死神少女と鏡の魔眼   作:LAMLE

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いよいよ個人的に書くのが難関な戦闘シーンです。
上手く書けているかはわかりませんが頑張りましたよ!



第六話

<森>

 

目の前で起こる爆発。

 

「ッ!?な、なんだ」

 

土煙の上がる中心。

眼を凝らし、爆発が起きた場所へ近づいていく。

風によって、土煙が徐々に薄れていく。

その中で立ち上がる影が見えた。

一見、そのシルエットは人間に見えた。

だが煙が晴れた後に見たもの。

それは、人間とは全く異なる存在だった。

 

「…っ!?」

 

マネキンのように作られた、表情の無い顔。

白くコーティングされたボディは不気味な光沢を放っており、

関節や所々に歯車などの内部パーツが見え隠れしている。

一番目立つのは、背中に生えたトゲのように鋭く、広げられている二枚の鋼の翼。

まるで悪戯に人間を真似て作ったような、神への冒涜。

人でも天使でもない、歪で未完成の存在。

眼の前にいるのは紛れもない。

異世界から現れた、異種族の一つ『機械天使』だった。

 

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『機械天使』

奴らの目的や行動は詳しく分かっていない。

だがこれまで奴らが行ってきたことから、ある推測が出されている。

それは…自分(機械天使)たちの脅威となる存在の排除。

魔物と違って考える能力があっても、善悪の判断は無く、その思考を止める

ブレーキが存在しない、理性無き怪物。

 

天使がゆっくりと立ち上がり、表情の無い顔を上げる。

硝子のように無機質な目が動き、ゆっくり周りを見回す。

そしてその目で俺を捉え、じっと見つめる。

時間にして数秒だっただろうか。

その間、俺は動けず、何もできなかった。

思考が状況を受け止めきれず、行動を止めてしまったのだ。

 

先に動いたのは…天使だった。

 

天使は俺に向かって、ゆっくりと手を突き出した。

人と同じ五本の指。それは本物の人間のようで

人と同じ姿をした目の前の存在に言いえぬ恐怖が全身を駆け巡る。

天使の手に魔力が集中していくのが分かる。

 

動かない身体で避けるため、姿勢を横に倒し、体重をかけて無理やり転がり込む。

直後、背後から爆発音が響き渡る。

その爆風に耐えられず、ふきとばされる。

 

「ごほっ…う…」

 

全身を強く打ち付けられ、痛みで苦悶の声を上げる。

痛みに耐えながら、背後を確認すると

さっきまで俺が立っていた場所にはクレーターができていた。

避けなかったら、今頃..。

 

「はぁっ…はぁっ…!」

 

心臓が早金の様にうるさい。

ヤバイ…ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ。

この状況はまずい。

焦る頭に浮かぶのは何故という疑問ばかり

何故天使がこの島にいるのか。

何故この島に入れるのか。

いくら考えても、そんな疑問すぐに無意味だと分かる。

 

鳴り止まない心臓の音をうるさく思いながら、なんとか立ち上がる。

だが、一体どうすればいい。

奴らは災害と同じ、ただの気まぐれで通り過ぎるだけ。

人の力だけでは到底争うことなどできない。

 

天使は再びこちらへ手を向ける。

恐らくさっきのように撃ってくるのだろう。

 

未だ上手く動かない身体を無理やり動かして、森の方へと走り出した。

何度かバランスを崩しかけたが幸運なことに倒れることはなかった。

森の中は木々が生い茂り、視界が悪い。

上手くいけば隠れることができるはずだ。

それで天使が諦めるかは分からないが、あの場にいるよりは100%マシなはずだ。

 

間一髪、すぐ後ろで爆発が起きる。

背に熱を感じながらも、なんとか森の中へと入ることが出来た。

 

「(少しでも…遠くへ!)」

 

その後は少しでも離れられるよう無我夢中で走った。

 

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そして、時は今に至る。

 

「はぁ…はぁ…」

 

方向も見失い、携帯の明かりも無くなった。

ついに体力の限界が来て、すぐそばの木へ寄りかかる。

 

「…これからどうする?」

 

まだ天使が俺を探しているかは分からないが、遭遇すれば、俺は死ぬ。

ただの人間に機械天使に対抗できる術はない。

勝てる保証なんてどこにもない。

 

だが…アレを使えば、少しは戦えるかもしれない。

少なくとも逃げるチャンスくらい生まれるのかもしれない。

 

「いや、ダメだ。これは…」

 

これは出来れば使いたくない。

もう二度と…使いたくない。

…でも。

 

「ホントは使わないのが一番なんだけどな…」

 

そんな自分の発言に思わず苦笑する。

俺はこんな時でも自分の命より、そんな事を気にするなんて。

 

魔法が使えない俺では逃げることしかできない。

何度目かの深呼吸、幾分か思考がマシになった。

気持ちを落ち着かせた俺は、改めて、何か目印になるものがないかと辺りを散策する。

しかし、夜の森はどこまでも暗く、灯ひとつ見当たらない。

この暗い森を月明りと携帯のライトだけで移動しなければならないのだ。

状況で言えば最悪。

だが、ここで立ち止まる程、臆病になったつもりはない。

動かなければ何も変わらない。

この言葉は何度も希沙羅に言われてきた。

さて…と、動くか。

 

「…今日は夜更かしだな」

 

自分に言い聞かせるように、少しでも恐怖を払えるように、ワザと元気に言ってみせる。

そして俺は暗い森を再び歩き出した。

 

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<現在>

 

携帯の電池が無いせいで詳しい時間は分からないが、あれから二十分ほど歩いただろうか。

何度も転びそうになりながらも、道なき道を歩き続けた俺は前方から微かな光が見えているのを発見した。

 

「(もしかして、道へ出たのか!)」

 

わずかな期待を胸に、光のある方角へ進むと、森が開けた場所に出た。

だか、そこはさっきの場所と似た、木々のない、ぽっかりと空いた場所。

しかし全てが同じではなかった。

その証拠ともいえるのが、そびえ立つ一本の桜の木だった。

ただの桜ではない、その桜の花はなぜか淡い光を放っていた。

 

「なんだ…ここ」

 

まるで別世界に迷い込んだかのような錯覚を覚える。

 

森に、こんな場所があったか?

確かに森の方は探索されてないが、上空から撮られた写真や地図で

ある程度地形は知られている。

だが、さっきのもそうだけど、この森に、こんな開けた土地は無い。

ましてや、桜の木なんて存在していないはずだ。

しかし、現にこうして存在している。

大きさは十数メートルくらいか。

淡く舞い散る花びら、微かに香る桜の匂いが何より現実だと俺に教えている。

暗闇に対抗するように淡く輝く桜の木は、まるで俺をここまで導いているかのように思えた。

 

『ねぇ、狂い桜って知ってるかしら?』

 

あの少女に言われたことを思いだす。

 

「…これが…狂い桜…なのか」

 

俺は無意識に桜へと近づいていた。

何故だろう。どこか懐かしい。

火に誘われる虫の様に俺は桜の木へと近づく。

桜の木の周りを囲うように湖があった。

俺は濡れることを気にせずに、湖へと入る。

湖の深さは腰まで浸かった所まででそれ以上は深くならなかった。

ついに桜の木の近くまでついた俺は手を伸ばす。

その手が、あと少しで桜の幹に触れようとした時。

 

…ガチャリ

 

微かに聞こえた金属音。

悪寒が走った。

 

「…ッ!?」

 

急いで振り返る。

さっき俺が入ってきた森の中、そこには『ヤツ』がいた。

 

『……』

 

濁ったガラス玉のような目で、俺を捉えてる、機械天使が。

 

「…よう、さっき振りだな」

 

返事が返ってこないことはわかっているが声をかけた。

そうでもしないと恐怖を抑えることができないからだ。

 

「なんでそんなに俺を執拗に狙ってんだよ?俺なんかしたか?」

 

当然、返事など返ってこなかった。

しかし、その目は変わらず俺を見続ける。

そしてそれは…一瞬にして動いた。

 

何かの魔法か、単に奴の機動力か。

天使はそのスピードで一気に距離を詰め、拳を放つ。

 

「…ッ!」

 

身体を守る為、反射的に右腕でガードする。

メキッ!

嫌な音が聞こえた。

その勢いのまま吹き飛ばされる。

何度も地面をバウンドしてようやく止まる。

 

「ガァぁ…」

 

いてぇ…

右手が熱い。折れたのか。

身体は地面に突っ伏したままで、右腕が見えない。

 

「はぁっ!…はぁっ!」

 

痛みで上手く酸素が吸えない。

気絶しなかったのが奇跡なくらいだ。

天使はそんな俺をジッと見ていた。

不気味なくらい無表情な目で…まるで俺の本質を読まれているかのような気持ちの悪い感覚。

 

『……』

 

天使が右手を再び向ける。

こちらが動けないと知って、遠距離魔法を放つつもりなのだろうか。

その読み通り、右腕の痛みで、思うように身体が動かない。

腕が使えず、倒れたままでは起き上がることもままならない。

避けることはできない。

 

『諦めろ、もう無理だ』

 

見透かしたかのように聞こえる幻聴。

 

『もういいだろ?十分頑張ったじゃないか。そこまでして生きたいわけじゃないだろ?』

 

…るさい

 

『…運が悪かったんだよ』

 

「うるさいって言ってんだよ!」

 

力任せに腕を地面に叩き付ける。

ジーンとした痛みが腕から流れる。

幻聴は聞こえなくなった。

 

かわりに聞こえるのは天使のガチャガチャと鳴る耳障りな足音。

 

…アレを使うしかない。

正直、今でもこの力を使おうとすると、手が震える。

いつか、この力に飲み込まれてしまうのではないかと。

使えば使うほど、泥の中に沈んでいくような感覚。

それがとても恐ろしい。

…だけど。

 

『そう…か…』

 

俺を呼ぶ今にも消えてしまいそうな少女の声…。

 

「…そうだ。こんなとこで終わってたまるかよ!」

 

まだ、何も掴めていない。

この手の中は空っぽのままだ。

だから俺は…まだ…死ねない!

 

覚悟は決めた。

今、目の前にいる脅威を退けるために。

痛みをかみ殺し、力を振り絞り、うつ伏せから、仰向けになる。

そして左眼に手を触れる。

そして、自らを鼓舞するよう力の限り叫ぶ!

 

「アクセス!」

 

一瞬ののち、世界は反転し、赤く染まる。

そのほんのわずかな一瞬に見えた景色がある。

俺の身長を優に超える巨大な歯車。

その周りに空いた七つの空白。

 

その一箇所へ注ぎ込まれる魔力の奔流。

魔力は空白の一つに埋まるよう集まっていく。

そして形を作り、一つの歯車となって、空白を一ヵ所だけ埋める。

一つ埋めただけだが、それに合わせて、巨大な歯車もゆっくりと動き出す。

 

イメージの世界は消え、現実へと戻される。

その瞬間、紅く反転した世界は、一瞬にして元の色を取り戻す。

 

変化はすぐに訪れた。

奏華の左眼が紅く染まる。

彼の持つ『魔眼』が発動されたのだ。

 

「(あぁ、この感覚、久しぶりだ)」

 

心の奥から湧き上がる高揚感。

だが決して流されないようなんとか抑え込む。

首を動かして機械天使の方を見る。

今にも、ヤツは魔力を放とうとしている。

 

「(…視えるな)」

 

奴の魔法の構成が、俺に知識として流れてくる。

俺が理解しなくても、左眼が勝手に理解し、適応させていく。

 

干からびた砂漠に水路の道ができるように。

俺の中に無いはずの魔力回路が身体全体を巡っていくのが分かる。

 

俺の『魔眼』によって得た知識。

アイツが使った炎属性の魔法を『写し取った』!

 

「写させてもらったぞ。天使!」

 

手をかざし、魔力を左手へと集中させる。

それに合わせて、土で汚れた制服のラインが肩から左手まで

伝うように淡く発光する。

これは制服に組み込まれている、魔力の流れをイメージしやすくするためのものだ。

魔法を使い慣れてない俺にとって、この機能は分かりやすくていい。

 

「お返しだ!くらい…やがれぇっっっ!!」

 

左手に集中した魔力を一気に放つ。

放たれた魔力は炎を帯びて、天使の放った、火球と衝突し、大爆発となる。

 

『…!』

 

俺の反撃が予想外だったのか、天使の動きが一瞬止まった。

 

「もう一回だ!」

 

続けて二発目を放つ。

だが、天使はこれを避ける。

 

「(やっぱり、そう簡単にあたってはくれないか…)」

 

牽制のため、何発か火球をお見舞いする。

…が、攻撃はろくに当たらず、全て避けられる。

それどころか天使は地面へ向けて火球を連射している。

いつの間にか辺りは土煙が上がっていた。

 

その間になんとか身体を起き上がらせる。

辺りの警戒を忘れずに。

 

「(視界が悪い、だがそれはアイツも同じはず)」

 

地上戦…それを前提に俺は警戒していた。

そんな俺の思い込みが隙を生んでしまった。

 

『…!』

 

「ッ!?しまっ…!!」

 

天使は地上からの攻撃ではなく、空からの奇襲をしかけてきたのだ。

背中の羽は飾りではない、そんな当たり前の事さえ、考えつかないほど俺は冷静ではなかった。

後ろに降り立った天使の攻撃に反応が遅れる。

 

「ぐっ…」

 

とっさに動く左腕で庇ったが

天使の拳は勢いを殺さず、吹き飛ばされ、桜の木へ打ち付けられた。

 

「う…ぁ…くっ…そぉ…」

 

全身の力が抜けて、そのまま倒れる。

左腕の感覚がない、両腕をやられた。

 

「(あぁ…今日だけで何回地面に顔当ててんだよ)」

 

うつぶせのまま、俺は動けない。

天使がゆっくりと近づいてくるのが分かる。

 

「(くそ…身体が動かない…)」

 

死ぬ…死ぬのか。

こんな…ところで…。

自分の事も碌に分からないまま…。

なにも思い出せないまま…。

 

「ぁ…死にたく…ないなぁ」

 

誰かにすがるわけでもなく、命乞いをするわけでもなく。

ひとりごとのように呟いた言葉。

誰の耳にも入ることなく、静かにこの世界から退場する。

それこそが八神奏華、最後の言葉になるだろう。

しかし、そんな呟きに返事が返ってきた。

 

『死にたくないの?』

 

それは深い井戸の中から聞こえるように

 

『夢現の中で内に宿した羨望の念、終わることのない、消えることのない渇望の念、

 貴方はそのすべてを捨て去ろうとしている』

 

それは泣く子供をあやす様に

 

『それなら、私が貰い受けましょう』

 

それは耳元で囁くように

 

『その…身体…』

 

意識は薄れ、眠気が襲ってくる。

 

ガッガッと、天使の近づく足音がすぐ近くで聞こえる。

このまま、俺は…。

 

『…..』

 

天使が奏華へ止めを刺そうとしたその瞬間。

黒の一閃がその身体を切り裂き、一瞬にしてスクラップへと変えた。

天使の乱れる映像で最後に見たものは…『白の死神』だった。

 

 

 




やっぱ戦闘シーン書くの大変ですね…
そして一章も終り頃!
そろそろキャラ紹介をせねば…

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