ROYAL Sweetness   作:皇緋那

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連休なのでがんばりました。というか暇でした。


17人目のプリンセス

【前回のあらすじ】

正当な(・・・)プリンセスは残り5人。丁度いい頃合いだ。余の領域への進入、拝謁を許そう、後継者候補たち。余の眼鏡に敵うよう、張り切ってくれたまえ。

 

 

沖ノ鳥ユウキは友人を殺した。自分ごと敵を滅ぼせと言われ、従った。彼女にも願いがあったはずなのにそれを捨てていた。彼女は幸せだったのだろうか。彼女自身の話を聞く限り、とても幸せな人生などではなかっただろうに。

 

躊躇わず剣を振り抜いた跡には何も残ってはいなかった。裏も雪も生きた証を遺さず消えた。ほどなくしてセクターボードがやかましく脳裏に響く。通知が届いたのだろう。内容は見当がつく。開いてみると、案の定ジアザーとファインダーの脱落という内容だった。ユウキは驚きもせずに表示を閉じて、剣を古本の挿絵へと仕舞った。

 

視界の隅で、ジアザーの中から助けられたらしい少女がよろよろと立ち上がっていた。本調子ではないらしいが命に別状はないようでユウキは安心できる。だが、向こうは安心などしていない様子だった。

 

「あなたっ、何を……!」

 

雪を殺したことを言っているのか。相手が状況を把握しているのか定かではないが、その瞳は憤りで埋め尽くされていた。

 

「何してるのよっ、あなたなんかが!雪を、雪をぉ……!」

 

今まで執着してきたはずの少女が消えてしまったのはすべてユウキのせいだと、彼女の眼が叫んでいた。その通りだと思う。だがあれは雪自身が望んだことだった。しょうがないことだと吐き捨てて、刹に背中を向ける。着込んだ鎧に風の刃がかすり、表面に小さく傷がつく。それだけだった。

 

「なんでよっ、あいつは、私の!」

 

なおも刹がわめき散らしていて、ユウキはセクターから離脱しようかとも考えた。その選択肢はいきなりセクターボードから響いた振動によってかき消される。続いて、画面表示ではなく声で通知がなされる。機械的ながらも肉声だとわかるような声だった。淡々と原稿を読み上げているらしく、感情の起伏は聞き取れない。

 

『残りプリンセスが5人となりました。全プリンセスを1番セクターへ転送します。なるべく動かずにお待ちください』

 

素直に立ち止まったユウキも、いきなりのことに困惑しているらしい刹も、数秒後には光に呑まれ――気がつけば、王城めいた巨大な住居の前に立っていた。

 

「……え?何が起きてるのよ?」

 

刹と同じように周囲を見回すとあたりには知った顔もみられた。カダヴァーとブレイザーだ。彼女らも何が起こったのかは把握していないらしく、驚いた顔で互いに何か話していた。

 

「お、ブレイヴァーじゃん」

「何、ブレイヴァーだと?やはり生きていたか」

 

カダヴァーはその隣にいる相手に焼き尽くされたこともあったはずだが、まったく気にしている様子でなく、むしろ仲が良さそうにしていた。

 

「……ここにいるのは4人。あの引きこもり野郎を除けば全員集合といったところだな」

 

ブレイザー、カダヴァー、ブロワー、ブレイヴァーの4人が残っていた。エンペラーはいまだ姿を現していない。だが、1番セクターという場所、この王城を見るに、これからエンペラーが現れるだろうことは予想がついた。

 

これから何をするのか。警戒しながら待っていると、目の前の空間が一瞬歪む。その中心よりふわりと何者かが現れる。金色を振り撒いて降り立つ少女。広がった衣装で大きく見えてはいるが、本人はただの少女らしい。ブロンドの髪で作られたおさげと赤縁の眼鏡が神秘的な雰囲気とミスマッチだった。

 

「あんたがエンペラー、なの?」

 

ブロワーがそう問いかける。少女は刹を制止すべく手のひらを突きだしてはこれから話すのだと短く答え、当初の予定であったらしい原稿を取り出すとしっかり広げて持った。

 

「プリンセスのみなさま、はじめまして。はじめましてでない方はまたお会いしまして。私は連結姫こと『エクストラプリンセス:コネクター』。気軽にコネクターとお呼びください」

 

自らを番外のプリンセスとする目の前の彼女は、まず自分が参加者ではない旨を説明する。自分は戴冠式を円滑に進めるためのスペシャルサポーターだと言い出し、カダヴァーが首をかしげていた。

 

「えー、そんな私ですが、この度確認に参りまして」

「確認ってどゆこと?」

「はい。この戴冠式は後継者選定の試験です。脱落者はどうでもいいとして、あなたがたに継ぐ意志があるのかを尋ねに参りました」

 

コネクターは原稿を読み終えたようで、胸をはってふんすと息を吐いて見せた。無表情でなく、状況がこうでなければほほえましかったかもしれなかった。

 

「……どうでもいい、ですって」

 

原稿の内容は少女の逆鱗に触れる。それもそうだろう。ブロワーの憤りは冷めてなどいない。当然、ライバルの脱落をどうでもいいと評されれば再び燃えるだろう。怒りに任せて叫ぼうとする彼女の前に出て、カダヴァーが代わりに口を開く。

 

「さすがにそんな言い種はないじゃん?」

「と言われましても原稿がこうで」

「そっかー、じゃあ書いた奴に伝えてほしいじゃん」

「了解ですが、本題の方は?」

 

あくまでもコネクターは言いつけられたことは成し遂げようとしている。ユウキは周囲三人の顔を見て、相談の代わりとした。

まずブロワー。彼女は雪を喪ったことを『どうでもいい』と言われ、この話に乗りそうにない。カダヴァーも同じく失言だと思っているらしく、また元より現実へ戻ることが目的のため後継の意思などないのだろう。ブレイザーはカダヴァーに合わせる、とだけ言って、あとは腕を組んだまま黙っていた。

 

「……私たちに、その意思はないよ」

 

最後に、元よりこのような争いにも興味はなう、正義を貫くだけだったブレイヴァー。代表してコネクターにそう伝える。相手も残念そうながらあっさりと引き下がり、この場は穏便に済みそうだった。

 

「とても残念ですが、そう報告しておきまし。今後の予定については後々で」

 

コネクターの背後が歪む。出現のときと同じだ。彼女自身の能力だろうか、ぐにゃりと曲がった風景というよりは豪華な室内の風景と混じってしまっているような。

そこに沈みこんで身体が見えなくなっていくのだろう、と場の全員が思っていた。コネクターを含めて、だ。しかし、退去のため入っていくかわりに何かが出てきている。少女の腕だ。続けて肩、足、頭と全貌が明らかとなっていく。

 

「報告など必要ない。余はその言葉を聞いた」

 

この少女は恐らくプリンセス:エンペラーである。皇帝の名を冠するにふさわしいコートを引きずり、瞳孔は細長く闘争心をあらわしており、顔立ちはどこかコネクターに近いものの、彼女よりも年齢は上だ。少女と呼べる年は残り数年といったところで、浮かべる笑みは強者の余裕だった。

 

「何者だ、貴様」

 

強敵だと微塵も隠そうとしていない相手に向け、ブレイザーは指を構えた。いつでも炎による攻撃は可能であり、銃口を突きつけたようなことだった。だが少女は動じることなくブレイザーを睨み返すと、彼女の問いに答えはじめる。

 

「余は察しの通り、プリンセス・ランク1位。女王『エンペラー』だが。何かあるのか?」

 

ブレイザーはここで噛みついても勝てない、と感じ取っていた。ただのプリンセスの枠には収まらないだろう。コネクターに感じた不思議な雰囲気と同類で、得体の知れない危険を匂わせている。

 

「あぁそう。3位の君。原稿は余が作ったが、文句はあるか?」

 

今度はブロワーへ向けて、だった。こうも逆撫でされて、耐えきれるほど刹の心は強くない。全力で奥歯を噛み締めていた刹は、入るだけの息を吸った。

 

「あなた……私の雪をどうでもいいだなんて、どういう了見よ?」

「事実だろう。消えてなくなった者にこの世界は継げぬ」

「だからって!何よ、その言い方は!まるで、あいつが無意味だったみたいな……!」

「この世界に於いては無意味だった。それだけだ」

 

平然と切り返す相手にブロワーはふたたび奥歯を噛んだ。今度も割れそうなほどに強く。これ以上は何も言えなくなったのだろうか。手にはペティグリィを持ち、淡く光らせる。ブレイザーが危険と判断した相手に向け、抑えきれぬ感情を風に変えて打ち出そうとする。

 

「『ファーストオーダー』……!吹き飛ばせ、烈風の扇!」

 

烈風が吹き荒れ、エンペラーを囲う。しかし、エンペラーが空に手をかざしたかと思った次の瞬間には風は止んでいた。

 

「あぁ、無知は罪だな。哀れな姫に教えてやる。この世界は今、余の世界である。おまえ程度が触れられると思うな」

 

まったく戦闘に適さない歩みで悠々と近寄ってくる。風を起こしても意味がないと知ったブロワーは、直接攻撃に走るしかない。単調で、大振りな直接攻撃に。

 

「ああああ!!」

「甘い」

 

膝が衝突したことによる衝撃が腹部に重く響き、ブロワーは口から唾液を溢した。それどころか髪を掴まれて床を引きずられ、エンペラーに連れ去られていく。わざわざプライドをへし折るように立ち回っているのか。

 

「残りは賢明だな。だが、賢明ではない」

 

矛盾する言葉を吐き捨て、背を向けたエンペラー。一度目は食ってかからなかったことを。二度目は後継の意思を示さなかったことだろう。

ぐにゃりと歪んだ空間に入っていき、エンペラーとブロワーの姿が消える。何もできずに眺めていたブレイヴァーたちへ、最後に思い出したようにエンペラーは言った。

 

「あぁ、そうだ。余の元へ来たければこの王城を駆け登るがいい。最上層にて待つ」

 

場に残されたのは三人のプリンセスと、コネクターだった。三人で顔を合わせ、どうするか考えるしかない。

 

「……ブレイヴァーはどうしたいじゃん?」

「どう、したい?」

「うん。うちらみたいに叶えることはある?」

「叶えるなら……」

 

目を伏せた。今までずっと考えてきたはずなのに、したいことはなかった。ずっと、反応して、従って、殺してきた。

 

「わからない」

 

それが、正直な気持ちだった。そっか、とカダヴァーは頷いて続ける。

 

「じゃあさ。あいつ倒してから考えない?」

 

あいつ、はエンペラーのことを指しているんだろう。連れ去られた刹は雪が助けようとした少女で、あの女王は死者を平然と切り捨てる薄情な人物だ。戦う理由は繕える。

 

「……そう、してみる」

 

目の前に聳え立つ城を改めて見る。これから立ち向かう相手はこんなに大きく、揺るがないものを持っている。きっと頂上からの景色を見たとき、なにかがあると信じて――ブレイヴァーは一歩踏み出した。

 

 

【次回予告】

 

決戦が始まろうとしていた。

連結姫は心を求め、速疾姫は過去を求める。

次に消える灯火は、どの炎なのだろう。

 

次回『大切なもの』


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