無意識少女は海を漂う   作:恋し石

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誤字の多さにちょっとがっくし…

誤字報告本当にありがとうございます!

もっとちゃんと見直ししよう…


白猟に牙を剥く無意識

時は少々遡る。

 

「このヤロー…」

 

額に青筋を浮かべエースは瓦礫から立ち上がる。二度も吹き飛ばされてエースの怒りも高まっていた。

すでに店内にルフィとスモーカーはいない。ちょうどその前に出ていったようだった。やっとルフィを見つけた…!その思いが怒りを抑え、再会への願望を募らせる。

 

「待て、ルフィ!俺だー!」

 

エースも勢いよく店から飛び出し、ルフィを追いかける。

 

残された店の客は呆然とその様子を見ることしか出来なかった。そして店主が一言。

 

「食い逃げ…」

 

大量に食っていったにもかかわらず、一銭も払わず。さらに店の壁はぶち壊し、厨房も使い物にならない。隣の家々の壁も弁償しなければならないため店の損失は数知れず。新たに店を立て直すほど資金に余裕はない。赤字、それも大赤字だ。もう店を続けることも出来ない。

 

店主はがっくりとうなだれ、床に手をついた。損失だけでも借金もの。これからの人生がお先真っ暗なのはいうまでもない。客はそんな店主を哀れな目で見るしかなかった。

 

 

 

 

 

一方エースはルフィを探して町の中を走り回っていた。そう、こっちも見失っていたのだ。

 

「たく、どこにいったんだ?ルフィのやつは?」

「さあねぇー?」

 

一人走りながらぼやくエース。せっかく会えたと思ったのにいろいろと妨害にあって認識されなかったのだ。近くて遠い、このもどかしさ。ぼやかずにはいられなかった。

 

「どうすりゃ見つかると思う?」

「海兵が集まったり騒ぎが起きていたりするところに向かえばいいんじゃないのー?」

「そうか…」

 

言われた通りに探していこうか、と考えだしてふと気づく。今誰と会話してた?

声が聞こえていたほうを探すが見つからない。気のせいか…と思ったが、背中に何か違和感を感じて首だけ振り向くとそこには、

 

 

背中に乗っているこいしがいた。

振り向いたとエースと乗っかるこいしと目が合い、

 

「また会ったね!そばかす君!」

 

無邪気に挨拶し、背中からとび降りた。天真爛漫な笑顔がなんか腹たつ。

 

「おめぇ、いつから乗ってたんだ?」

 

「?はじめっからだよ。」

 

また同じように何いってんの?って感じで言ってくる。もうわけが分からん。というかこいつをどうしたものか。

 

困ったように頭をかいていると、向こうから話しかけてきた。

 

「ねぇ、麦わら君探してるんでしょ?」

「あ、ああそうだが…」

「私も手伝ってあげる♪」

「はあ?」

 

手伝うってなんで?おめぇ関係ないだろう?

 

「さっきはおもしろいもの見せてくれたからね。そのお礼だよ。それにあの麦わら君もおもしろそうだったし♪」

 

エースが疑問を募らせる一方で勝手に答えていくこいし。確かに人を探すなら人手は多いに越したことはない。

 

だが、こいつはただの女の子ではなく、“無幻の狂人”。へたしたらルフィに危害を加える可能性だってある。しかもルフィのことをおもしろそうと言っている。危害を加える訳ではなくても、何かしらの懸念が残ることは否めない。

 

いやでも店でのあの感じなら大丈夫なのかな…?

 

「てことで行くね。バイバーイ♪」

 

「って、おい!!」

 

しばし考えていたエースをよそにこいしは行こうとする。振り返ったときにはもうこいしの姿はなかった。

 

ため息が出る。一抹の不安を覚えながらもルフィを探すため、再びエースは駆け出した。

 

 

 

 

#####

 

 

 

 

最悪だ…

 

こちらを見やるコイシを一瞥し、スモーカーは傷ついた右手を再度見やる。自然系である俺にダメージが通っているということを認識し、コイシに対して警戒心を最大にまで引き上げる。

 

自然系というのは悪魔の実の中でトップクラスで強い。それは、体を自然物に変化させて相手のほとんどの攻撃を受け付けないからだ。銃弾だろうと、剣だろうとほとんどの攻撃がすり抜ける。それは他の悪魔の実の能力だって例外ではない。

 

絶対的な防御力と広範囲に強力な攻撃力を併せ持つ故、自然系の悪魔の実は希少であり最強種と位置づけられる。しかし、自然系だって無敵ではない。事実、自然系の相手に攻撃を与える手段は主に2つある。海楼石や海水による弱体化は能力者全員に当てはまるので例外として、1つは能力の弱点をつく方法である。もっともこれは能力ごとに違うので、それを一々つくのは現実的ではない。そしてもう1つは“武装色の覇気”である。

 

“武装色の覇気”は体の周囲に鎧のようなものを纏う覇気であり、自然系の流動する体も実体として捉え、ダメージを与えることができる。主に対自然系能力者としてはこの方法が主な対抗策とされ、本部海兵のトップクラスは全員この力を使える。

 

だからこそ分からない。本部で覇気の使い手は見たことあるから覇気を纏っていれば分かる。だが、自分の手を切り裂いたあの花びらは覇気ではない。しかしただの花びらでもないということは言わなくても分かる。弱点をついた…とは考えられない。もっと別の何か、ということだろう。

 

理解できないものに対しての恐怖が己を襲う。まして、相手は虐殺を行う狂人。後ろで待機する部下達をみやる。奴の場合嬉々としてこいつらを襲うこともありえる。ここでみすみす命を散らせていいものではない。

 

どうしようかと考えていたとき、別方向から知った声が聞こえてきた。

 

「麦わらの一味!捕まえます!」

 

別の方向から部隊をそろえたたしぎがやって来た。ちょうど角度が悪かったのかスモーカー大佐が足止めをくらっているところが見えていない。相手の動きが止まっているのがチャンスだと思ったのだろう。

 

危険だと思い、止めようとした。こいつの前では隙を見せたくはないが、麦わらの援護に来たと考えられる以上奴にとっては敵に違いない。へたに刺激を与えて奴の気に触れさせたくはなかった。

 

しかし突撃するたしぎ一行に気づいた麦わらの一味が慌てて逃げようとしたところに再度、援護が入る。

 

「【陽炎(かげろう)】!!」

 

燃え盛る炎が道を遮る。進行していた部隊は急な妨害に足を止める。そして炎が弱まったとき、その中央に体が燃える一人の男が現れた。

 

「エース…」

 

ルフィは助けてくれたのが見知った顔であることに驚き、半信半疑ながらも声をあげる。そして本人だと確信し、声をあげた。

 

「エース!お前悪魔の実食ったのか!?」

「ああ、メラメラの実をな。」

 

海兵たちは突然大物海賊が現れたことに腰をぬかし、後ずさる。無理もない。その中で一人、たしぎは刀を構え、屈せずエースを睨みつける。

 

「火拳のエース…」

 

だが、圧倒的な強者を前にしてその気迫に気圧される。絶対に勝てないということが嫌でも伝わっているのか、刀を握る手が僅かに震えているのがわかる。

 

「とりあえずこれじゃ話もできねぇ。後で追うからこいつらは俺がとめておく!」

 

「わかった!!」

 

ルフィはエースの言葉を疑いもなく信じ、背中を預けて走り出す。麦わらの一味もルフィが絶対の信頼を置く男に疑問をもちつつも船長についていった。だんだんとその姿が小さくなり、点になっていく。

 

 

 

 

残ったのはコイシとエース、そして海兵たち。誰も何も発さず、時間だけが過ぎていく。

 

なぜ二人が援護に入ったのか、頭のなかで考えをめぐらせるが答えは出てこない。そして、結論が出ないまま二人に尋ねた。

 

「わからねぇ。なぜ麦わらを助ける?」

 

コイシは答えようとはしない。

エースだけはこちらを向き答えてきた。

 

「出来の悪い弟を持つと、兄は心配なんでな。」

 

「麦わらが…!?」

 

火拳のエースが麦わらのルフィの兄だと…!?これが事実なら麦わらはただの海賊ではない。衝撃の事実に驚きを覚えているさなか、

 

「おもしろそうだから。」

 

もう一人が口を開いた。

さっきまで火拳と麦わらの関係を考えていた頭が思考停止させられた。 おもしろそうだからで妨害されるとは思いもしなかった。

彼女の発言に固まっていると、コイシはエースの方を見やって言う。

 

「別に行っても良かったのよ、そばかす君?ここは私が受け持っておくから。」

「お前に任せても不安なんだよ。それに、お前がどんな戦いをするか興味があってな。」

「ふ〜ん…もの好きな人ね〜」

 

たわいもない会話が続く。会話が進むにつれ、コイシを認識する人が増えていく。コイシを知らないものは誰だこいつ?と思い、知っているものは驚愕の表情を浮かべる。たしぎは後者だ。エースが現れたときよりも動揺は大きい。

 

「あなたがやる?」

「いや、譲るよ。海軍のねーちゃんはこっちが止めとくよ。」

「そっ」

 

会話を終えてコイシはこちらに向き直る。立ち姿は登場時と全く変わっていなかった。

 

「足止めなんていつぶりかなー。そもそも足止めなんてしたことあったけ?ああ、そういえばこういう時にぴったりな言葉があったなー。何だっけ、それ?えーとね、うーとね…あ、そうだそうだあれあれ!」

 

とても戦闘前とは思えないほどの雰囲気。少し笑っているようにも思える。今のうち部下達を下げようと指示を出そうとして…

 

 

「……別に倒してしまってもかまわんのだろう…!」

 

 

彼女から突如放たれる重圧に言葉が止まる。さっきまでの陽気な感じはなくなり、刃物のような雰囲気を纏う。部下達はすでに怯え、後ずさっている。二人の間に走る緊張が周りをピリピリと襲う。

 

これが数多の人間を殺してきた“無幻の狂人”。雰囲気だけでその噂は嘘ではないと分かる。

 

「いつでもいいよ」

 

どうやら先手は譲るようだ。完全に油断している。海兵をなめやがって…

 

先ほどまで舞っていた花びらはすでに消えているからいつでも攻撃できる。あれがもう一度来ないよう気をつければいい。

 

それなら、っと右手で十手を構え、勢いよく襲いかかる。相手はこちらに攻撃を与える手段を持っている。覇気の使い手と戦う際、へたに体を煙にして面積を増やすことは悪手だと教わった。この状況はそれと同じ。何の能力だが知らないが、この十手の先には海楼石がついている。これで能力を封じてしまえば何とかなるかもしれない。

 

だが、飛び込んだのも束の間、目を見開く事態に陥る。気づいたときには先程と同じ薔薇が咲いていた。それも目と鼻の先の()()()。間近で見るとその薔薇の異常性がわかる。1つの花の大きさは大人の人間の頭程度、草や葉はほとんど花に埋もれ、その色さえ見る事が叶わない。そんな薔薇が少女を中心とした周り、だいたい半径2メートルほどの円を描くように咲きほこり、数秒かからずともそこに突っ込むだろう。

 

おかしい。さっき一度見たはずだ。同じわざを喰らわないよう注意していたし、何か予備動作があればすぐさま対応できる自信はあった。だがこれはどうだ。まるで初めからそこにあったかのようじゃないか。

 

まずい、と思うがその勢いはもう止まらない。ならばとジャンプしかかったとき、

 

「【スティンギングマインド】」

 

少女の声と同時に爆発して花びらが舞いその身を切りつける。爆風で飛ばされるも先程少し飛んでいたのが幸いし、コイシの右斜め上方、あまり遠くない位置に飛ばされた。だがすでに受けたダメージは大きい。ほとんど受け身が取れなかったのだ。体中に切り傷ができ、血があたりに散る。

 

下の方では部下達が悲鳴をあげているのが聞こえる。見る限りすでに負けたと思われてもおかしくはないだろう。

 

だから相手はもうすでに勝ったと思っているはずだ。負けられないというプライドが己を奮い立たせて意識が飛びそうになるのをこらえ、十手を強く握る。そのまま空中で足を煙にさせターン、急降下。再度攻撃を仕掛ける。

 

少し驚くコイシ。だがあたる寸前に両手で帽子を抑え、ひょいとしゃがんで前方に回避された。こちらに背を向けている。先程よりも距離は短い。チャンスだ!この機会を逃すまいと追撃に入る。幸い相手はまだこちらに振り向いてすらいない。避けたままの体勢だろうか、まだ両手は頭、まるで耳を塞いでいるような姿、で前屈みに近い状態だ。そのまま突きを放とうとして、

 

 

「【リフレクスレーダー】」

 

 

十手を握る右腕に激痛が走る。突然受けた攻撃に追撃は中断、十手を落としてしまった。ジャケットを着ているので外傷がどうなっているかは正確には分からないが、ジャケットの上からでも赤くドス黒く血が滲んでいるのがわかる。どうやら右腕の内部そのものに攻撃を仕掛けられたらしい。まるで腕が破裂したような感じだ。この血痕から考えられるのは血管そのものを破裂させられた…ということぐらいだろう。破裂の際に周囲の神経やら筋肉やらも損傷したのだろう、手がうまく握れない。

 

そしてその硬直が命取りだった。前屈みの状態から急回転、まわし蹴りが一発鳩尾にはいる。とても可愛らしい少女から放たれるとは思えないほどの重い蹴り。自然系の体を実体として捉えたその蹴りは鍛えたはずの体に悲鳴をあげさせる。ミシミシと骨は音を立て、何本かは逝った。口からも血が飛び出す。

 

蹴られた勢いのまま後方へと吹き飛ばされる。建物の壁を何軒も突き破り、勢いがなくなってどこかの壁にぶつかって止まったときには満身創痍。指の一本も動かせなかった。荒い息をしながら空を仰ぐ。

 

本当にどんなふうに攻撃を仕掛けてきているのか分からなかった。攻撃らしい攻撃の隙が見当たらない。いいように攻撃されてばかりで全くダメージを与えられず、この様だ。

 

悔しさで胸がいっぱいになると同時にだんだんと意識がかすれていった。

 

 

 

 

 

#####

 

 

 

 

誰もが絶句していた。

上司の部下達も、たしぎも、そしてあのエースでさえも戦慄せざるを得なかった。

 

たった三、四手。自然系の能力を持ち、大佐のなかでもそれなりの力をもつはずのスモーカーがなすすべもなくやられたのだ。

 

まわし蹴りを放ったこいしは緑のスカートを揺らしながらそのまま綺麗に着地。だが余裕の勝利を収めたこいしの顔はどうも険しい。どこか虚空を見ているようだ。

 

「誰なの?こんなに泣いてるのは?」

「誰なの?こんなに悲しんでいるのは?」

 

こいしが何かぶつぶつ言っているように思えるが、その内容までは聞き取れない。幾ばくか逡巡したのち、

 

「なんか気が削がれちゃったな〜…。もういいや、飽きちゃった。てことでバイバーイ♪」

 

ぶちあけた穴に向かって笑顔で大きく手を振り、ふっと消える。

どこに行ったのか、気配をたどってもエースでさえ分からない。

 

誰もが固まって動けないなか、エースはたしぎに呼びかける。

 

「おい、海軍のねーちゃん。早くあの海兵を助けたほうがいい。へたしたら手遅れになるぞ。」

 

はっと我に帰り、エースに鋭い目線をむける。ここで海賊を捕まえられないこと、敵に注意されることなど、いろいろと己の未熟さが恨めしく思えるがエースの言葉はもっともだった。急いで他の海兵に指示を出し、スモーカーの救助へと向かう。

 

 

 

 

一人残されたエースは顎に手を置き、先ほどの戦いを思い返した。

 

自身も全力を出しても勝てるかどうか…。何よりあの少女は全く本気を出していなかったように見えた。多少威圧はしていたが、ただ遊んでいる感じというのが否めないのだ。

 

世界にはまだまだあんな強者がいるのだと、感慨に耽りながらルフィのもとへと向かった。

 

 

 

 

 





あまり強すぎないようにって調整していたつもりだったんだけどかなり強いと感じてしまうこいしちゃん。
でも実際これくらいはないとこの海では生きていけませんものね。

まあ上手く調整しますよ。



次回投稿は少し遅れると思います。





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