死神少女と鏡の魔眼   作:LAMLE

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ちょっと文章増量しました!(4/30)





第十五話

八神奏華は身体がダルイことを感じながらゆっくりと瞼を上げる。

 

「う…ぁ…」

 

頭がクラクラする。

無意識に手で頭に触れようとしたが、できなかった。

それもそのはず、奏華の両手、両足はガムテープでグルグル巻きにされており、まともに動かすことが出来ない。

首を動かし、未だぼんやりとする頭で、状況を確認する。

 

辺りに生い茂る無数の木々。

それは空を覆い尽くし、日の光を遮り、唯一の灯りは、無造作に置かれた、仄かに燈るランタンだけだった。

ランタンの灯りを除くと、辺りは薄暗く、まるで建物の中にいるような気分だ。

そんな所に俺は両手足を縛られ、転がされていた。

 

「(どう考えても、やばいよなぁ)」

 

なんとか移動できないかと、後ろ手に拘束された腕に力を込めてみるが、ガムテープは破けることはなく、ビクともしない。

 

やがて暗闇に眼が慣れ始め、近くに人がいることが分かった。

奏華から斜め左右に、三角形の位置に同じ様に両手足を縛られた、男子生徒が一名いた。

 

「…痛ってぇ、あん?」

 

男子生徒が目を覚まし、その目線が奏華へと向けられる。

 

「あ!!テメェ、ブランク!!」

 

奏華を見るや否や、食い掛かる様に身を乗り出したが、両手足が縛られた状態ではまともに動くことが出来ず、顔から地面に倒れ込む。

 

「痛ってぇ!!」

 

「(あぁ、コイツは)」

 

君嶋という男子生徒に課題をやらせてた、不良の一人だ。

彼は暗がりで俺の状況が分かっていないのか、拘束を外せと抗議してきた。

 

「はぁー」

 

「なに溜め息ついてんだよ!テメェこれを早くほどけよ!」

 

「あのなぁ、よく見て見ろ、俺もアンタと同じ状況なんだよ」

 

男の言動に呆れながら、奏華は縛られた両手足を持ち上げる。

それを見た男は舌打ちをすると、拘束を外すために腕に力を込め始めた。

 

「ふんッ!このッ!!やろぉッ!!」

 

だが、奏華と同じようにどんなに力を込めても、破くことはできない。

やがて男は疲れ果て、はぁはぁと肩で息をする。

 

「クソッ何なんだよこれ!!」

 

自分より慌てている者を見ていたら、幾分か冷静になれた。

 

「少しは落ち着け、俺のブーツにー」

 

ナイフが入っているから、そう言おうとした奏華を遮る様に、暗い森に草を踏みしめる足音が聞こえる。

誰かがこちらに向かってくる。

 

「やれやれ、縛っていても騒がしいな。口も押えていた方が良かったかな?」

 

俺でも彼でもない声が、段々と近づいてくる。

男と俺は声のした方へ視線を向ける。

そこには俺と、恐らくこの男子生徒をここへ連れてきた張本人-君嶋が立っていた。

 

「おい!てめぇ!!君嶋ぁ!さっさとほどきやがれ!」

 

男は現れた者が、自分のよく知っているのだと分かると声を荒げ、再び暴れ始めた。

 

「…ある意味驚きだよ。君はこんな状況になっても、そんな生意気な事が言えるなんてねぇ」

 

君嶋は呆れたような声でそう言うと、男へと近づき。

 

「あ?テメェ何言って…ぶっ!?」

 

言葉の途中で男の顔が蹴り飛ばされ、地面に倒れる。

 

「僕が上だ。黙ってろよ」

 

君嶋は倒れた男の顔に足を置いて体重を掛ける。

抵抗できない男は苦悶の表情を浮かべるが、それでも君嶋を睨み続ける。

 

「テ…メェ…」

 

「つまりこれはアレか。いじめられた復讐ってとこか?それにしては随分やることが過激すぎないか?」

 

奏華の質問に、君嶋は男に向けていた視線をこちらに向ける。

 

「まぁ、全くないと言ったら、嘘になるけど、それが全てじゃない。僕はね強くなりたいんだよ」

 

子供が自分の夢を話す様に、楽しげに話す君嶋。

それに対し、男が先ほどの仕返しとばかりに、吐き捨てる様に言い放つ。

 

「ハンッ、テメェみたいな不意打ちの卑怯者でCクラス如きが強くなれる訳ねぇだろ」

 

「(バカッ挑発するな!!)」

 

「…五月蠅いな」

 

スッと君嶋の目が細められる。

それに合わせ周りの空気が重くなるのが分かる。

その手には黒い『Q-bic』

 

「出てこい『Abyss(アビス)』!!」

 

君嶋の声にこたえる様に、手のひらの『Q-bic』がドロリと溶け出し、地面へと零れ落ちていく。

一面に広がる黒いモノ。

それは少しずつ動きを変える。

まるで鼓動するように、生きているように。

 

「う、あ….」

 

それは俺と男、どちらから出た声だろう。

もしかしたら、両方から出た声なのかもしれない。

湧き出るのは抗いようのない恐怖と嫌悪。

 

ズズッ…ズズッ

黒いモノはゆっくりとこちらへと近づいて来る。

 

「あ、あぁ…」

 

俺と同じように両手足を拘束された男はその存在に恐怖し、カタカタと震え出す。

 

「何を…するつもりだ?」

 

それは奏華の口から無意識に出た言葉。

これから起こるであろう未来を予測できるからこそ漏れた言葉。

知っていても決して受け入れることが出来ないだろう。

君嶋はそれに対し、ニヤッと口角を上げると…

 

「…ゴミの有効活用」

 

君嶋が男へ手を向けた瞬間、黒いモノは一瞬にして距離を詰める。

男の横たわる地面が黒く染まる。

 

「ひっ!なんだよこれ!おい君嶋!君嶋ぁ!!」

 

男の身体が少しずつ、地面へと沈んでいく。

少しずつ飲み込まれる恐怖に耐えきれず、その目に涙を浮かべ、必死にもがいて抵抗する。

しかし、そんな抵抗も虚しく、黒い地面へとゆっくりと飲み込ませる。

 

耳を塞ぎたくなるような絶叫。

男は恥も外聞も捨て去り、子供のように喚き散らす。

 

「ハハハ、安心しなよ。殺しはしない。けど君には電池になってもらう。僕の力を底上げする電池にね」

 

奏華はそんな状況に耐えきれず、塞げない耳の代わりにギュッと眼を瞑る。

それでもこの状況を何とかする為に君嶋にばれないように

震える指でブーツへ隠したナイフを取る為に手だけは動かした。

 

「(落ち着け…落ち着け)」

 

そう言って恐怖にでおかしくなりそうな自分を無理やり奮い立たせ、手を動かす。

 

 

 

どのくらい経ったのだろう。

飲み込まれるコプコプいう音も、男の叫び声も、いつしか聞こえなくなっていた。

 

「(もう少し…で)」

 

ナイフが最後の箇所を切り終える。

手足が自由になった、奏華はゆっくりと眼を開ける。

 

 

黒いモノはまだそこにいた。

波打つ波紋は、まるで味わっているように見えた。

そして君嶋もその光景をじっと見つめていた。

 

その光景に耐えられるはずもなく、奏華は音を立てないようにゆっくりと後ろへ下がる。

助けると言う選択肢なんて出るはずがない。

奏華の頭にある選択はただ一つ。

一刻も早く、この場から逃げることだった。

 

「ハッ…ハッ…ハッ…」

 

呼吸を忘れるほどの圧迫感。

それでも動かない足を必死に動かす。

足場の悪い木々の根を飛び越え、かき分け、必死に走る。

少しでもあの黒いモノから離れるために。

 

「あっ?!」

 

足に何かが絡みつき、俺は盛大に転んでしまった。

見ると地面から生えた黒いモノが俺の足に絡みつくようにしていた。

 

「アハハハハッ!ダメだよ、だーめ!逃げるなんて許さないよ。君にやることは沢山あるんだ。だって君は…貴重な栄養なんだから。」

 

暗い森の奥から君嶋が、ゆっくりと近づいてくる。

あの黒いモノを引き連れて。

 

「ぐっうぅ…こっのっ!!」

 

ナイフを絡みついた黒いモノへ向かって斬りつけるが解ける様子はなく、ビクともしない。

黒いモノは俺の手足をそれぞれ木に縛り付けると俺の身体はXのように磔にされる。

手足に感じるブヨブヨした気持ちの悪い感触。

そうだ、この感触には覚えがあった。

 

「お前!それが何かわかっているのか!」

 

「…何とは?」

 

奏華は早金のように鳴る心臓を抑え、考える。

君嶋は先ほどから、黒いQ-bicの事を属性武装と呼んでいた。

奏華自身も体験した、認識障害。

もしかしたら君嶋にもそれに似たことが起きているのではないのか。

だとすれば、それを利用すれば、奴を動揺させて、隙を付けるかもしれない。

奏華は手に持ったナイフに力を込める。

 

「お前の使っている、それは…そのQ-bicは…魔物なんだぞ!」

 

魔物、その言葉に僅かに目を見開く君嶋。

だがそれはすぐに嘲笑へと変わった。

 

「バカか君は。魔物を従えられるわけないだろ?」

 

「おかしいとは思わないのか?属性武装が人を飲むなんて、その特徴はまるで魔物じゃないか!」

 

「属性武装は多種多様、理由にならないなぁ」

 

君嶋はうすら笑いを浮かべながら、泥へ指示を出そうと手を上げる。

 

「だが!!もし魔物が人の魔力を食らうためにお前を利用しているとしたら?」

 

ピタリッと君嶋が動きを止めると俺の顔をじっと見る。

続けろという事だろうか。

俺は乾いた唇と舐めると言葉を選びながら話を進める。

 

「俺は数日前、学生寮の前で獣の姿をした魔物の群れに襲われた。もし、その魔物が使役されていたのだとしたら?」

 

少しでも多く、君嶋が違和感を持つものを指摘し、説得する。

最悪の場合、その隙をついて、このナイフで足を狙う。

暗闇に眼が慣れた今なら、殺さずに動きを封ずることも出来る筈。

 

「お前も何かしらの能力が使われて、認識障害を持っているとしたら?俺にはお前のQ-bicは黒く見えるし、俺を拘束しているコレは魔物の泥にしか見えない。お前は違うモノに見えているんじゃないのか?少しでも違和感があるのなら」

 

「もういいよ、君の言いたことは分かった。だから…」

 

もう嘘はいいよ。

 

君嶋がそう言うと同時に、ぐちゃりと何かが腹を抉り中へ入ってきた。

視線を下に向けると冷たいソレは、あの黒いモノだった。

 

「これはぁ、僕のぉ、属性武装だぁ!」

 

「あ、ああああああああああ!!!!?!」

 

耐え難い痛みに、俺は喉が潰れるほどに叫んだ。

同時に身体から血と共に魔力が体外へと流れていくのがわかる。

 

「アハハハハ!!即興で作ったにしては面白い話だったよ!!でも残念そんな嘘に騙される僕じゃない」

 

俺の魔力を吸い取って、魔物が喜ぶように波打っているように見える。

 

「君は他とは魔力量がケア違いだ。確実にレベルアップできるよ!

そうしたら、そうだなぁ。まずはこの学園を潰す。人を差別をする学園なんて潰れちゃえばいいんだよぉ!!」

 

キーンと耳鳴りがする中、君嶋の声が微かに聞こえる。

潰す?この学園を?

そんなことをすれば…希沙羅が…悲しむ。

こいつは、希沙羅の障害となる存在なんだ。

そんな…そんなこと…ユルセナイ。

 

「させ…ない!」

 

左眼が燃える様に熱い。

力の入らない手で黒いモノを掴む。

俺の抵抗に、魔物は怯まない。

それどころか、更に肉を抉り、俺に悲鳴をあげさせようとする。

俺は必死に痛みに耐える。

前にもあった、死と隣り合わせの戦い。

いや、”前”も今も戦いなんて呼べるものでは無い。

どちらも一方的な蹂躙。

弱い者が強い者に喰われるだけの弱肉強食の世界。

それは、不平等の世界。

 

頭の中がチリチリ痛む。

 

相当な魔力を溜め込んだ魔物に対し、こちらの武器はナイフ一本と

死神としての身体能力、そして魔眼。

ナイフではビクともしない。

捕まる前にコピーした魔法は既に時間切れ。

今はもう使えない。

足りない、モット、もっと別の力が…。

 

段々と意識が薄れていく。

 

あぁ…なに…やってんだろな…俺は…

 

浮かぶのは妹の…桜花の顔。

 

『兄さん一人の命ではないんですよ?』

 

「あ…ぁ、そう…だ。俺は…死ね…ない。この身体は…もう俺一人のものじゃないんだ!」

 

「はぁ?なに言ってるの?あまりの痛みに壊れちゃった?」

 

俺を人のみにするように、泥が膨れ上がり、口を大きくを開ける。

俺は喰われるだろう。

そして…希沙羅は?桜花は?

あぁ、そうだ俺は大事な所でいつも失敗する。

悪い癖だ。

 

「ちく…しょ…」

 

だがその刹那、絶体絶命の中、一筋の希望がその場に現れた。

俺を飲み込もうとする泥より先に、俺の身体を覆った黒い影。

 

「…誰か忘れているのではないですか?」

 

泥は貫かれた箇所を切り捨て、残りの身体を縮こませながら後退する。

切り落とされた箇所はシュウシュウと炭酸のような音を立てて地面に溶けていく。

 

「デビュー戦にしてはいささか、華のない方ですが…まぁいいでしょう」

 

ここ数日聞いていた声が、今は妙に懐かしい。

君嶋が驚きの声を上げる。

 

「っ!?君は?」

 

黒の制服を彩る、銀色の絹のような美しい髪。

最後に見た顔色の悪さはなく、力強く輝く瞳。

モノクロだった世界に、色彩が蘇る。

この世のものとは思えない、どこか儚く、それでいて美しい。

 

それほどまでに、彼女は美しかった。

 

あの暗い森を止まることなく、一直線に駆け抜けてきたのか。

制服には無数の葉が付いていたが、彼女は気にした様子はない。

 

スカートの端をつまみ、さながら舞台に立った役者のように、優雅にお辞儀をする。

 

「お待たせいたしました。兄さん。貴方の妹が、今到着いたしました」

 

 

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「絶好の見せb…コホン、間一髪。流石の悪運です。兄さん」

 

『影遊び』

桜花がそっと言うと、俺の手足を拘束していた泥を削る様に影が円を描く。

流れる血と共に力なく奏華が倒れる。

その光景を見ながら君嶋が泥を集合させる。

 

「君のことは知ってるよ。噂の転校生さん。魔法使いとしては優秀…でも身体の弱い学生。八神桜花さん」

 

「有名で何よりです。特に光栄でもありませんが」

 

桜花の変わらぬ対応に、君嶋は眉をひそめる。ボロボロに兄に、君嶋の持つ変幻自在の泥。

この状況を見ても態度が変わらない桜花に疑問を持っているようだった。

 

「君、身体弱いんでしょ?僕と戦ったら死んじゃうかもよ?大丈夫?」

 

挑発する君嶋。

彼の足元で泥が渦巻く。

まるで君嶋に同調して桜花を嘲笑うように

しかし、桜花の態度は変わらない。

 

「問題ありません。私はほんの少し手伝うだけ。だって貴方と戦うのは兄さんなんですから」

 

桜花の発言を聞いて、君嶋はポカーンと口を開け、呆気にとられる。

そしてそれは嘲笑へと変わる。

 

「あはは!ひどい妹だな!こんなボロボロの兄を見て、それでも戦えって!やっぱりそうだ。魔法使いってのは強ければ強くなるほど偉そうな奴ばっかりだ!弱者の気持ちを考えたこともないんだ。だから僕が変えてやる!こんな世界を変えてやる!!」

 

大笑いする君嶋に対し、桜花は何も言い返さない。

その目は、目の前の少年を憐れむように見ていた。

 

「…なんだよその目は?」

 

桜花は人差し指を君嶋へ突きつけ、自信満々に堂々と宣言する。

 

「あなたの物差しで彼を計らないでもらえますか?

少なくとも、この人は馬鹿みたいに他人に頼ることなく、よく死にかける人です。

彼も馬鹿ですが、貴方は大馬鹿です。

己の未熟さを認めず、全て周りのせいにして。これまで積み重ねてきた努力を捨ててまで

禁忌の力に手を出した愚か者なのですから」

 

「…何だと」

 

君嶋はぎりっと奥歯を噛みしめる。

その目に宿る感情のは怒り。

 

「力を求めてなにが悪い!!」

 

「力そのものを求めることに善も悪もありません。問題はその使い道。

ですが貴方は、その力を手に入れた後、一体何をしましたか?」

 

「そ、れは…」

 

君嶋が見せる、初めての動揺。

桜花は構わず続きを話す。

 

「己の力を手にした途端。あなたが初めに行った事。他者を襲い、さらなる力を求めようとした。

それのどこに正しさがあるのでしょうか?

力を求めることに、限界なんてありません。

自分で定めなければ、もっと、もっとと求めていく。

他人を犠牲にして得た力で、更に力を求める。

貴方のやっていることはただの悪であるということが、貴方自身、分かっているのではないですか?」

 

「う、うるさい!うるさいっ!!僕は強いんだ!もうあんな惨めな自分になりたくないんだ!!」

 

「言葉ではもう届きませんか、兄さん!いつまで寝ているんですか!もう十分回復しましたよね?」

 

桜花の呼びかけに対し、君嶋は鼻で笑い飛ばす。

 

「何を言っているだ。こいつはもう重症。立ち上がることだって…」

 

「え?アレ?…立てる」

 

「はぁ!?!?あれだけボロボロだったのに?あんなに血が出ていたのに?

なんで立ち上がれるんだよ!!腹に穴だって!」

 

驚く君嶋が目にした奏華は、無傷だった。

いや、制服の所々はボロボロであり、泥が刺した箇所の制服部には穴が開いていた。

だが、その身体にはかすり傷すら無くなっていた。

 

「肉体的な損傷など、魔力があればいくらでも塞ぐことができます。

私がいる限り、魔力を血液に代替えし、破れた皮膚の代わりとして、その穴を魔力で塞ぎましょう」

 

よく見ると、先ほどまで余裕そうだった、桜花の呼吸は荒く、額には汗をかいていた。

だが、君嶋は彼女のそんな変化に気づくことはなく、その発言に対し、嘲笑ではなく、驚愕の表情を浮かべる。

 

「なんだよそれ!あり得ない!治療なんてもんじゃない。魔力の変換をそんなことに使えるはずがない!人間の脳にそれだけの情報処理ができるはずがない!!」

 

「貴方たちの尺度で私の限界を計らないでもらえますか?まぁ、今も頭の奥がチリチリと痛みますが、まだ耐えられます」

 

「ッ!この!!」

 

君嶋は泥を桜花へと向けるが、俺は桜花を引っ張り、その攻撃を躱す。

二人の視線は真っ直ぐ、敵を捉える。

 

「た、立ち上がったからなんだよ。僕にはこれが、この属性武装が!!」

 

「ほんっと、お前って良いとこで現れるんだな。なんだよその登場シーン。カッコよすぎだろ」

 

「悔しかったら、次は貴方がしてみて下さい」

 

「はっ!たかが傷がふさがったくらいで!最初に戻っただけじゃないか!!」

 

「(いいえ、最初に戻ったわけではありません。私が来たことで、既に決まりました。兄さんの勝利が、ね)」

 

不敵に笑う桜花。

その瞳には自信と確信に満ちていた。

 

「さぁ、兄さん。思う存分使ってください。あなたの力になるかもしれないもの。

二度目のお試しサービスです。使い方、分かりますよね?」

 

俺が死んだら桜花も死ぬ。

それでも眼の前の少女は命を懸けて俺にチャンスをくれた。

彼女の覚悟に、応えなければいけない!!

 

「…影遊び!!」

 

そう叫ぶ彼の前に、影の剣がその姿を現す。

どこかひんやりとした柄を握り、一気に引き抜く。

 

「覚悟しろ君嶋。お前の罪、償ってもらうぞ!」

 

 

 

 






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