死神少女と鏡の魔眼   作:LAMLE

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第十二話

 

教室に入り、授業を受ける。

たったそれだけの事にとても、とても疲れた。

自分と他の人の間にある壁、それがある日突然、壊されていたのだから無理もない。

桜花の仕業か、それとも”妹がいたら”俺はそうなっていたのか。

クラス連中との距離が今までの俺が知っているものと180°変わっている。

今まで何かされていたわけではないが、いきなり親しくされても上手く適応できないのが俺こと八神奏華だ。

 

今までは琥珀と軽く話す程度だったのに今朝来たら、普通に何度も話しかけられた。

昨日通りと言われたら、そのままなのだが。

 

それに、それだけではない。桜花の噂はすべに学園中に広まっており、各クラス、各学年から桜花を見に人がやってくる。

ついでに俺も見られる。

 

そんな変わってしまった環境に適応しきれず、

結局、俺は昼になると逃げるように屋上へ避難した。

 

「で、ここにいるんだ」

 

「…あぁ」

 

今俺の隣には示し合わせたかのように屋上に来ていた白百合が座っている。

勿論、馬鹿正直に話したわけじゃない。

簡単に、桜花が来たことで周りとの接することが増えて大変という話にした。

 

「まぁ、半分はソーカ妹が目当てで仲良くなろうとしているんだから、ソーカが気負う必要はないと思うけど」

 

「なんというか、疲れたわ」

 

当の本人は飲み物を買いに行っている。

桜花自身、この状況を気にした様子はなく、寧ろ俺の困っている様子を見て楽しそうだった。

アイツ、実は悪魔なんじゃ…。

 

「とりあえず、お疲れさまだね」

 

労いの言葉を言って、肩をポンポンと叩かれた。

聞き上手の白百合と話して少し気分が落ち着いた。

落ち着いたからこそ、ついポロッと口に出してしまった。

 

「あぁ、そう言えば、今朝の不良またやらなきゃいいけど」

 

「何か…されたの?」

 

白百合の目が鋭くなる。

先ほどまでの柔らかさはなく、氷のように冷たい瞳だった。

マズイ、俺は慌てて言い直す。

 

「い、いや、俺じゃなくて絡まれてた学生がいたからさ」

 

「…そうなんだ」

 

幾分か冷たさの消えた目になったのを見てホッとする。

いつだったか、不良に絡まれたことを白百合に話したら、次の日からその不良は俺を見るとそそくさと逃げるようになった。

なんてことがあった。

おそらく白百合の仕業だと思うんだが、本人は。

 

『ソーカの凄さが分かったんだよ』

 

としか言わなかった。

以来、俺は白百合には言わない様、気を付けていた。

 

「(俺のせいで白百合が暴力事件とかシャレにならないからな…)」

 

「ただいま戻りました!」

 

タイミング良く、桜花が屋上の扉を開ける。

その手には飲み物が何個かあった。

 

「皆さんの分も買ってきました。どれがいいですか?」

 

「あぁ、ありがと…う」

 

飲み物を見た白百合の顔色が明らかに悪い。

って若干放心している!!

その理由は飲み物のパッケージにあった。

 

「どうかしましたか?」

 

「い、いや、コレ…」

 

「面白そうですよね!こんなに一杯”変”な飲み物があるなんて、やっぱりこの学園はすごいですね」

 

「(いや、変な飲み物って…)」

 

幾つか見てみた。

『納豆かき氷味』

『”けもちょるぴ”サイダー』

『どっこい羊羹水』

『深淵の”けもちょるぴ”』

 

あまりのラインナップに、途中で考えるのを止めてしまった。

 

「さぁ、兄さん、一本ぐいっと!」

 

「い、いや、俺は、なぁ白百合…って、いねぇ!!」

 

隣で顔色を悪くしていた白百合はいつの間にかその姿を消していた。

 

「今!今ヘルプなんだけど!白百合ッー」

 

「さぁ、兄さん私達兄妹の絆を深めましょう!!」

 

二本のジュースを両手にジリジリと近づいてくる桜花。

 

「お前は阿呆か!?こんなん飲まされたら、悪化するわ!!」

 

その手のラインナップには

 

『”けもちょるぴ”サイダー』

『深淵の”けもちょるぴ”』

 

よりによってそれかー!!

なんだよ!”けもちょるぴ”って、意味わかんねーよ!!

 

「や、やm….」

 

その後、屋上から響く謎の叫び声が聞こえた。

 

 

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<Another wiew>

 

辺りが夕焼けに照らされる森の中。

一人の少年が歩いていた。

 

「はぁ、はぁ!やった、ついにここまで来たぞ!情報通りなら狂い桜はすぐそこだ。

これでもうバカにされることなんてない。上級のやつら、今に見てろよ。

僕を散々バカにしやがって、狂い桜の力が手に入ったら思い知らせてやる!」

 

少年は乱れる呼吸をそのままに、辺りを散策し始めた。

 

「はぁ…はぁ…無い。どこにも無い!何で…なんでぇ!くそぉ、クソォ!!」

 

あれから一時間たっただろうか、いくら探しても普通の木ばかりで桜の木なんて見当たらなかった。

苛立ちは諦めに変わり、少年は肩を落とした。

その背後にソレはいた。

 

『……』

 

「ん?うわぁ!?なんだお前!」

 

背後に人がいた。

そのことに少年は驚き、尻餅をついてしまった。

頭の先から足の先まで、真っ黒な布によって全身を覆っている者。

少年に向かって、黒フードは声を掛ける。

 

『力が欲しいか?』

 

変成器を使っているのか、機械的な声がこだまする。

だがそれは少年が望んだものだった。

 

「…っ!!」

 

『もう一度聞こう。力が欲しいか?』

 

少年にとってその言葉は藁にもすがる思いだった。

 

「…欲しい、欲しいさ!アイツらをぶっ潰せる力が!

この学園で最強になれる力が!僕達だって夢見ていいはずだ!

同じ魔法使いなのにこんな優劣がつくなんて!

間違ってるんだから!!僕達は…選ばれたんだから!!」

 

『…』

 

黒フードは何も言わない、だが笑っているのだと少年は思った。

 

「アンタ狂い桜を知ってるのか?なら頼む!教えてくれ!

それはどこにある?僕は欲しいんだ!!圧倒的な力を!!!

狂い桜を見つければ、手に入るんだろ!!」

 

『…いいだろう、持っていけ』

 

黒フードが一つの物体を取り出した。

キューブ上のそれを少年は見たことがあった。

 

「…これは!」

 

『それを使えば、お前は強くなれる。この学園で最強にだってなることができる』

 

受け取ったものをしげしげと見つめる。

それは黒いサイコロ状形をしたものだった。

少年の持つ知識でその物体がなにか分かった。

 

「(これQ-bicじゃないか!資格を持つ者だけが持てる。上位魔法使いの証!)」

 

自然と口が吊り上がり、笑いが止まらない。

ついに少年は笑い出した。

 

『…フフフ、上手く使え』

 

黒フードの言葉などもう少年には届いていなかった。

少年の目は既に”黒い”Q-bicへと向けられていた。

 

 

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<奏華 wiew>

 

「…」

 

「…….あ、あの、兄さん」

 

「……….」

 

「む、無視しないでください!何度も謝っているじゃないですかぁ」

 

「……..」

 

桜花に無理やり飲まされた、あの飲み物。

美味しかったのだ…”最初は”

最初に口の中に広がったのは爽やかな味だった。その味が段々と右下がりに落ちていき、

最後には腐った牛乳のような気分の悪くなる味に変貌した。

おかげでその後の授業は集中できず、全く授業にならなかった。

 

「(まぁ、明らかに顔色が悪かったから、誰からも話しかけられなかったのは良かったが、その代償があれじゃ割に合わない)」

 

今でも思い出すと…うっぷ。

 

「口直しに美味しいもの作りますから、機嫌治してください」

 

実際は気分が悪く、何も言えないのだが。

桜花はそれを俺が怒っていると思っているようだ。

勿論、怒ってもいるが。

 

っと、ガサガサと茂みが揺れると、誰か出てきた。

 

「(あ、今朝の気弱な奴だ)」

 

「ん?あぁ、君か」

 

今朝見た時はオドオドしていた少年はどこか自信を持っている雰囲気。

それに制服の所々が、土で汚れている。

まるで地面に倒れたみたいな。

 

「(アイツらの仕業か?)」

 

だがそれにしては少年には悲壮感はない。

それに若干の違和感を覚えた。

 

「…あぁ、君か。ふん、今朝の事は礼を言うよ。でももう必要ないよ」

 

少年の高圧的な態度に桜花が眉をひそめる。

 

「何か、あったんですか?」

 

「僕はね、生まれ変わったんだ、だから…おっとこれ以上は言えないんだ。じゃあね」

 

そう言うと、スタスタと歩いて行ってしまった。

 

「…今の人」

 

俺も桜花もあの少年に対し、底知れない違和感を持った。

出来るなら今すぐ確かめに行きたいが…ダメだ。

 

「…うっぷ」

 

今俺は限界を迎えようとしていた。

 

「あ、兄さん!大丈夫ですか!!兄さん!!」

 

「に…いさん…って…よぶな…」

 

その後、俺は別の意味で眠れない夜だった。

 

 








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