ROYAL Sweetness   作:皇緋那

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すっごく遅いんだね!


ありがとうを言うために

【前回のあらすじ】

 

ども、雪です。なにはともあれ、ユウキ先輩の復帰は喜ばしいことです。さすがの私でも、そういう方向での脱落は望んでませんしね。かといって殺し合いたいのかってーとノーなんですよね、めんどくさいな自分。

 

 

プリンセス:ブレイヴァーである少女、沖ノ鳥ユウキ。友人を亡くし、一週間は引きこもっていた彼女だったが、青女と雪の尽力によって登校の意欲を取り戻した。

いつも通りの時間、つまるところ校門が開く数十分前。既にユウキは学校の前に立っており、遅れていないどころか早くに来すぎだという時間だ。人通りも時間帯故にほとんどなく、ユウキ以外に周囲の人影はない。慣れたものだったが、一週間も登校していなかったのだから久しぶりの感覚だ。今までと変わったようなところはない。結局のところ、たった一週間では何も変わってさえいない。

 

ぼうっと眺め続けること、数十分。校門が開く時間はやってきた。一部の生徒の姿が増え、騒がしさは増している。先頭に立ってずんずん歩いていこうとするが、後ろの少ないながらも群れになっている人々を潜り抜けたらしい誰かがユウキの肩を叩いたため、その歩みは止まった。

 

「ブレ……おっと、沖ノ鳥くん!噂通りだね、毎朝こんなに早いの?」

 

正体は早口で砕けた口調の先輩、双美であった。変身した姿こそ見たことはないが、彼女はプリンセス『モニター』らしい。一週間ぶりに見る顔に、ユウキは軽く会釈する。

 

「おはようございます」

「おはよう。挨拶を忘れてたよ、私としたことが!」

「登校は、いつも同じくらいです。今日も例に漏れてません」

「んなるほどね、律儀な回答ありがとう!」

「聞かれたので」

「そっかー、そうだよね。記者としてありがたい」

「……で、用件はこれだけですか」

「ん?あぁそうそう。別に用はあるんだった」

 

他の生徒の邪魔にならぬよう脇に避けておき、ユウキは話を真面目に返していたのだが、木に寄りかかっている双美は思い出したように話題を変えた。

 

「沖ノ鳥くんの宿敵……プランターについて、なんだけども。」

 

昨日も対峙した、あの樹海を従えるプリンセス。思えば昨日はモニターの偵察機が撃墜されているような動きはなかった。もしかすると双美はあの一部始終を見ていたのか。

 

「あいつについては、私が調査を入れておこう。なに、きみの復活記念さ」

「……ありがとう、ございます」

 

情報があるに越したことはない。相手の願いが悪しきものならば正義を突き立てるべきである。

 

「じゃあ、今日の放課後……はたぶん作業中だ。明日、朝だね。そこで会おう」

 

そう言って、双美は登校する生徒の中に混じっていく。気づけば10分ほど経ってしまっていた。まだ時間にはぜんぜん早いのだが、ユウキは校舎まで駆け足で急いでいくのだった。

 

 

放課後――今日のユウキはどのクラスメイトにも話しかけられなかった。向こうから話しかけてきたのなんて、元からいるかしかいなかったんだから、しょうがないことだ。何事もなく、一切怪しまれないで帰りのHRも終わった教室を出ていった。

ユウキがこれから目指すのは、とある少女の居るだろう場所。近隣の小学校だ。目当ての彼女、井之八余剰の通っている学舎である。

特に連絡をとる手段もなく、直接会いに行くしかなかったのだ。わざわざ彼女のセクターへ侵入するのも心臓に悪いだろうし。

早めに発見できることを祈りつつ、小学生のユウキに比べ小さな波に目を凝らす。余剰はふだんからあのゆらゆらした動きだったりするのだろうか?それなら、見つけやすくなるはず。なんて、情報を整理しきれずどこを見たのかもわからなくなりかけの頭でふんわり思いつつ意識を目に回していると。

 

「おねーさん?」

 

背後から、聞き覚えのある声がした。

 

「なにしてるの?ひとさがしかな?」

「よ、余剰ちゃん?居たんだ」

「さっき、すうびょーまえからね!」

「そっか……探してたのは余剰ちゃんだから、もう大丈夫かな」

 

急いで振り返ったユウキに、悪戯っぽく笑う余剰。嬉しそうな様子なのじは、わざわざ驚かせようと気配を消して忍び寄っていたのが大成功したからか。

 

「わたしもね、ユウキおねーさんのことさがしにいこうとおもってたんだ」

 

意外な発言だった。ユウキは彼女と一週間連絡をとっていなかったことを思いだし、不安になるのもしょうがないという結論になるが、そっちは忙しかったのかなと特に心配してもいなかったとか。どうやら、別の用件らしい。

 

「えっとね、まえはなしたやさしいおねーさんのことでね。おしょくじかいのはなしになったの」

 

たしか、あの蟷螂の居場所を教えたプリンセス。6位である潜水姫『ダイバー』のことだったか。

 

「このきかいに、ふたりにもなかよくなってほしいなぁと、おもいまして!ばしょは22ばんセクター、じかんはきょうのひがくれたころです!」

 

22番セクターは、たしか18番の東ですぐ隣にあるものだ。統治者はイーター。つまり、彼女の自宅に招かれているようなものだろう。

彼女の善意というか、食卓を囲むなら、一家団欒のようにみんな優しくあってほしい……らしい。余剰の過去の片鱗を覗いたユウキにとっては、素直に受けとりたい善意だった。

 

「ご招待をありがとう。私もご一緒させていただくよ」

「ほんと!?やったー!」

 

彼女は飛び跳ねて喜び、ユウキの手をとると今度は一歩先へ踏み出した。

 

「まだじかんはあるから、ほかのプリンセスもさそいましょ?そっちのほうが、きっとたのしいから!」

「……そうだね、じゃあ行こうか。」

「うんっ!」

 

来た道を引き返すことになりながらも、ユウキの表情に曇りはない。舗装された道を太陽が照らし、先には光が見えていた。

 

 

と、いうのがつい10分ほど前のこと。元気な余剰に引っ張られるまま駆け足でやってきたユウキは平静を装いつつも息が上がっていた。

そのせいか、まず最初に会いに行こうと思った保健室のプリンセスには心配されてしまうことになる。

 

「えーと、大丈夫ですか?」

「あ、その、そういう用件じゃ、なくて……」

 

彼女は14位『ヒーラー』である時畑とちだ。

ユウキは息を切らしているために声が出しにくく、説明に苦労する。その隣で平気そうにしていた余剰はおねーさんが困っていると見て、かわりにお食事会についての説明を入れた。

 

「……なるほど。それは申し訳ありません。日が暮れても、部活等でもし怪我人が出たら大変ですから」

「そう、ですか……」

 

とちの来れないらしい旨に、余剰はあからさまに残念そうにする。とちにとっては万が一の可能性のほうが重要なのだろう。

 

「えぇ。ごめんなさいね」

 

余剰のようすにさすがに困ったのか苦笑いになったとちを見て、どちらにも申し訳ないので余剰の背中を押して次へ向かわせようとユウキは動いた。そこで、やっと自分の用件があったことを思い出した。

 

「あ……時畑先輩。」

「どうしました?」

「あのときはありがとうございます。自分を止めてくれて」

 

いきなりのことだったからか、ちょっと驚いたらしい。目が丸くなって、それからさっきより自然な笑顔で。

 

「お礼ならそこの子へ。私は、その子の意見を尊重したまでですから」

 

 

保健室をあとにしたふたりは、次に誘うプリンセスを決めようとしていた。余剰的には双美を呼ぶつもりだったのだが、ユウキは朝話したことから彼女は作業中のはずだと伝え、他の者にしようと提案した。

……だが、ユウキや余剰が正体まで知っているプリンセスはそういない。生徒会長で5位の氷結姫『フリーザー』の青女は忙しいだろうし、となると。

 

「なるほどね。それで自分っすか」

 

余剰とは面識こそないが、ユウキとはいくつか親交がある彼女――盗賊姫『ファインダー』、古史雪くらいのものだ。

ユウキは部活がだいたい終わったらしい雪を呼び、堂々と戴冠式の話もできないため、いったん人通りのない場所へ避難してきたのだった。

 

「お食事会、ねぇ。イーターの統治者権利なら、食材やらの出現とそれを食べたことによる回復程度は実現できそうすけど」

 

セクターの環境は、セクターそのものは破壊できないなどいくつかの条件こそあるものの自由だ。基本的には自らのプリンセスとしての能力に合った環境を作り上げたりするところであり、行使できるオーダーに沿っているなら多少の融通はきくらしい。そう説明書で読んだ。

 

「自分はいいっすよ?いざってときは、ユウキ先輩を盾にしますからね」

「えぇ。誘った側の責任として、何かあったら守るよ」

「……じょ、冗談っすからね」

「そう?責任を持つのは当然だと思うけど」

 

こちらの悪戯っぽい笑みは、ユウキのまっすぐな受け答えに赤くなる。来てくれると知った余剰はさっきの残念そうなのはどこへやら、明るい雰囲気をまとってまわりをうろちょろしていた。

 

「しっかし、そっちのお嬢はいいんすかね?得たいの知れない商売敵っすよ」

「でもユウキおねーさんのおともだちでしょ?」

 

きょとんとする余剰に黙ってしまう。たぶん、雪はこういうのに弱いのだ。

 

「そうときまれば!しゅっぱつです!」

「でもこれ以上っつーと……どうなんですか?いるんです?」

 

前を元気よく指差し、彼女は出発進行しようとしていた。が、雪の言葉に若干止まる。

先程雪がされた話では、双美は作業中、とちはもう当たった、青女は忙しいとのことで、特に思い当たるプリンセスはいない。

 

「17しかいないのに、4にんもあつまるんだよ?じゅうぶんすぎるよね!」

「……まぁ、それもそうっすよね」

「ともすれば、かいじょーへれっつごーというわけで!」

 

余剰が取り出したのは、彼女のペティグリィのテーブルナイフ。脂や血の痕跡などいっさいないその刃に映るのは、学校の風景ではない。豪華に飾られた高級なレストランのようで、大きなシャンデリアが上品に周囲を照らす風景だ。

 

「22ばんセクターへ、ごあんないしましょう」

 

三人の脳裏に広がるここではない世界の全景。意識は一気にぎゅっと絞りこまれ、中央下段の中セクターへと招かれる。次に三人が踏むことになるのは、大理石らしいタイルの上に敷かれた赤いカーペットだった。

 

 

「ってかすごく高級そうなんすけど、なんすかこれ」

「22番セクターだって言ってたよ」

「そうっすけど、セクターがこんな豪華にできるもんなんすねぇ……」

「いくらでも贅沢できる、まさに王族だね」

「プリンセスの上流階級特権みたいなことすか……ひぇえ、盗賊姫には手にあまりますわ」

 

余剰がずんずん進んでいく道を辿りつつ、あたりを見回すふたり。雪は滅多にこんな光景は見ないと、不思議そうに目を輝かせている。

 

「ほらほら!おねーさんがた、おくれますよー!」

 

向こうで大きなテーブルに到着したらしいこの高級レストランの主が呼ぶ。ちょっと急ごうと、雪の肩を叩き歩行を促してシャンデリアの下を駆けていく。赤いカーペットの踏み心地の差は一般庶民のふたりにはよくわからないが、ユウキには走るにはあまり適していないような気がする。

 

「さて、シェフはどこなんです?」

「そろそろとーちゃくよていなんだけど……」

 

セクターボードを手元に呼び出す余剰。手元を覗いてみると、特に新しい通知は届いていないらしい。本人が認可したうえでの他のプリンセスの進入は通知を伴わないため、ダイバーがまだ来ていないのなら当然のことだが――

 

「きゃっ!?」

 

いきなりの振動音。余剰がセクターボードを取り落とす。前触れのない通知に驚いたのだとすぐに察して、周囲に緊張が走る。あたりの豪華な装飾には特に変化は見られないが、ここではない別の方向なのだろうか?

 

「気にしても仕方がないでしょう?今は食卓で料理人を待つべきです」

「そうは言っても、もしかしたらダイバーじゃないかもしれないし……」

「その心配はありませんよ、プリンセスの方々。今の通知はダイバーのものです」

「どうしてそう言い切れ……ッ!?」

 

視線を改めてテーブルに向けたとき。その席には、座っているのとは別のイスに足をかけ、くつろいだようすで紺のスクール水着の上からさらに黒に近い濃紺のロングスカートを穿いた少女が着いていたのだ。背もたれにかけた右手には赤く透き通った石をはめた指輪が通されており、ただならぬ気配でユウキたちを見据えている。目があったとたん、雪とユウキは彼女がプリンセスであると察知し身構えた。

 

「……何者だ」

「そう警戒、するのも仕方ありませんね。でも少し待ってくださいな……こちらを見ればわかると思います」

 

雪に睨まれると席から立ち、ユウキのほうへ数歩寄って、謎のプリンセスは自らの胸元を指す。そこには海中の風景、鮮やかな珊瑚礁の一時が切り抜かれたような紋様でエンブレムが彼女をプリンセスだと証明していた。

 

「そいつは……あー、あんたがダイバーか」

「えぇ。そこの娘と連絡を取る手段もないので、直接この進入通知で知らせようということにしたのです」

 

雪にはエンブレムに見覚えがあるらしく、彼女こそが余剰の待っていたやさしいおねーさん、のようだ。雰囲気は青女のそれよりあたたかく、プランターのそれより殺意を感じないもの。敵意はまだ見えない。

 

「いちおう、名乗っておきましょうか。本当の名前は『白神表』といいます。プリンセスとしては、お察しのとおり6位の『ダイバー』になるわ」

 

ダイバーは小さな体躯ながらに歳上だろうと思える落ち着きで、プリンセスとしての格好を除けばこの高級なレストランにふさわしいような育ちの良さがうかがえる。

 

「……これでもれっきとした高校生ですからね」

 

見比べられていることには気づいたらしい。彼女の身長はだいたい中1である雪と同じか、すこし小さい程度。本人も気にしている様子だ。

ただ、呆然としている余剰については彼女よりも当然小さいので、ダイバーは軽く屈むことになる。そうして見せる微笑みは一切の害意を宿さず、雪はユウキと彼女にちょっと共通点を感じるのだった。

 

「さて、余剰ちゃん。お友だちまで連れてきてくれてありがとう」

「あ、うん!表おねーさん!」

「今日はどんなお料理にするの?」

「えっとねー、えっとねー、おねーさんたちのすきそうなものかな!」

「なるほど、じゃあそこのプリンセスの方々に聞けばいいわけね」

 

改めて、ふたりの方をダイバーは見る。

 

「えーっと、まずプリンセス名を教えてくれるかしら?」

「『ブレイヴァー』、です」

「自分は『ファインダー』っすね」

「へぇ、貴女が。覚えたわ、ブレイヴァーにファインダー。」

 

うんうんと数回頷いたあとに、質問は続く。

 

「じゃあ、勇者姫さんと盗賊姫さんにお聞きします。食べるとやる気が出る食べ物といえば?」

「……へ?」

「今から作るものです。ここはイーターのセクターですよ、食材の心配は不必要です」

 

いきなりの質問に、固まってしまう雪。好きな食べ物と言われても、咄嗟には出てこない。強いて言うなら……やっぱりスイーツになってしまう。

 

「私は雪の好きなものでいいんだけど、どう?」

「え。私に決めさせると酒のおつまみになりますよ」

「ん、じゃあそれで……」

「冗談ですよ冗談!決めますから!」

 

と、メニューの内容で話し合っていると。

 

「……お二人とも。嗅ぎ付けられたようです」

 

ダイバーが会話を止め、ユウキたちの後ろを指した。ゆっくりと振り返ると、彼女の言うとおりプリンセスの気配を嗅ぎ付けてきたらしい長い髪をした少女の人影が立っていた。

――否、これは少女ではない。胸部のひときわ大きな球をはじめ、本来ない場所に大量の、異常な大きさから虫ほどの大きさまで様々な眼を備えている。そして、顔に当たる部分には眼孔が見当たらない。

 

「っち、レヴェルかよ……!」

「そのようですね、私はすこし逃げさせていただきます」

「はぁ!?」

 

雪が舌打ちをした直後、ダイバーの姿はずぶずぶと地面へ沈んでいって、しまいには見えなくなってしまった。ダイバーとはこういうプリンセス能力だったようだ。

ダイバーに戦う気がないのなら仕方がない。それよりも、目の前の敵をなんとかすべきだ。

雪はポケットから青いリボンを指輪のように左手中指に通し、ユウキはいつもの古本を構える。そして突き刺さるように冷ややかなレヴェルの視線に負けぬよう、ふたりで声をあわせて高らかに宣言した。

 

「「プリンセス・チェンジ!!」」

 

 

 

 

【次回予告】

 

食事会を嗅ぎ付け現れたレヴェル、少女の姿の冷ややかな眼(レヴェル・コールドアイズ)

ブレイヴァーとファインダーは、彼女の持つ特殊能力に苦戦する。

一方で、何故かまったくレヴェルに狙われない余剰は視線を決して合わせようとしなかった。

 

次回、『団欒』


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