今回のお話は下品な表現がございます。
苦手な方はご注意ください。
魔王幹部、デュラハン襲来から一週間ほどが経過した、今日この頃。未だに高難易度の依頼しかないため、俺は宿の手伝いに精を出していた。口コミも何もない宿屋としてオープンした初日の客は俺だけであったが、宿屋があることを知った人たちや俺がここに泊まっていることを聞いた人が顔を合わせるついでに泊まってきてくれるようになってくれた。それにつられて俺の仕事量も増えていったが、まぁ、楽しく働けているからいいか。
とはいえ、今は昼前だ。大体の客はどこかに出かけているか、まだ惰眠をむさぼっているか、宿屋は静かになっている。他の従業員もやる仕事を大体終えて暇そうにしている。かくいう俺もそうだし。
そういえば彼、デュラハン君の仕事は順調に進んでいるのだろうか心配だ。ここには、とある調査のために来たとか言っていたが、いったいどんな調査なのだろうか。ここで何かあった記憶などは無いため、想像ができない。精々俺が来たあとに、カズマとアクアがこの街に来ただけだ。……アクアの神性でも感じてきたのだろうか?
まぁ、ここで俺が考えてもデュラハンが何を考えているかは分からないし、一旦考えるのをやめておく。
それにしても、俺や他の従業員が着ているなんとも可愛らしい服に目を向ける。この服は全部、お婆ちゃんが一人一人採寸して、全て手縫いで作られた服だ。何とも情熱を感じる。
お婆ちゃん曰く、旅をしている時にとても可愛らしくて素敵な服を見つけたが、現在青年であるお兄ちゃんがお腹にいたため、当時の体形では着ることが出来ずに諦めていたらしい。しかし、服の造形や使っている素材、作り方などを店員からいろんな方法で聞き出して記録していたらしい。お婆ちゃんの執念凄いな。
その後月日がたち、自分で服を作ることはできたが、その時はもうおばちゃん、今更自分が着ても似合わないことを自覚していたらしい。しかしそれでこの服のことを捨てるほどのぬるい情熱をしていなかった。自分が着ても似合わないなら、別の似合う子に着せよう、と。この宿屋を経営するための目的のひとつに挙げていたほどだ。
「おーいユタカ、ユタカいるかー?」
とはいえ、それを着させられた俺はかなり抵抗感があった。恩があるとはいえ、男である自分が着るのはかなりきついものがあった。それでも着ざるを得なかったのは、お婆ちゃんがものすっごいキラキラした目で見たからだ。流石にあそこまで期待された目で見られて着ないのも、きつい。結局、その目線に負けた俺は着ることとなった。
「あ、いたいた。ユタカ、すまないが、ちょっと話があるんだ、が……」
…………まぁ、俺が着ているとはいえ、外から見れば紫髪の女の子が自分に合った可愛らしい服を着ているだけであった。それを見たお婆ちゃんは大喜び、その晩のご飯はお婆ちゃん自ら、お祝いと思えるほどの豪勢な食事を作るほどのテンションの高まりようだった。そのためか、お爺ちゃんとお兄ちゃんが何事かと思っていたが。
実際に鏡で現在の姿を収めている姿を見ているが、俺の姿は儚げな印象を与えつつも可愛くまとまった感じである。俺が見ても可愛いと思うくらいだ、お婆ちゃんは長年の夢分、もっと良く見えていたことだろう。
「…………えーと、ユタカ、今大丈夫か?」
……そういや、あまり自分では笑っていた記憶が無いため、この顔ではどんな感じになるか分からない。試しに、にこっと笑ってみた。……うん、存外悪くない。今度は手を前で組んで笑っいつつ頭を下げてみた。うむ、メイドさんみたいで可愛らしいが、中身が俺でなければ素直にそう思えたのだろう。最後にくるくると回ってみる。スカートの部分がふんわりと浮いてくる。どこぞの貴族令嬢やお姫様辺りがやりそうな行為だと、少し笑みがこぼれてくる。セリフは、「ふふふっ、私、綺麗でしょうか?」あたりだろうか、ちょっとストレート過ぎるな、もっと凝ったセリフの方が良いだろ、うな…………
「「……………………………………………………」」
「…………あの、カズマ、見ましたか?」
「おお、鏡に笑いかけていた時からバッチリと。さっきから声をかけても反応がなかったから驚いたぜ。しっかし、ユタカも可愛らしいところもあるんだな。その服、俺はいいと思うぞ!」
止めてくれカズマ、その言葉はもろに突き刺さる。
「…………い、一旦着替えてきますので、少々お待ちください!!」
何でこう言う時に限って見られるんだよ!くそっ、くそっ!顔が熱い!
――――――――――
「……私、今から売られて行く、捕まった希少モンスターの気分なんですけど……」
「…………それは私もです。とりあえず仕事が終わるまでは頑張りましょうね。」
そして今現在、俺とアクアは鋼鉄製のオリに閉じ込められている。というのもアクアが選んだ依頼、湖の水の浄化を行う際に、出現するモンスターから身を守るためのものらしい。それだったらダクネスが盾になってカズマとめぐみんで倒せばいいはずだ。しかし、浄化に必要な時間が半日であるため、攻撃が一発で終了するめぐみんでは不測の事態に対応できない。その上、出現するモンスターがブルータルアリゲーターという、名前だけで危険な存在と分かるモンスターだ。ステータスが低いカズマでは太刀打ちできない相手らしい。
そこで、警戒と索敵可能で攻撃も可能である俺が呼ばれた、という事らしい。でもそれだったらなんで俺までオリに入っているのだろうか。というか、ダクネスくらいは挑発役として、モンスターをおびき寄せることくらいしてもいいんじゃないだろうか。あと攻撃役くらい誰か別の人でも頼めば良かったんじゃないか?……依頼料は貸し一つということにしておいたが、これならもっと高くしておいた方がよかったな。軽く後悔している。
「オリに一緒に入れたことに関してはアクアに言ってくれ。あいつがユタカなら信頼できる、一緒にオリにいてくれないと不安で作戦通りできる気がしない、とか抜かしたんだよ。あと、このパーティーと関わり合いを持ってくれているまともな人なんてユタカくらいしかいないからな。……頭の良い奴ほど、俺らとつるむことが少ないからな。」
カズマにはある種の悪運の星でもついているんじゃないだろうか。今度占えるスキルが当たったら試してみてもいいかもしれない。
「……私、ダシを取られている紅茶のティーバッグの気分なんですけど……」
ふぁっきん駄女神!!
―――――――――――
アクアが浄化を始めて二時間程度だな。オリには天井と床が鋼鉄の板ではあるが、柱の隙間から空が見えるため、『ポラリス』は問題なく発動している。現在は特にそういったものは見当たらないが……そう簡単に依頼達成となることはないはずだ、警戒はしておいて損はない。
「おーいアクア!ユタカ!浄化の方はどんなもんだ?湖に浸かりっぱなしだと冷えるだろ。トイレ行きたくなったら言えよ?オリから出してやるから―!」
……カズマ、女性にトイレのことを言うのはあんまりよくないことだぞ。
「浄化の方は順調よ!あと、トイレはいいわよ!アークプリーストはトイレなんて行かないし!」
アクアよ、お前それでいいのか?女性としていろいろと放り投げてないだろうか?
「…………わ、私は、一応平気ですので、気にしないでください。」
…………何で男である俺が一番恥ずかしがっているのだろうか?しかし、これも女性になった影響なのだろうか、トイレに行く頻度も男の時と比べて多くなっている気がするな。実際まだ平気ではあるが、もう少ししたらオリから出てトイレに行った方が良いだろう。
……というか、めぐみんもダクネスもふざけたこと言ってるし、何やってんだあいつら………………!
湖に大量の影が発生しているな、あれがブルータルアリゲーターだろうか。しかし、単体で来ると思ったが、あのくらいの群れ単位で来るのはそうて、い……なんか、数多くない?
―――――
多分、体感時間で四時間後くらいだろうか、もう太陽を見る暇すらないから分からないが、そのくらいは立ったはずじゃないだろうか。
「『ピュリフィケーション』ッ!『ピュリフィケーション』ッ!『ピュリフィケーション』ッ!ユタカ!もっと倒してええええっ!」
「………無茶、言わないでください、『コンプレスグラビティ』ッ!ここまで多いとスキルの発動と対処にもてこずるんですよ!」
現在、ブルータルアリゲーターに囲まれている。美味しそうな餌が二体もいるんだ、そりゃ、寄っても来るか。
「『ピュリフィケーション』ッ!『ピュリフィケーション』ッ!ギシギシいってる!ミシミシいってる!オリが、オリが変な音立てているんですけど!」
ただでさえ集中する必要がある『コンプレスグラビティ』に、アクアのうるさい声とブルータルアリゲーターの衝撃
「わ、わあああーっ!メキッていった!今オリから、鳴っちゃいけない音が鳴った!!」
ん、メキッ?スキルを発動させるための集中をしつつ、アクアが言った方向を見てみた。…………え、ワニの口が、オリの中に入ってるんだけど。思いっきり入ってきてる……侵入……食べられる?
「に、にゃああああああああああああああっ!?」
「わ、わああああああああああーっ!!ユタカが壊れたあああああ!『ピュリフィケーション』ッ!『ピュリフィケーション』ッ!『ピュリフィケーション』ッ!」
あ、やばい、もう無理だ、耐えきれない。…………その瞬間、ローブの下の方と下着が生暖かくなっていた。
―――――――――
「……ぐすっ……ひっく……えっく……」
「…………こわい、ワニ、怖いよぉ……」
…………太陽を見つめ、時間を理解する。浄化を始めてからもう七時間立っていたようだ。俺とアクアは二人仲良く体育座りをしている。もう、このオリから出たくない。出るとまたあのワニに襲われそうになってきて、怖い。というか、この歳にもなってお漏らしとか…………やばい、また涙が出てくる。
「ほら、浄化が終わったのなら帰るぞ。ダクネスとめぐみんで話し合ったが、俺たち今回、報酬は要らないから。報酬の30万エリス、全部アクアが持って行け。ユタカは……ここまでさせたんだ、無理のない限りでなら貸しはしっかりと返すからな?」
本当、ここまで怖い思いと恥ずかしい思いをさせたんだ。その対価分くらいは貰うからな。
「……おい、いい加減オリから出ろよ。もうアリゲーターはいないからさ。」
……そんなことあるか、あいつらは突然やってくるんだ。自分が思わぬところで出てくるんだ。
「……まま連れてって……」
「なんだって?」
そんなところでアクアの言葉に難聴を発生させないでくれ。鈍感系主人公でも、ここまであれだったら察してくれよ。
「……オリの外の世界は怖いから、このまま街まで連れてって。」
「…………あー、そのユタカは出るだろ?」
「……………………私も、このままが、いいです、ここ、怖くないです。ぐすん……」
もうワニ退治なんてやらん。やるにしても、もっと別の作戦でやってやる。
個人的にアクア様は朗らかな笑顔も素敵だけど、一番は泣いているところが好きです。
それと、やっと主人公を、念願のお漏らしをさせれました。
今度から反発等が無ければもっと漏らさせていきたいです。