ROYAL Sweetness   作:皇緋那

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言うほど揺れないですよ雪ちゃんは。今のところ、農園姫と監視姫は揺れると思います。たわたわです。

あ、胸の話です。


揺れる盗賊姫

【前回のあらすじ】

雪です。先日のお食事会、乱入もありましたが無事に成功してよかったです。やっぱりスイーツはいいっすよねぇ。ユウキ先輩とちゃんとお付き合いというか、協力しあえるきっかけになるといいんすけど。

 

 

――22番セクターにて、4人のプリンセスがパフェに癒されている頃。

北西の端、隅っこに位置する12番セクターでは、その統治者たるプリンセスによりオーダーが行使されようとしていた。

 

「まったく、そういうことなら誘ってほしかったんだけども」

 

目の前の画面に映し出される、ブレイヴァーをはじめとした4人の映像。それをちらりと確認し、羨ましそうにひとりごとを漏らした。l

12番セクターは敷地いっぱいいっぱいにドームが作られており、内部には大量の画面に各小型無人偵察機からの映像が流れてきている。ここは『監視室(モニタールーム)』なのだ。

 

「いや、作業って言ったのは自分からなんだけども」

 

回転イスにがたんと座った彼女。くすんだブロンドの髪を後ろでまとめ、半袖で発育の良い身体にぴっちりのインナーの上に前を開けたコートを着て、胸ポケットには数本のペンが差してある。

彼女こそこのセクターの主、監視姫『モニター』である。朝にユウキへ告げたように、プランターの調査をするためにやって来たのだった。リミテッドオーダーのドローン程度では、足りないからだ。

ただし、情報収集も整理も疲れたので少しのあいだ息抜き中だったのだが。

 

「……ふぅ。そろそろやるかな」

 

立ち上がって、自分の愛用の小さなデジカメを取り出した。それは淡い光を放ち、指令を待っているようだ。

 

「――『ファーストオーダー』。映せ、極小の人類史」

 

デジカメが放っていた光はレンズから画面のうちひとつに投影され、ひとつの映像をモニターに見せる。そこに映っていたのは、鬱蒼と生い茂る樹海と、その光景を赤黒く染める液体。中央には大きく、同じ液体に塗れ全身に樹がいくつも突き刺さった少女がかすかな息で辛うじて酸素を取り入れている様だった。

その数多くの貫かれた孔からあざやかに赤い塊を溢れさせる彼女を、無造作に放り捨てる。明らかに、興味を失っている。次にピントが合ったのは、離れた場所で手を押さえている人影。こちらは別位置の画面にもその姿の映っているプリンセス、ブレイヴァーである。

 

「ん、次行こう」

 

デジカメについている何らかのボタンを押し、映像を切り替える。真っ白な光景を自分の能力で埋め尽くすものを何度か経たがモニターはじっくり見ることはせず、まともに見たのは数える程だった。

まず、先程流れた、17人のうちはじめて脱落したプリンセスの最期。次に、ぼろぼろの服のプリンセスらしき少女の四肢をへし折る映像。そして、モニターの興味をもっとも引いたのは。

 

『あの、先輩……死、ってどういうことだと思いますか』

 

時間帯は朝だろう。場所は、地面や並木を見ると恐らく双美の通う中学校の横あたり、ちょっとした木陰だろう。この不安げながら純真な瞳を向け、先程の問いを投げ掛けた少女は、別の画面でパフェをつつくファインダーに酷似している。

新聞部である双美は、彼女に覚えがあった。テニス部の天才少女、古史雪だ。彼女に先輩と呼ばれ、仲のいい上級生と言えば。

 

「なるほど、君だったのか」

 

 

モニターのファーストオーダーは、特定の人物の記憶を映し出すことである。記憶を映像として辿るためのだ。今回辿ってきたのは、調査対象だった農園姫『プランター』の記憶だ。カダヴァーを難なく退け、テイマーを殺したのは彼女で間違いない。

 

「意外ではないが、まさかこの学校にまだプリンセスが居たなんてね――ね、土実基」

 

姿の見えぬ基へ笑いかけ、モニターは変身を解く。これより先は現実での作業となるのだ。自らのペティグリィを手にした双美の身体は、このセクターより消失していった。

 

 

そうして迎えた翌日の朝。いつも通り校門の前で早朝から、学校が開くのを待っている。ユウキにとってこの早起きは日課である。着替え洗顔と自分のことはもちろん、弟の身支度の用意や彼の朝食もユウキがざざっとこなしているのだ。こうしてこの場所に立っていても眠気を感じさせないのは、きっかりと7時間は睡眠をとっているからだ。

後ろのざわつきはまだほとんどないような早い時間に、わざわざ真顔で校門前に佇むユウキに話しかける者などいたことがない。だが、今日はそうではなかった。

 

「ユウキ、せんぱーい!」

 

向こうから走ってくる、自分とだいたい同じくらいの背丈の影。今は学生服なのでセクターで見せるような身軽さは控えめながら、走りは普通の女生徒よりずっと速い。

 

「まに、あっ……たじゃなくて、噂通りですね、先輩」

 

息を切らした彼女――古史雪はこんな時間にユウキへ話しかけてきた、はじめての人物となったのだった。

 

「雪ちゃん?早いね、朝練かなにか?」

「いいえ、そういうわけではないっすね。先輩に会いた……じゃなくて、目が覚めちゃっただけです」

 

言いかけた言葉を止めた雪に、ユウキはなにも突っ込まないで相づちをうつ。ホントですから!と付け加える彼女は顔を赤くしていて、思わずくすりと笑ってしまう。

 

「む、笑いましたね!?」

「ごめん、つい」

「……別にいいんすけど。それより、ちょっとお話がありまして」

 

頬を真っ赤にした顔から一転。昨日も見た、戦いに赴くときなんかの表情に変わる。鋭い目からは恐らく話題が戴冠式のものであると推測を可能としていた。

 

「何かあったの?……ファインダーに」

 

わざわざ盗賊姫の名を出し、そちらの方面の話題だと確認する。周囲に人はまずいない。屋内にまで届く大声でなければ聞かれないだろう。

 

「あった、といえばあったんですが。まぁ、心境の変化?すかね」

「そうぼかされると気になるよね」

「ですよねー、別に簡単なことなんですけど」

 

それから雪はちょっと息をおいて、改めてユウキと視線を合わせる。相手の瞳に映る小さな自分が、お互いを見ている。

 

「昨日はどうも、お誘いいただきありがとうございました。感謝します」

「どういたしまして。」

「……そこで、なのですが。図々しいのを承知で頼みたいのです」

 

やっぱり恥ずかしくなってきたらしく、雪の視線は揺らぎ始めていた。ユウキはそのまままっすぐではあったが、彼女の恥じらいを感じて表情を緩める。

 

「私と、ファインダーと。同盟を結びませんか」

 

彼女なりに愛の告白をしているようなものなのだろう。はっきりと言ったものの、ユウキの返答をどきどきしながら待っているに違いない。言葉ののちに静寂が周囲を包み込んでしまい、息づかいとともに心音まで聞こえてきそうだ。

 

「駄目、でしょうか」

「……そんなこと、あるわけないよ」

「じゃっ、じゃあ!」

「だって。私と雪ちゃんは、もう友達でしょう?」

 

一瞬、雪の息が止まった。

 

「……友達。ですか」

 

思ってもいない笑いがこぼれ、頬をおさえる雪。可笑しいことを言ったのか、とちょっと後悔しかけたユウキだったが、雪の手で隠した顔は嬉しそうなものだった。

 

「ありがとうございます、ユウキ先輩。これからも、よろしくお願いしますね!」

 

雪にとっても、ユウキにとっても。早朝の空で低くとも輝く太陽はまぶしく、あたたかく校門を染めるのだった。

 

 

授業を軽く聞いて時を過ごし、早くも生徒たちは昼を迎える。一時勉学から解放されて喜ぶ生徒たちのなか、雪は別の理由でご機嫌であった。

 

「あら、沈んでたと思ったらもう機嫌がいいのね、情緒不安定なら薬を出してもらったらどうかしら?」

「刹こそ病院へ……あぁごめんなさい、馬鹿につける薬はないんでした」

 

日頃から雪を煽っているが、2週間ぶりに言い返されたクラスメイトの野芭蕉刹。目を丸くしたのちにくすりと笑って、どことなく嬉しそうにした。

 

「何ですか?気持ち悪い」

「何よ、相手の復帰を喜ぶのはライバルとして当然よ」

「さっきの情緒不安定の話は?」

「言い返してくるか確かめただけよ。解決ならちゃんと解決しなさいね」

「はいはい、じゃあさっさと手洗いましょうよ」

「もちろんよ。今日はつきあってあげる」

 

仲良く教室を出ていくふたり。さしずめ幼少期からいっしょにいる犬猿の仲、というところである彼女たちの会話は、このクラスに響く口論の7割を占めている。それで、いつもの光景はクラスメイトをちょっぴり安心させるのだった。

 

「いつにもまして邪魔なんですけど、なんですか」

「ふん、並走してあげてるだけよ」

「あいあい、意外とやさしーんですね」

 

目を合わせない雪と、彼女しか見ていない刹。並んで歩いているのを、彼女らの関係を知る者たちは邪魔せぬよう避けていく。

だが突然、前を見ていなかった刹はなにやら柔らかい、壁らしきものに衝突した。

 

「……!?な、なんかやわらかいんだけど!?」

 

ぶつかってみて刹が上を見ると、壁らしきものは人形のシルエットである。身長はずっと大きくて、さっきぶつかったやわらかな感触の正体はすぐに感づいた。

 

「え、あ、ごめんなさい!」

「いいのですよ、私はかまいません」

「……あれ、土実先輩っすか?」

「そうですわよ、雪ちゃん」

 

刹に激突された豊満な胸に手をあて、くすりと微笑みかける基。彼女のことは聞いたことがあるらしい刹はそれを聞いて、軽くうなずいていた。

 

「なるほど、あなたが雪の先輩ね」

「えぇ。私は土実基と言います」

「野芭蕉刹よ。いずれあなたのことも追い抜かせてもらうわ」

 

刹は体格の差など気にせず、すっと右手で握手を求める。基もまた微笑みのまま快く応じて、ふたりの目があった。雪を通じた関係と視線に火花が散る。が、挟まれている当人は気にせず基への質問を続けた。

 

「で、土実先輩はどうしてここに?」

「ちょっと雪ちゃんへの伝言を頼まれたのですわ、たしか新聞部の部長さんに」

「新聞部に……?それで、なんて?」

「伝えられたらなるべく早く部室へ来るように、と。2年の沖ノ鳥さん?も一緒のようですわ」

「……!」

 

ユウキが絡んでくるとなれば、プリンセス関連である線は強くなる。もしや、新聞部の部長もプリンセスだったりするのだろうか?

 

「……わかりました、ありがとうございます」

「いいえ、こちらこそ。会えてうれしいですわ」

 

心からの言葉なのかわからないが、雪は照れてそっぽを向いた。と同時に、横を生徒が通りすぎていく。まだ給食準備時間は始まったばかりである。

ふと、生徒のうちひとりが基にぶつかって、あっと声をあげた。肩と肩がぶつかるその瞬間に、基は左腕を押さえた。

 

「……っ!?」

「土実先輩?大丈夫ですか!?」

「……え、えぇ。大丈夫。ちょっとやけどあとに擦れただけ」

 

それより新聞部へ行くべきだ、と基はいう。

 

「え、今からいくの?給食よ?」

「……まぁ、そうですけどね。刹、上手い言い訳頼みましたよ」

 

わざわざ部長本人が早くと指定するうえ、ユウキまでいるのなら、相応のワケがあるのかもしれないのだ。ちょっと、と止める刹のことなど気にも留めず、廊下をダッシュで行ってしまった。

 

「なにがあるっていうのよ……?」

「ついていってみますか?」

「え、でも給食は」

「そうと決まれば行きましょう、ね!」

 

話の流れにおいてけぼりな刹は基に抱えられ、雪の消えていった廊下を辿ることとなってしまったのだった。

 

 

双美によって部室へ呼び出され、準備時間のあいだに終わるのならとやってきたのは、プリンセスはブレイヴァーであるユウキだ。なるべく早く用事を済ませて、給食準備の手伝いに戻りたいとの思いからためらいなくドアを開く。

室内の小物が相変わらず整理されているのには好感がもてる部室である。作業のあとらしくびっしり書かれた紙が、奥で待っていた双美の手元にある以外は、ボールペンも用紙もきっちりとしまってあり意外としっかりしていることが窺える。

 

「用事はなんですか」

「よく来てくれた、ブレイヴァーくん。待っていたよ」

「いえ、授業が終わってから2分しか経っていませんけど」

「うん、真面目に返すところではないけど指摘ありがとう。まぁ座って」

「いいえ、手短にお願いします」

「それじゃあつまらないだろう?せっかくの重大発表」

「昼休みでよかったのでは」

「それは言わないの。ま、ファインダーくんが来るまでゆっくりしててくれたまえ」

 

しょいがなく、部室の奥までは入っていったユウキ。その数秒後に、息を切らしている雪が部室へと滑り込んでくるのだった。

 

「到着ぅ……!」

「おや、早いね?」

「自分の脚を甘く見ないでほしいっすね!」

 

ドアが閉められて、部屋の明るさは小さな窓からの少ない明かりでなんとか周囲は見えるくらいになる。双美は腰を上げて、ユウキと雪へびっしり文字の紙を渡した。

 

「これは?」

「重大発表の資料。気になった部分を抜き出しただけになるけどね」

 

文字が細かく読みづらいが、目を凝らしてユウキはとりあえず一文を読み上げてみる。

 

「この戴冠式において、現在最もセクターを保持、また戦績の良いだろうプリンセス……?」

「そう。4つものセクターを統治し、複数のプリンセスを撃退までしたランク4位のことさ」

「プリンセス・ランク4位……『プランター』」

 

雪がつぶやいた名に、双美が頷く。

 

「私はその農園姫、プランターの正体と能力の情報を得たのさ。ブレイヴァーくんへの恩返しというか、お礼にね」

 

しれっと、監視姫の危険さをどこか感じさせることを言う双美。彼女にとっては素直なお礼なのだろうか。

 

「それで、正体は?」

「単刀直入だね?ブレイヴァーくんは」

「手短に済ませたいので」

「なるほどね。まぁ言ってしまおう。プランターの変身者はこの学校の3年、『土実基』だ」

 

双美に告げられる言葉。ユウキは特に反応を示さなかったが、雪は明らかに驚いていた。

 

「……土実先輩が、プランター?」

「あぁそうさ。本人に聞いてでもみるといい、おすすめはしないが」

「どうしてそんな結論に……!」

「そうだね、それはモニターの能力をわかってもらわなくちゃいけないからなぁ。証拠はその資料参考だ」

 

ユウキの手元にある、先程の紙を指して言う。ざっと目を通していたユウキは証拠の部分を読み上げるべきと思ったようで口を開いた。

 

「左腕に、ブレイヴァーによる大きな火傷。傷痕が一致」

「なっ、それって……!」

 

自分を送り出したときの基の様子を思い出す雪。確かに、あのとき押さえていたのは左腕だった。

 

「で、でも、そのくらいじゃあ……!」

 

まだ認められないらしい。雪にとって、プランター目の前でカダヴァーを殺したというトラウマのプリンセスなのだから。それが癒しであった先輩でいいはずがないと。

 

「信じないならそれでいいんだけどね。こうして顔を合わせるのも初めてな女を信用するのは危ないと思うけど、どうだい?」

 

ユウキが双美の言葉に続け、無理はしなくていいと言って雪を部室から退出させようとする。と、同時刻にドアは勢いよく開かれてしまう。

 

「この場合は、信じるが吉ですわよ?」

 

突然の明かりに視界はやや霞んだが、相手が噂をしていた相手ということはわかった。基は、廊下で会話を聞いていたのだ。

 

「な、どうしてここに」

「雪ちゃん。信じられないのなら、見せてさしあげましょう」

 

如雨露の先、はす口をポケットから取り出す基。周囲の明るさに負けてぼんやりとしてはいるが、光を放っている。そしてぐちぐちと、明らかに基の身体そのもの(・・・・・・・・)から音がする。

 

「『リミテッド・オーダー』。蔓延れ、森の細胞よ」

 

ユウキと雪のふたりが前に見たときよりも若く鮮やかな色の植物が、基のスカートから覗く。鋭く食い込もうとする吸血の徒は、目の前に立った雪にその先を向けた。

次に起きることは、誰にだって予想がつくはず。雪の身体を貫いて、血を見せる緑が浮かぶだろう。

 

「さぁ、最初の試練ですわよ――!」

 

プランターの号令を受けて、植物はいっせいに雪の身体へ突撃をはじめた。

 

 

 

 

【次回予告】

基/プランターは、ユウキ/ブレイヴァーをセクターへ誘う。

雪の信頼するもの同士が闘争を始めてしまったのだ。

彼女の心は、どちらを向くのか?

 

次回『大樹と勇者』


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