死神少女と鏡の魔眼   作:LAMLE

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ハイ!あけおめ!(←遅い)
新年初投稿です!
それでは第十三話をどうぞ!


第十三話

 

<Another wiew>

 

暗い室内、微かな明かりが灯る部屋。

 

『ア…アァ…ミタサレル…ミタサレル…』

 

『モット…モットダ…モット…クィタィ』

 

「あぁ、あぁ、いいぞ。たくさん食べろ。もっと…もっと大きく…そして…」

 

―ズズッズズズッ

 

何かがゆっくりと沈む気味の悪い水音。

微かな明かりで照らされる、水面から生えているのは…人の手だった。

苦しいのか、その手は誰かへ助けを求めるように必死にもがいている。

しかし、その手は何も掴むことなく、ゆっくりと飲み込まれていった。

 

―ズズズッズズズッ

 

やがて水音は止み、静寂に包まれた。

 

「次は…誰にしようか?沢山魔力のある人がいいな」

 

口元を歪め、笑うその姿は、人ではなく『怪物』そのものだった。

 

 

<奏華 wiew>

 

未だ寒さの収まることのない魔法学園RUBICの朝。

二人の男女が一緒に登校していた。

 

「…」

 

「…」

 

一人は少しくせっ毛のある黒髪の少年『八神奏華』

もう一人は銀色の髪をもつ、死神少女『八神桜花』

朝はいつも一緒に登校する二人だが、その中に会話は無く、アスファルトを歩く二人分の足音だけが聞こえる。

 

ジュース事件から数日経つがその間にも桜花からの様々なアクションがあった。

ある時は一日中、買い物につき合わされ翌日、全身筋肉痛。

またある時は第七寮の大掃除を二人でやることになったりと。

最近は振り回されてばかりの毎日だ。

 

『分かっていませんね、兄さん。妹たるもの常にインパクトを残さないといけません!!』

 

協力に関して、ゆっくり考える時間云々はどこ行ったんだよ、というツッコミを何度したことか。

奏華は心の中で何度目かの溜息をつく。

ここ数日、何かと桜花に振り回さる事が多かったが、正直な話、嫌ではなかった。

誰かと長時間、買い物するなんてなかったし、掃除なんて簡易的にしかしていなかった。

今だってそうだ。

登校中、二人に会話なんてない。

無言で誰かと歩いてるなんて、普段ならそれは苦痛でしかない…ないのだが、なぜかそうはならない。

 

「(…まずい、まずいなぁ)」

 

今の状況を受け入れつつあるこの状況。

そのことに奏華は頭を悩ませていた。

 

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いつもの様に教室に入ると、何やら騒がしい。

教室を見回すと、誰も彼もがザワザワと騒がしくお喋りに夢中のようだ。

 

「お?奏華、はよーっす!」

 

話し合っているグループから見知った奴が挨拶をしてきた。琥珀だ。

「なぁなぁ、聞いたか?例の噂」

 

琥珀はグループから抜けると桜花と共に席に着いた俺に話しかけてくる。

 

「噂?いや聞いてないが。それでみんな騒がしいのか」

 

昨日今日でまた新しい噂が出てくるとは、本当にこの学園は噂が尽きないな。

俺が呆れて溜息をつくと、桜花が小首をかしげながら琥珀へ質問した。

 

「噂…ですか?一体どんなものがあるんですか?」

 

「あぁ、何でも実験生物の被験体が逃げだして人を襲っているとかなんとか」

 

「実験生物ぅ?」

 

胡散臭さ100%の話に眉をひそめる。

RUBICにそんな施設は存在するなんて聞いたことが無い。

 

「いや、真偽はともかく、この噂が出てるのはマジだって!実際、学園生がここ数日で5人も行方不明なんだとさ」

 

「…はぁ?」

 

「外泊届も出てないって言うし、翌日になっても帰ってきてない。それでおかしいと思った寮長が学園に連絡したんだと。んで、実験生物が行方不明者をさらっているんじゃないかって、もっぱらの噂だ」

 

まだ琥珀の話しか聞いていないから、信憑性には欠けるが。

確かにここの学園生なら簡単に誘拐されるとは思えない。

それなら?

奏華はそれに対する候補をいくつか考える。

例えば、森に行った可能性。

夜間の外出を企む生徒は偶に現れるが、直ぐに見回りに見つかるか寮の脱出で失敗する。

それに加えて、森に近付くことが禁止されている今、更に警備は強化されているはずだ。

簡単に抜け出せるはずがない。

方法があるとすれば教員の手伝いなどで遅くまで手伝った生徒。

それに加え、警備の目を掻い潜れるほど隠密技術のある者。

様々な考えが脳裏をよぎるが、どれも現実味が無い。

 

「…さん、にい…」

 

「(それとも…魔物にやられたのか?)」

 

奏華を襲ったあの魔物のように、この学園の生徒を襲ったという考えもできる。

 

「…えいっ!」

 

「わひゃあ!?」

 

首筋にひんやりとしたものを当てられ、思わず情けない声を上げてしまった。

 

「何してんだッ!!」

 

「あ、首を触ると温かいですね」

 

俺の首筋に手を入れた犯人(桜花)は呑気に話しかけてきた。

周りに視線を巡らせるが、みんな噂に夢中で俺達の方には気付いていない様だった。

さっきまでいたはずの琥珀も既に席を立って話の輪の中にいた。

 

「琥珀さんなら兄さんが考え込んだ辺りから、諦めて行っちゃいましたよ」

 

「そうか」

 

「私はさっきから話しかけてましたが、全然聞こえていないようだったので強硬手段に出ました」

 

そう言うと、雪のように白い手を持ち上げた。

 

「丁寧な解説ドウモ」

 

悪目立ちしそうになったので、最初は怒ろうと思ったが、

考え込んで、無視してしまったのなら、少しばかりバツが悪い。

 

「悪かったよ、ちょっと考え込んでた」

 

「…貴方って変な所で律儀ですね」

 

驚き半分、呆れ半分の顔で口元を緩める桜花。

その表情は照れているのか、少し赤くなっていた。

 

「茶化すなよ。それで何の用だ?」

 

「えぇ、実は…」

 

ガラッ

 

桜花が話そうと口を開いた時、教室の扉が開き、柳教員が入ってきた。

騒がしかった教室も教員が来たことで、みんな席へと戻って行く。

 

「おい、先生が来たから、お前も席に…てぇ!?」

 

視線を教卓から桜花の方へ向けると、いきなりしなだれかかってきた。

二の腕あたりが形の良い胸にむぎゅっと挟まれた。

顔がカッと熱くなるのが分かる。

 

「お、おい!?」

 

急いで胸から抜け出し、肩をつかんで離そうとするが、どうも様子がおかしい。

桜花の顔は熱っぽく、呼吸は荒い。

その表情は辛そうで、今まさに倒れてきたようだった。

 

「おい!大丈夫か!!」

 

「はい、何とか…大丈夫です」

 

はぁはぁ、と荒い息で辛そうに話す桜花。

おでこに手を当てると、熱い。

 

「お前、熱があるじゃないか!」

 

倒れた桜花を見て教室がざわざわと騒がしくなる。

 

「どうかしたのかい?」

 

教員がこちらへやってくる。

 

「先生、こいつ熱があるみたいで、保健室に連れて行きます」

 

「あ、あぁ、分かりました。一人で大丈夫ですか?」

 

教員の言葉に俺は頷くと、桜花の首の後ろと膝の裏に腕を回し、お姫さま抱っこをする。

予想通りというべきか、桜花は軽かった。

 

「に、にいさん、恥ずかし、です」

 

お姫さま抱っこという状況に熱とは別に顔を赤らめる桜花。

 

「今はそれどころじゃないだろ!行くぞ」

 

俺はそのまま桜花を運ぶため保健室へ向かった。

 

 

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<廊下>

 

「に、さん、とま、って」

 

「なんだ?」

 

教室を出てすぐ、桜花が静止の声を掛ける。

桜花は弱々しい手で上を指さした。

 

「屋上、へお願い、します」

 

「屋上?どう考えても保健室か病院だろ?」

 

「いい、ですから、屋上に、その二つ、では解決しません。私は...ですから」

 

桜花の小声で言った言葉、『私は死神ですから』その言葉に彼女が人とは違う存在だということを思い出す。

 

「…わかった」

 

俺は桜花の言う通り、屋上へ続く階段へ進路を変えた。

 

 

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<屋上>

 

この時間、屋上は無人だった。

流石の白百合も今はいなかった。

桜花は辛そうな顔で、ベンチへと腰を下ろす。

その顔は相変わらず、赤く、どこか焦点があっていないように見える。

 

「あはは、授業、休むことに、なっちゃいましたね」

 

誤魔化す様に笑う桜花に俺は単刀直入に切り出す。

 

「お前、他に何を隠してるんだ?」

 

「…えっと」

 

どこか歯切れの悪い桜花。それは少し言葉を選んでいるようだった。

 

「…当てようか?」

 

桜花の様子はどこか見覚えのあるものだった。

いや、正確には見覚えのあるものの更に悪化したもの、と言えばいいのか。

 

「…..」

 

桜花は答えない。

ならばと、俺は合っているであろう正解を突き付ける。

 

「魔力切れ…だろ」

 

桜花の症状は魔力切れのものに近い、それは琥珀と何度も戦っている奏華だからこそ身近に感じるものだった。

だが、琥珀の場合は、顔色が悪くなる、貧血のようなもの。

恐らく今の桜花の状態はそれ以上悪化した場合に起こるものだろう。

 

「…はぁ、ばれちゃいましたか」

 

桜花はバツが悪そうに視線を逸らすと、溜息をついた。

 

「何で、何でそんなことになってるんだよ」

 

「…私の身体は、魔力で出来ています」

 

「ま、魔力!?」

 

「えぇ、そして人としての肉体を持たない私では魔力を作ることはできません。この身体はあくまで魔力をため込む容器でしかありません」

 

魔法を使えばその分減るだけの器。

ではその溜め方は?

それは奏華からの魔力供給が必要になってくる。

 

「ですが、今は貴方とのパスは繋がっていません。今私に流れている魔力は最初に貴方の魂に同化したとき貰った魔力のみなのです。必要な分を回収したつもりでしたが、まぁ予想外の事態で余分に魔力を消費してしまいました」

 

思い出すのは魔物との戦闘。

あの時、桜花は予想外に多くの魔力を消費してしまったのだろう。

 

「どうすれば、回復するんだ」

 

俺の言葉を聞いて、桜花は目を丸くする。

 

「えっと、貰えるんですか?」

 

「お前の魔力が無くなると俺まで危険なんだろ。だったらしょうがないじゃないか」

 

「いえ、てっきり信用されないかと…思いまして」

 

「病人みたいに苦しそうなんだから、信じるだろ、普通。逆にそれが演技だったら大したもんだよ、俺の負けだ」

 

「…」

 

イマイチ要領を得ないという顔の桜花。

少し逡巡したが、一度首を振ると、右手を俺へ差し出した。

 

「握ってください」

 

「?…分かった」

 

よく分からなかったが,言われた通り、差し出された右手を左手で添えるように掴む。

桜花の白い手はその見た目通り、ひんやりしていたが、女の子の柔らかさがあった。

 

「では、いきますね」

 

「…ッ!!」

 

桜花の言葉と共に、左手から流れるように魔力が抜けていく感覚。

少し採血をされる感覚に似ている。

手の先がビリビリと痺れ、脚の感覚が不安定になる。

 

「…はい、終わりました」

 

長く感じていた時間は、ほんの数分で終わった。

桜花の顔色も先ほどよりずいぶんマシになっていた。

 

「今のが…魔力供給か?」

 

「いえ、少し違います。貴方、辛そうでしたね。本来なら違和感すらなく終わるものです。だって契約していれば貴方の身体は私の身体でもあるのですから。今は貴方の魔力が別の個体へ移動したので、採血の様に、貴方の魔力残量が減ったんです」

 

左手を見る。

先ほど感じた痺れはもうない。

足にも違和感はない。

自分の中にある魔力が幾分か減っていただけ。

 

「それで…話…です…が…」

 

桜花の瞼が次第に下がっていく。

ベンチに腰掛けている身体もふらふらと左右に揺れる。

 

「おい!大丈夫か?」

 

倒れないよう直ぐに支える。

顔にかかる、銀色の髪が日に照られて、キラキラと輝く。

 

「平気…です…魔力が馴染んでいないので…眠く…なっただけです。それより…気を付けて…下さい…貴方を襲った魔物…は意図的な…注意してくだ…さい」

 

やがて瞼は完全に下がってしまい、すぅすぅと規則正しい寝息が聞こえてくる。

眠ってしまったようだ。

 

「…ありがとう」

 

桜花の言ったことはよく分かっていない。

だが、眼の前の少女は俺の心配をしてくれていた。

俺は桜花に小さく礼を言うと、彼女を抱き上げ、保健室へ向かった。

 

 

 

 





そろそろ一章も終盤です。
では、また次回でお会いしましょう。
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