死神少女と鏡の魔眼   作:LAMLE

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気が付くと、前回の投稿から、結構な日にちが
立っていて焦る今日この頃。
もう少し早めに投稿できるようにしたいです。


第二話

<教室前>

 

この学園は入学時と学年が上がる時に行われる魔法試験の

総合成績によって所属クラスが決定する。

クラスは上から順にA~Dに枠決められ、それぞれの教育に合った内容を学ぶ。

魔力だけが取り柄で魔法がカラッキシの奏華は、当然と言えば当然

Dクラスに所属している。

Dクラスには奏華のように魔法が使えない者はいないが、

能力値が低い者、魔力量が低い者が集められる。

この制度によって下位クラスへの風当たりは強くなっている。

朝のような出来事がその例に当たる。

 

校門をくぐった奏華は、校舎内に入り、階段を上る。

今向かっているDクラスは校舎二階の東側にある。

校舎に入った後も、今朝の様な話し声や笑い声がちょくちょく

耳に入って来たが、教室に近づくにつれて、その声も無くなった。

やがて2-Dとプレートに書かれた教室に辿りつく。

奏華は扉に手をかけ、ゆっくりと開ける。

 

教室には既に何人かの生徒が来ており、机に突っ伏し熟睡する者、

読書をしている者、何人かのグループを作って楽しそうに談笑している者など様々だ。

教室に入った奏華は、まず座席を確認するために、紙が貼ってある黒板へ向かう。

その途中、奏華に気付いた何人かのクラスメイトがちらほらと挨拶をしてくる。

他のクラスに比べると、Dクラスでは奏華の扱いは悪くはない。

今朝の様な、出来事はまず起こらないだろう。

しかし、学園最低ランク、加えて不愛想な奏華と仲良くしたい者などそうそういない。

彼らとの間にはそれ以上の関係は無く、せいぜい挨拶を交わす程度でしかない。

挨拶を返しながら黒板に書かれていた自分の座席を確認する。

 

席は窓側の一番後ろ、なかなかいい場所だと思う。

机の横に荷物を掛け、席に座る。

窓から差し込める暖かい日差しが身体を包み込む。

 

「(やべ…眠い)」

 

寝不足気味な奏華に、この陽気は効果抜群。

席についてものの数分でうとうとと舟を漕ぎ始める。

幸い、ホームルームまで時間はある。

少しくらい寝ても大丈夫だろう。

そう思ったら、この眠気に身を任せてしまおう。

やがて眠気に従い、昼寝を始めた奏華。

 

数分後、机に突っ伏し、眠っている奏華に声が掛けられる。

 

「朝からお疲れか?寝るのもいいが、もうすぐホームルームだぞ」

 

聞き覚えのある声。

重い瞼を開き、声のした方へ視線を向けると、呆れ顔の男子生徒が一名、立っていた。

この学園で俺の数少ない悪友…もとい友人の

『柏木 琥珀(かしわぎ こはく)』

一年生の頃に席が近かったことがきっかけで、話す様になり、それからの付き合いになる。

 

「よっ、奏華、おはようさん」

 

「ああ、おはよう」

 

目を擦りながら、琥珀に挨拶を返し、身体を伸ばす。

体勢が悪かったのか、首のあたりが少し痛む。

時計を見ると、もうすぐホームルームの開始、10分前だった。

この席は思いの外、日差しが気持ち良く、予想以上に寝入ってしまった。

気を付けなければ…。

そんな事を自分に言い聞かせていると、琥珀が俺の顔を覗き込む。

 

「死んだ魚みたいに顔色悪いな…大丈夫か?」

 

どうやら、ここ最近の疲れと、寝不足のせいで顔色も悪くなっているらしい。

琥珀から見てこの言われ様なのだ…死んだ魚ってのはひどすぎないか?

本当は今すぐにでも眠りたい気分なのだが、そこは何とか堪える。

二年生に上がった初日、居眠りをしたと知られれば、また希沙羅に怒られる。

幸い、今日は午前授業。寮に戻ったら思う存分睡眠を貪るつもりだ。

そのことを琥珀に伝えると

 

「ふーん。ま、それならいいだけどな。ヤバかったら保健室行けよ」

 

ニッと歯を出して笑顔を作る琥珀。

そんな歯の浮くセリフを恥ずかしげもなく言う。

もし効果音があるのならキラーンという音と星が付きそうだ。

本人はこれをかっこいいと思っているらしい。

俗にいう、残念なイケメンって奴だろう。

おまけに後ろでは、女子たちに「ないわー」「ねー」と言われる始末。

こいつは俺とは別の意味で有名になっている。

顔立ちも良く、何かと気づかいのできる男なのだが、本人のモテたいという

願望が強いこと、言葉の端々でかっこつけようとしているせいで、女子からは

残念なイケメン、友達でいい。

というレッテルを貼られている。

黙ってさえいれば、それはそれは、モテていただろうに…。

いや、中身がこれだから、たいして変わらないのだろうか。

 

「そういえば、もうすぐ新入生が寮に移り住む時期だよな」

 

「あぁ、そういえばもうすぐか」

 

「何とかスカウトして、可愛い子に入ってもらわないとな!!」

 

琥珀の住む、『第四寮』は現在、入居者男子のみでまとめられている。

そんな訳で、男子ばかりの寮生にとって新入生(女子)の勧誘は

全力で取り組むべき行事なのである。

期待に胸膨らました、子供のようにワクワクしている琥珀とは対照的に、

奏華にとってはどうでもよい話である。

奏華の住む第七寮に現在入居希望者はいない。

おそらく、自分のブランクが原因なのだろう。

学園には何ヵ月かに一度、成績を上げるための試合が寮対抗で行われる。

上を目指すものにとって寮を決めることは今後の学園生活に繋がる。

自分が原因というのは複雑だが、成績を上げるつもりのない…そもそも上がる

成績自体が無い、奏華にはあまり意味のない行事になる。

 

「そして、新入生の美少女と起こる…恋愛。これぞ青春だな!奏華」

 

奏華が考えている間に、どうやら琥珀の妄想は後輩との恋愛まで発展したようだ。

周りにいる女子の冷めた視線に気づくことなく、妄想に浸る琥珀に、少し憐れみを感じたが

まぁ自業自得なので気にしないでおく。

 

「…そっすね」

 

「なんだよ、その反応。そこは、『お前ならきっとできるさ!』とか、『俺も負けていられないな!』ってなる所だろ?」

 

「めんどくさいなぁ」

 

「あの!奏華さん。本音が出てるよ!ナチュラルに傷つくよ!?」

 

そうやって俺たちがギャーギャー騒いでいると

教室の扉が開き、教師が入ってくる。

くせっけのある髪に分厚い眼鏡を掛け、白衣を着た気怠そうな人だ。

教師がきたことで雑談をしていた生徒達も席に座りだす。

 

「ほら、早く座れよ」

 

琥珀に席に座るよう促すと

 

「くそぉ。覚えてろよ~」

 

そんな、悪役が言いそうな捨て台詞を吐いて、そそくさと退散する琥珀。

琥珀が座ったことで教室の椅子に生徒全員が揃う。

 

「それではHRを始めます」

 

教卓に立った教師によってHRが開始される。

主な内容は、担任の挨拶と新学期に向けての教育方針などなど。

俺はその話を半分聞きながしながらぼんやりと視線を窓の外へ向ける。

空は晴れ渡り、雲は風に乗ってどこまでも飛んでいく。

異種族がいて、魔法という異能があるこの世界。

周りの人間にとっては変わってしまった日常。

取り戻すべき世界があるのだろう。

しかし俺にとって、この世界こそが当たり前の日常だった。

あの日、希沙羅に拾われてから、俺の空っぽだった時間は動き出した。

ズキンッ

朝と同じように左眼にジクジクと痛みが走る。

目覚めた後に痛む眼。

どれだけの年月が経とうと、変わることのない夢物語。

けれど、今日見た夢はいつもと少し違っていたような気がする。

最後に何か…あったような…。

晴れた空を見上げながら、ありもしない期待をする。

 

「(こんな俺でも、何か変われるのだろうか…)」

 

そんな思考は晴れ渡る青空の中に溶けていった。

 

 




次回はなるべく早く投稿できるようにします!
…たぶん。

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