死神少女と鏡の魔眼   作:LAMLE

17 / 22




第十六話

 

「うぉおおおおおおお!!!」

 

影の剣を両手に握り、君嶋の場所へと一気に距離を詰める為、地面を蹴って駆ける。

 

「ッ!!アビス!!」

 

向かってくる奏華を迎撃するために、君嶋は泥へと指示を飛ばす。

それに合わせ、泥はいくつもの鋭利な形を作りだす。

そして…

 

ーガガガガガガガガッッッ

 

銃弾のように発射され、容赦なく奏華へと襲い掛かる。

 

「…ッ」

 

身体を捻り、その射線から避ける。

だが、泥は直ぐに軌道修正をすると、奏華を捉える。

 

「ッおぉ!!」

 

視界のすぐ近くにあった木の後ろに入り込む。

 

ーガガガガガガガガッッッ

 

だが一息つく間もなく、轟音と共に木が抉れ、木屑が散らばっていく。

ココも長くは持たない。

 

ーガガガガガガガガガガガッッッ

 

休むことなく打ち続けられる泥の雨によって、徐々に木の面積が失われていく。

削られた箇所から泥が容赦なく、奏華を貫く。

肩を掠め、脇腹を抉る。

 

「くそっ、これじゃまともに近づけない!」

 

与えられた身体能力をもってしても、この攻撃すべてを避けることは難しい。

ならばと、奏華は木の陰から飛び出し、再び君嶋へ向かって駆けだす。

奏華は致命傷となる箇所を最小限の動きで避ける、または剣で叩き斬る。

それ以外の箇所を容赦なく貫く泥の雨。

 

切り裂かれた皮膚はすぐに修復されるが、終わらない泥の攻撃によって、また新たな傷を作り出す。

辺りには出血死してもおかしくないほどのおびただしい血が飛び散り、血だまりを作る。

それでも奏華は止まることはない。

ひたすらに斬撃を繰り返す。

なぐように、両断するように、かわし、削る、かわし、削る。何度傷つこうとも、

何度弾き飛ばされようとも、決してその足は止まらない。

傷がふさがっていても、痛みは残る。

出血死はしなくとも、血の匂いで吐き気がする。

頭がくらくらする。

それでも少し、また少しと、君嶋へと近づいていく。

 

「なんだよ、なんなんだよ!!君はぁ?!」

 

かすむ視界の中で、君嶋の顔が焦り始めたのが見える。

その影響か、少しずつだが魔物の勢いが弱りつつある。

 

「痛いだろ?辛いだろ?だったら退けよ!!向かってくるなよ!!」

 

先ほどまであった余裕の表情は既に消え失せ、君嶋は目の前の光景に戦慄していた。

ありえない、だってそうだろう?

そうまでして、『今』君嶋を追いかける理由はないはずだ。

学園に戻って、教師にでも頼ればいい。

背中を丸めて、逃げればいい。

なのに、奏華は向かってくる。

傷が出来る度、その表情を歪めているのに、痛みに苦しんでいるのに。

こちらの方が有利のはず、なのに…。

 

「(なんで僕は、負けそうだと思っている!?圧されていると思った!?)」

 

この属性武装によって、君嶋はどこまでも強くなれるはずだった。

その為により多くの魔力を必要とした。

少しでもリスクの少ない相手を選び、魔力を溜めた。

今回も同じはずだった、いや、今までの奴らより簡単に済むはずだった…なのに。

何故だ…どこで間違えた?

奏華はすぐそこまで近づいていた。

 

「僕が…負けるはずがないんだぁ!!」

 

追い込まれた君嶋はその両手に強化の魔法を掛け、肉弾戦を挑む。

その拳を奏華へ向けて、叩き込む。

何人もの人を取り込み、魔力を溜め込んだ君嶋の一撃を受ければ、奏華の身体は砕け、沈むだろう。

だが…。

 

「アクセスッ!!」

 

俺は、その千載一遇のチャンスを逃さない。

左眼に手を当て、魔眼を使う。

世界は反転し、視界は赤く染まる。

そして六つの空白を残し、巨大な歯車は回り出す。

奏華の左眼は紅く染まり、魔眼が起動した。

 

「(この暗がりなら、見られる心配はない。写させてもらうぞ、お前の魔法)」

 

八神奏華の持つ能力…魔眼。

その眼で見た魔法を一定時間コピーし、自由に使用する能力。

その特性から、希沙羅からは『鏡の魔眼』と呼ばれている。

魔法をコピーすると言えば、聞こえはいいが、魔法自体は魔法使いであれば誰でも出来る当たり前の事。

相手が強力な魔法を使えば、こちらもそれを使うことが出来る。

しかし結局これは、じゃんけんで言えば、相手がチョキを出すことで、ようやくチョキが出せるという事だ。

これを使って、ようやく魔法使いと同じ場所に立つことが出来る。

 

そして今、君嶋の使用している強化魔法を見ることで、読み取り、自分の物にしていく。

直ぐに強化の魔法を発動し、自身に掛ける。

奏華の膨大な魔力が腕、足へと流し込まれる。

温かい膜に包まれる感覚。

剣を手放し、腕を大きく振りかぶる。

 

「希沙羅の学園を…壊して…たまるかぁ!!」

 

渾身の力を込め、君嶋の拳より先に叩き付ける。

 

「ぎゃふっ!?」

 

その一撃を顔面に受けた、君嶋はゴロゴロと地面を転がり、やがてその動きを止めた。

 

「はぁ…はぁ…」

 

それを見届け、ようやく奏華の緊張が解ける。

肩で息をしながら、全身から疲れがにじみ出る。

 

「全く、無茶し過ぎです」

 

背中から落ち着き払った声で、桜花が近づいてくる。

そっとハンカチを取り出すと、血に汚れた俺の顔へと当てる。

そこにあるはずの傷はなく、それ以上血が流れることはない。

あっという間にハンカチは血で汚れてしまった。

 

「見届けましたよ、貴方の覚悟」

 

最初にあった時は信用できなかった。

だがこの数日の間で彼女ならと思うようになった。

奏華のためにここまでしてくれた彼女のことを信じようと。

 

「桜花…俺は…」

 

「…ッ!?八神君!!」

 

桜花が息を飲んだ後、直ぐに叫ぶ。

そして…それは奏華の背後から、聞こえた。

誰かの立ち上がる音。

直ぐに後ろを振り向く。

そこでは君嶋がヨロヨロと立ち上がっていた。

その目には光が無く、まるで操り人形の様に虚空を見つめていた。

その手には黒いQ-bic 。

 

―ズズズズズズズズッ!!

 

黒いQ-bicから泥状の魔物が溢れ返る。

これだけの量、まだ隠し持っていたのか!!

あふれ出た泥は、君嶋の近くで、渦巻く。

やがて魔物がその形状を変化させ、3m前後の大きな口へと形作る…そして。

 

―バッッッックン!!

 

「た、食べた!?」

 

「これは…」

 

君嶋を飲み込んだ魔物は、その身体が膨張し、何倍もの大きさへと膨れ上がる。

膨大な魔力の摂取により、より強く、より大きくなった魔物。

大きな球体だったその姿は硬化し始め、その形を作り替える。

屈強な足、しなる長い尾。

手は足に比べ小さいが強靭な爪が生えている。

爬虫類のような顔に、大きな口。

その中にズラリと並ぶ、のこぎりのような牙。

本では見たことがある、知識としては知っている。

これは…この生物は…。

 

「…Tレックス」

 

『GRRROOOOOOOOOOOOOAAAAAAAA!!!!!!!』

 

掠れた喉が紡いだ言葉は、咆哮によってかき消される。

ビリビリと肌で感じる。

太古に存在していたとされる、恐竜と呼ばれる生物。

俺達人間の大きさなど優に超えるその巨体に俺は動けなかった。

 

「直ぐに、ここから離れましょう」

 

「…」

 

「八神君!八神君!!」

 

桜花に肩を叩かれ、ようやくハッとする。

彼女の顔は焦りが視るが、それでも藍色の瞳に絶望の色はなかった。

桜花は俺を支える様に腰に手を回し、脚に強化を加えると、一気に距離を離す。

そんな動きは、獲物を前にしたTレックスの前では緩慢に等しい動きだった。

 

「なっ!!」

 

その巨体とは裏腹に、Tレックスは咆哮を上げると、突進してきた。

周りにある木などお構いなく、なぎ倒しながら、迫ってくる。

風圧の起きる俊敏な動きで、直ぐに距離を詰められる。

その身体を回転させ、ヒュンと薙いだ尾が重い風切り音となって、二人の身体を捉えた。

咄嗟の判断で、桜花を庇う。

奏華達の身体が風圧と共に吹き飛ばされ、何度も地面を転がり、10m先まで飛ばされた。

 

「ぐぁっ…」

 

思い切り叩き付けられた衝撃で肺から空気を吐き出された。

視界が真っ黒になるほどの衝撃。

内蔵はグチャグチャ、肋骨も何本か持っていかれた。

血を吐きながらも、なんとか立ち上がろうとするが、

脳が激しく揺さぶられ、身体が思うように動かない。

それでも腕の中にいる桜花を守ることが出来た。

 

「そんな、私を庇って…八神君!しっかりしてください!!」

 

『GRRROOOOOOOOOOOOOAAAAAAAA!!!!!!!』

 

咆哮を轟かせながら、こちらに向かって、突進してくるTレックス。

すぐに避けないと、しかし身体が動かない。

フラフラの奏華にギラギラと歯の並ぶ大きな口がすぐそこに。

 

「させませんッ!!」

 

俺とTレックスの間に立つように、桜花が立ちはだかる。

左手を前に出し、その腕を右手で庇うようにすると。

 

「影遊び!!」

 

その言葉と共に、突如として、地面から湧き出る黒い影。

影は、そのまま大きくなって、一つの大きな壁となった。

そして、壁ができると同時に、Tレックスが壁に激突する。

Tレックスは泥の瞳をギョロリと動かし、自らの進行を阻む壁を睨みつける。

桜花の出した影の壁は、ギリギリの状態でTレックスの突進を押し留めている。

それを理解しているのか、Tレックスは何度も壁に突進を繰り返す。

その度に、壁も少しずつダメージを蓄積していく。

所々ヒビ割れていく。

このままでは、破壊されるのも時間の問題だろう。

 

先ほどから、身体の痛みが引いていかない。

 

魔物に奪われ、度重なる魔力の消費により、奏華達の魔力も尽きかけているのだ。

恐らく、これ以上傷の回復は望めないだろう。

それに例え逃げたとしても魔物の速さは俺達を凌駕する。

先ほどの様に追いつかれるだろう。

 

「(それに…)」

 

背中に当たる何かの感触。

確かに俺は今何かによる掛かっているはずなのに、自分の背中には何もない。

見えない壁。

あれを壊したのは桜花。

そして彼女も今は防御で手一杯。

逃げ道はない。

どうすればこの状況を打開できる?

考えろ…考えろ。

 

…君嶋の持っていたあのQ-bicに似たモノ。

魔物はあの中から出てきた。

恐らく、あのQ-bicから自在に出し入れできていたのだろう。

それなら、また閉じ込めることも出来るんじゃないのか。

あれは君嶋が持っていた。そして…そのまま。

つまり、今は奴の腹の中に。

 

「桜花ッ!!もう一度使わせてくれ、あの剣を!!」

 

魔物を必死に食い止める、桜花へ声を飛ばす。

片膝をつき、肩で息をしている桜花。

その息は荒く、無茶をしているのがよく分かる。

それでも今あるものを全て使わないと、この状況を打破できない。

俺の考えを察したのか、それは分からない。

だが桜花はその首をしっかり頷かせると、右手を俺へ向ける。

 

「影遊び!」 

 

地面からゆっくりとその姿を現す、影の剣。

滑らかな刀身が闇夜に光る。

奏華は剣を引き抜き、構えると、眼を閉じ、魔力を集中させる。

 

「(落ち着け…落ち着け…)」

 

君嶋から写し取った魔法はまだ使える。

その魔法で残った魔力を全て、強化へ割り当てる。

脚力…向上。

腕力…向上。

視力…向上。

頭の中がビリビリと痺れる。

これ以上は止めろと、脳が警告する。

それでも、奏華は強化を続ける。

聴力…向上。

反射神経…向上。

 

ピシッと何かが砕ける音が耳に聞こえる。

 

「八神君!!」

 

最後の守り、壁が破壊された。

刹那。

魔物の巨大な尾が俺達のいる場所へと薙ぐ様に叩き付けられる。

地面を揺らす轟音。

その衝撃によって、地面がひび割れ、辺りには粉塵が舞い視界が悪くなる。

 

そんな粉塵を利用し、魔物へ向かう影。

桜花を片手で抱えた奏華だ。

更に強化した身体で、間一髪、桜花を連れて回避することが出来た。

強化された視界によって粉塵の中でも魔物を視界に入れる。

 

狙うはその足。

魔物もすぐに奏華達を発見し、咆哮と共に尻尾で薙ぐ。

奏華はその攻撃に当たる前に、素早く踏み込み、一気に跳躍する。

激しく動くたび、身体がバラバラになりそうなくらい痛む。

それでも決して止まらない。

手に抱いた桜花を決して離したりしない。

魔物の足元に着地した奏華は、剣を振りかぶり。

 

「おおおおおおおおおおおっ!!」

 

魔物の足へ刃を突き立てる。

ズブズブという耳障りな音を出しながら、影の剣が切り裂いた。

 

 

『GRRROOOOOOOOOOOOOAAAAAAAA!!!!!!!』

 

片足を失った魔物はバランスを崩し、咆哮を上げながら衝撃と共に倒れる。

 

「もういっちょおおおおおおおッ!!」

 

その腹に突き刺し、縦一線に切り裂く。

切り裂かれた鱗が、肉が、泥へと変化し、ビチャビチャと音を立て地面に落ちる。

強化された視力によって、その中で鈍く光るものが見えた。

 

「…見つけた!」

 

地面に落ちた泥の中、鈍く光る黒いQ-bic

それに手を伸ばす…が。

 

「なっ!?」

 

手に取る前に、散らばっていた泥が、黒いQ-bicを取り囲み、Tレックスへと集まっていく。

 

『GRRROOOOOOOOOOOOOAAAAAAAA!!!!!!!』

 

咆哮を上げるTレックス、切り取った足も、徐々に修復されていく。

 

「これ、どうすんだよ。再生が尋常じゃない!」

 

回収しようにも、Q-bicは散らばった魔物によって先に回収され再び取り込まれる。

落ちる場所がランダムな上、何度もTレックスの腹を掻っ捌く必要がある。

このままではQ-bicを手にすることすらできない。

ただこれで分かった事がある。

 

「ですが八神君の想像通り、あのQ-bicモドキがアレにとって重要みたいですね」

 

「だが、これじゃ運良く近くに落ちてくれないと。こっちの魔力が先に尽きる」

 

Tレックスは、まだ動けないようだが、それも時間の問題。

直ぐに足の修復も終わるだろう。

先程の攻撃も、そう何度も出来ることじゃない。

どこか後ろめたそうに目を逸らす桜花。

 

「一つだけ、この状況を解決できるかもしれない方法があります…ですが」

 

桜花の歯切れが悪い。

 

「それは?もったいぶらずに教えてくれよ!」

 

「私たちが…完全な死神となることです。」

 

「完全な…死神?」

 

「はい、今の私たちはいわば、肉体と魂が離れた状態。貴方の身体に私はおらず、不完全な融合なのです。それを完全体にする。そうすれば、あるいは…」

 

「あの魔物にも勝てる…と」

 

「私は嘘をつきました。今の貴方は死神ではありません。

ですが、融合すれば、貴方は完全な死神となる。

貴方の魂と身体は、もう人間ではなくなるのです」

 

人間ではなくなる…?

そっか、それなら。

 

「なんだ、そんなことか」

 

「そんな事って…貴方」

 

眉をひそめる桜花に対し、俺は自称気味に笑う。

 

「俺は元々、半分バケモノだったんだ。今更本物のバケモノになったからって、たいして変わらないさ」

 

そう、バケモノであることは変わらない。

後は俺自身の気持ちの問題だった。

希沙羅の学園を守れるのなら、それも構わない。

 

「それよりも、お前はそれでいいのか?俺の事、信用できないとか言ってただろ」

 

「あの時はああ言いましたが、私は最初から契約を結んでも構いませんでした」

 

ただ、と桜花は続ける。

 

「貴方…八神君自身で選んでほしかった。誰かに強制されることなく、八神君自身の意志で」

 

桜花は瞳を一度閉じ、再び開く。

今度は逸らすことなく。深い藍色の瞳で、真っ直ぐに俺を見つめる。

 

「改めて聞きましょう。八神奏華…貴方は人を捨てる覚悟はありますか?」

 

恐らく、これが最後のチャンスだろう。

引き返すなら今しかない。

それでも、俺は…。

 

「この学園を守りたい。たとえ俺が人で無くなっても。心は…人としての俺のままだから」

 

「…分かりました。貴方の覚悟…たしかに受け取りました。」

 

では、と続けると、急にその頬が赤く染まる。

 

「目を…閉じてもらっていいですか?」

 

「え?なんで?」

 

「いいから!!時間はありません!!」

 

「は、はい!!」

 

桜花のいきなりの剣幕に逆らえず、ギュッと眼を瞑る。

桜花の吐息が、直ぐ近くで聞こえる。

 

「ん…」

 

一瞬何が起こったのかわからなかった。

唇に触れる、柔らかい感触。

微かに香る、甘い匂い。

眼の前の光景に、脳が処理しきれず、何も考えられない。

そんな俺をよそに、桜花は腰に手を回し、抱きしめる。

唇で、匂いで、触感で、桜花を感じる。

優しい温もりを感じた。

 

自分がキスをされているのだと、理解するのに数十秒。

時が止まったような感覚。

 

「…..」

 

桜花の吐息がすぐ近くで聞こえる。

やがてその唇が離れる。

それでも唇に残った感触は消えなかった。

 

「…外装形成」

 

桜花の呟きに合わせる様に、影が奏華達を取り囲み、覆い隠す。

その形は、まるで黒く大きな卵。

 

そして変化は直ぐに起きた。

ミシミシと、ひび割れを起こし、弾け飛ぶ。

影のカケラが辺り一帯に衝撃と共に散らばる。

 

そこには一人の少女が立っていた。

黒でも銀でもない、漂白のように穢れのない真っ白な髪。

細めの身体は華奢でどこか儚い印象を与える。

その外見とは裏腹に身に着けている服装は学園指定の男子服。

長いまつ毛をした眼がゆっくりと開かれる。

視界は先ほどと大して変わらない…が。

眼の前にいたはずの桜花がいない。

 

『意識・思考共にリンク完了』

 

「…え?何?え?何この声?」

 

頭に響くアナウンスに驚いて出た声は、自分の知らない、聞き覚えの無い声だった。

しかし、その声は今、自分が発している。

透き通るような声は少女特有のものだった。

 

『これが今の私達、死神としての姿です』

 

「はあああああぁぁぁぁぁぁ!?」

 

女!?今俺、女になってるぞ!!

自分の身体を見てみるが、服装以外、どこからどう見ても女の子だった。

大きな声を出すと、頭がクラクラする。

身体が重く、眼も霞む。

 

『八神君、質問は後にしてください。魔物の再生が終わりました。行きますよ!』

 

「これ、ちゃんと戻るんだよな!!」

 

身体が勝手に動く、もしかして桜花が動かしているのか。

何かを掴むように、虚空へ手を伸ばす。

 

「影遊び!」

 

残った魔力から搾り取った最後の剣が作り出される。

手に持つと、今までに比べどこか軽い。

 

『チャンスは一度、今から放つ一撃で魔物を木っ端微塵にします』

 

「…おう!」

 

『GRRROOOOOOOOOOOOOAAAAAAAA!!!!!!!』

 

Tレックスは怒りを含んだ咆哮を上げ、一直線に突っ込んでくる。

その距離はすぐそこまで来ている。

背中に嫌な汗が流れる。

早く、早く早く早くはやくはやくはやく!!

 

「桜花!」

 

『ッいきます!!』

 

微かに光る刀身を両手に握り、力の限り降ろす。

 

「『一刀両断!!弾けとべぇ!!』」

 

放たれた黒の斬撃がTレックスへと直撃する。

 

『GRRROOOOOOOOOOOOOAAAAAAAA!!!!!!!』

 

その一撃さえも飲み込もうと、ぶつかり合う影と泥の奔流。

しかし、その泥の身体に限界は確実に訪れていた。

影の斬撃はTレックスを呑み込む。

 

『GRRROOOOOOOOOOOOOAAAAAAAA!!!!!!!』

 

響く断末魔を残し、その身体が徐々に崩れ落ちる。

その中にある黒いQ-bicもパリィンと音を立てて、砕け散った。

 

 

 

 

 

 

 




はい、後はエピローグ!
長かった一章もようやく終わります。
長かったなぁ(遠い眼)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。