あの日から、もう幾年月。大きな大会や練習試合など、色々とハードな日もありますが私は変わらず元気です。あ、自己紹介がまだでしたね。リンネ・ベルリネッタといいます。気軽にリンネ、って呼んでください。今回は私のとある何でもない、けれどもちょっぴり特別な一日をお届けします。
◇
「えっとクラス表・・・・あった、校門前」
桜の花の舞う季節。晴れて高校生になった私は念願だった普通の学校生活をこれから送ることになる。今までは何というか、色々塞ぎこんでどこか無理していた気がするからこんな風に何もかも真っ新な気持ちで学校に行くなんて凄く久しぶりな気がする。これも、一生懸命私に向き合ってくれた人たちのおかげで、特にフーちゃんにはどうあっても頭が上がらないなぁなんて思ってたり。
「お、おい見ろよあの子!スッゲーかわいい」
「ホントだ、リボンの色・・・あれ新入生か!?」
「髪綺麗、まるで絹みたいにサラサラよ」
「スタイルすっごくいい。・・・・あれ、でもどこかで観たことあるような・・・?」
なんだか周りの人達が騒がしい。もしかして、私が中学の時にやってしまったことが既に・・・・!?そんな、やっと普通に学校生活を送れると思ったのに・・・・。そんな風に怯えていると、すぐ後ろから聞きなれた声がした。
「やあ新入生の美少女さん。そこにボーっとしてるとギャラリーで囲まれちゃうから気を付けた方がいいかもよ?」
いつものように、あの頃と変わらない私の心に染み入るみたいに温かく入り込んでくる声。どんな時でも、この人の笑顔を支えに頑張ってきた。時には超えたいと思い、時にはずっと一緒に在りたいと思った、そんな私の大事な人。
「兄さん!」
振り向けば、そこには兄さんがいつものように笑って立っていた。
「こらこら、学校で兄さんはやめろって。俺まだ死にたくない」
「・・・・?」
「あーこりゃ自覚無しか。うん、そーいやそういうの疎かったよねリンネって」
なんだかよくわからない事を言ってるけど、これって多分私が悪いんだよね?撫でてくれるのは嬉しいけど、謝った方がいいのかな。
「ごめんなさい」
「謝る事ないって。それよりホラ、クラス表観て来な。教室の前まではついてってやるから」
「はいっ!」
「・・・・相棒」
『周囲に敵意をむき出しにしているクラスメート多数確認。・・・・レックスさんよりメッセージが届いています。再生しますか?』
「律儀に動画付きとは恐れ入る。だがリンネは我がシスターだ、そんな大事な妹が悲しむ顔は見たくない。というわけで削除ォ!あーんどぅ、トンズラ!」
「兄さん、お待たせ・・・・って、あれ?」
『アスカ様なら、なにやら大勢の男子生徒に追いかけられて校舎内へと入って行きました』
「スクーデリア・・・兄さん、ここでも凄い人望だね」
『いえ、アレはどちらかというと・・・と、マスター。そろそろ時間です』
結局兄さんとは一緒に行けなかったけど後でもいいよね。
◇
「ベルリネッタさん、ぼぼぼぼ、僕とお友達になってください!」
「ねえねえ、ベルリネッタさんてさ――――」
あうあうあうあう。入学式が終わって教室で先生を待っている間にいつの間にか私の周りにはこんな感じで人だかりができてしまった。みんな顔も名前もまだ覚えきれてないし、色々矢継ぎ早に質問が飛び込んできてどう対応していいかわからない。あうあうあうあう。
「ほらほらみんな、ベルリネッタさんが困ってるでしょ?一人ずつ、順番によ。まずは・・・貴方から」
「えっと、ベルリネッタさんて格闘技やってるよね」
「あ、はい。一応・・・・」
「うっそホント!?・・・・って、ああ思い出した!この前テレビで何かおっきい大会出てたよね!?」
「はい。
って、あの大会テレビ中継されてたんだ・・・・今更だけど、なんだかちょっと恥ずかしい。
「もしかしてベルリネッタさんて有名人!?」
「いえ有名人とまでは・・・」
「でもさでもさでもさ、今朝もすっごい騒ぎだったよね。アレもひょっとしたらベルリネッタさんが有名人だからじゃないかな!?」
あ、それ多分私じゃなくて兄さんだと思う。・・・・多分。
「はい、次の人」
「べ、ベルリネッタさんて好みの男性のタイプなに?」
「初対面でいきなりその質問?・・・大丈夫?」
「あ、はい。えっと、好みの男性というか・・・その、私自身家族以外に男性とあまりお話した経験がなくて。今も、こんな風に他人と沢山お話する機会はあまりなかったから・・・・だから、凄く楽しいし、嬉しいです!」
「・・・・・・・・ベルリネッタさん」
「はい?」
「・・・・かわいいわね、貴女」
「えっと、ありがとうございます?」
なんだかよくわからないけど、褒められたのは素直にうれしい。・・・・あ、兄さん!
「あの、ちょっとごめんなさい!」
席を立ち、廊下から顔をのぞかせていた兄さんの元へと駆ける。
「相変わらずすっごい人気だなリンネ。すっかりクラスの中心だ」
「そんなことないよ。それより、どうかした?」
「いや、さっきは悪かったなと思ってさ。それと、今日は俺オフだからよかったら一緒に帰らないかって誘おうと思ったんだけど・・・なんか予定あるか?それとも、家の人が迎えにくるとk————」
「————全然ッ!まったく!むしろ一緒に帰りたい!」
喰い気味で返事を返す。自分でもびっくりするくらいの速さだったけど、折角兄さんと一緒の学校に入ったんだからもっと一緒に居たい。そんな気持ちが大きくなって、つい声をいつもよりも大きく出して返事をしてしまう。それに少し驚きながらも、笑って撫でてくれる。
「オッケー。んじゃ、また放課後な・・・・さて、早くも結集されたリンネちゃんを優しく影から見守る会の連中をどうやって黙らせるか・・・・こうなったら燃すか」
『マスター。最近思考がバイオレンスですよ。お願いしますからギンガ捜査官の胃に穴をあけるようなことは避けてください」
「俺リョナって守備範囲じゃないんだよねー」
・・・・なんだかよくわからない会話をブレイブハートとしながら自分のクラスに戻って行く兄さんを見送ってから、私も席に戻る。すると再び質問攻めに。
「ベルリネッタさんって、もしかしてブラコン?」
「つか、今の人ってもしかしてスカーレット選手!?」
「うっそマジかよチャンピオン!?」
「マジかよ!?ベルリネッタさんってスカーレット選手の妹なの!?」
「えっと、妹・・・なのかな。私が一方的に呼んでる気もするけど」
また周囲がざわつく。確かに兄さんは凄いと思う。初めてインターミドルで試合した時からずっと観てきたけどどれも凄くワクワクするし楽しい。リングで再会した時は私がまだ塞ぎこんで迷っていた時期だったから感じられなかったけど、今ならわかる。こう、胸が高鳴って、ちょうどこの音みたいに・・・・って、予鈴が鳴ったんだった。
◇
HRが終わると私は真っ先にさっき助けてくれた子の元へと向かった。
「あ、ベルリネッタさん。さっきは大変だったね」
「はい。あの、さっきは助けていただいて――――」
「いいのいいのそんな気にしなくってさ。それより、お節介しちゃってごめんね。あたしこんな性格だからみてらんなくて」
「いえっ、ちょっぴり困ってたのは本当なので・・・・あの、良かったらお友達になりませんか?」
「え・・・いいの?」
「はい。あ、ご迷惑でしたら、その――――」
「迷惑だなんてとんでもないッ!超嬉しいよ。あ、あたしイース。イース・キャンベル。気軽にイースって呼んで」
「じゃあ、私もリンネでお願いします」
「うん。よろしく、リンネ」
「こちらこそ、よろしくお願いしますイースさん」
「かったいなぁリンネは。もっとこうフランクにさ――――」
高校生活一日目。まだまだ始まったばかりで不安もあるけど、漸く初めての友達ができました!
「————ってことがあったの」
教室でのことを歩きながら兄さんに話すと、兄さんは笑って・・・・いや、何故か泣きながら「よかったぁ・・・・よがっだよぉぉぉぉおおおお」と言ってくれた。・・・・どうしてそんなに泣くのかよくわからないけど、うん。喜んでるみたいでよかった。
「これでフーカにもいい報告だできるな」
「うんっ!・・・・フーちゃんも同じ学校に通えたらいいのにね」
「仕方ないさ。ジムで働いてる方が性に合ってるって自分で断ったんだし」
確かに、私が受験するって相談した時もフーちゃんはどうするって聞いたら同じこと言ってた。でもね兄さん。それは多分・・・・違うんだと思う。フーちゃんとはホームにいた時にもずっと私のことを一番に考えてくれてた。どんな時でも一緒で、兄さんがはやてさんと一緒に住むようになった後はフーちゃんが私の傍にいてくれた。だからこそ私もわかる。フーちゃんはきっと、
私が兄さんを、家族以上の気持ちでみているから。
「っと、噂をすればフーカだ」
《お兄、今リンネと一緒か?》
「おう。今帰ってる最中だ」
《ならちょうどええの。今度リンネんとこのジムと練習試合することになったから、その連絡じゃ》
「だってさ」
「そうなの?なら今度は負けないからねフーちゃん!」
《へへん、あの時のリターンマッチか。腕がなるのう》
「その前にきみらは加減忘れて機材を破壊しないように。総合競技じゃないんだぞー」
《逆に総合競技ならええんか》
「あはは・・・」
それから日時とスケジュールをざっくりと確認して通信をきる。そっか・・・・次の練習試合で、兄さんと・・・・。
なら、うん。これにかけてみようかな。
「兄さん」
「うん?」
「もし・・・・もし、私が試合に勝ったら・・・・兄さんに、伝えたいことがあるの」
顔が赤くなってるかもしれない。でもそんなこと関係ない。今は私の言える精一杯の気持ちを言葉にするだけ。真っ直ぐ見つめていると、兄さんは少し深呼吸をして「わかった」って返してくる。
「なら俺もリンネに言いたいことがあるんだ。俺が勝ったら、それを言う。おまえが勝ったら、好きにしろ。でいいか?」
「うん。俄然、やる気出てきたっ」
「決まりだな。リンネ、負けないからな」
「私だって!」
そう言って互いに拳を合わせる。合わせた時に感じる兄さんの手の大きさ。ああ、やっぱりおっきいや。それに優しい感じも伝わってくる。今思えば、あの時助けてもらった時からこの手のように誰かを守れる人になりたいって思って始めたんだと思う。見下されないようにじゃなくて、この人みたいに強くなりたくて。最初は、きっとそんな憧れから、それがいつの間にか、大きく変わって。今では・・・・そう、これが多分恋心なんじゃないかなって。
それを、伝えるために。ありったけの想いを、今度は拳に込めて。
「試合、楽しみにしてるね」
「ああ。・・・・さ、帰ろっか」
「うん!」
いかがでしたでしょうか、リンネ特別篇。好きなキャラだけに書くのが難しい・・・!