翌日、奏華は希沙羅に呼ばれ、資料室に来ていた。
希沙羅は椅子に座りながら、手に持った紙に視線を移す。
「報告書は読ませてもらった」
希沙羅は顔に手を当てて、頭が痛そうにしていた。
「学園生徒が…か」
苦虫をかみつぶしたような顔。
希沙羅なりに責任を感じているのだろう。
溜息を一つ吐くと、希沙羅は視線を奏華へ向ける。
「それで、彼の話だが…」
その時、希沙羅から聞いた話は、耳を疑うものだった。
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「あ、お帰りなさい。八神君」
寮に戻った俺を出迎える桜花。
いつの間にか、『兄さん』が固定だったが、いつの間にか『八神君』になっていた。
その事について聞くと。
『だって、その方が距離が縮んだ感じしません?もう協力者なんですし』
とのことだ。
人前では『兄さん』二人の時は『八神君』と使い分けるらしい。
「…何かあったんですか?」
複雑な表情を浮かべる俺に何か感じ取ったのか。
単刀直入に質問をする。
「後で話すよ。少し整理したいし」
二人で食堂へ向かう。
席には既に二人分のティーセットが置かれていた。
準備のいいことだ。
「それで、詳しく話してもらうぞ」
「詳しく…ですか?」
「お前は死神で、でも記憶が無くて、昨日のアレは何だ!女になったぞ!」
「質問が多いです」
….
「まずは昨日の状況整理ですね。攻撃を撃った後、八神君は直ぐに気絶してしまいましたし」
朝起きたら寮の自室で寝ていたから嫌でも分かる。
最近多くないか、こういうこと。
「その後ですが、砕けたQ-bicから零れる様に行方不明者が出たんですよ。勿論、君嶋さんも含めてね」
希沙羅の話では全員命に別状はないらしい。
ただ、ひどく魔力が枯渇しており、当分入院する必要があるみたいだ。
「その後は、八神君の形態を使って学園長に連絡。その後の対応は早いものでした」
希沙羅は直ぐに医療班を送り、全員病院へ緊急搬送された。
その後は重要参考人として、桜花が希沙羅に事の顛末を話したそうだ。
「まぁ多少はアレンジしましたけどね。貴方の魔眼と私の魔力で君嶋さんを無力化したしたって」
「あんまり、魔眼使ったとか言わないで欲しいんだが…」
「はい、善処します」
ニッコリと笑う桜花。
これはあまり信用できないな。
「それにしても八神君はもう動けるんですね。魔力の回復が凄く早いんですね」
「あぁ、そう言えば。てか、そもそもあんなに魔力使ったこと自体初めてだったからなぁ」
「流石魔力タンクですね」
「不名誉な呼び名はやめろ!広めるなよ!!」
ただでさえブランクと言われているんだ。これ以上の呼び名は絶対勘弁。
「それで、学園長との話で何か気になる事でも」
「いや、そこまで大した話ではないと思うんだが…」
「聞かせてください。貴方の疑問は私の疑問。二人で考えれば解決するかもしれません」
「…君嶋に襲われる前日。俺たちは様子のおかしい所を見たよな」
「あぁ、あの時ですか。やけに泥だらけで、意味深な事を散々言ってましたね」
「あの時は気分が悪かったからそこまで考えてなかったが、アレのお陰で、君嶋に対して少しだけ、警戒心を持つことが出来たんだ」
だけど…
その先が、希沙羅から話された違和感。
『いや、君嶋 本人はずっと森にいたと言っておる』
…え?
『だから夕方にお主達と会ってなどいないと。嘘をついている様子はなかった』
『じゃあ、あの時のアイツは?』
『なぁ、奏華。お主を疑うわけではないが。本当にそれは君嶋だったのか?』
「それは…単に記憶を失っているのでは?」
確かに桜花の言っていることも分かる。
だが、そもそも力を手に入れたからって、あんな行動と発言はリスクが高すぎる。
「…二人で考えればと言った手前、申し訳ありませんが、情報が足りませんね」
「そう…だな。考えすぎかもな」
完全に忘れるわけではないが、頭の隅に置いておこう。
「そう言えば聞きそびれたけど、お前の目的ってなんだよ」
「急に聞いてきましたね。私の目的…ですか?」
「ほら、お前が自分の正体言った時、言ってたろ。役割と目的って。契約も結んだんだ、教えてくれてもいいだろ?」
「あぁ、私の目的…ですか。あくまで過程の話ですが」
そう言うと、カップの紅茶をグッと飲む。
あっという間に空になった。
「『狂い桜』の元に行くことです」
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森の中を歩く小柄な人影。
「アハッ、もう終わっちゃった〜。ショージキ、興ざめ?」
手元の携帯をクルクル回す。
「まぁ、ヒントもあげたし、トーゼンかなぁ」
すると、手に持った携帯が振動する。
手慣れた手つきで操作を行い、電話に出る。
「はいはい、もしもし総帥?」
「うん、うん?えぇ…本当に好き勝手にやらせるの?アイツにぃ?今回も失敗したのにぃ?」
「ふぅ~ん、まぁ総帥が良いっていうならアタシも反対はしないけどさぁ」
電話を切った後、その携帯電話へ視線を向ける。
倒れる奏華と、ワタワタと慌てた様子の桜花が撮られた写真。
どう見ても隠し撮り。
しかも、その現場は昨日のTレックスとの死闘後の様子。
それを見て楽しそうに少女は笑う。
「頑張ってね…八神奏華…ぃ」
最後の言葉は風にかき消され誰にも届くことはない。
華の少年の物語はここから始まる。
第一章 了
ふぅ、取り敢えず今回はここまで!
拙い文章+遅い投稿でしたが、ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
機会がありましたら、第二章でお会いしましょう!
それでは~