ROYAL Sweetness   作:皇緋那

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すごいサボってました。申し訳ないです。


氷の像と水面の像

【前回のあらすじ】

どうもー、今回も金ぴかことコネクターが担当なので。前回は15番セクターをめぐって、炎上姫に屍人姫、勇者姫がどったんばったん大騒ぎというわけで。この度はそちらでないどったんばったん大騒ぎを、お見せしていければなと、思っていまして。

 

 

炎上姫、ブレイザーによるセクター侵攻が始まった日。彼女――虚依青女は、いつも通りの生活を送っていた。

「虚依さんがやった方が丁寧でいい」だなんて押し付けられた仕事の数々。教師たちも忙しいのは大変だし、善意で受け取っていたものがいつのまにか当然になってしまっている。

生徒会室に置いてある物の数々は、彼女が動きやすいようきっちり整理整頓されていた。無論それも彼女の仕事であり、他の役員に関してもさすがに会長のようなことはできないと顔を出すこともあまりない。ないのだが、きょうに限っては客人があった。

 

「どもどもー」

「……ノックもせずに。なんですか」

 

パソコン画面に向かっているまま、タイピング作業を止めないで来訪者の用件を訊ねる青女。来訪者は、にたりと笑って近寄っていく。

 

「新聞部、ぶちょーの卯道ですよ」

「貴女がわざわざここに来るとは」

「そりゃあ新聞部ですからね、かいちょーさん?」

 

未だに客人である双美の方に視線をやろうともしない青女。さすがに、前回も無視されていたというのにまたともなるとすこし鼻につく。ふと、双美はいいことを思い付いたとでも言いたいのか手を叩くと言葉を続けた。

 

「それともこう呼べばいいかな?ブレイヴァーに拒否られた氷結姫さん、とか」

 

青女のキーボードをたたく手が止まった。双美は小さくガッツポーズして、一方的に話をしようとする。

 

「その反応。彼女のこと、気になってるんじゃない?」

「確かに、考えてはいます」

「じゃあいっこお知らせ。ブレイヴァーくんはちょいと前に白神のパーティに参加してたのよ」

「白神の?どうしてですか」

「プリンセスがいるのさ。もう一人、本物のお嬢様のプリンセスが」

 

青女の脳裏には、あの小柄で歳上とは思えない新当主である表の姿がよぎる。まさか、と頭を回転させて彼女がプリンセスとまでなる理由を考えるが、まともなものは浮かばない。まさか、自分のような願いを抱いているのだろうか。

 

「どう?そのお嬢様も、今日は動き出すはずさ」

「……会いに行け、と?」

「もちろん。あ、情報料とかは無いよ。かいちょーさんだもんね」

 

双美の顔は、明らかになにかを企んでいる。いや、単に絵面を見たがっているだけか。

表と会わないことには進まない。表が自分と同じ人間だったなら。違ったとしても、ユウキを理解することに繋がるかもしれない。なら、今は双美の思い通りになっていたところで気にすることではないと、青女は考えた。

 

「と、なると。これをすぐに終わらせなければなりませんね」

 

画面に映った中途半端に止まっている作業に戻るべく、彼女は再びタイピングをはじめようとする。

 

「おいおい、そうなるのかい」

「貴女の用件はもう終わったでしょう。これ以上何か?」

「いやいや。そんなつまんねーことよりさ、自分の興味のが大切なんじゃないのー?」

 

にやにや顔で指をさしてくる相手に、青女の心の内には何度も芽生えてきた覚えのある感情が沸いていく。どうしても私に押し付けたいというのなら、やってしまおうではないかと。双美の『期待』に応えてやろうと。

 

「いいでしょう。セクターへ急行します」

「そうこなくっちゃ!」

 

ペティグリィである金色のかんざしを取り出したのち、その輝きを通じ青女の精神が裏世界、そしてそこにいるだろう白神表へと吸い込まれていく。ペティグリィがひらく裏世界への門に引き寄せられて、青女の肉体から精神が分離していく。

 

「いってらっしゃい。フリーザーくん」

 

双美の笑みは歪みきっており、本当に愉快な気分である者のする表情が張り付いていた。

 

 

 

元々はプランターのものだった場所が戦場となるため、木々が多く戦場としては戦いにくい争奪戦となるはず。もちろんブレイザーのようなすべてを焼き払ってしまう者は例外になるのだが……フリーザーはこうしようと考えた。その例外になればいい、と。

 

場所は13番セクター。フリーザーの持つ唯一の領地のすぐ隣であり、北には同じく空きセクター、11番とモニターがいる12番が位置している。

ここならば、フリーザーが狙うのだと理解しているだろうから、展開を急ぐはずだ。そして氷結姫を警戒して隠れているのなら、障害物をすべて消し去ればいいはずだ。

 

フリーザーが持つかんざしのきらめきが枯木に映り、水色のスカートは風に揺れる。口から紡がれるは解放の言葉。権威を振りかざし、我が儘を通す儀。

 

「——氷結姫フリーザー。ここに、私の王権を行使します。我が命に応え……凍てつく氷華よ、咲き乱れなさい!」

 

瞬間、あたりには冷気が走る。まるで衝撃波のようにすべてを凍らせて、まるで災害のように氷を打ち砕いていく。高価な像が破壊されるかのように、美しく時を止めたはずの木々が終わりを迎えていく。

 

「……これで。何もなくなりましたね」

 

フリーザーの言う通り、セクターにはもう視界を遮れるようなほど背の高いものはない。あるのは敷き詰められた土と、散らばった氷の破片だけだ。

無論、他のプリンセスの影も、レヴェルの影もない。後者は消滅しただけで本来はいたのかもしれないが、前者はこんなすぐさま消滅するだろうか。ダイバーがここにいたとして、せめて血の氷くらいは……と歩き出してみる。ざり、と破片まじりの土が氷結姫のガラスの靴に擦れている。

 

成果なしという可能性がふと頭をよぎったとき、一瞬背後に気配がした。感覚の一瞬と同じほどの時間で手元に氷の槍を作り出し、構えつつ後ろを振り返る。

視界に飛び込んでくる第一の情報は、突き出された拳だ。すでに避けられるような距離ではなく、的確にフリーザーの鳩尾を抉ってこようとしている。食らう位置をずらそうと試みるあいだに相手のコスチュームを認識し、それがスクール水着のような衣装であることを理解する。

 

胸に走る鈍痛と衝撃に体勢を崩されながらも、氷結姫は目標の達成に声を捻り出した。

 

「来ましたね、ダイバー」

「会いたくなかったな、フリーザー」

 

話に聞いていたとはいえ、直にプリンセスとして出会うのは初めてのことだ。お互いの視線が交わされ、フリーザーの歓喜とダイバーの焦りが露呈する。

 

「白神表……!本当にプリンセスだったとは、驚きです」

「……そお?驚きってか、嬉しそうじゃないの?」

 

不意討ちに失敗したダイバーの側はいつ再び潜るかを探っているようで、フリーザーはその隙を与えぬよう氷槍に神経を込める。

動かない二人のみが立つ13番セクター。静寂が立ち込め、緊張が取り囲う。

 

「こっちだよ!」

 

フリーザーの後頭部に小さな衝撃があった。何かが落ちてきて、当たりどころがあまりよくなかった程度のものだが、フリーザーの注意をひくには十分だった。

 

「……7位ですか?」

「へへっ、ワンペアでも時間なら多少は稼げるってね!」

 

相手がゲームスターだと呟いたときにはすでに、ダイバーの姿はなくなっていた。フリーザーの舌打ちが吐き捨てるように転がって、彼女の思考が勝手に回り出す。

 

「……なるほど。貴女が」

「へ?」

 

ゲームスターは何も理解していない様子だが、相手は攻撃体勢に移ってくる。ゲームスターの安定しない能力では、あの氷槍をさばくのは難しいことだろう。となれば、彼女は飛び出してくるしかない。

 

「読んでいますよ」

「くっ、素手じゃ辛いですわ……!」

 

突如空間に現れた氷に阻まれ、逆に腹部への殴打をまともに受けてしまうダイバー。少量の唾液と血液が飛び、体格の小さな潜水姫は吹き飛ばされてしまった。

 

「表ちゃ……!」

 

駆け寄ろうとするゲームスター、だがそれを許すフリーザーではない。脇腹への蹴りが表とアーモンドを引き離し、内臓へのダメージを与える。

 

「アーモンド!?」

「邪魔者は倒れていてください、私は白神表に用があるだけです」

 

下半身になかなか力の入らないらしい潜水姫に、氷結姫が迫っていく。氷が反射する光が残酷に彼女を照らす。

 

「なぜプリンセスになったのですか」

「……はい?」

「プリンセスになった理由。賭ける願いです」

「願い、だなんて、単純なことですよ」

 

納得のいく答えを出してくれると、青女は期待していた。期待、していたのだが。

 

「自由、ただ、それだけです」

 

的外れだったのだろうか。とにかく、青女の求めていた答えとは異なっていた。自由、などと。仮にも貴女は白神の人間、それも時期の当主とも言われる者。それが自由?縛られずして支配を行おうと言うのか?

 

「……そう、ですか」

 

いままで連呼してきた白神表から、彼女は目線を逸らす。フリーザーの目的は目の前に倒れている者ではなくなったからだ。

彼女の考えは変わった。白神の少女に自らが求めるべきではなかったのだと、自らが彼女に答えるべきだったのだと。

 

「貴女は狂わされている。そこの浮浪者に」

 

賭博姫ゲームスター。賭博などという下賎な名を持ったプリンセスが近くにいるなど、令嬢としてあっていいことではない。それがあろうことか、「表ちゃん」などと。

 

「排除します。彼女にとって貴女は害悪でしかない」

 

かんざしを持ち、ガラスの靴が土を踏みしめていく。賭博姫の倒れている場所へ、一歩一歩迫っていく。

 

「待っ、アーモンドは関係ないでしょ……!」

「いいえ。唆したのはこの者でしょう?」

「違うわ、アーモンドは!」

 

フリーザーはそれ以上は返答しようとしなかった。虚依家に生まれた自分が間違っているわけはなく。こうして白神の娘を正そうとするならば尚更、青女は自らを善と信じ疑わない。

 

「では。正義の下に、消えてください——」

 

深々と。透き通った氷が、光なき場所へと沈んでいく。しっかりと突き進んでいく手応えがフリーザーの手を通り、脳まで伝わり、排除の確信へと至らせた。

 

 

【次回予告】

 

無情にもセクターは確定する。

勝者は自らに酔い、敗者は泣き喚く。

失墜か成就かは誰も知らない。連結姫であろうと、勝利の果実だろうと。

 

次回『鳴り止まない解』


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