死神少女と鏡の魔眼   作:LAMLE

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久方ぶりの投稿です。
私は帰ってきた!!
(更新が早いとは言っていない)


第十一話

「しに…がみ…?」

 

「はい、貴方たち人類からはそう呼ばれています」

 

動揺する俺に対し、桜花は表情一つ変えていない。

眼の前の少女が…しにがみ…死神だって?

クラクラする頭を押さえ、渇いた笑いが出る。

 

「は、ははは、冗談…だろ?」

 

悪い冗談…そう思う反面、頭のどこかでは桜花の言葉が嘘ではないと思っていた。

自分を含めた周囲の人間への記憶の改変。

先ほどの魔物を仕留めた影の杭。

 

属性武装を使った第二世代魔法は自然界のエレメントを元に使用できる。

彼女の使った影は火、水、雷、地、風、どれにも当てはまるようには思えない。

あり得ない、と口で言うのは簡単だ。

だけど…それは…

 

「仮に…仮にだ。お前の話を信じるとして、死神は…滅んでいないのか?」

 

死神は既に滅んだ、そう何度も聞いていた。

授業でも聞いたし、周りの人達も、みんなそう言っていた。

異種族との戦いの中、死神は人類が初めて勝ち取った勝利だと。

 

「….」

 

奏華の言葉を聞いても桜花は顔色一つ変えない。

動揺する奏華をバカにするでもなく、憐れむでもなく。

深い藍色の瞳で目の前の少年を見据える。

殺気の無い瞳…だが奏華に言い知れぬ、不安を感じた。

 

「貴方たちの世界でニュースや新聞の報道で絶滅危惧種が別の島で生きていた…なんてありませんでしたか?」

 

「…この島のことか?」

 

俺の質問に対し、眼の前の少女は静かにうなずいた。

 

「私はあの木の中でずっと…ずっと眠っていました。それ以外の事は…なにも」

 

足を椅子に乗せ、腕を回す。それによって、サラサラとした銀の髪が流れる。

 

「―ッ!?」

 

――ザザッ

 

頭に走るノイズ、チカチカと映る情景。

月明りの中、白の髪、黒の斬撃、散らばる破片。

あれは…

 

「なにか、思い出しましたか?」

 

頭を抑える俺を見て桜花が身を乗り出す。

 

「…いや、あまり」

 

喉まで出かかっている何らかの記憶。

だがそれは途中で止まり、霧の様に霧散していった。

後に残るのは上手く言い表せない不快感だった。

 

「そうですか。その様子ではすぐに思い出すことは難しそうですね」

 

皮肉っぽく唇を歪め笑う桜花。

その言い方に違和感を覚える。

これじゃまるで…。

 

「ちょっと待て、お前が俺の記憶を弄って忘れさせたんじゃないのか?」

 

「…その回答は正しくありません。原因は私ですが、正しくは、別の魂が身体に入った事へのショックでしょうね」

 

記憶を取り戻すまでに、そこまで時間は掛からないとは思いますけど。

と桜花は言葉をつづけた。

昨日の記憶が無い俺は眼の前の少女を信じ切れない。

俺と少女の間に長い沈黙が続く。

先に沈黙を破ったのは島へと響き渡る鐘の音だった。

 

「…そろそろいい時間ですね。今日は色々ありましたから、そろそろ休みましょう」

 

時計を見ると既に夜の十二時を超えていた。

部屋を出ようとした桜花が足を止め、こちらへ振り返る。

 

「あぁ、それと、これは心からのご忠告ですが、このことを誰かに話すのは止めた方がいいですよ」

 

「…秘密を喋った奴は殺すとかっていう、お決まりの展開か?」

 

「いいえ、私という存在が入ったことで貴方自身、今は半分死神のようなものなので、検査されれば一発アウトです。貴方も処罰されますよ♪」

 

「…は?」

 

「それでは、失礼します」

 

桜花は言ってそのまま扉を閉める。

 

「ちょっ!まてやぁぁぁぁぁぁぁ!!!?????」

 

痛む足を我慢しながら、直ぐに扉へ向かい、ノブを握る。

しかし、ガチャガチャという音だけで全く開く様子が無い。

 

「おい!開かないぞ、何した!!」

 

扉をドンドンッと叩きながら、叫ぶと扉の向こうから返事が返ってきた。

 

「誰にも整理する時間が必要です。ゆっくり休んでください」

 

「これって監禁じゃないのか!!なぁ!!」

 

その後、どんなに叫んでも返事は帰ってこなかった。

自分の部屋に行ってしまったのだろうか。

開かない扉の事は諦め、窓へ向かう。

 

「…….」

 

そこには外からしっかり木の板でバツ印に留められた窓があった。

いつの間に…。

俺は脱出を諦めると、ベットに倒れる。

スプリングのギシッと軋む音が聞こえた。

 

「色々あり過ぎだろ…」

 

ボフッという音と共に俺は枕へと顔を押し付ける。

死神と名乗る少女に助けられた?

それで俺自身、半分死神?

悪い冗談だ、そうでないのならバットエンドまっしぐらだ。

この島で魔法使いになり切れなかった俺が、さらに遠のいた。

 

「何がどうなってんだよ…」

 

俺の疑問に答えてくれるものなどいなかった。

 

 

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次の日、眼を覚ましたすべて夢だった。

…なんてこともなく状況は何一つ変わっていなかった。

 

「おはようございます。兄さん」

 

朝になって、開いていた部屋を出て台所へ行くと、桜花がいた。

おそらく朝食を作っていたのだろう。

その姿はエプロンを身に着けていた。

美味しそうな匂いが食欲をそそる。

 

「…兄さんは止めろ」

 

挨拶をする桜花に対し、奏華は不愛想な顔で返した。

昨夜の一件から桜花に対する、態度が180°変わっていた。

油断すると、眼の前の少女の事を妹と捉えそうになってしまうが、昨日の様に兄として接することはなくなった。

解いていないと本人は言っていたが、俺が認識したことで、前ほどの強制力がなくなったのだろうか。

 

「朝御飯はできています。食べますよね?」

 

「…あ、あぁ」

 

最初は躊躇した奏華だったが、美味しそうな匂いと昨日の夜から何も食べていない為、空腹に負けて、食卓に座る。

 

そして朝食が始まった。

奏華たち二人は、同じテーブルに向かい合って座っているが、最初の挨拶以降、これと言った会話はない。

桜花はエプロンを外し、学園指定の女子生徒用シャツにスカートをはいた姿。

対する奏華も、同じように男子生徒用のシャツにズボンをはいた姿。

食卓の上には桜花が作った朝食が二人分並んでいる。

昨日と同じように、食欲をそそるいい匂いだった。

早く食べさせろ、と言わんばかりに、ぐ~、と俺の腹が自己主張してきた。

 

「クスッ…」

 

「―ッッ!」

 

恥ずかしくなった俺は、お腹の鳴る音を誤魔化すように卵焼きへと箸を伸ばす。

ふわり、とした卵焼きを口に運び、ぱくり、と一口。

 

「…うまい」

 

桜花の作るものは今まで自分が食べてきたどれよりも美味しかった。

そのまま箸が止まることはなく、進み続けた。

奏華は食べることに夢中で気が付かなかったが、その様子を見る桜花の表情は微笑んでいた。

気が付けば、俺の前に出されていた食事は全て空になっていた。

 

 

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マズイ。

マズイマズイ。

不覚にも思ってしまった。

こんな生活も悪くない…と。

受け入れそうになっていた。

彼女の存在を…

 

「(だけど…)」

 

桜花の方をチラリと見る。

日差しを受け、輝きを放つ、銀色の髪。

少しだけ、色素の薄い綺麗な肌。

一度見たら忘れることなどないだろう、綺麗な少女。

桜花は俺の雰囲気など、気にした様子はなく、あくまで『妹である八神 桜花』として接してくる。

 

彼女は言った。

自分は『死神』であると。

死神は人類の敵のはずだ、それがなぜ奏華を助けたのか。

なぜ、妹としてここにいるのか。

質問をしても帰ってくるのは同じ回答だった。

 

『覚えていません。記憶喪失なもので』

 

半分以上は嘘だろう。なんとなくだが彼女は俺をからかっているのだと思われる。

オマケに俺自身、桜花の魂が入っている影響で半分死神になっているらしい。

 

「(死神…死神かぁ)」

 

ついにバケモノデビューしてしまったかもしれない自分の境遇に心底呆れかえる。

だが、その言葉通り、奏華の運動能力は見違えるほど変わっていた。

例えば、跳躍力…これは二メートル程の塀でも簡単に飛び越えられるようになっていた。

反射神経も、握力も同様に上がっていた。

魔物との戦いで生きていられたのもこの力の影響が大きいのだろう。

 

「(良く考えると、昨日の魔物に襲われた時、二度も助けられたんだよな)」

 

魔物の最初の一撃から、そして大量の魔物に襲われそうになった時。

そう言った意味では彼女の事を信じていいのかもしれない。

 

「どうしたんですか、先ほどからチラチラと視線を感じますよ」

 

俺の視線に気づいていたようで、振り返った桜花が俺を見る。

 

「…少し意外だったんだ」

 

「意外…ですか?」

 

「アンタの話を信じるなら、死神ってか異種族だろ?異種族って言ったら、もっと凶暴な奴とか、理性が無いとか、そもそも人間を下に見ていると思ってた」

 

「…あぁ、『この下等生物がっ!!』とか想像していましたか?」

 

悪役の言うセリフを真似て、昨日まで見せなかった、不敵な笑みを見せる桜花。

その姿は、昨日までのお淑やかな彼女の印象とはだいぶ違っていた。

やはり昨日までのは演技だったのか。

 

「私自身、記憶が曖昧なので、今は割と人に近いのかもしれません」

 

小さく言った桜花の一言は俺の耳には良く聞こえていた。

彼女の言った言葉を信じるのなら、人から死神になりかけている俺と、死神から人になりかけている桜花。

シーソーの様に傾くこの状況に、思わず苦笑してしまった。

 

 

学園に近付くにつれて人が多くなっていく。

と、通学路の外れから何やら、騒がしい声が聞こえる。

 

「オラッさっさと出せよ」

 

一人はガラの悪そうな男1。

 

「ちゃぁんと、俺たちの分の課題、終わらせたんだろうなぁ」

 

もう一人もガラの悪そうな男2。

 

「う、うん、やってきたよ」

 

対して、二人に囲まれているのは、気弱そうな男だった。

 

「あ?何タメ口で話してんだ?敬語だろ?」

 

気弱な男の態度が気に入らなかったのか。

ゴスッという、鈍い音と共に気弱な男子が腹を蹴られ倒れ込む。

明らかに魔法で強化された一撃に気弱な男子は苦痛に歪む。

 

「ゴフゥッ!ごめん…なさい…」

 

蹴って満足したのか、男たちはノートを取って、その場を後にしようとする。

 

「ったく、自分の立場くらい理解しろよ、下位クラスの癖に」

 

「…僕たち同じ魔法使いで、同じ年なのに…なんでこんな扱い…」

 

気弱な男の蚊の鳴くような、小さな声で言った言葉。

だが、そう言った途端、男たちは足を止め、再び気弱な男子生徒に近付いた。

 

「あれぇ、もしかしてぇ、文句?」

 

「ヒッ、な、何も言ってないよ!?」

 

「ちゃぁんと、聞こえてるんだよぉ。俺、聴覚を強化してるし」

 

トントンと自分の耳を軽くたたく、ガラの悪い男2。

その仕草でサァッと顔を青ざめる気弱な男。

男たちはニヤニヤと笑いながら、手を振り被る。

恐らく、魔法によって強化された拳だろう。

痛みに耐えるため、ギュッと目を瞑る。

……….

しかし、痛みはいつまでたっても来なかった。

 

「なんだ?テメェ」

 

恐る恐る目を開けると、そこには…。

 

「いい加減止めろよ。お前らみたいなのがいると魔法使いの品性が疑われる。学園長の迷惑だ」

 

拳を振りかぶる男の腕をつかみ、止めたのは奏華だった。

 

「あぁん?テメェは…ハハハハッ!誰かと思ったら、ブランクじゃねぇか」

 

不機嫌そうに振り返った男は奏華の顔を見た途端、笑い出した。

奏華にとって、いつもの事なので慣れている光景。

だが、今日はいつもより虫の居所が悪いようだ。

無意識に男をつかんだ手に力が入る。

 

「そいつ、お前と同じクラスなんだろ、プレート見ればわかるよ。差別してんのか?」

 

「痛ってぇな!!離せよッ!」

 

男は奏華のつかむ腕を振り払う。

 

「別にいいだろ?テメェ含め下位の雑魚の有効利用だよ」

 

「それが同じ立場の魔法使いに言うセリフか」

 

自分でも分かるくらい怒気が強くなっている。

だが、相手は魔法使い、こんなことで引き下がるはずがない。

 

「ハンッ文句があんなら力づくでやってみろ…おぉ!?」

 

セリフの途中で男が体勢を崩し、倒れ込む。

理由は簡単、男が話している間に奏華が足払いを掛けたのだ。

 

「テメェ、ふざけやがってぇ!」

 

激高したもう一人の男が手をこちらへ向ける。

魔法を使うつもりだろう。

俺はそれより早く、男に近付いて。

 

「ワーッ!!」

 

「ギャー!?!?!?」

 

男の耳へ向かって大きな声を出す。

先ほどの会話からこいつの聴覚が強化されているのは知っていた。

耳を抑えながらフラフラと尻餅をついた男。

 

「て…めぇ、ブランクの癖に調子に乗りやがって!!」

 

足払いした男が顔を真っ赤にして、立ち上がり、こちらへ手を向ける。

 

「(…魔弾か)」

 

属性武装を出していないことから、第一世代魔法と考え、俺は…。

 

「先生!!こっちです!!」

 

俺が動こうとした時、大きな声で教師を呼ぶ桜花の声が辺りへ響く。

 

「ッチ、おい、行くぞ」

 

「あ、あぁ」

 

教師を呼ぶ声に、男たちは舌打ちをすると、その場から離れていった。

それと同時に、自分の中で激しく燃えていた何かが少しずつ熱を下げていく。

声のした方から桜花が歩いてきた、と。

ぎゅむぅ

 

「…いひゃい(痛い)」

 

俺は両頬を抓られた。

 

「痛くしているんです。何ですか貴方は、トラブルに自分から突っ込もうとして」

 

「…わひゅい(悪い)」

 

流石に今のは自分がどうかしていた。

今の桜花との状況も忘れ、素直に謝った。

俺の謝罪を聞いて、桜花は手を離してくれた。

 

「そう言えば、教師は?」

 

「?嘘に決まっているじゃないですか?そんなタイミングよく先生なんて呼べませんよ。大体ああいう人は自分より上の人を避ける傾向があると思ったので」

 

「そ、そうなのか…」

 

人の心を理解する、知恵の回る死神だ。

っと、そういえば、蹴られた生徒がいたんだった。

 

「おい、アンタ、大丈夫か….っていねぇし」

 

「まぁ、あれだけ騒げば逃げるでしょうね、行きましょう兄さん」

 

「あぁ、あと兄さんは止めろ」

 

「兄さんは兄さんですよ?もう学園ですし、今更ですし」

 

「昨日に比べて、違和感しかねぇ」

 

「諦めてください、兄さん」

 

「はぁ…」

 

悪態をつきながらも、俺たち二人は再び学園へと向かった。

 

 

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<Another wiew>

 

「畜生…ちくしょう!!アイツら!!」

 

森の中をがむしゃらに走り続ける。

目的があったわけじゃない。

何かをしようと思ったわけじゃない。

ただ、鬱憤を晴らすために少年は走り続けた。

途中、木の根に引っかかり、地面を転がった。

溢れるのは止まらない涙。

悔しさだけが心に残る。

 

「魔力が低いからなんだ!魔法がうまく使えないからなんだ!僕は魔法使いなんだ、なのになんでこんな扱いなんだよ!!」

 

拳を握り、地面に思い切り叩き付ける。

 

「アイツら、僕の事バカにしやがって!!」

 

実力が上の者が下の者を支配する。

先ほどの不良に絡まれている少年は下の者だった。

それがRUBICの少年の立場だった。

 

「そうだ…僕に力があれば、アイツらに…アイツらなんか!」

 

ひたすら地面へ拳をふるった少年は落ち着きを取り戻す。

そろそろ学園が始まる。

今から向かったところで遅刻確定だろう。

土ぼこりを払い。歩き出す。

 

「…ぁ、そういえば」

 

思い出すのは学園の噂。

 

「…狂い桜」

 

噂は色々あるだろうけど、その中に少年の求めるものがあった。

 

『魔力の向上』『何でも願いが叶う』

 

「…やってやる。やってやるぞ!!」

 

手に持っていた鞄を放り出し、少年は森の奥へと向かう。

その先にいるモノが彼の求めるものだと信じて。

 

 

 


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