【全知全能】になった俺がアイドルになって人生を謳歌していく   作:PL.2G

17 / 29
第7話のside storyです。

第9話の中編?後編?

あれはまた別の話です。

どうぞ。


Seventh side story ~ 秘密は最高のスパイス ~

俺と月夜さんは今、346プロの会議室で静かに資料を読んでいる。

打ち合わせはどうしたのかって?

 

それは・・・

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

英雄(ひでお)の話の直後、俺達2人は大急ぎで346に向かい、到着早々に受付を済ませ、

打ち合わせの場所を聞き会議室へ向かった。

この時、受付の女性が不思議そうな顔をしていた事にもっと疑念を抱くべきだったと【半知半能(ちゅうとはんぱ)】ながらに後悔している。

 

会議室の扉の前に着き2人で深呼吸をする。

『ヨシッ』とお互いに覚悟を決め頷き合い、ノックをして入って行く。

 

「「大変申し訳ありませんでした!!」」

 

そして2人で揃って頭を下げた。

 

「えっ?」

 

しかし、中から聞こえてきた言葉は全く予想だにしていない言葉だった。

 

「いや、あの、ですから、遅れてしまって・・・申し訳な・・・えっ?」

 

恐る恐る頭を上げつつ中を一瞥する。

会議室の中はがらんとしており、

楕円形の大きな会議テーブルに資料を並べている人がたった1人居るだけだった。

 

「これはこれは、騎士さんではありませんか?8723の方は流石といいますか・・・お早いですね。

 しかし・・・こんなに早く来られるとは・・・しかも先ほどの謝りと良い・・・

 もしや何か問題でもございましたか?何でしたら代表をお呼び致しますが?」

 

所員さんは慌て始める。

英雄のヤツ・・・

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

「っくしょいっ」

 

ズズッと鼻をすする。

 

「くっくっくっ、騎士のヤツ、今頃イライラしてっだろうなぁ~」

 

騎士を騙すのは本当に面白い。

退院後、人間味が増したお蔭か更に騙し甲斐がある奴になった。

 

「次はどうしてくれようかなぁ・・・くっくっくっ」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

346の所員に大したことは無いと事情を説明。

 

「ふふふっ。こほん・・・失礼致しました。しかしそれは災難でしたね・・ふっ・ふふっ」

 

「いえ、お気になさらずに・・・」

 

まぁ他所から聞けば笑い話だろう。

 

「あの、騎士さん・・・これは一体・・・」

 

英雄(あのバカ)の仕業ですよ・・・会議の時刻はまだまだ先って話です」

 

未だ理解が追い付いていなかった月夜さんに簡潔に説明する。

 

「社長は良い人なのか悪い人なのか・・・、たまーに判断付け辛いですよね・・・あは・・・あははは・・・」

 

「物凄い悪い人だ」と即答し、本来の打ち合せの時刻より2時間程早く席に着く俺たち。

 

「今、お飲物をご用意しますので、暫くお待ちください。

 まぁ・・・暫くと言っても、まだ1時間以上あるのですが・・・

 なんでしたら、この敷地内にカフェがございますからそちらでお暇を潰し頂く、と言った事も可能ですよ?

 時間までは自由にして頂いて構いませんので、上階にエステなどもありますので、そこでリラックスなんていうのも」

 

「ああ、いえ。こちらで待たせていただきます。お気遣いありがとうございます」

 

「そうですか、わかりました」

 

資料を並べ終わり、俺たちが来た旨を内線で伝え、

次いで飲み物も取急ぎ持ってくるように、と伝えていた。

 

「あの・・・この資料、中を拝見させて頂いても大丈夫ですか?」

 

受話器を置いた所員に、月夜さんが聞いた。

 

「はい、詳細について後程議論いたしますので、お互い理解の為、ご確認よろしくお願い致します。

 申し訳ありませんが、一度会議室(こちら)から外させて頂きます。今暫くお待ち下さい」

 

そう言って頭を下げ、所員は会議室を後にした。

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

で、今に至る。

 

会議室には資料を捲る音、カップがソーサーに置かれる音が響くのみだった。

 

「・・・」

 

ペラッ

 

「あの、騎士さん」

 

「ん?」

 

穏やかなる静寂を破り、月夜さんが話し掛けてきた。

 

「どうしました、月夜さん?」

 

「あの、ここの事なんですが・・・」

 

月夜さんが見せてきたページ。それは近い内に開催される346提供のライブ、

そこに、俺がサプライズで出演する事について書かれたページだった。

 

「開催までの期間が非常に短いので、騎士さんのトレーニングとか色々時間が取れそうにないんですよね・・・」

 

【騎士のスケジュール帳 英雄's スペシャル】と書かれた手帳を見ながら話をする月夜さん。

その手帳に今日の会議の事は書いていなかったのか・・・不憫すぎる・・・

今後の俺のスケジュールは全て月夜さんに把握して貰いたいので一刻も早く一人前になってください。

今の俺には「頑張れ」と呟くことしか出来なかった。

 

「えっなにか言いましたか?」

 

「いや、何でもないよ」

 

「でも、やっぱ無理そうですよね・・・病み上がりですし・・・」

 

月夜さんが心配そうな顔をする。

 

「いや、資料を見た感じサプライズで出演する曲は2曲ですし、

 その後は自分の曲を1~2曲披露するだけみたいですから大した問題は無いかと」

 

所感を述べる。

 

「はぁ・・・でも・・・」

 

それでも彼女の不安は消えないらしい。

 

「大丈夫ですよ、伊達に【全知全能】と呼ばれてないよ」

 

しかしと言うか、やはりと言うか、彼女の暗い表情はそのままだった。

 

「でも・・・社長が言ってましたよ。

 『アイツは以前より色々出来ない事が多くなった』って・・・

 【出来る事が少なくなった】、じゃなくって【出来ない事が多くなった】って・・・」

 

・・・そう、出来ない事が多くなった。

やった事が無い事が全然出来ない。

成長は出来る・・・が、成長速度が一般人以下なのだ。

例えばダンス。

ダンスとしての知識と経験がある訳だが、ダンスとは様々な振り付けがある。

それは言ってしまえば技術と技術の集合体・・・。

振り付けのA→B→Cの繋がりをやったことがあっても、

A→C→Bの繋がりをやったことが無ければそれは新しい事として俺には出来ないのだ。

これが【半知半能(ちゅうとはんぱ)】の副作用的欠点であり、変えがたい事実。

 

「それでも大丈夫ですよ。僕を信じて」

 

笑顔を作り、落ち着かせる。

 

「はい・・・」

 

結局、月夜さんの不安を払拭出来ないままに、打合せは開始した。

 

 

8X―・・・・・・・・

 

 

「まさか、今西さん直々に打合せに来られるとは思いも寄りませんでした」

 

「トッププロダクションの8723とコラボとなれば、色々と大きく動きますからねぇ。

 自分の目と耳と口で、しっかりと段取りを見て聞いて発言しておきたいんですよ」

 

「今の言葉、ウチの英雄(しゃちょう)に聞かせてやりたいですよ」

 

(たける)君にかい?必要無いだろう。彼はその辺の事、しっかりとわかっているよ」

 

ふっふっふっと笑うこの温和な表情と物腰が特徴的な初老の男性は、

今西文徳(いまにしふみのり)

346の部長さんだ。

今回の企画において、346側で発案したのがこの今西さんだったらしい。

実はこの今西さんと英雄は昔ながらの飲み友で、付き合いも大分長いらしい。

で、今回のコラボも、飲みの席で決まったんではないかと内心思っている。

 

「では、先ずは期間的に時間の少ない、

 ライブのサプライズ企画から話をして行きたいと思います」

 

 

8X―・・・・・・・・

 

 

8723(こちら)としては、特に問題は無いと思われます」

 

「・・・はい」

 

月夜さんはまだ気にしている様子だ。

 

8723(そちら)のプロデューサーさんは・・・

 気になる事が有りそうだが?」

 

今西さんが月夜さんに振った。

 

「何か気になる事があるのなら、言ってしまった方が良い。

 キミの中でそれが不安を生み出しているのなら尚更だ」

 

今西さんは優しく語り掛ける。

 

「騎士さん・・・」

 

月夜さんが俺を見つめ、言って良いものかどうかを決めあぐねている。

特に秘匿にしている訳では無いし、それを悟られたからと言って、

月夜さんを咎めたりはしない。

そうするのなら事務所内のあの場所で、英雄の前で、あんな話し方はしない。

 

「プロデューサーが気にしているのは僕の身体の事です」

 

取敢えず俺から切り出す。

それと同時、室内がざわつきだす。

 

「そうだったね・・・あまりにピンピンして居たから忘れていたよ。

 そう言えば・・・事故にあって入院していたんだったね」

 

「はい、でも・・・それだけではないんです・・・」

 

月夜さんが続く。

 

「騎士さんは今、完全な状態ではありません・・・あの・・・」

 

一度言葉を切り、息を吸った。

 

「ですので・・・それを考慮していただいた上で、

 サプライズのコラボ曲を346(そちら)の楽曲から、

 騎士さんの曲に変更していただく事は出来ませんでしょうか?」

 

あぁ、なるほど。

気付かなかった。

新しい事に俺が挑戦するんではなく、

346(あちら)側に俺の曲をコラボして貰う方が俺としての負担が軽減する。

 

言い方が非常に悪いが、346(あっち)のアイドルは人数が居るわけだから、

コラボさせるのは346の誰であっても良い訳で、

俺の踊りをレッスンできる人がその日までレッスンに打ち込めば良い話になる訳だ。

 

「ふむ・・・」

 

今西さん含む346サイドが考え始めた。

 

「そうか、確かに346側コラボ曲は俺の知っている曲じゃない可能性が大いにあるから・・・」

 

「いえ、私もそこを騎士さんにうまく説明できなかったので・・・」

 

俺の出来ない事の説明を一通り行い、話は進む。

 

 

8X―・・・・・・・・

 

 

考えは纏った。

 

「特に問題はないでしょう。346提供ライブですが、8723サプライズのコラボ企画です。

 騎士さんの曲が多くコラボされるのは良いと思います」

 

「あ・・・ありがとうございます!!!」

 

月夜さんは大きな声でお礼を言う。

 

「それでですが、346側の楽曲で騎士さんがご存じの楽曲は・・・ございますか?」

 

まぁ、そうなりますよね。

コラボ曲を全部こっちの楽曲でやっていたら、折角のコラボの意味が無い。

 

「『お願いシンデレラ』は、以前高垣さんと共演させて頂いた時に・・・

 同じ理由で『恋風』を・・・後は、城ヶ崎美嘉さんの『TOKIMEKIエスカレート』、

 速水奏さんの『Hotel Moonside』です。この4曲は振付を含めて知ってます」

 

「となると、コラボ向けは・・・『お願いシンデレラ』か、『TOKIMEKIエスカレート』・・・ですね。

 ただ、『TOKIMEKIエスカレート』はダンサー含め、もう色々進んでしまっています。

 なので現在のセトリ中、オープニングとアンコール時に『お願いシンデレラ』が来ますので、

 アンコール時に346側コラボをお願いしたいと思いますが、如何ですか?」

 

答えは決まり切っている、

 

「はい、問題ありません」

 

これは、一番良い纏り方だろう。

被害も何も無く終わりが来そうだ。

 

「では、8723さん側のコラボ提供曲h「『Mid Night』でお願いします!!」・・・えっ?」

 

月夜さんが元気良く食い気味に声を上げる。

 

「えーっと・・・」

 

進行役の所員さんが俺の方を見てくる。

 

「あー・・・それで、お願い致します」

 

頬を掻きながら返事をし頷く。

チラッと月夜さんの方を見ると、

机の下で小さくガッツポーズをしているのが見えた。

そう言えば月夜さんって俺のファンだったんだよな。

すっかり忘れてた。

 

「では・・・『Mid Night』でコラボを、『Chivalry』をソロで、

 最後に346(こちら)側の『お願いシンデレラ』、以上の計3曲を騎士さんにお願い致します。

 異議のある方は挙手をお願い致します。・・・無いようですので、決定致します」

 

「これセトリ考えるとヤバいな・・・」

   「よろしくっ、先輩」

「よーし、頑張るぞぉ」

  「はぁはぁ、騎士様のおねシンktkr」

 

みんなの士気が上がり、どよめきだす。

ちゃっかり横で月夜さんも興奮しているのが伺える。

 

「こらこら、まだ一つ決まっただけだぞ。次に行こうじゃないか。

 時間は有限、大切に使っていかねば」

 

今西さんがパンパンと手を叩き、その場を制する。

 

「そうですね。では次へお願い致します」

 

同意の意思を頷きと返事で示す。

 

「お・・・お願い致します」

 

ハッと我に返る月夜さんも俺に続く形で同意するのだった。

 

 

8X―・・・・・・・・

 

 

この後、コラボ商品、CM、歌曲、今後の大小多方面イベント、

様々な企画を展開、説明。

こう言った英雄が参加出来ない(しない)打合せについては、

『参加した騎士(ひと)が勝手に決めて良いよ』と、

英雄本人から言われ続けていたので、特に英雄(あいつ)に確認する事無く、

己が身と月夜さん、二人で相談して決めて行った。

 

月夜さんのプロデューサーとしての初仕事、ちゃんと周りも見えているし意見もしっかりしている。

状況判断力が長けている気がする。

ちょいちょい興奮気味に意見を言うことがある反面、

積極性が無いのも見受けられる・・・

だが今まで英雄としかこう言った事をしてこなかった所為もあって、

今日のやり取りが新鮮で親切でとても気分が良かった。

 

「プロデューサー、これからの成長、非常に期待しています。

 主に英雄を降していただく形で」

 

「期待されているね、まぁかく言うわたしもね、君には期待しているんだ。

 なんて言ったってあの(・・)(たける)君が初めて採用した人間だからね。

 頑張ってね」

 

「は・・・はいっ!!姫乃宮月夜、精一杯一意専心で頑張って行きますっ!!イタイッ!!」

 

勢い良く立ち上がり、頭を下げたら机に頭をぶつけた。

にこやかな笑いが会議室内に起こる。

 

「「「「はっはっはっはっ」」」」

 

そそくさと着席し、俯き小さくなる月夜さん。

 

「ハヅカシィ////////」

 

「頑張ってください」

 

「は・・・はひっ!」

 

「それとね、一つ皆にお願いしたい事がある」

 

今西さんが真面目な面持ちで語りだす。

 

先程まで和気藹々とした雰囲気からは打って変わって、

風の無い水面のように静かになる。

 

「ライブのサプライズの件、8723さんが参加する事を他言無用でお願いしたい」

 

その一言にざわつく室内。

 

「他言無用って・・・それは、一体何処まで他言無用なのでしょうか?」

 

社員は今西さんに問う。

 

「無論、今ここに居る我々意外の人間すべてだよ」

 

まるで悪者の様にクックックッと小さく笑う。

 

「と・・・言う事は、参加するアイドルにも何も言わない、という事ですか?」

 

「そう言う事だ。どうだ?楽しそうだろう?」

 

なおもあくどい笑いは続いていた。

 

「部長、面白そうではありますが、それですと別に打ち合わせが必要になりますけど・・・」

 

「そんなのはいくらでも別でやれば良い。ちなみにどうかな8723(そちら)の方々は?」

 

先程の笑顔と打って変わって優しい笑みをこちらに送る。

 

「僕らは特に問題ありません。ね、プロデューサー?」

 

「はい。私達が口を滑らせなければ良いだけ・・・ですよね?安心してください、私、口は大分堅いので!!」

 

月夜さんは自分の胸の前でグッと気合を入れる。

「確かに堅そうだ」と、喫茶店の時も内緒にしてもらった時の事をふと思い出し独り言ちる。

 

「じゃあ、残りの細かい打ち合わせは私達でしておこう。詳細は後日こちらから連絡するよ。」

 

この最後にしてしまった約束の為、後に面倒な事が起こると言う事を【半知半能(ちゅうとはんぱ)】な今の俺には知る由も無かったのだった。

 

 

第8話に続く・・・・・―X8




最後まで読んで頂き誠にありがとうございました。

後日,入れ替えを行いますのでご承知おきください。

では,この辺りで失礼致します。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。