ROYAL Sweetness   作:皇緋那

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一週間に1話できるかできないかになっている。よくない傾向だ。トップスピードでいきたい。


旧果樹園街道にて

【前回のあらすじ】

 

クククッ、よくぞ来た!前回は我、ブレイザーの熱い活躍に心踊らせたであろう?今回もそのようにしてやろう。特別にな。さぁ、しかと目に焼き付けろ!とくと見るがいい!残るプリンセス13人のうち、第2位につけるこの炎上姫の実力を!

 

 

「いやぁ、うち影薄いのかと思った!セーフ!」

 

突如、侵入を知らせる通知とともに現れた謎のプリンセス。黒いロングに白い髪で前髪を切り揃えた髪型で、プリンセス衣装だというのにぼろぼろの服装だ。それに理由のよくわからない感謝を伝えるにこにこした表情と、フレンドリーな口調。ブレイヴァーもファインダーも、彼女の出現に止まっていた。

 

「……あなたは?」

「え?あ、あぁ!答えてなかったっけ!?」

 

ふたり同時に頷いて、ボロ服の少女は忘れてた、とちょっぴり舌を出してみせる。ブレイヴァーとファインダーが仮に男だったとすればあざとい仕草と、ボロの服から見えていた布を押し上げる肌色の双丘の存在を気にしていたかもしれない。

 

「えっと、じゃあ自己紹介!うちはプリンセス:カダヴァーじゃん!よろしくぅ!」

「カダヴァー、って……17位の?」

「……うぅ、最下位でわるぅござんしたね!」

 

ブレイヴァーのつぶやきの言葉は触れてほしくないことだったらしい。理由は恐らく。

 

「プランターに手足へし折られてちゃ、無理っすよね」

 

ファインダーの言った通りなのだろう。あのあとは、セクターを手に入れることなどできなかったに違いない。

 

「まじそれな。って、何で知ってるの?」

「目撃者っすから」

「えー……助けようよ、敵だけど」

「自分はそこのブレイヴァーさんみたいな人間じゃないんで」

 

その言葉にほかふたりがきょとんとしたところで、ファインダーは話題を変えようと咳払いをした。

 

「……とにかく。私たちに何の用ですか?」

「あー、いや、うちさぁ。セクター持ってないからさ。自分のがほしいってわけ」

「あげませんよ、ここは」

「違う違う。15番だよ。すぐ上でしょ?」

 

カダヴァーの話を聞いてみれば、彼女は自分での戦闘能力はほとんどないプリンセスだという。レヴェルの群れに出会すと危険が過ぎるので、誰かの協力を得ていこうと思っていたのだとか。

 

「ブレイザーという不安はあるけどね、今やらなきゃ誰かがリタイアするまで待たなきゃいけない」

「なるほど。では、協力したとして、報酬のほうは?」

 

人差し指と親指でコインを示すファインダー。盗賊姫として、何かしらの見返りを求めるのは当然のことだろうか。ブレイヴァーは今すぐにでも行こうと気を張っているが、ファインダーは彼女をもう片方の手で軽く押さえている。

 

「そっかー、そうなるよね。うちいまお金とか出せないし……取ったセクターの使用とかをフリーにするくらいしかできないかなぁ」

「……そうですか。ブレイヴァーさんはどう思います?」

「私は、無償でもかまわない」

「では、先程の条件で。行きましょう」

 

案外あっさりと決まって、報酬を求められたときはやっぱりめんどくさいことになるかと思ったカダヴァーはきょとんとしたまま動き出すふたりを見ているのみに少しだけなっていた。ファインダーの「あなたのための出陣ですからね」という言葉でやっと気を取り直してついていき、やがて目的の15番セクターへと突入していく。

 

そこは、既に廃墟であった。舗装されている道でこそ変わらずとも、プランターによる支配を受けていたときには多くの緑が生い茂り瑞々しい果実がぶら下がって収穫を待っていたというのに、それらは枯れ果てており、また別の風情のある光景となっていた。

 

「好きな人は好きそうな光景になってるじゃん?」

「ほかのプリンセスは……まだ、いないみたい」

「よぉし、じゃあ今のうちに!」

 

カダヴァーは我先にと、セクターの形に沿って走っていく。あまり行きすぎてはブレイヴァーとファインダーを護衛につけた意味がないだろうと、ユウキは彼女を追いかけようと鎧の脚部をかしゃりと鳴らす。

 

「追いかけなきゃ!」

「待ってください」

「……え?」

 

雪に呼び止められて振り返ると、雪の背後には大きな影がある。うっすらと見覚えのあるフォルムだった。熱い息を排出し、疎ましく思う心が化けた牙が覗いていた。初日にイーターが喰っていた大型の恐竜レヴェル、それよりも大型のものだ。

 

「な、雪ちゃんッ!」

 

焦って飛び出すブレイヴァー。黄金の切っ先によってレヴェルの吐息が割かれるが本体の戦意に影響は無く、ファインダーの身体を抱いての離脱には成功したもののまだ相手のターゲット範囲であるようだった。

 

「ふぅ、ありがとうございます」

「うん……でも、こんなのが出るなんて」

「レヴェルは私たちに向けられた負の感情ですし……3人も一緒に入れば、こうなるのかも」

 

鋼の籠手に抱かれた体勢から、理屈を述べながら起き上がったファインダー。彼女の能力である物体のコピーはすでに行われており、その手には日本刀が握られている。

 

「行きますよ、ブレイヴァーさん!」

 

黙って頷く勇者姫。銀色の日本刀と黄金の西洋剣が、真っ直ぐ巨体へと突撃をはじめる。双刃は偽りの光で煌めいて、戦意同士の激突を加速させていた。

 

 

その一方で、先に飛び出していったカダヴァーはといえば。枯れ木の前で、エンブレムを刻むために自らのペティグリィをその手にしていた。

 

「よし、うちの初めてを……!」

 

すっと、手の内にある十字架のネックレスを枯れ木の幹へと近づけていく。干からびた幹に命の気配はないが、それでもなお立ち続ける堂々とした意思がそこにあった。

ぴたり。大気と違った温度を持たない幹にネックレスが当たって、白金色の光を散らす。エンブレムを刻み所有権を主張する行程は枯れ果てた木に行われ、髑髏の印がその完了を示している。あらためて服を引っ張って自分のエンブレムを見るカダヴァーは、ここまでかかったこととブレイヴァーが動いてから何もなかったことの両方に思いを馳せていた。

 

「……しっかし。案外あっさりといくもんじゃん?プリンセス人生イージーモードだったり?」

 

調子に乗って、ブレイヴァーやファインダーの手を借りる行程もいらなかったか……と笑うカダヴァー。ここが自分の領地だと証明している木の幹に寄りかかって、すっかり気が抜けているらしい。

 

故に、彼女は気がつかなかった。

 

「……え?」

 

脳がそれを認識するのには、数秒かかってしまった。その数秒のラグが彼女には何倍にも思えて、認識したところで状況を飲み込めるようなものではなかった。

 

「あ、あぁあ……!?」

 

熱い。熱い、熱い、熱い。燃えている。炎の色が、視界の隅で異常なほどの存在感を放っている。

 

「――う、嘘、こんな、まさか」

 

必死で燃えている腕を振って消そうと試みるが、そんなことは意味がない。人間がおおよそ許容できる温度でないそれは、皮膚を融かし、また枯れ木にまでも燃え移っていく。

これは、カダヴァーが最も懸念していたことだった。想定し得る最悪の事態だった。だから、来ないように祈っていたのに。あぁ、途中までうまくいっていたのに。

 

「サイアク……じゃーん……」

 

恨み言を吐いても変わりやしないのに、カダヴァーにはそれしかできなかった。炎に包まれる身体は、だんだん熱すら感じなくなってゆく。

 

「惨めだな」

 

ふと聴こえた声。この炎の元凶であり、カダヴァーが出会いたくなかった敵。赤く燃え盛る衣装のプリンセス。炎上姫『ブレイザー』が、そこに立っていた。

 

「最下位、出来損ないめが。大人しく灰塵に帰するがいい」

 

ブレイザーが指を鳴らすと、炎の勢いは強くなっていく。骨も残さぬと、炎熱の侵略は激しさを増していくのだ。もはや一部は筋肉さえ焼けているのか、うまく動かすことすらままならない。こうなってしまえば、できることはひとつくらいかもしれない。

 

「このような者をわざわざ選ぶとは。あの女、正気なのか?」

 

こうして自分を眼中にも入れようとしない者。こいつに一泡でも吹かせようと思ったなら、確実ではないがこうすればいい。きっと、こうすれば。

 

「本来ならば毎週最下位を切り捨てるでもすればいいものを――」

「すぅぅ……」

「――?どうした、貴様」

 

首を傾げる炎上姫に構っていられない。相手になるのは、私ではないから。息を吸う度に激痛が走っても、ありったけのを一度でいい。

 

「助けて――ッ!!」

 

 

カダヴァーの絶叫はセクターじゅうに響き渡る。それはもちろん、ブレイヴァーとファインダーの耳にも届く。あとは簡単だ。カダヴァーが助けてと言っていたのなら、ブレイヴァーが――沖ノ鳥ユウキが、黙っていられるわけがない。彼女はカダヴァーの思っているそれよりもずっと強い意思で飛び出して、曲がり角をぎりぎりで通過し、悲鳴の聴こえた場所まで飛んでいくのだ。

到着と同時に、黄金の一閃。炎上姫の頬にすっと赤い線が入り、薄く切れた表皮と表皮の隙間から一筋だけ血が流れ出る。

 

「……!これはッ、貴様のせいかッ!!」

 

こうして最初から殺意を剥き出しにし、剣で心の臓を狙ってくるブレイヴァーの存在はまったく予想していなかった。ブレイザーはなんとか回避を成功させたが、頬に傷をつけられたのだ。浅くても、それは怒りの要因になる。八つ当たりの矛先に選ばれたのはカダヴァーで、すでに燃えている身体に蹴りが入って小さな呻き声が漏れてしまう。

 

「この、この、この……!」

 

だが、一度ではやめない。ブレイヴァーはすぐそこにいるというのに、ブレイザーはカダヴァーの焼け落ちかけている部分を踏みつけたり蹴り抉っていく。

 

「……そこまでにしてよ」

「煩い虫だ、私を多少傷つけられたからといって調子に乗るなよ」

「いいから、止めて」

「なんだ貴様……此奴のことか、なら止めてやる!息の根を!」

 

よほど気に触れたらしく、ブレイザーは怒りに任せて火力をあげる。あげられる悲鳴の残っていなかったカダヴァーが炎の海へと沈み、見る影もなくなっていく。

 

「くくっ、どうだ!?この炎に包まれたくなくば――」

 

見せしめになったと思い、ブレイザーはユウキへ向けて忠告を送ろうとする。が、相手の瞳はそのようなものではない。悪を挫く正義の味方ともまた違う。それは、自分に与えられた仕事をこなす機械の目だった。

 

「『ファーストオーダー』。煌めけ、選定の剣」

 

剣の刃には莫大なエネルギーが充填されていく。極大の光の束と化したそれらは、ブレイザーひとり程度用意に焼き尽くせる量である。これが放たれれば、仮に回避しようとしたところでかすりでもすれば一時離脱に追い込まれるだろう。最悪は、死亡による脱落。それらの可能性を否定したかったのか、ブレイザーもまた詠唱をはじめる。

 

「我が焔に焼かれる栄光、その身に刻め。闇を散らし、あらゆるモノを焦がす永遠なる焔。その前に歓喜と怨恨の涙を流すがいい。その涙さえ虚空に消し飛ばしてやろう……『ファーストオーダー』!髄まで燃やせ、慈悲なき焔竜よ!」

 

青い爆炎がブレイザーの周囲に漂い、渦を巻き、竜の姿を形成していく。すべてを飲み込んで燃やし尽くさんと、高温の吐息でいくつもの物体を燃やす竜である。

 

炎の竜と、剣の光。炎上姫と勇者姫のファーストオーダーが、ほぼ同時に動き出す。慈悲なき焔竜は唸りをあげ、選定の剣は振り下ろされる。

次の瞬間、灰と化した少女も枯れ木も、周囲に在ったもの全てが意思のぶつかり合いに巻き込まれた。

 

 

悲鳴が聞こえるや否やユウキが飛び出していってしまったため、雪はひとりで目の前の巨竜と対峙していた。といっても、手に握られた日本刀はまともに振るわれることはなかった。

 

「……いったい何が起きてるっつーんだよ?」

 

呼吸しているのかも怪しいほど、レヴェルは動かなかった。少女と恐竜は静寂の中に取り残された。セクターの向こう側からは、プリンセスらしき声が聞こえ、肉の焼ける匂いが漂ってくるのみだ。恐らく、ブレイザーが現れてしまったのだろう。

 

「こいつも動かないしね……あぁ、私も向こうに行けってことか?」

 

試しに、切っ先でちょんと脚をつついてみる。小さくできた傷から血こそ流れるものの、本体の反応はない。

 

「ったく、なんなんだよこいつは?出てきただけか?」

 

わざわざ仕留める必要もないが、こうして立っていられるのも邪魔かもしれない。万が一、突如復活して追いかけてこられると対処は難しい。ならば、今のうちに腹をかっさばいてしまうのもひとつの手ではないだろうか。ブレイヴァーならば、たとえ一位が相手でも渡り合えると雪は思っていた。わざわざ間に入っていくよりもこのレヴェルを仕留めておき、乱入の危険を減らしておくほうがいいだろう。

 

「そうと決まれば、そらよっと!」

 

腹下に潜り込むと、頭上へ向けて日本刀を振るう。名も知らぬ得物だが、きっと名刀なのだろう。分厚い皮膚であろうがたやすく裂いて、中の赤いものを露出させる。すんなりと一直線に切れ目が入った。こうなれば、いずれ重力に負け中身が溢れ出るだろう。

 

ファインダーの推測は、大いにハズレることになるが。

 

「ぶっはぁ!シャバの空気だぁ!」

 

臓物の出すような音でなく、消化器の示す色味でなく。少女の声と、小麦色の肌がぼとりと落ちてくる。元より臓物を浴びまいと身構えていたファインダーだったが、さすがに突然のカダヴァーには驚きを隠せない。ファインダーを巻き込んでしまい、カダヴァーは着地に失敗した。否、見方を変えれば成功しているのだろうか。この、ファインダーのプリンセス衣装の内側へと手が滑り込んでいるあたり。

 

「な、なんだこれ、何が起きて……!?」

「ん?なんだかやわらかいじゃん。揉んどけもにゅもにゅ」

「きゃっ!?はっ、離れろ!お前は触っちゃダメだ!」

 

上に覆い被さっていたカダヴァーを突き飛ばして、急いで立ち上がるファインダー。突き飛ばされたほうはにたりと笑っていて、いきなり出てきてなんだコイツと思わせる。

 

「お前は、ってさ!つまり触ってもいい人がいるってことじゃーん!?だれだれ、ブレイヴァー!?」

「くっ……その、それはまだ……」

「ふーん?」

 

まだにやにやしているカダヴァーを、ファインダーはもう一回突き飛ばしてやろうかと思ったがやめた。

 

「で、どうしてあんなとこから?」

「あぁ、なんよいうか、そういう能力なのね。いわばデスルーラ」

「はい?それはまた特殊な能力をお持ちのようで」

 

気づけば、頭上にあったはずの腹を開かれたレヴェルの姿が消失している。レヴェルが死亡し、肉体を保てなくなったのだろう。思えば動かなくなった時点で、カダヴァーが中に入っていたのか。

 

「っ、向こうはどうなったんですか!?」

「さぁ、わかんない。とりあえずファーストオーダー対決で爆発したってのはわかるけど、どうなったんだろ?」

 

 

――爆発の跡。すでに街道の面影はない。鎧の数割が破損した勇者姫と、こちらも衣装の数割が破けた炎上姫がお互いに息を切らしながらも睨み合っているくらいだった。

 

「ぐ、これほどか……貴様、どこのプリンセスだ」

「……プリンセス:ブレイヴァー」

「ブレイヴァー。しかと覚えたぞ、10位。この屈辱、いずれ晴らす」

 

ボロボロになった衣装からのぞく肌を隠しながら、なんとかブレイザーは立った。瞳にはうっすらと悔しさからか涙が浮かんでおり、今後もブレイヴァーを狙ってくるだろうことは明らかだった。

 

殆どのものが燃えてなくなった。爆発と炎の原因だったブレイザーは立ち去った。残ったのは、負傷した勇者姫と――枯れ木に刻まれながらも唯一耐えきった、髑髏のエンブレムだけだった。

 

 

 

 

【次回予告】

 

カダヴァーがセクターを獲得し、15番セクターの戦いは終わった。

だがまだ遺されたセクターも、動き出したプリンセスも存在する。

果たして逃げるが正解か、逃げぬが正解か。答えは誰も知らない。

 

次回『氷の像と水面の像』


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