死神少女と鏡の魔眼   作:LAMLE

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そろそろ人物設定とか用意しようかと思ってます!
(`・ω・´)
誤字脱字あるかもしれませんが、第五話をどうぞ!



第五話

<森>

 

草木生い茂る暗い森を奏華は走っていた。

既に辺りは薄暗く、わずかな光は彼を見下ろす月だけだった。

 

「はぁっ、はぁっ…」

 

一体、どのくらい走ったのだろうか。

すでに脚は棒のようになり、感覚もなくなっている。

肺は呼吸をすることを忘れ、うまく酸素を取り込めない。

 

森の中は薄暗く、何気ない木でさえ、今は恐怖を煽る不気味さを持っていた。

夜の森をがむしゃらに走っていた為、方向も分からなければ、自分の今いる場所も分からない。

完全に方角を見失ってしまった。

一度落ち着いたほうがいい、そんなことは分かっている。

…けれど

今この瞬間にも、″アイツ″が近づいているかもしれないという恐怖が俺の足を速める。

 

「はぁ、はぁ…」

 

足に限界が来て、ようやく立ち止まる。

ここまで休まず、走り続けてきた為、何度も荒い息を繰り返す。

 

「はぁ、はぁ…あっ!」

 

手の力が緩み、持っていた携帯が落ちる。

幸い、草がクッションになり、大事には至らなかった。

だが既にバッテリー残量は切れていて電源は入らない。

 

「(ちゃんと充電しておけば…)」

 

だが、今更そんなこと言っても仕方ない。

呼吸を落ち着かせた俺は

息をひそめ、音を立てないよう気をつけながら移動を再開する。

足音を殺して、ゆっくり、ゆっくりと歩く。

歩きながらも細かな音を一つも聞き逃さないよう辺りをうかがう。

聞こえるのは風に揺れる木の葉の音、自分の呼吸だけ。

 

嫌な汗が背中をつたう。

何か得体の知れないものが全身を這いずっているような不快感。

そんな俺を嘲笑うように、木々は揺れていた。

 

------三十分前------

 

<学園通学路>

希沙羅から出された仕事を終えた俺は、学園から

第七寮まで続く一本道を歩いていた。

 

第七学生寮は学園に近い代わりに人通りが少ない。

それは第七寮が森に一番近い場所に建てられており、その関係で他の建物がまったくないからだ。

この道は第七寮専用の道と言っていいだろう。

加えて、もうすぐ夜時間。

RUBICには夜間外出の禁止が出されている。

出歩けば処罰の対象となり、 発見され次第、何らかのぺナルティが課せられる。

だから、基本よっぽどの阿呆じゃない限り、夜間に外出しているやつなんていない。

ちなみに現在の時刻は六時四十分。

禁止時間の八時まであと一時間以上余裕がある。

この道なら十分間に合うだろう。

 

『-------』

 

「ん?」

 

なんだ、これ。

学園を出て少し歩いた所で、何か聞こえてきた。

 

『----------』

 

「(これは…歌?)」

 

微かに聞こえる声。

それは何かを歌っているように聞こえた。

こんな時間に、いったい…?

辺りを見回すが、鬱蒼と生い茂る森だけが広がっているだけ。

人影すら見あたらない。

日頃の寝不足でついに幻聴が聞こえたのかと思ったが、歌は絶えず聞こえてくる。

 

「……」

 

…耳を澄ませ、声を拾う、歌は森の奥から聞こえていた。

本来、森は許可が下りた者しか入ることを許されない。

その理由としては、この島の安全が完全に確保されていないからだ。

実際、森で行方不明になった者もいるという。

ありえない…なんてことはないだろう。

この島は異世界から来た島。

人の手が加えられているのはごく一部。

魔物が住み着いている、という報告も上がっている。

 

魔物…突如現れた異種族の一つ。

その特徴はRPGなどで見るぶよぶよのアメーバのような存在。

奴らはその身体を自在に変えることができる。

時には鳥に、時には四足歩行の動物に…姿は様々だ。

だが大きさや変形能力も個体差があるようだ。

共通点があるとすれば、それは、奴らが魔力を欲していることだ。

微かな魔力でも自らのエネルギーにするために襲い掛かってくる。

捕食されれば、吸収され、あの世行きだ。

何を考えること無く貪る、知性無き怪物、それが『魔物』だ。

 

だが、これは魔物の発する動物のような唸り声でも、

奴らが動くべチャッとした不快な足音でもない。

今、聞こえているのは歌声だ。

 

「(新種の魔物…って考えるより)」

 

脳裏をよぎるのは昼に白百合や希沙羅とした会話。

夜に蠢く謎の影『影法師』の噂。

影法師…というくらいだ、人の形をしているのだろうか?

その可能性くらいは、あるかもしれない。

白百合だけでなく、希沙羅にも気をつけるよう言われているが。

 

「(…確かめるチャンスか)」

 

二人の忠告を無視する事になるが、例の噂、その真相が、すぐそこにあるのかもしれない。

もし違っていても、この歌の主を確かめることができる。

少し躊躇したが、好奇心が先行し、結局、森の方へと足を向けた。

 

--------------------------------------------------------------------------

 

森の中に入ってから、どのくらい歩いただろうか。

携帯の時計を見ると十分程経過していた。

歌は思っていたより森の深くから聞こえており、まだつかない。

既に日は落ち、辺りは薄暗くなった。

手に持っている携帯のライトと月の光だけが森の道を仄かに照らしている。

森の奥へ行くにつれて、歌はより鮮明にはっきりと、聞こえるようになっていた。

それと同時に、胸騒ぎ…というのだろうか。

今の自分の行動すら、何か得体の知れないモノに導かれている。

そんな気さえしてきた。

だが、いまさら引き返すようなことはしなかった。

 

やがて俺は周りの木々が開けた、広い場所へと出た。

何故かこの場所には木が一本も生えていない。

まるで木がこの場所に生えるのを避けているかのように。

森の中にぽっかり空いた場所。上空からならそう見えるだろう。

 

「-------」

 

その開けた場所の中心、そこに一人の少女が立っていた。

後ろ姿で顔は見えないが、腰まで伸びた長い黒髪が

月明りに照らされ、淡く輝いているように見える。

真っ白なワンピースがその黒髪をより一層引き立てていた。

儚い、今にも消えてしまいそうな、そんな幻想的な少女に思わず息をのむ。

とても神秘的で…綺麗だった。

いつの間にか、俺は目の前の少女に見惚れていた。

 

「…ごきげんよう」

 

鈴を転がすような透き通った声が静かに響く。

俺の存在に気づいたのだろう。

歌を止めて、少女が声をかけてきた。

しかし、少女が振り返ることはなく、その顔は見えない。

だが俺は、少女が笑っているのだと…なんとなく分かった。

 

「今日は月が綺麗ね。こんなステキな夜、月光浴をしないともったいないわ」

 

顔を上へ向けながら、楽しげに話す少女。

その言葉につられて、俺も上を見上げて見る。

宝石をちりばめたように輝く満天の星空。

その中でもひときわ大きく、輝いている満月が俺たちを見下ろしていた。

 

「(今日は満月の日だったのか)」

 

ライトと月の光を頼りに森の中を歩いてはいたが、空までは見上げていなかった。

 

「月光浴ってね。内面を浄化する、なんて言われているそうよ。月には不思議な魔力が宿っている…なんて」

 

少女は話し続ける。

心なしかその声は楽しんでいるように聞こえる。

 

「その反対に月には邪悪なものを活性化させると言われている。その二面性が面白いわ」

 

「…君はこんな時間に、こんな所で何やってんだ?」

 

「…残念。私のムーントークはお気に召さなかったみたいね」

 

肩をすくめ、ふぅ、とため息をつく少女。

たいして残念そうには見えないが…。

…てかムーントークて。

色々ツッコミを入れたいが話がややこしくなりそうなので我慢する。

 

「(どう見ても普通の女の子…だよな?)」

 

噂に聞く影法師、そう思っていたが、どうやら違っていたようだ。

ここにいたのは少し変わっている少女だった。

予想していたものと違ったためか、単に安心したのか脱力してしまった。

 

「それにしても静かね、人っ子一人いないわ」

 

「そんなの、もう直ぐ外出禁止の夜時間だからに決まっているだろう」

 

「あら、そうなの?でも、それなら貴方はどうしてここに?」

 

「…俺は学園で用事があったんだ。それで遅くなった」

 

「…学園?」

 

その時、少女が初めて振り返った。

だが、長い前髪で目元は隠れていて表情までは分からなかったが、

整った顔立ちから美少女であると思った。

少女は俺に近付くと、可愛らしく小首を傾げる。

まるで俺の言っていることが伝わっていないみたいに。

 

「こんな森に学園があるの?」

 

「…は?」

 

少女の言葉に一瞬あっけにとられる。

いったい、この娘は何を言っているのか。

ここに住んでいる人間がRUBICを知らないはずがない。

驚いている俺の反応を見て少女は「あぁ…」と何か納得した顔をする。

 

「ごめんなさい。どうやら私、記憶が無いみたいなの。気が付いたらここに…」

 

「記憶…それって…」

 

まさか、目の前の少女は記憶喪失なのだろうか。

魔物に襲われたのか、頭でも打ったのか。

その理由は分からないが、そう言うことなのか?

しかし、少女の身体や服に汚れは見当たらない。

 

「それで、ここはどこなの?」

 

「…ここは魔法使い育成機関『RUBIC』だ」

 

「魔法使い…RUBIC…」

 

俺の言葉を繰り返すように呟く少女。

その声には不安があるように聞こえる。

 

「何があったか分からないが、ひとまず学園に行くか?アンタがここの生徒なら希沙羅に聞けば詳しい情報が分かるはずだ。 …不安なら一緒についてくけど」

 

いつもの俺なら、すぐに希沙羅に連絡して後は任せていただろう。

だが、『不安なら一緒についてく』そう声を掛けたのは記憶喪失という少女に

少なからず自分を重ねてしまったからだろうか。

 

「…優しいのね。でも遠慮しておくわ」

 

そう言って、少女は歩き出す。

 

「あ、おい!待てよ」

 

記憶喪失の少女はどこへ行こうというのだろうか。

俺の来た道とは反対の道へ歩いていく、森の奥へと…。

ただでさえ、夜の森は危険なのにさらに奥へ行くなんて、いくらなんでも危険すぎる。

 

「おい、ちょっと待て!」

 

「…そう言えば」

 

俺の静止の声で止まったわけではないが、立ち止まった少女。

 

「狂い桜って…知ってるかしら?」

 

「くるい…さくら?」

 

その時、一陣の強い風が吹き、木の葉が視界を覆う。

視界が晴れたとき、いつの間にか少女の姿は消えていた。

なんだ…今のは…魔法?

だが、そんな動作一度もなかったと思うが…。

そもそも本当に記憶喪失だったのか。

 

「…まさかな」

 

不思議な少女だった。

今まで話していたというのにどこか現実味がない。

夢でも見ていたように、さっきまでの出来事があやふやに感じた。

『影法師』

俺は狐にでも化かされていたのだろうか。

 

『狂い桜って…知ってるかしら?』

 

「(また噂、今日はそんなんばっかだな。それに…いや、今はそれどころじゃないか)」

 

このまま森にいたら俺も危険だ、急いで戻らないと。

少女の事は気になったが、何か考えがあっての行動かもしれない。

そう自己完結して踵を返す。

明日にでも希沙羅に報告をして、いつしか今日の出来事も忘れていくだろう。

そうして、また普段の日常に戻る…そう思っていた。

 

 

『今度こそ良き物語を…君に…』

 

 

しかし、その日常を壊すかのように、ソレは来た。

 

 

 




次くらいから戦闘シーン…かも?
うまく書けてるか若干不安です(´・ω・`)



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