ROYAL Sweetness   作:皇緋那

26 / 41
今回めっちゃ短くて申し訳ないです。わざわざ分割した意味はないんじゃないかと思いますね。はい。


鳴り止まない解

【前回のあらすじ】

双美だよ、前回は面白かったね。フリーザーくんってば、あんなことまでしちゃうなんて!ゲームスターくんの運命やいかに!?ってやつかな!

 

 

微睡んでいるようにぼやけた視界。けれど心地よさの感じられない感覚。賭博姫――アーモンド・ヴァウは心のなかで、プールに漂う浮き輪になっていた。

自分は今まで何をしていたのか。ずっと、困難な選択肢をわざわざ選びとっては積み上げてきたものを台無しにしてきたはずだ。なのに、彼女のことだけは台無しにしたくないと。

脇腹のあたりに鈍い痛みが走る。それは我が儘だと、都合が良すぎると。夜の世界に生きるしかなかったアーモンドにとって、元より彼女は遠い存在なのだと、

 

「表、ちゃん……」

 

手を伸ばそうとしても意味はないのに、自然と身体が動いていた。満足に開かない瞳が、わずかな隙間から彼女を探していた。

 

「……アーモンド!大丈夫!?」

 

ぬくもりが手に触れて、意識がすこし鮮明になった気がする。求めていた姿が目前にあり、必死に呼び掛けている。

 

「だい、じょぶ、たぶん」

「そうは見えないのですが、とりあえずよかった……」

 

表は胸を撫で下ろし、アーモンドの手をより強くぎゅっと握った。結果は気絶していただけになったとはいえ、フリーザーに殺されかけたのだ。心配で仕方がなかったのだろう。

加えて、先日のイーターの脱落。表は彼女を守ろうとしていたのだから、相当こたえているのだろう。

 

「フリーザー。戦力も思考も危険です。警戒していかなければ」

「表ちゃん……セクター、は?」

「諦めるしかありませんわ」

 

表にとっては、もちろんアーモンドの命が優先になるだろう。アーモンドだって死にたいわけじゃない。いくらチャンスとはいえ、こうして敗北した以上は諦めるしかないのかもしれない。

ふと、アーモンドは自らの脇腹の痛みを思い出す。

 

「あれ……そういえば私さ。なんで生き延びたの?表ちゃん攻撃されてた覚えがうっすらと」

 

それを聞いた表は、自らの背後に視線をやった。立っているのはアーモンドの知らないプリンセス。薄いレースの黒いドレスが透けて、下に着ているらしいフレアトップ水着が見えている。男性には刺激の強そうな衣装だが、顔立ちはわざわざ見せているような気配のないジト目にどこか表を彷彿とさせる容姿のおかげかどちらかといえば芸術品のような印象を受ける。

 

「うらちゃんが頑張ってくれたんですよ」

 

裏ということは、表の妹であるあの少女だ。あまりアーモンドと面識はないものの、姉の指示なら付き従うだろう。

 

「それはどうも、ありがとね」

「……いえ。あなたがいなくなると、お姉様が悲しみますから」

「確かにいけないことだね」

 

笑って返すアーモンドに、裏は特に反応しなかった。話すことはとくにないのかも、と会話をやめることにして、なんとか立ち上がろうとする。

 

「いってて……」

「アーモンド、安静にしてたほうが……」

「大丈夫だってば。表は心配性だなぁ」

「気絶させられるほどのダメージを受けている友人を、心配しないわけにいきません」

 

それもそうか、と微笑んで。ダイバー、ゲームスター、そしてもうひとりの姫はセクター争奪戦から脱落したのだった。

 

 

その一方で、勝利を確信したはずのフリーザーはと言えば。セクターを入手したまではいいものの、ゲームスター殺害に失敗したことで気が立っていた。

 

自分が正しいはずなのに。気づけば、すでに賭博姫の姿はなく。槍は深々と土に突き刺さっていた。何があったのかはわからないが、何者かの妨害を受けたと見ていいはずだ。一度で成功させられなかったなら、相手はより警戒してくる。容易なうちに仕留めてしまいたかったのだが。

 

そのうえ青女の失敗はもうひとつある。

 

「やぁやぁやぁ、元気かい?かいちょーさん」

 

このうるさいやつの挑発に乗ってしまったことだ。

 

元からついてきているだろうとは思っていたのだが。自分から顔を出して煽ってくるとは思っていなかった。せいぜい、画面越しに眺めてにやにやするくらいだとばかり。

このモニターというプリンセスである卯道双美。彼女は青女のことを探ろうとしていた。そのモニターの領地は、この13番セクターのすぐ北にあるのだ。きっかけは多少あるだろうが、本人が来てもおかしくない場所ではあった。

 

「しっかし、ねぇ。あのかいちょーさんがあんな……っくくく」

「何がおかしいのですか」

「いやぁ?完全無欠の八方美人がさぁ。あんな人間だなんて」

 

モニターは青女を嘲笑し、ツボにはまっているのか腹を抱えている。人の神経を逆撫でする行為を好んで行っているのだろう。世の中にはわざわざ怒らせたシーンを得ようとするジャーナリストもいるわけで、彼女もまたその一員か。

 

「だーってさぁ?勝手に期待しといて勝手に間違ってるっつって同盟相手殺そうとか、あったまおかしいんじゃない?」

「いいえ。間違っているのは彼女です」

 

フリーザーは自らを曲げようとせず、あくまでも自らは正義とした。支配者となる身分の私は完璧でなければならず、それは白神の者にも同じだと。

 

「ほんとかなあ、そんな身分に生まれたとしても自由になりたいなんて普通だと思うけど」

「制約のない支配は圧政に他なりません」

「だから、その支配側になることすら望まないっての」

「ありえません!白神の女でありながら、そのような……!」

 

そんな青女の言葉を聞き流すようにふらふらと歩き出したモニター。彼女が広げた手のひらに、一機のドローンが止まる。カメラをもったその一機は、モニターの能力の一端だ。何かの偵察が終わったらしく、モニターはまたも口角をつりあげる。

 

「ここで耳寄り情報。自分を信じて疑わないフリーザーさんにお似合いのね」

「……何ですか?」

「同じ自分を信ずる者。ブレイヴァーの所在」

 

自らの言葉に動かなかった彼女。沖ノ鳥ユウキが答えを持っているのだろうか。それともまた彼女も間違っているのか。こうしてモニターに否定された自分を見直すことと、胸のうちを整理することには繋がりそうだ。

 

フリーザーは数歩、ガラスの靴で土を踏みしめる。手には金色のかんざしが輝いて、瞳には決意がある。

これを、モニターの頭は「青女がユウキの情報で釣れた」と解釈した。が、彼女の動機は違う。大きく見ればそう受けとることもできようが、決して青女はブレイヴァーに会いに行くため動いたのではない。

 

「ふふん、知りたいんだね?」

 

したり顔のモニターには、忘れ物があった。

 

「——『ファーストオーダー』」

「はえ?」

「射抜け、鋭き氷柱」

 

びくん、とモニターの身体が跳ねた。脳が追い付かずに回避行動をとれなかった双美の無意識が命じた動きだ。今度は賭博姫のように邪魔者はいなかった。確実に、氷塊は腹部に沈んでいる。手に乗せられていたドローンが地に落ちて、消滅していく。

突き刺された場所からは鮮血が目立って溢れ出ている。凶器を引き抜けば彼女は臓物を撒き散らすに違いない。

 

「か、はっ?」

 

状況を理解しきれないらしい双美が血を吐いて、自分の手のひらにべっとりと付着したそれを呆然と見ているしかなかった。

おかしい、フリーザーには情報が必要なはずだろ、と混乱した頭が無駄に回転を始める。が、その意味はない。既に彼女の身体には異変が起きている。

 

氷結姫のファーストオーダーはただ氷柱を召喚するものではない。この能力を以て作られた氷に傷を付けられた者は、傷の周囲が凍りつく。

ぴきぴきと音を立てて鮮血が冷凍されていく様は、自分の腹部に突然現れている凶器とあわせて双美の恐怖を煽っていた。

 

「なんでっ、なんでこんな……!?」

「覚えていないのですか」

 

血混じりに叫ぶ相手の耳にフリーザーの声は冷たく響く。だが恐怖は記憶を辿ろうとすることを妨害し、思考すら狂い始めた。どうして自分がこんな目に遭わなければいけないのだと、叫びたかった。

けれど口は掴まれて塞がれた。フリーザーは目を見開き、その理由を告げる。

 

「一時でも仲間だった彼女を売るような態度をとるのなら……あなたをこの手で始末する。私は、そのようなことを言いました」

 

塞がれた口からは必死に悲鳴が紡がれようとするが、たったすこしの空気になって指の隙間を抜けるだけだ。

 

傷口から流れる血液は無くなり、やがて悲鳴すらも途絶えた。フリーザーが手を離しても、モニターはただ重力に従うだけ。この世界の摂理に従い、消去されていくだけなのだった。

 

 

 

【次回予告】

 

ボロボロのまま現実へと復帰したユウキ。

その明らかに傷だらけの姿を見て放っておけなくなったプリンセスがいた。

時畑とち/ヒーラーのセクターへと招かれたユウキを待っていたのは?

 

次回『傷の華』


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。