【全知全能】になった俺がアイドルになって人生を謳歌していく 作:PL.2G
如何お過ごしでしょうか?
削除してから1月半位でしょうか?
再投稿です。
前編後編に分かれております。
どうも~。みんなのアイドル志っ希ちゃっんで~すっ!!
現在アメリカにあるホテルの中のとある部屋に潜入中~♪
そしてそして~。なんとなんと~。私は今っ!!お兄様のコートに包まって、ベッドの上でクンカクンカhshsしてま~すっ!!
にゃはは~♪お兄様は本当にいい匂いがするねぇ・・・
はぁ~♡hshshshs
重炭酸イオンとアンモニア、若干のアンドロステノンのバランスの良さ、あとは~よくわかんない解析できない謎の成分・・・謎の成分の要因が一番多い気がすると私は思っているんだけど・・・しかしそんな事より何よりも!!この匂いが私をトリップさせる~ぅぅぅぅうっふぅぅぅぅ↑
「hshshshshshshshshs」バタバタバタバタッ
「・・・そいっ」ガバッ!!
「にゃああああ~~~~~!?」
コートが舞い上がると共に自身の身体に浮遊感が生まれる。コートに付いた香りを逃すまいと懸命にしがみつくも、重力と言う名の絶対的な力に、非力な私は為す術なくあっさりと、ベッドに落ちて行くしかなかった。
「ぎゅんっ!?」
顔から落ち、その衝撃で口から変な声が出る。
「む~!!お兄様~!!志希ちゃんのコートを盗らないでよ~」
間髪入れず顔を上げ、コートを奪った犯人に抗議する。
「お!れ!の!コートだ!勝手にお前のにするんじゃありません!!」
高く掲げられた
「にゃははははっ。志っ希ちゃんのっ物はっ志っ希ちゃんのっものっおっ兄様のっものもっ志っ希ちゃんのも~のな~のだ~!!ふふ~ん♪」
腰に手を当てつつ、お兄様に抱き付いて直接嗅いでしまえば良かったと結構かなり物凄く後悔した・・・が、ここまで盛大にやったのだ。挫けてたまるかと、ドヤ顔で最後まで泣く泣くやりきることにした。
「どこぞの小学生ガキ大将みたいな物言いはやめなさいっ。女の子でしょ!!」
怒る所はそこ?と言う所をお兄様に注意され、てぃやっとおでこに『愛のチョップ』が振り下ろされる。
その構えが取られた瞬間、避けられそうも無い程のスピードで振り下ろされるチョップ。分身とか残像が生まれるレベルの速さで振り下ろされるこのチョップ、これが全然痛くないのだ。これこそ我々【一ノ瀬兄妹・愛の奥義】が1つ【愛のチョップ*1】!!!
「いやんっ♡お兄様が虐めるぅ~ん♡」
「何ちょっと悦に浸ってんだよ・・・」
お兄様に弄られると、不思議と何故だか身体が悦んでしまう。
なので正直に思った事を包み隠さずに言う。
「ご主人様に躾けて頂いた賜物ですわよ」
お兄様はあからさまな溜息を一つ吐くと、やれやれといった感じで額に手を添える。
「キャラがおかしい。後、せめてもう少しだけで良いから自我を保ってくr「うんそれむり~♪」頼むから最後まで言わせてくれよ・・・それと誰がご主人様だっ!変な勘違いされちゃうだろ!!」
「にゃはは~♪だいじょうぶだいじょうぶ。今日本語で喋ってるから聞こえててもきっと意味わかってないと思うような気がしなくも無いかな~」
改めまして私の名前は、
自慢のお兄様、【世界の騎士様】こと『一ノ瀬 騎士』の妹である。
ちなみにお兄様は、この二つ名が好きでは無いみたいだけれど、私は単純に格好良く思っているので好きだったりする。何が気に入らないのか正直わからないけれど、それ以前にお兄様の感性は一般人のソレとは大きく外れていたりするので今更な疑問でしかない。
ただし、私がこの二つ名を使うと、何故かとても寂しそうな顔をする。
だからその顔が見たくなった時や、弄られた時の仕返しなどに使ったりしている。
お察しの通り私はお兄様の妹だ。ただし妹と言っても【義妹】だ。
血は繋がって居ないのだっ!!義妹なのだ!!義理の妹なのだっ!!
え?なんでそんなに強調したのかって?
なんか義妹って響きだけで、
それにMPは高い方が色々便利って聞くし──と、こんな
「ねぇねぇ、お兄様?」
さっき程までの冗談じみた雰囲気から転じて真面目に、張りつめた糸の様に真っ直ぐとお兄様を見詰める。
「どうした?早く支度しなきゃならんから手短に頼む」
そして頭の中で思いを込めて築き上げた文字列を、私の声と言う音に変換し言葉として発声器官から産み出す。
「わたくし一ノ瀬志希は、お兄様こと一ノ瀬騎士を、心底より、お慕い申しております」
嘘偽りなき心からの
これで、通算何度目になるのだろうか?
そして──
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──8年前
一ノ瀬 志希 9歳。
今より更に小さい頃から何をやっても面白くなくて、周りの人も凄く幼稚で、低能でバカばかりで、そんな環境が面白いわけが当然無くて、退屈で退屈で、本当に退屈でしょうがなかった私。
そんな私の前に突如連れて来られた2歳年上の男の子。
コイツが私の兄になるのだと、両親から言われた。
当時の私の感想としては、「なんなのこいつ?」もしくは全く興味がなかったかのどちらかだったと思う。
しかしコイツの存在は、後に私の人生観を、人間性を非常に大きく変える事となる──
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──5年前
一ノ瀬 志希 12歳
彼が来てから早や3年。
私は彼を家族と認めてはいなかった。
大概の事は出来ると思っていた私より、なんでも出来てしまう。
アイドルをやっているからとかで、どこへ行っても誰に会ってもちやほやされる。
お父様やお母様の本当の子じゃ無いくせに、持て囃される。
コイツは、もはや私の居場所を奪って行くだけの憎き敵でしか無かった。
──今に思えば、これって只の嫉妬だった。
親に構って貰えない子供の本当にくだらない我儘な態度だ。
本当に私は子供だった。
閑話休題──
結局、彼が来てから何かが大きく変わったのかと言うと、特にそう言った事は無かった。
強いて言うならば、私に新しく楽しいと思える事が出来た事だろうか。
それは、『お近づきの印に』と、彼が私にくれた物。
小学生の私の手のひらに納まる程度の大きさの、綺麗な装飾の施されたオシャレな小瓶。その中にはかき氷のイチゴシロップよりももう少し薄い透明な赤色の液体が入っていた。
「あけてごらん?」と催促されて小瓶の栓を抜く。今まで小瓶に封じ込まれていたソレは、私の鼻腔を通り抜け、脳を経由する。そして、まるで稲妻に頭の天辺から貫かれたように脊椎を通り、足の裏、手足指の先から毛先まで、一瞬も掛からず刺激として全身を駆け巡って行った。
この謎の刺激物、その正体を探ろうと記憶の海の中を私の脳細胞は総動員し始めるも、そんな必要が無かったのかと思われる程に簡単に答えが出る。
『香水・・・?』
『そっ。良かったら使って』
そう言って彼は立ち去る。
私はその言葉を聞こえてはいたが聞いていなかった。
私は夢中になってその香水の匂いを嗅ぎ続けていたから──
──楽しい事、それは【匂い】に関しての研究だった。私はその香水を貰った時に気が付いた(それがきっかけだったと言うのが気に食わなかったが)。
良い匂いを嗅いでいると、とても楽しい気持ちになれる、と。嫌な気分がどこか遠くへ行ってしまう、と。身体の奥からえも言えぬ気持ち良さが押し寄せてくる、と。それはまるで麻薬・・・私にとってまさに匂いとはソレだった。
私は得てしまった。
私は知ってしまった。
私は感じてしまった。
ソレらは私の興味を加速させ加熱させた。追求すればするほど、自分が天才だと自負しているからなお、香り、匂いに関しての謎や発見が尽きる事が無かった。
人それぞれの嗅覚の違いによる匂いの好嫌。同種同族間であるにも関わらず発する個体差のある香りの違い。人間では到底嗅ぎ分けられないだけで、実際は香りを発しているものなど、語りだしたら限りのない程にこの
──これがあったからこそ私は私として、普通に
しかしこの後、ある程度まとまった私の生き方に、あろう事か
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──3年前
一ノ瀬 志希 14歳
「う゛~~っ!!んっもうっ!!わっかんないよっ!!!」
髪の毛をグシャグシャと掻き毟り、机の上に載っている隙間無くびっしりと異国語が書き込まれたルーズリーフを右へ左へと自分の気持ちの赴くままに巻き上げ散らかし暴れまくる。
少し遠めに置かれているアルコールランプや試験管、フラスコにメスシリンダーなどに代表するガラス類の実験器具をムシャクシャしているとは言え、そのように扱うことは流石に躊躇われた。
ある程度暴れ終わり、冷静さが扉を開けて私の中に帰って来た頃、机に突っ伏し「あ゛~」と年頃の女の子が出して良いとは思えない唸りを上げる。
ここは、パパが勤める
ただ、基本的には私が1人で使っているのだが──それを考えた時、無意識に舌打ちをした事に気付き、それをした自分に嫌悪感を抱く。「私はなんて嫌な人間なのだろう」と。
前述した通りここは私と彼の2人に宛がわれていたが、実際に使って居たのは私だけ。
この事実が先程の様に私に舌打ちをさせた。
無意識下にそこまでさせる理由は何か?決まっている。いつまでも燻って消えない彼への醜いまでの嫉妬のせいだ。
なぜ彼は研究室を必要としないのか?それは・・・彼は日常的に研究を必要としないと言う至って簡単な理由からでは無い。
彼が優秀過ぎるが故に、研究をする必要性が無いからだ。結果を、結論を、深淵を求めなくても良い人間なのだ。
なぜそこまで言うのか。それにはちゃんと理由がある。そこに確証は無い。だけれどそれにはそれを言うだけの確信はある。
過去、今の様に私が頭を悩ませる事が少なからずあった。
因みに言っておく。私は研究を始めて1年で、
悪いが平々凡々な一般人には到底無理な事だ。
そんな私が悩む、頭を抱えるのだ。そこら辺の脳が持つ思考力、発想力程度では到底思いつきもしないレベル。それ程とまでだと言いたくなる問題なのだ。
因みにここで言う一般人の思考力を、算数を習ったばかり、『足し算・引き算』を覚えた人程度と仮定する。その場合、私は『カントールの定理の証明と対角線論法』を覚えた人だ。これ程の差だと考えて貰えると解りやすいと思う。
更に私の考える彼は・・・『ヒルベルトの23の問題のうち、第12問目』を解き明かした人。
それ程の差だ・・・
閑話休題──
──ノーベル賞の時に出した成果の研究の時、当時行き詰っていた私の前に彼は突然現れてこう言った。
『それさ。こっちじゃなくて、こっちで試してみたら?』
右手に持っていた試験管を下げ、左手に持っていた試験管を持ち上げる。
「コイツは何を言っているんだ」と思った。「なんにも解っていない」と。
現在、実験の段階は素人が口を出して良い筈が無い領域になっていた。バカにするのも大概にしろと言わんばかりの気迫を込めた視線を彼に向ける。
だが彼は飄々と、私の事を気にも留めず左手に持った試験管に入った溶液を、実験中の(予備に幾つも用意された)物に流し入れた。
直後、
「えっ──」
後は、あれよあれよと言う間にノーベル賞である。
その時はたまたま・・・そう、
幾度かの彼の口出しの後、彼の最初の口出しの事を思い出し始め、考えた時に、とある違和感に辿り着く。
彼は最初から私の実験に、研究に携わって居た訳ではない、と言う事に。私はずっと独りでやってきた。
しかし彼はこう言った。『それさ。こっちじゃなくて、こっちで試してみたら?』と。
これはどういう事か?まるで今までずっとこの研究の過程を見て来たかのよう口振り。今までに使用してきた
その後の研究を鑑みても、私から少し話を聞いただけの実験も、研究の経過を少し眺めただけのも、それどころか何も見ずとも、聞かずとも、事も無げに、さも一般常識を問われたかのように、それらの答えをまるで知っていたかのように、悉く彼は正解の道を、私が最も欲しいと思っていた
だから・・・私はある日ある時彼に尋ねた。
「あなたはいったい何者なの?」
彼はキョトンと、次いで「今、なんて言った?」と訝しげな顔をする。
「あなたはいったい何者なの?」
重ねて質問をしてすぐ、彼は右手を顎に当て熟考し始めた。
彼のその姿を見て驚愕した。彼を家族と認めては居ない。だが、それでも法律上は家族であるために住居は同じ。同じリビングで同じテレビを見る事もあるし、同じ時間にご飯を食べる事も多い。同じ学校に登校して居た事もある。
そんな普通な生活の中、一緒に居るからこそ彼の異常さが目についた。
まず、いかなる事に対しても、彼は『思考時間』が無い。少ないのではなく、無い。彼は悩まない、躊躇いが一切存在しない。
ある時、それを裏付ける出来事が起こる──
──クイズ番組を見ている時の事、彼は小さく口をパクパクと動かす。その時は晩御飯時だったため、ただの咀嚼だと思っていた。パパが番組を見ながら「この問題の答えは解るかな~?」と私たち2人に聞いてきた。どこの家庭でもありそうな良く見る家族風景であろう。その間も彼は咀嚼を続けていた。私はそのパパの問いに、彼を見つめながら間髪入れずに答えた。私に続く形でテレビの中では頭脳派芸人と言われてた人が間違え、次いで今代の雑学王と言われた人が正解を答え歓声と共に拍手が沸き起こる。それを見計らってか、パパは「さっすが志希ちゃん!やっぱり俺たちの子供は本当に賢い子だなぁ。間違いなくお父さん達より頭が良いな!!」と私に頬擦りしながら頭を物凄い勢い撫でまわす。
私はパパに揉みくちゃにされながらも彼にどうだと言う顔を向ける。ふと、ある事に気が付き自分の唇に触れる。
先程自分がした解答の口の動き、そしてパパが問題を出す前に彼がしていた咀嚼の動きと非常に似ていた・・・いや、同じであった事に。
そこに気付いた瞬間から、彼の観察が始まる。
結果、彼は問題が出題されるより先に解答を呟く(声は出ていないが)。
実際そんな事が可能だろうかと沈思黙考する。番組制作者?再放送?現場にいた?そうであれば、ある程度記憶力に自信のある人(ちなみに彼は規格外の記憶力の持ち主)であった場合、容易に今の様な事が可能であろう。では、今回のように
そんな状態の問題を、出題前に答えられる人間など誰一人居ないだろう。運に任せてたまたま100%を取れる人がいるかもしれないが、そんなのは宝くじの1等を10回当てるより難しい事であろう。
彼は解答がわかる人間。少し先の未来が見えている人間と予測立てるものの、考えている自分自身が馬鹿らしくなってくる。しかしいくら考えたところで私の脳はそれしか無いと悟る。
それで私は納得する他無かった。それ以外の答えは私にとって違和感しかなく、逆にその答えはありえないと思いつつもパズルのピースが綺麗にカチリと嵌るようにストンと胸に落ちていった。そうであるが故の思考時間が無いと言う結論に至るわけなのだが──
──私の中でそんな存在である彼が『悩む・考える』と言う行動をとって居る現状が私には信じられなかった。
しかし今はそれ以上に、最初の問いかけの答えが気になって、先程の疑問もそうだが、次々と湧いてくる他のどんな疑問も、私の脳はたちどころに他所へやってしまう。
「本当にアナタはなんなの?」
三度目。
「志希は──」
彼は一度言葉を切り、大きく息を吸う。
そして何か覚悟決めたのか、まっすぐ私を見つめ言葉を続ける。
「──なんだと思う?志希に、俺はどう見えてる?」
「異常」と、口を開きかけ止まる。なぜか?わからない。彼の顔を、瞳を見ていたら躊躇われた。
そして私が再度口を開くかと言うより先に彼が語り出す。
「俺は、お前が思っている以上に、遥かに遠い彼方の【異常】さを持っているよ」
彼は私に笑いかける。しかし彼の瞳には生者の証たる燦燦たる輝きが灯って居ない。
その生を感じない笑顔に私の身体が粟立つ。
「生まれたばかりの頃は、俺は普通だったと思う。でも二年後、俺は何をしても全然面白くなくなった。本当に面白くなかった。生きる事も生きている意味すらも面白くなかった。でも、そんな俺に、まったく新しい出来事が起こった」
私は彼の言葉に耳を傾け耽々と聞き続ける。
「志希と出会った。俺は、志希と出会って、そして・・・志希を助ける事を始める事にしたんだ」
言っている意味は解らなくも無いが、訳が分からなかった。
『助ける事を始める』とは、一体全体どんな日本語だ?理解が出来ず頭の中で細かく噛み砕き味わって咀嚼する。
『助ける』を『始める』。
助けるというのは、基本的には救う事だ。その状況下においての上位者が、下位者に対し手を差し伸べる事だ。
始めるとは、やっていなかった事をやること。行っていなかった事を行う事。動いていなかった物事を動かす事。他にもあるがこの辺りで良い。
要するに私と言う下位者を彼と言う上位者が、見かねた為助けてあげようと動き出したと言うことか。
私は彼を見つめる。それを見た彼は訝しげに見つめ返してくる。
「ふっ・・・ざけるなっ!!!」
机を叩き私は激昂する。当然だ。あれ程解り易くあからさまに馬鹿にされて怒らない奴は、自分がやってきている事に誇りもプライドも責任も楽しみも何もかも持っていない抜け殻みたいな奴等だけだろう。
「お前みたいにっ!!なんでも出来る訳じゃないんだよっ!!人間は!!私はっ!!」
彼はツマラナイ物でも見るように、その瞳に一切の色を浮かべずただ黙って私を見つめる。
「知ってるよ!!わかってるよっ!!どんだけ考えたって!!どんなに悩んでみたって!!自分で答えに行き着かなかった事くらい!!」
「だからって・・・そんな事──」
自分の吐き出す言葉が惨めで悔しくて、手が痛くなるほど握りしめる。歯茎が痛くなるほど嚙みしめる。
「──それでもっ!!アンタに!!そんな死んだ
こんなのはただの当てつけだ。
でも抑えられなかった。
抑えきれなかった。
肩で荒く息をする私を見つめながら、何事も無かったように彼は口を開く。
「俺は、やっと・・・やっと自分のやった事が無い、経験した事が無い、
「結果が・・・見えない?」
彼は私の疑問に構わず続ける。
「俺ってずっと一人っ子だった。だから、兄弟になった事が無いんだ」
また意味の解らない独特の日本語が出た。『兄弟になった事が無い』。
一人っ子なら当然だろう。
「だから、俺は志希と言う妹を得て、初めて兄と言う存在に成り得た。これはとてもとても不思議なものなんだ。職業でもない、生理現象でもない、自然現象でも事象でもなんでもない。だけどそれはこの世に確かに存在しており、ちゃんと存在として認識されている。今、俺は世の中から『
彼が何を言っているのかが全然わからない。一先ず『兄』と言う立場に喜んでいる、と言う事で良いのだろうか?
彼の話が突飛過ぎて最早先程までの業火の如く燃え上がっている怒りが鎮火しそうですらある。
「そしてそんな存在として志希と暮らして行く中で、俺はある事に気が付いた」
彼は話を止める事無く淡々と語り続ける。
「志希ってさ、俺と似てる所があるんだよ」
彼は急に寂しそうに笑い、あろう事か私と似てると言い出した。
「俺は志希の兄として、志希に・・・俺みたいになって、俺みたいに生きていて欲しくないと、そう思ってる・・・」
俺みたいになるなとはいったい何のことなのか?
「俺みたいに人生をつまらなく退屈に生きないで欲しいと思っている。切実に願っている」
それは少し難しい話だと素直に思った。
もう既にいくらかつまらないと、退屈だと思ってしまっているのだから。
しかし、やはり天才と言うモノは世界に飽きてきてしまうものらしい。
そう言われてみれば成程、存外似ているのかもしれない。
「志希は、俺が志希を見下していると思っているかもしれないけどさ・・・俺は志希の事を一度たりとも下に見た事なんてないよ。いつでも一生懸命で、情熱的で・・・寧ろ羨ましいとさえ思ってるよ。なんなら嫉妬したりもしてたさ」
この何でも出来る彼がいったい私の何を羨ましがり何に嫉妬すると言うのだろう。
最早彼の話す何もかもが胡散臭くなってきた。
「俺はさ・・・何でも出来ちゃうんだ・・・。本当に、きっと、何でも・・・ね」
聞いても居ないのにコイツは何を言っているのか。ひどく嫌味な奴だ。
「今の一言は志希にとって嫌味に聞こえたかもしれない。でも、この何でも出来るって事が当然になってしまった場合、出来ないって事が逆に輝いて、眩しく見えるんだよ。まさに無いもの強請りってヤツだな」
確かに何でも出来るが当たり前ならそうかも知れないけど・・・
何でも?出来てしまう?
「ねぇ、何でも出来るって・・・」
「あぁ・・・何でも出来るぞ。今志希が思いつく限りの事何でも。それこそ空を飛ぶ事だって数日も掛からず出来る様になるだろうな。漫画に出て来るような空を飛ぶ術から、米国ヒーローの様にパワードスーツを作り上げ、それを使い飛ぶ事だって・・・まぁ試した事無いけど取り合えずやり方は
間髪入れずにとんでもない事を乾いた笑いと共に可能だと言い放った。
しかもそんな自信に満ちた言い方で言われた所で確認のしようが無いので嘘かどうかも分からない。
とりあえず、私は簡単に出来そうな、今、最もして欲しい事をお願いしてみる事にした。
「そんな事より、私の兄と言う立場をやめてもらいたいって言ったら?」
彼はキョトンとした顔をする。今日で何回目だろうか?
「ぷっ・・・あはははっ!!!志希はやっぱり凄いなっ。くっくくく・・・生まれて初めてだよ。俺が、俺一人で出来ないと思わせる事を言って来たのは。くっくく、ふふふふふ・・・なるほどね、くくくっ」
──この時、本当に楽しそうに、嬉しそうに笑っていた事を覚えている。
私の今までの人生の中で今のところ最初で最後のお兄様を負かした瞬間だった──
「しかしそっかぁ・・・志希は、俺が志希の兄の位置に居るのがそんなに気に食わないのかぁ・・・やっぱりはっきりと面と向かって言われるのはきっついなぁ・・・はは・・・」
今度は寂しそうな顔で笑い始めた。
いつもは能面を顔に貼り付けたみたいな、常に違和感のあるヘラヘラ顔をしている印象だったのだけど、存外普通に表情はコロコロと変わるものなのだな、と変な所で感心した。
正直こんなにしっかりと彼の顔を見るのはこの時が初めてだったのかもしれない。
「でもなぁ、志希がどれだけ俺を嫌っていても、志希は俺の妹で、俺にとってはとても大切で何者にも代えられない大事な大事な家族なんだ。そこにどんな理由や法則があろうが無かろうが、それは俺にとってはまったく関係ない。結果的に今は家族なんだ。だから俺は俺の勝手や我儘、独断と偏見で志希の兄でいたい、そうありたいって、そう思ってるんだ」
結局の所やっぱり、
「・・・」
言いたい事は言い切ったのか、優しい感じで微笑んでいた──しかしその微笑みすら無意味にするほど在り得ないくらいの冷たい眼差しをしていた・・・
それは、過去にどこかで見たことある眼差し・・・
今から5年前、本当に世界に退屈していた頃、鏡で見た自分の眼・・・
ただし似たような眼差しってだけであって決して同じとは言えないものだ。
私の時よりも更にひどく澱み、何処までも深く黒く、それはまるでブラックホールの様で、ずっと覗き込んでいたらその闇に吸い込まれてしまいそうな、そんな瞳の色・・・生者の燦々たる光を一切宿させない色。
どうして彼はそこまで澱んだ瞳をしているのだろう?
私と同じように世界に退屈してしまったから?
ちょっと考えた結果、別の答えが出た。
【
さっき彼は言っていた、『なんでも出来る』と。
私は自分に置き換えてみた。
もし私が何でも出来るとしたら・・・
──やった事も無い事、聞いた事も無い事。
それを突き付けられ、「やってみてください」と言われる。
そして、少し見ただけで、少し触っただけで、事も無げに、
何の変哲も無い普通の紙を両手で破り捨てるように簡単に事を成す。
しかも、それを生業としている人達よりも遥かに高い練度で・・・
──ゾクッ──
寒気がし粟立つ・・・
【つまらない】
【やる意味が無い】
【価値も無い】
なんだこれなんだこれなんだこれ?
頭を押さえ蹲る。少し考えただけで気が狂いそうだ。
何をやっても何でも出来てしまうって苦痛以外のナニモノでもない。
ヤバイヤバイヤバイヤバイ・・・
私の防衛本能が即座にこの思考を、熟考する事を、妄想・想像する事を良しとせず遮断をする。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
右手を額に当てる。1分も満たない思考で、人間はここまで汗がかけるのかと言うほどの水分が右手を濡らす。
先程の思考を基にし、再度思考する私の脳──
──目標・過程・行程・段階・結果・・・こう言ったモノがあるから人間と言う名の生物は色々な事に挑戦をしてみたり活動したりするのだと考える。
そして、そこに快楽や娯楽を求めるモノも少なからず、と言うより殆どがそうだろう。
しかし、彼はどうだろう?
目標が出来たとしてもきっとものの数秒で、もしかしたら秒も掛からないかもしれない。その目標の到達地点が、その到達地点である結果を基にして過程を出そうとしても、きっとそれを含めた全てが出来上がって居る事だろう。
要するに解答が書かれているテストだ。
欄を埋める必要も悩む必要性も無い。そんな状況で、鉛筆を持って周りの人間と、同じ時間を過ごさなければならないのだ。
何秒間も何分間も何時間も何日間も何週間も何か月も何年も何十年もこれから先死ぬまでずーっと・・・
みんなが一生懸命頑張って各々の思い付いたままの絵を何時間も掛けて描いている中、自分一人だけは完成されている何年と見続けた絵をただただ眺めている事しかできない。
何でも出来る、出来てしまう、答えが結果が見えているからこそ何も見出せない。
何でも出来てしまうが故に新しいことが何も出来ない。
何もない。本当に何もない。自分にあるのは手に取れる見えた結果だけ。
これは正に【空白】・【虚無】だ。
結果があるならそれは【空白】や【虚無】では無いのでは?と思うかもしれないが、そんな事は決してない。
結果しかない、自分で得られる物が何も無い。
一体彼は何を見て、何を思って、何を感じて、何を信じて今まで生きてきたのか・・・
そんな彼は何故ここまで生きてこれたのか?
私は今、目の前に居るこの存在がここに居る事が信じられなかった。
そんな事を考え耽っていた私に、一つ、不意に、本当に不意に思い浮かんだ事があった。
「そんな、何でも出来るって言うんだったら、その何でも出来る事を出来なくする事だって出来るんじゃないの・・・」
「は?」
「だから、その何でも出来る事を出来なくする事も出来るんじゃない・・・の・・・かな~と・・・」
私はバカか?
「・・・」
「ど・・・どうしたの・・・?」
余りのバカげた発言に呆れてモノも言えなくなったのかと言うように
彼は俯いてピタリと動かなくなってしまった。
電池の切れたオモチャみたいに、本当に動かなくなってしまった。
息もしていないんじゃないかと思うくらいに。
しかし、それは時間と共に変化が訪れる。
小刻みに震え始めたのだ。
「ふ・・・・・・・・・・・・ふ・・・・・・・・・・・・ふ・・・・・・・・・・・・」
「?」
正直不気味だった。凄い間隔を開け、「ふ」と言っているのだ。
「ふっふふふ・・・ふふふ・・・ふふふふふふふ・・・」
笑っていたらしい。
「ふっふふふふふふふふふははははははあ──っはあははははははあはははあはっははっはっはっ!!!!!」
突然の爆笑だった。
「あっはっはっはっはっはっはっはああぁぁぁぁっははははあっはっは、ひぃぃいっひっひっひひひひっひぃぃいいっひ!!!!」
腹を抱え床に寝転がり身悶えしながら笑い続ける。
「っはっはあはっはっはっはっはっ!!!!」
床を平手でバンバン叩きつつ笑い続ける。
正直ドン引きだ。最早此処に居たくなくなってきた。
「はあはっはっはぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・ははっはぁ・・・」
どうやら落ち着いて来てくれたようだ。
「志希。いや、志希は天才だ。俺なんかより遥かに天才だ。そうか。そうだ、そうだよな。俺は何でも出来るんだ。そう、何でも出来るんだよ。今まで何度も色々と試して来たじゃないか。今までに俺は。なんでそんな事に気付かなかったんだ、今まで」
涙まで出ていたようで、目じりを手で拭いながら、半笑いでそう話す。
「気付かなかった?いままで?」
思い付かなかったそうだ。余りの事に呆れる。
「あぁ、そうだ。思い付きもしなかった。考え付きもしなかった。俺は自分の出来る事は当たり前に出来るモノだと思っていたから、それを無くすと言う考えには至らなかったよ」
ん~?あぁ・・・なるほど?要は、目が見えているのは人間として当前の機能であり、見えなくさせることを自発的に考えない、とそんな感じなのではないだろうか?なんとなく、と言うよりは間違いなく今の考えで答えはあって居るだろう。
「その考えであっているよ。さすが天才だ・・・もしかして・・・これも踏まえての【楽しむための選択】だったのか・・・?【YES】じゃねーよっ!!」
変な自問自答をしている。本当にヤバい奴だ。
「ふ・・・ふふ、無くす・・・無くす、ね。最高、サイコーだよ志希」
両手を前にワナワナと震えだす。怪しい。
「早速やってみるか。全部消すんじゃなく機能別に制限とか掛けてみて・・・ここにきて柔軟な考えと言うものを手に入れられた気がするよ。やっぱ兄妹って言う存在は凄いんだな」
そう言って彼は私に笑いかけた。
その見た事のない無邪気な笑顔はとてもとても可愛くて可愛くて仕方が無かった。
私は一体何を考えているのか・・・
「なぁ、志希」
「はっ・・・はいっ!?」
至近距離で急に彼から名前を呼ばれ、声が上擦った。
ヤバい、鼓動が早い。
──って言うか、コイツこんなにカッコよかったっけ?
────そう言えばアイドルとかやってたんだっけ・・・
──────そもそもコイツの顔をこんなにまっすぐ見たのっていつ振りだろう?
────顔小さいなぁ・・・スタイルいいなぁ・・・いい匂いだなぁ・・・
ああ~クソッ!!自分の思考が、身体が
「本当にありがとう、俺の妹が志希で本当に良かった」
「そしてゴメン」
「はい、どういたしまして。それで・・・あの・・・」
もう制御できないので素直にその流れに任せる事にした。
「ん?」
「お兄様と・・・呼んで良いですか?」
「!?・・・もちろんっ!!」
──その時・・・私たち二人は・・・きっと今までで一番いい笑顔をしていた気がする。そんな気がした──
・・・・・・・・―X8
後編へ続きます。