどうなっても諦めなければいけないことなんだろうな。そっとミツルギに同情した。

 

「えっ!?ちょっ!待っ……!?」

 

慌てつつも腰の魔剣を抜きつつ、カズマの剣を避ける。流石は高レベル冒険者だ、だが、カズマの真骨頂はここからだぞ?

 

「『スティール』ッッッッ!」

 

おお、見事に魔剣を引き当てたか。流石は幸運が高いだけあるな。

 

魔剣がなくなったことに呆けたミツルギは、カズマが振り下ろした剣に頭を打たれ、気絶した。……それくらいの予想はしていろよ、武器がなくなることなんぞよくあることだろうが。

 

「卑怯者!卑怯者卑怯者卑怯者ーっ!」

「あんた最低!最低よ、この卑怯者!正々堂々と勝負しなさいよ!」

 

最弱職の冒険者に上級職のソードマスターが勝負を挑むこと自体が恥だと思わないのだろうか。はたから見ればただのカツアゲだ。しかも内容を勝手に決め、その対象がパーティーの一員な時点で最低なのはどっちなのだろうか。

 

ああ、カズマはどうやら何でも一つ言うことを聞くという約束で魔剣グラムを持って行くらしい。だが、あの剣は決められた使用者でないと、ただの切れ味が良い剣らしい。まぁ、それがどうしたといった感じで持って行くようだが。高くも売れそうだし嫌がらせにもなるしな、仕方あるまい。

 

それでもあの女の子たちはその勝負自体を認めていなさそうだ。まぁ、不意打ちで開始したから分からんでもないが、そもそもレベルや職の差でこれくらいのハンデが無いと無理じゃないのだろうか。

それでもしつこく粘る彼女たちにカズマは、

 

「別にいいけど、真の男女平等主義者な俺は、女の子相手でもドロップキックを食らわせれる公平な男。手加減してもらえると思うなよ?というか女相手なら、この公衆の面前で俺のスティールが炸裂するぞ。」

 

手をワキワキと動かしながらそういった。軽くドン引きである。……まぁ、スティールは実際、役には立ってはいるんだがそんなことをするから噂通りの男になっていっていると気づかないのだろうか。

 

そのカズマを見た女の子たちは何か身の危険でも感じたらしく悲鳴をあげつつ逃げだしていった。…………置き去りにされたミツルギが可哀想と思わないのだろうか。

 

あ、そうだ。

 

「…………カズマ、ちょっとお話よろしいでしょうか?」

「ん、なんだ?」

「…………その魔剣、譲っていただけないでしょうか?それ相応のお金は出しますので。」

 

魔剣というくらいだし、商人であったお爺ちゃんのプレゼントにでも使えないだろうか。10万エリスくらいなら出すから譲ってくれないだろうか。

 

 

――――――――― 

 

 

「な、何でよおおおおっ!」

 

あれから翌日。今日もアクアの叫び声が聞こえてくる平和なギルドだ。飯が美味い。

 

あの後、無事に譲ってもらい、お爺ちゃんにプレゼントした。魔剣だけあって、ただの剣としては最高峰の性能であったらしい。俺にはよくわからないが、喜んでくれたようで何よりだ。それとローブや下着の染みもばれずに済んだ。なぜかお婆ちゃんは苦笑していたが気のせいだろう。気のせいであってほしい。

 

というかアクアよ、あんまり揺らすとギルドのお姉さんの胸が見えてしまうぞ、もっとやれ。

聞き耳を立てて話を聞くと、ミツルギに壊されたオリの分を弁償するために依頼料から何万エリスか差っ引かれたらしい。何とも運のない話だ。それならあいつを引きずってギルドに突き出してやればよかったんじゃないか。

 

「ここにいたのかっ!探したぞ、佐藤和真!」

 

うるさい暑苦しいうっとおしい。話題の人間の登場でアクアの怒りのボルテージが上がっていっているな。

 

「佐藤和真!君のことは、ある盗賊の女の子に聞いたらすぐに教えてくれたよ。パンツ脱がせ魔だってね。他にも、女の子を粘液まみれにするのが趣味な男とか、色々な人のうわさになっていたよ。鬼畜のカズマだってね。」

「おい待て、誰がそれ広めたのか詳しく。それとユタカ、なんだその表情は。」

 

…………いやだってなぁ。めぐみんと俺はどっちもなったから間違ってはいない噂だしな。鬼畜なのも昨日の発言で信憑性も増して、否定できないんだよ。

 

ん?アクアが怒りを通り越して無表情の域にたどり着いたようだ。ミツルギの前に立ち塞がり、好き勝手話しているドヤ顔を思いっきりぶん殴った。おおー、そのまま詰め寄って胸ぐらを掴んだ。もう一発やるのだろうか。

 

「ちょっとあんたオリ壊したお金払いなさいよ!おかげで私が弁償することになったんだからね!三十万よ三十万、あのオリ特別な金属と魔法でできているから高いんだってさ!ほら、とっとと払いなさいよっ!」

 

…………まぁ、アクアらしいというかなんとも言えないな。お金をもらったアクアは一気に上機嫌になって店員を呼んでいた。ま、散々苦労していたんだしな、別に好きに頼んでいいか。俺は関係ないし。

 

カズマとミツルギは魔剣のことについて話しているが、そいつに言っても意味はないんじゃないだろうか。すでに俺が譲ってもらったし、それはお爺ちゃんにプレゼントしたから今更返せと言われても困る。

 

「さ、佐藤和真!魔剣は!?ぼぼぼ、僕の魔剣はどこへやった!?」

「あー……知り合いに譲ったよ。もう王都に向かっているんじゃないか?」

「ちっくしょおおおおおおお!」

 

サンキューカズマ。面倒な目に遭わなくて済んだ。さて、とりあえず食い終わったし宿屋に帰って手伝いを再開するか――――

 

『緊急!緊急!全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってください!……特に、冒険者サトウカズマさんとその一行は、大至急でお願いします!』

 

……………………カズマ!あの野郎、また面倒ごと持ってきやがったな!

 


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