ROYAL Sweetness   作:皇緋那

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一部プロットを変更してお送りします。


団欒

【前回のあらすじ】

 

表ですわ。お食事会に招待されたブレイヴァーさんにファインダーさん。その元へ、レヴェルが現れてしまいます。いったいどうなってしまうのでしょう?私は一番下から傍観させてもらいますね。

 

 

「「プリンセス・チェンジ!!」」

 

高らかに宣言した変身開始の掛け声。ユウキの本も、雪のリボンも意思の力を纏って光を産みはじめる。全身を包もうとするその光を、少女型のレヴェルは多量の眼でじっと見つめている。手出しができないのだろうか。

ふたりの本来の衣服が分解されて、プリンセスとしての衣装がかわりに構築されていく。まずは手から袖。ユウキには籠手と青い長袖を、雪には革の手袋のみを。続く足元、スカート、胸元と輝きは衣装を実体化させていった。

 

「……ファインダーを見るのは久しぶりかも」

「ん、確かに。まぁどうでもいいですけどね!」

 

戴冠式が始まる前、ユウキがはじめてこちらの世界へと迷いこんだ日。肩を並べるのはそれ以来だろう。視線をすこしのあいだ交わしていたふたりだったが、改めて敵であるレヴェルを睨んでペティグリィに手をかざす。白紙のページから浮かび上がる聖剣と、なにもない場所から取り出される短剣。

少女型のレヴェルは刃物の煌めきをも、冷ややかな目線でのみ捉えている。こいつはそのような感情から産まれたのだろうか。人間であれば口に相当する裂け目を開かせて、彼女はなにかを言おうとしていた。

 

「ん?なにか話そうと……わっ、とぉ!?」

 

いきなり、ファインダーが立っていた場所が凍結した。咄嗟に避けていなければ大量出血だっただろう軌道で凍りついた氷柱は、まるで凍てつく視線そのもののようだった。

 

「動かず凍らすとは、なかなか面倒な能力っすね……!」

 

ぎりぎりでの回避から体勢を整えなおし、第二撃を警戒するファインダー。再びその露出された臍を狙ってか氷が現れるが、それは読み通りだ。ひらりとバック転で回避を成功させて、これなら何度だって大丈夫だと判断する。

レヴェルにとって、この第二撃は完全な悪手だった。何故ならば、ファインダーに集中しているうちに間合いを詰めてくるブレイヴァーに意識を割けなかったのだ。眼の量からして補足自体はしているだろうが、身軽なファインダーへの攻撃へ集中しようとしたのか。

切り裂かれれば的確に身体を真っ二つにされるであろう聖剣の刃が、レヴェルの眼前数十センチまで空を走る。レヴェルに迎え撃つ様子はなく、ただ見つめるだけだ。その光景はただでさえ目玉の多い敵だというのに異様さを醸し出し、躊躇いと足を掬おうとするなにかによって攻撃を半歩だけ送らせてしまうこととなる。

 

「っ、くらえ!」

 

まるで元より割くことができる場所をなぞるように刃に両断されていく。違和感を覚えたユウキの手には、手応えがまったくと言っていいほどに伝わってこない。それもそのはず、斬れたのはレヴェルの眼以外ののっぺりとした無彩色の部分だけだ。目標だった眼球にはかすってすらいない。

たった半歩の程度の時間では、まったく斬られぬことは不可能だった。せいぜい、斬られる場所をずらすこと程度だ。両断されてしまったレヴェルから、切り離された上半身がずり落ちていく。

 

「……さっきのはこれだったのかな」

 

右足に纏わりついた小さな氷。雪を攻撃したのと同じ能力だろう。地面を思いっきり蹴って粉砕し、その勢いでレヴェルの死骸から距離をとる。

……その判断は正しかった。もし近づいてでもしていれば、たった今一瞬にして立ち上がったレヴェルの攻撃をまともに受けていただろう。

 

「再生するのかよ!?」

「また厄介な……!」

 

切り落とされた両方の死骸は、再び少女のカタチをとって直立し、胸にまたひときわ大きな眼を輝かせる。倒すべき敵は2体となったのだ。まったく先程とは変わったように見えない。同じように冷ややかな目線で、同じようにぱくぱくと口を動かす。強いて言うなら、切り落とされてから再生した部位には目玉が存在していないことくらいか。

 

「とにかく、戦うしかない……!」

 

うち一体にもう一度斬りかかるブレイヴァー。だが、今度は勝手が違う。もう一体による氷結が脚に及び、氷柱が脚に突き刺さったのだ。

 

「う、ぐ……!?」

 

いきなり走った痛み。続けて目の前のレヴェルは喉を狙ってか視線をそこへ向けている。直近の空間に氷が出来始め、激痛を覚悟する。

次の瞬間、出来始めていたはずの氷は砕け散る。銀色の小さな刃により、ブレイヴァーは守られたのだ。

ならば、一気に進むべきだと。レヴェルは予想外だったのか、まだ攻撃体制に入っていない。ぐっと踏み込み、剣を振るう。手応えはないようなものだったが、目の前で飛び散るゼリー状の物体は確かに標的を裂いたと確信させるに十分だった。

胸元の眼が潰されたとたんに、レヴェルは崩壊を始める。無機質でのっぺりとした身体はどろどろ溶けていき、眼球だけが残って光に還っていく。

 

「なるほど、弱点はそこですか」

 

残ったレヴェルへ向け、リボンより再び呼び出された短剣を握る。狙った場所へ飛ばす感覚を頼りに、ブレイヴァーへ再び氷結による攻撃を試みる眼へとナイフを投げ、一気に片付けてしまおうとする。

しかし、その攻撃は読まれている。肩についた通常サイズの眼がこちらを凝視しており、きっととっくに情報は伝達されているだろう。ナイフは突き刺さるが、それは眼にではなかった。

 

「……ちっ」

 

露骨に舌打ちするファインダー。一方のブレイヴァーは脚への痛みを堪えながら後ろを向いて、残ったもう一体に集中する。

だが、異変はもう始まっていた。無機質な肌があった部分から、向こうの赤いカーペットが見える。裂け目ができているのだ。自ら分裂し、少女のカタチをとって、胸に大きな眼をぎらつかせる。妨害のため攻撃体制に入るプリンセスを、最早眼を中央のひとつしか持たないものたちが飛びかかって止めようとしてくる。迎撃によって崩れていくものは多くあれど、いまだ分裂したレヴェルたちは多く存在する。殲滅には人手が足りぬと、ファインダーは余剰がいたはずの場所を振り向いた。

 

「イーター!増援を……っ!?」

 

余剰は逃げていたわけではない。彼女は、無防備にも変身すらしておらず、ただうずくまって耳を塞いでいるのだった。

 

「い、いや……みないで……いやだ……いや……ッ!」

 

その息は荒い。ブレイヴァーは、いつか自分に見せた狂気を満たした彼女の姿をすこしだけ思い出す。いっさいこの敵に狙われたようすなどないのに、何があるのだろうか?その疑問は、するりとブレイヴァーが口に出した。

 

「どういうこと?このレヴェルは何?」

「私に聞かないでくださいよ……あくまで推測ですが、こいつはイーターに向けられた感情かもしれません」

「なるほどね、だったら何かトラウマがあるのかも」

「そっすねぇ……で、さっさと終わらせたいんですけど策とかあります?」

 

いくつも向けられる、冷たい視線。自分に向けられていないのにぱくぱくと動く無数の口。だんだんそれらは恐怖になって、言い様のない不快感をもたらすだろう。それらが見てられないのか、ファインダーはブレイヴァーに打開策を問うた。

 

「私のファーストオーダーなら、全部焼き払えるだろうけど……それは、駄目」

 

余剰の腹をも満たす、あの光の渦ならば、消し去るのは容易い。けれど、周囲のレッドカーペットやテーブルは吹き飛んでしまうだろう。環境を変えるのが容易くとも、余剰の好意を踏みにじることだとユウキは捉えていた。

 

「ちっ、じゃあ自分の使うしかないか。ほんとに使いたくないんだけど」

 

自分に頑固なユウキが相手じゃしょうがないとため息と舌打ちをしながら、左手のペティグリィを構える。淡い光を纏った青がこれから発令されるものを待ち、盗賊姫が静かに息を吸う。

 

「――『ファーストオーダー』。来たれ、彼岸よりの旅客」

 

オーダーの発令にもかかわらず、起きたのはファインダーの手元での静かな変化のみであった。リボンを現世からこの世界への通り道にして、彼女にずっしりとした感触を伝えるものが現れただけだ。

 

「ん、なかなかよさげな武器。ではいきますよ……擬似展開『ファーストオーダー・イマージュ』!」

 

手慣れないながらもクロスボウへ矢を装填し、ざっと構える。狙いは多少甘くともいいと、ひとおもいに引き金が引かれる。擬似展開による力を纏った矢は残影を見せながらに突き進む。そのうちにやがて残影は実体をもって、標的の数だけ数を増やしていく。たった一射がいくつもの射撃を生み、多量のレヴェルを動揺させるに至る。一矢にて全ての敵を穿つというオーダーに、ファインダーの持つクロスボウは見事に答えたのである。

高速の矢を避けきれるはずもなく、迎え撃とうとする視線は虚しくも宙に無意味な氷柱を造るのみ。無慈悲にもすべての瞳が撃ち抜かれていく。次々と崩壊し、レヴェルの脅威はとけていく。

 

「ったく、面倒な相手でしたね」

 

折角呼び出した武器をその場で放り投げてしまうファインダー。すんでのところでブレイヴァーがキャッチして、落とし物とファインダーに再び渡す。が、クロスボウはとうに壊れてしまったらしく、レヴェルの残骸と同じように光となって消えていく。

 

「いいすか、ユウキ先輩。ファインダーの能力は、現実のモノを転写することです。コピーもとがでも、コピー先がでも壊れればどっちもぶっ壊れます」

 

そして、ファインダーのファーストオーダーは擬似的に他プリンセスのオーダーのような力を付与したアイテムを現世から持ってくるというもの。状況に適したものが選ばれるという。拾い物で戦う、故に拾得者のプリンセス。

 

「んで、このファーストオーダー・イマージュですが。使うと道具に無理な概念的負荷がかかります」

 

今回のクロスボウだってそう、らしい。恐らく転写された元の一丁は、壊れてしまったのだろう。

 

「勝手に人のモンをぶっ壊す。どうです、盗賊っぽいでしょう」

 

自虐ぎみに笑ってみせる彼女。ブレイヴァーはちょっと苦い顔をして、それからレヴェルが崩壊したのだから、と変身を解いた。ファインダーも同じくである。ドロワーズが見えるようなミニスカートではなく、普通の制服のものに戻り、雪はひといきついて裾を払った。

また、あの冷たい眼が消え去ったことでユウキは余剰に駆け寄って、その肩に屈んで寄り添う。もう大丈夫だよ、と伝えたいのだろう。だが、依然として余剰は震えて顔を隠したままだ。

 

「……あれ?ダイバー、出てきませんね」

 

あたりを見回しても、それらしい影はない。いくら探しても、あの潜水姫は見当たらなさそうだ。しょうがないので、雪はとりあえず席にでも着いていようかと消えゆく目玉たちに背を向けた――そのとき。

雪の背後には、忍び寄る影が形成される。それは明らかに先程倒したはずの敵だった。矢の攻撃をなんとか免れ、崩壊したふりをしていたらしい。雪はそのことに気づいていない。

誰もが敵影を認識できないまま、無機質な肌がゆっくりと雪の身体へ迫っていく。一歩、また一歩。逆襲の矢を手に携えて、雪の柔肌を貫こうと近寄ってくる。

 

だが。その攻撃はかなわなかった。目の前の三人は動いていないのに、レヴェルの身体は止められたのだ。

 

「忘れているでしょう。誰かのこと」

 

片腕で抱き止められ、眼のない頭でゆっくり振り返るレヴェル。その行為に意味はあったのだろうか。声を聞きやっと背後の状況を視認した雪は、はじめて何が起きようとしていたか把握した。

 

「ダイバー……!?」

「気を抜くのは早いわ、まだ生き残ってるもの」

 

後ろから片腕を回し相手の凶器を持つ腕をも止めている状態から、もう片方の手で弱点たる眼を掴む。手には力がこもっているのだろう。レヴェルは苦しみ、もがきはじめるがとうに遅い。たったひとすじ、涙が黒い少女を伝ったのを最期の抵抗として。そのまま、眼球はダイバーの手で潰されてしまった。

 

「さて、これであのレヴェルはおしまいです。来るとすれば新手でしょう。」

「……素手、かよ」

「ご安心を、手洗いは徹底します」

「そういう話じゃないんだけどな……」

 

雪は苦笑いをして、ちらりとユウキと余剰を視界に入れる。食事会を開く本人である余剰はあの有り様だった。ユウキの様子を見る限り、さすがに中止とまではいかないらしい。

余剰が顔をあげる。雪から見れば最初のイメージだった可愛らしい笑顔のままだが、どこかぎこちない。取り繕っているのだろうか。

 

「お食事会、やるのかしら?」

「うん、せっかくあつまってくれたんだもん……ごめんなさい、わたし、ちょっとね」

「いいえ、構わないわ。あいつに会えばこうなるのは当然のようなものです」

 

申し訳なさそうな余剰を撫でて頷く表に、首をかしげる雪。そのことに気がついた彼女は雪の耳元に寄って、小あのレヴェルの言っていたことについてささやいた。

 

「あのレヴェルは、あなたたちにこう伝えようとしていました」

「……あの目玉が?」

「はい。確かに『あのこにちかづくな』『かかわるとふこうになるぞ』と。余剰に関わってはいけないということでしょう」

「あー、うわぁ。重いな……」

 

予想外の過去に頭を掻く。一方で、余剰本人はユウキと話しており明るさを取り戻しつつあるようだ。

視線に気付いたユウキは頷いてこっちはまかせての意を伝えている。それに表はサムズアップでOKサインを送り、雪の方を再び見た。

 

「で、お酒のおつまみだっけ?メニューは。」

「ちょ、それは冗談ですってば!」

「じゃあ、本命は?」

「ぐっ……うぅ……ぱっ、パフェがいい」

 

雪の顔を真っ赤にしての一言に、表はくすりと笑って。

 

「承りました。それでは、お楽しみに!」

 

頬につられて赤っぽくなった鼻の頭は、表のひとさしゆびにつつかれたのだった。

 

 

 

それから数十分後。席についた三人の前に並んだのは、お店さながらのパフェだ。意思の力を媒体にして材料を作り、そこから調理した回復効果の保証できる代物だ。

余剰はとにかくボリュームを、ユウキと雪は可愛らしいマスコット型のチョコがついたいちごパフェだ。最後にホワイトチョコをメインにしたものを持って表がキッチンを出てテーブルに座ると、余剰の声を合図として食事会……というか、女子会が始まった。

 

「いっただきまーっす!」

 

真っ先にソフトクリームにスプーンを突き刺していく余剰。彼女はまぁいいとして、雪は他のふたりのせいでやや食べづらかった。なにせ、溢すことも口回りにつくこともないマナーのきっちりした食べ方なのだ。庶民であり普通のしか知らない雪にとって、表のお嬢様スタイルとユウキの生真面目スタイルはちょっと現実離れというか。

 

「……あら、食べないのですか?」

「ん、いや、食べる、食いますよ」

 

気にしていては食べられないだろう。ひとおもいにスプーンで削ってしまえと、雪は生クリームの山に進攻をはじめた。

 

「おねーさんおねーさん!はい、あーん!」

「ん、はむ……おいしい」

「けたけた、でしょ!」

 

幸せそうに食べさせっこするユウキと雪。ふたりは本当に姉妹のようで、つい目線が吸い込まれるほほえましい光景だ。

 

「羨ましいのです?」

「っ!?べ、別に、そんなんじゃあ!」

「余剰ちゃんと代わりたいとみた。そうだ、私とでもやります?」

「あ、あれを?恥ずかしいじゃないっすか」

「はい、あーん。黒に比べてまったくもって身体によくないホワイトチョコですよ」

「なんだその無駄な情報!?」

 

とはいえ、そんなことを言われてもパフェの誘惑はスプーンから雪へひたすら攻撃をしかけてくる。その耐え難い誘惑に、雪の心は容易く負けようとしていた。

 

「……い、いただきます」

「はい、どうぞ」

 

表の手でパフェをいただき、口の中に広がる甘味を表情には出さないものの堪能する雪。

自分のぶんはもう半分ほどになったユウキは、彼女含んだ三人に向けて声をかけた。

 

「今日はこうしてこのような会に招いて、そして付き合ってくれて嬉しいよ。感謝の気持ちしかない」

 

誰かが礼には及ばない、などの反応をする前に、ユウキの言葉は続けて紡がれる。

 

「それに、雪ちゃんも余剰ちゃんも……こんな私を助けてくれて、ありがとう」

 

ブレイヴァーのまっすぐな瞳に、あるものは無邪気な笑いを返し、あるものは照れ隠しにシリアルを口に運んだ。

 

 

 

【次回予告】

食事会を経て協力しようと話すユウキと雪。

双美がプランターの正体を探る中、雪にとって衝撃の事実が伝えられる。

たどり着いた先で、二人の少女は衝突する。

 

次回、『揺れる盗賊姫』


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