死神少女と鏡の魔眼   作:LAMLE

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何故か毎回夜中に投稿しているLAMLEです!
…結局一カ月、間が空いてますね。
それでも書けた、3話をどうぞ!



第三話

<教室>

 

HRが終わり、クラス担任が教卓に教科書を置いて、教室を見回す。

教室全体を見回した後、眼鏡の縁をクイッと直し、授業開始の挨拶を始める。

 

新学期、最初の授業内容は座学。去年学んだ魔法の基礎を復習する。

黒板には魔法の種類や細かな説明が書かれている。

 

ここで魔法についての基礎知識を話しておく。

魔法は絵本や小説にあるような何でもできる万能な物というわけではない。

そして魔法はごく一部の人間だが使うことができる。

最初に魔法が使えるようになった人間たち

第一世代と呼ばれる魔法は、以下の能力になる。

 

・人や物のステータスを上昇、または低下させる強弱魔法。

・魔力をエネルギー弾に変え、遠距離攻撃を可能とする放出魔法。

・魔力を象り、質量を与える変化魔法。

 

この三つが第一世代の魔法となる。

そして時代と共に魔法使いは進化をした。

第二世代と呼ばれる魔法使いは上記の魔法に合わせ、武器を手に入れた。

魔法のさらなる進化を促すアーティファクト、それが『Q-bic(キュービック)』と

呼ばれる未知の物質だ。

大きさは手のひらサイズでサイコロの様な六面体の形をしている。

Q-bicは中心にコアと呼ばれるものが埋め込まれており、

一定の魔力を注ぐことで魔力を帯びた武器へと姿を変える。

この状態を『属性武装(エレメンタルレギオン)』という。

属性武装の形状は様々で、槍、剣、杖、銃、鎧などQ-bicに

記録されているデータによって変わる。

属性武装には五種類のエレメント、火、水、雷、地、風がある。

そしてQ-bicは持ち主と触れ合う、コミュニケーションのため、

身近なものへと姿形を変えることができる。

変化するものは髪飾りやイヤリング、腕輪など、中には動物や人の姿になる場合もある。

この状態を『妖聖(ようせい)』という。

また、属性武装や妖聖で魔力を消費した場合、彼らは眠る…というアクションを起こす。

眠る場合は最初のサイコロ形状『キューブ』に戻る。

このQ-bicには数に限りがあるため、すべての生徒が持っているわけではない。

一応言っておくが、俺は持っていない。

 

と、大体の話は、これで終わる。

この話は入学当初から聞いている話なので、クラス連中も話半分に聞いている様子。

教室を見回すと寝ている者、ノートに落書きをしている者、など様々だ。

教師もそれを咎めることはなく、黙々と書いていく。

やがて時間が経ち、授業終了のチャイムが鳴る。

 

「今日はここまで。ちゃんと復習しておくように」

 

そう言って担任はチョークを置き、教卓に置いていた、

何枚かの書類を持って教室から出ていく。

教師が出ていくと、次第に教室が騒がしくなる。

この後の予定を話し合う、楽しそうな声が周りから聞こえてくる。

商店街に新しく出来た店に行くだとか、港にあるゲームセンターに行くだとか。

やがてそれぞれ思い思いの場所へ行くため、ひとり、またひとりと教室を後にしていく。

俺もまた、移動するために鞄に荷物を詰め込む。

 

「奏華、昼めし食いに行かないか?」

 

鞄を片手に琥珀が声を掛けてくる。

いつもなら二つ返事で行くところだが、今日は希沙羅からの呼び出しがある。

直ぐに行かなければならない、というわけじゃないが、戻ることを考えたら、

街に出るのはよくないだろう。

琥珀には悪いが、今日は断ることにした。

 

「悪いな。今日はきさ…学園長に呼ばれているんだ」

 

希沙羅と言いそうになったのを抑えて、言い直す。

学園長なんて言い慣れていないのでよく間違えてしまうが、希沙羅の立場を考えると

呼び捨てはよくないだろう。

もちろん琥珀はそんな事気にしないだろう。だけど、注意するに越したことはない。

実際、そのことに対して気にした様子のない琥珀。

だが、その顔はなぜか、ニヤニヤと笑みを浮かべいた。

 

「まぁ、先約が学園長なら納得だが。お前ってさ、学園長の事となると、人が変わった様になるよな。活き活きしてるっていうか。正直、面倒くさがりのお前が、なんだかんだ言って手伝ってるし、やっぱ何かあるのか?」

 

琥珀にとって、他意のない、『お前、あの娘のこと好きだろ?』的な

ニュアンスが含まれたからかいの言葉だったのだろう。

だが、その言葉に一瞬、ほんの一瞬だけ、返答に詰まる。

しかし、直ぐに表面を取り繕い、別の言葉を口にする。

 

「単に在学を盾に雑用を押し付けられているだけだよ。お前が考えているような

 特別な感情なんて持ってない。それに仕事なんだから真面目にやるのは当然だろ?」

 

「ふーん。まっ、違うってんならそれでもいいけど。恋愛は学生の特権だぜ。お前も今のうちに素敵な出会いを求めてみたらどうだ?」

 

お前はもう少し、自重したらどうだ…というツッコミ飲み込み、肩をすくめる。

 

「その気になったらな」

 

「はぁ、お前の春は、まだかかりそうだな」

 

正直に言ったのに、溜息をつかれてしまった。

 

「ほっとけ、こちとら今まで誰かと付き合ったことなんて一度もないわ」

 

「はん、そんなこと…俺だってないわ!!」

 

フンッと鼻を鳴らし、腕組みをする琥珀。

…何故かドヤ顔で。

 

「人の事言えないじゃねぇか!?」

 

言われてみれば、毎日のようにナンパしているが

こいつに彼女がいるなんて聞いたことがなかったな。

そう考えると、琥珀が憐れに思えてきた。

さっきまでは面倒くさい気持ちが強かったが、今なら違った見方ができる。

可哀想に…

 

「あのー奏華さん。なぜそんな憐れみの視線を?」

 

琥珀が憐れに思えた俺は肩をポンッと叩くとできるだけ優しい声色で語り掛ける。

 

「まぁ、なんだ。お前みたいな残念な奴でもいつかは…そう、いつか…きっと…ミクロ単位で報われるさ」

 

俺の激励が余程嬉しかったのか、琥珀は肩をプルプル震わせている。

ふぅ、やれやれ。元気づけるのも楽じゃないな。

 

「全く、お前ってやつは、息を吐くように人を傷つける天才だよな!ちくしょー!!」

 

突然叫んだかと思うと、すごいスピードで教室を出ていく琥珀。

何を叫んでいたのか、聞こえなかったが、きっと走り出すほど嬉しかったのだろう。

自分が人を勇気づけられたことに軽い達成感を覚える俺であった。

 

琥珀がいなくなったことで、教室に残っているのは、自分だけになった。

 

「…行くか」

 

まずは購買に行って、昼飯用のパンでも買おう。

そう思い、手早く残った荷物を詰め込んだ鞄を持つ。

希沙羅に呼ばれた時間を携帯で確認しながら、廊下へ出る。

既に廊下には人気が無く、自分の歩く足音だけが響き渡っていた。

 

 

<屋上>

 

購買でいくつか見繕ったパンを持って階段を上がる。

既に校舎は人が少なく、すれ違うこともない。

三階建ての校舎の屋上、そこが今向かっている目的地になる。

屋上へ繋がる扉に到着した俺は、金属のノブを回し、重い扉に力を加える。

開いた扉の隙間からひんやりとした風が頬を撫でる。

春とはいえ、まだ肌寒い季節。

さらに午前授業というのも後を押してか、屋上に人はいなかった。

屋上へ出た俺は、柵に近づき、学園の辺りを見回す。

学園は島の中心部にある山を切り開いて建てられた為、ここから島全体を

見回すことができる。そこそこ見晴らしは良いのだ。

学園の周りは、これでもかという程の森が広がっている。

学園から何本も生える、森を切り開かれた道を辿っていくと、対岸沿いには商店街が並んでいる。

この島にいるのは魔法使いである俺たち学生と政府に関係ある人間だけだ。

街や娯楽施設もそういった人間が経営している。

 

一通り景色を眺めた後、花壇の近くに設置されている、木製のベンチへ腰かける。

飯を静かに食べたい時、俺はいつもここに来ている。

学園には食堂もあるが購買のパンの方が安く済むし、何より朝の様な厄介ごとはご免だ。

そういった理由からあまり利用したことがない。

だけど、ここの購買にあるパンも絶品だと俺は思っている。

今も、全てのパン商品を片っ端から選んで食べる。

という、イベントを始めている最中だ。

今回は少し奮発して買ったカツサンド、それを袋から取り出し、口へ持っていく。

あと数センチで噛り付く所で、後ろから声が掛けられる。

 

「今日は、ずいぶんと遅かったね。ソーカ」

 

鈴の様に凛とした声、聞き覚えのあるその声に、今食べようとした

カツサンドを口から遠ざける。

 

「…あぁ」

 

情報更新、屋上には先客がいた。

気付かないはずだ。

屋上出入口の上にある貯水タンク、その上に彼女はいた。

整った顔立ち、出るところは出て、引き締まったプロポーション。

栗色の鮮やかな髪は腰まで伸びるポニーテールにまとめられている。

身に纏った雰囲気は可愛いというより、綺麗という印象を与える。

RUBICの三年生、この学園の中でもトップクラスの魔法使い。

『白百合 綾音(しらゆり あやね)』

彼女はその実力、見た目もあり、全校生徒の憧れだった。

そんな俺とは逆の意味で有名な彼女が、メロンパンを片手に座っていた。

 

「ん?どうしたんだい。じっと見つめてきて。何か私の顔についているのかな?」

 

その端正な顔をペタペタ触った後、

返事をしない俺を不思議に思ったのか、

紙袋を持って、タンクから飛び降りる。

 

「よっと」

 

ひらりとスカートが舞う。

ストンと綺麗な着地を見せた白百合は、こちらに近づき、

座るね、と一言言ってから、隣に腰掛ける。

風になびく彼女の髪がふわりと揺れる。

 

「(…はぁ)」

 

白百合に聞かれないよう、心の中で密かに溜息をつく。

何故学園で人気の白百合がここにいるかというと

まぁ、なんだ…一年の頃、上級生に絡まれていたところを

助けてもらったりしたわけで…それからの縁になる。

今では、こうやって食事をとる時に来るようになった。

そのせいで周りからさらに難癖付けられるようになったのだが。

 

「それで、何の用だ?」

 

「ん、一緒にお昼を食べようと思ってね。待ってたんだ」

 

そう言って茶色の紙袋を持ち上げる。

購買で売られているパンを入れる紙袋だ

 

「…一緒に、って言ってた割に、既に食べ始めているようだが?」

 

「待っていたのは本当だよ。ただ、あまりにもソーカが遅いから」

 

「そんな時間は立ってないはずだが」

 

携帯で時間を確認するが、

お昼になってまだ十分程度しか経っていない。

白百合のクラスはそんなに早く終わったのだろうか。

 

「…二時間くらい?」

 

「授業始まる前じゃねぇか!?無茶にも程があるわ!」

 

二時間前と言ったらホームルームが始まる頃だ。

当然、そんな時間に屋上へ行くはずもなく。

 

「そんな前から居たのかよ…」

 

白百合は学年でもトップクラスの成績を誇るRUBICの魔法使い。

だが、自由奔放で気分屋、よく授業をサボっていると聞いていたが。

まさか本当だったのか…。

 

「サボっているとは心外だね。退屈な授業を受けても意味なんてないからね。

いわば時間の有効利用だよ」

 

それを世間一般では、サボっていると言うと思うが。

あとただ待っていたのなら時間の有効利用はしてないと思う。

 

「そんなこと続けていたら、教師に目を付けられるぞ?」

 

幾らトップクラスの成績でも授業をサボるような生徒に

教師たちは良い感情を持たないだろう。

生徒に人気の白百合だが、その人気ゆえに、生徒の中には彼女の事を快く思っていない者もいる。

こんなことを続けていれば、恰好の的になる。

そう説明するが、対して気にした様子もなく。

 

「んー、もしそうなったら、ソーカと同じだね」

 

と、ニッコリ微笑む白百合。

思わず頭を抱えたくなる、どうしよう話が通じない。

いや、いつものことだけど。これはどうしようもない。

ふと、白百合の言葉を思い出してみる。

…あれ、同じって、教師陣の俺の評価ってそうなのか?

あまり知りたくないことを知って若干落ち込む俺であった。

 

 

昼飯を食べ終えた俺たちは、他愛もない世間話をしていた。

昨日の夕飯、街にできた新しい店。大した話じゃないはずなのに

白百合は楽しそうに話し、聞いていた。

白百合は聞き上手なのか、口下手な俺でも詰まることなく会話が弾む。

こういったところが、彼女の人気の一つなのかもしれない。

そんな中、気になる噂話を聞いた。

 

「そういえば知っているかい?最近噂になっている『影法師』って噂」

 

「影法師?」

 

「うん、なんでも…」

 

白百合の聞くところによると、影法師とは

夜な夜な森に現れる、謎の影のことらしい。

その正体も目的も不明、突然現れ、消えるらしい。

 

「怖いよねぇ」

 

大して怖がってなさそうに言う白百合。

ってか、ワクワクしてないか?

 

「だけど、ただの噂だろ?」

 

そもそも寮生の夜中外出は固く禁止されている。

その規則を破っている前提である噂なんてたかが知れている。

目撃者がいるってこと自体、ありえない。

そう言うと白百合は呆れたように溜息をつく。

 

「ふぅ、ソーカは夢が無いなぁ。乙女心もロマンティックも分かってないよ」

 

「…否定はしないが、そこまで言われるのは癪だな」

 

乙女心なんて分かるはずもないが、理解できていたら、

もう少し気の利いたセリフが言えたのだろうか。

乙女心やロマンティックが分かる自分…ちょっと想像できない。

 

「まぁ、ただの噂だとしても、お互いに色々気をつけようってことで」

 

残りのメロンパンをちぎって口に放り込む白百合。

屋上から吹く風によって彼女の栗色の髪が舞う。

その光景に既視感と共に懐かしさが込み上げる。

長い髪をなびかせるその姿を、いったい誰に重ねたのだろう。

 

 




投稿スペースも早めたい今日この頃。
はやく1章終わるまで進めたい。
できるだけ早めにできるよう頑張りまする!


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