(※投稿日時でお察しください)
元旦。それは、一年で最も特別な日。そんな日でも、この男は通常運転だった。
「いえええええええええええええええええええええええええいいいいッ!!!!!!!!」
朝からけたましい雄叫びをあげ。
「くううううううううううううううぜんッ!ぜつごのおおおおおおおおおおおッ!」
無駄に力み。
「超絶怒涛のォ、ナカジマジムファイター・・・・ラブリーマイエンジェルヴィヴィちゃんを愛し、ラブリーマイエンジェルヴィヴィちゃんに愛された男ォッ!」
無駄にアグレッシブルに。
「ヴィヴィちゃん・・・ヴィヴィちゃん・・・そしてヴィヴィちゃん・・・すぅべてのヴィヴィちゃんの生みの親ァ!サンシャイイイイイイイイイイイン!ボフ!・・・ア、スゥ、カァ・・・・」
そして。
「いえ――――」
「断空拳ッ!」
今年もこの男の派手な撃沈と迷惑以外の何物でもないボケで始まる。
「新年早々何をやりだすかと思えばお兄・・・まさか儂がジムに所属するまでずぅっとこの調子でおったんじゃあるまいのぉ?」
ボキボキと拳を鳴らしながらせまるフーカ。その様は七福神だろうが何だろうが素足で逃げ出すレベルのそれは恐ろしい顔をしている。彼女に殴られもはや虫の息のごとくアスカがぴくぴくと四肢を痙攣させながら答える。
「だっで、だっで・・・・」
「だってなんじゃ?」
「みんなの振袖姿が可愛すぎるんだもん!」
「ユミさん」
「まってフーカちゃん、それホントに先輩死ぬレベルだからとどまって」
こうしてユミナにより命の危機を救われたアスカは死屍累々としながらも立ち上がる。今日は年の初め、せっかくだからと地球出身組の声かけでミッドから海鳴に初詣に行こうという企画でこうして皆めかしこんでいるわけである。それぞれ自分に合った色合いの着物を着ている為、個性もありなにより普段よりもそのかわいらしさが何倍も引き出されている、というのはアスカの談だ。そしてその
「か、かわ・・・・いや、でもいつものことだけど今回のはその、色々と・・・・ッ!」
「ヴィヴィオ、頑張って!」
「ここでダメだったら多分今日生きていけないよ!」
「あの、何もそこまで言わなくても・・・・」
コロナからの予期せぬ言葉の打撃を食らうアスカ。
「相変わらずハイテンションですね。先輩は着物着ないんですか?」
「おお、ハルちゃんもなんという美しさ・・・・いやぁ俺ってそーいうのは似合わないからさ。それにこういうのは女の子が着てこそなの。野郎なんてお呼びじゃないんだよなぁエリオ」
「どうしてそこで僕に振るのさ。偶々休みが重なったから参加してみたけどアスカのボケ、益々酷くなってない?」
「よせやい、照れる」
「褒めてないから」
「お、みんな揃ってるな」
それから少し遅れてノーヴェが現れる。その後ろにはジルとリンネ、そしてヴィクターとジークの姿もある。
「お前らも来たのか」
「折角やからね」
「このような素敵な服を着れるのなら、参加してみたいと思うのが女心というものよ。アスカ、覚えておきなさい」
「へーへー。ま、ヴィヴィちゃんには劣るがな」
「うわッ、ヴィヴィオがついにダウンした!?」
「お兄ィ・・・死にたいらしいのう・・・」
「ヴェ!?あ、ちょ、ナニスルンディス!?」
もはや新年ということもなにもかもがぶち壊しな空気に、リンネはくすりと笑う。ああ、こういう感じがやっぱり落ち着くなと一人嵐の中心から上手い具合に外れた位置から見ていた。
◇
「いやぁ毎度のことやと思とったけど、今回は一段と輪をかけて大所帯になってもうたな」
目指すは海鳴でも隠れた名所とされる神社。そこへ向かいながら、はやては目の前の光景を見て呟いた。
「そうだね。学生の頃は私達三人にアリサちゃんにすずかちゃんだけだったけど」
「今はこんな沢山の人たちと一緒にいるんだもんね・・・なのはと出逢うまでは、想像もできなかったかな」
しみじみと物思いにふける三人。大人組はそれぞれの思い出について話している中、前を行く子ども組+αはというと。
「フーちゃん、私変わろうか?」
「いや、大丈夫じゃ」
「まったく、フェイトさんとシグナムさんの着物姿見た途端に失神とかどんだけよ・・・」
訳の分からない理由で気を失ったアスカを介抱しながら歩くと言う事態に見舞われていた。
「大体どーしてヴィヴィオやフェイトさん達にはこのリアクションなのにあたしは”お、かわいいな”だけなのよ・・・」
「あはは・・・でも先輩ってオーバーリアクションはしますけど、距離感が近い人であればあるほどリアクションが普通になるんじゃないんかって思いますよ?」
「ミウラ、それ自分が女の子として認識されてなかったことに対するフォローにも聴こえるわよ?」
「それを言わないでください・・・」
ルーテシアがミウラの傷口を抉る。エクステまでつけて周りから大絶賛されてミウラの着物姿だが、この男。普段はボーイッシュな恰好の目立つミウラに対して「あ、そーいやお前女の子だったな」とのさばったのだ。そのリアクションにフーカが断空拳を見舞ってから数分後、フェイトとシグナムを見てこうなったという経緯である。一々リアクションが忙しい為ツッコミも今日は大忙しだ。
暫くして、石段のある場所まで辿り着く。
「おぉ、着いたか・・・・」
「やっと目が覚めたか・・・まったく、新年早々何をやっとるんだ」
「悪いなフーカ。・・・あ、おぶったわけじゃなくて引きずられてたのね俺。どーりで中途半端に下半身が痛いわけだ」
「着崩れするからの。・・・・折角お兄に見てもらう為に着たのに着崩れなんぞさせてたまるか」
「えっ、なんて?車の音で聞こえなかったんだけど」
「・・・・バカ兄」
「酷い」
「まあまあ・・・さて、ここが今回お参りする神社ですよ!この町でもちょっとした穴場スポットなんです。ひと呼んで、〝ダメ巫女神社〟!」
何とも残念極まりない名前にコケッとなる。
「何、その名前・・・」
「なんでも、ここの管理を任されてる巫女さんがどーしようもないダメ巫女らしいからその名前が付けられたらしいぞ。あたし等も家族集まった時には毎年来てるけど・・・まあ、見りゃわかるさ」
「ちなみに本来の名前はなんていうんです?」
「いい質問だなキャロ。本当の名前は・・・・博麗神社。やけくその神様を祭ってるらしい」
「やけ・・・そんなでええんかの?」
「世の中にはいろんな神様もいるんだね、兄さん」
「ああ。きっとどっかに七つの球を集めないと出てこれない設定の癖に、いざ自分より上位の神様が出てくると急に腰の低いサラリーマンみたいな感じになって、神々しさとかそんなの木端微塵に吹き飛ぶくらいの神様とかいるかもな」
何それむしろみてみたい。そんな風に思った矢先に出かけた言葉をフーカは呑み込む。触れてはいけない――――そんな気がしたからだ。そんなことをしている間に石段を登りきれば、そこは少し薄暗かった石段とは違い、拓けた土地の中にポツンと本堂が建てられているというだけのシンプルなものだった。そして中心には、紅白の巫女服に身を包んだ黒髪の少女がなにやらぶつくさ言いながら箒をだるそうに持って落ち葉を掃いている。
「ったく、なんであたしがこんなこと・・・」
「霊夢ちゃーん」
なのはが巫女の名前を呼ぶ。この神社の巫女で管理者、泣く子も黙るダメ巫女と名高い博麗神社の主である博麗霊夢だ。年は17、彼氏いない歴=年齢らしい。
「なのはじゃない。まーた今年は大人数できたわねぇ。お賽銭、弾んでいきなさいな」
「今年も来たよー。というか、いつもの倍近くになるけどね」
「いいわよあたしは。その分お賽銭が入るなら、ね」
「ホラな、ダメ巫女だろ?」
「なんというかこう、負というか、腐というか・・・・」
「リンネ、ここで言葉を濁すとかえって相手の傷口を抉ることになるぞ。ここははっきりダメ巫女だと言ってやるのが正解じゃ」
「おいお前ら、一人残らずピチュられたいのかアアン?」
傷口に塩どころか垂れていた導火線に油撒いて火をつけたが如く勢いで怒りに燃える霊夢。そんな彼女の事は軽くあしらうとして、一行は賽銭箱の前までやってくる。持っていた小物入れの中から財布を出すところを見れば、先ほどまで曇天に雷のおまけつきだった霊夢の不機嫌も取り出した幸福をもたらす袋と書いて財布を見た瞬間にはあら不思議、小春日和とばかりに優しい笑顔を浮かべる。「そんなだからダメ巫女なんて呼ばれるんだ」と言いそうになったアスカの口を、ルーテシアが塞いだ。
「さ、今年一年の抱負とか叶えたい願い事なんかをこの箱の中にお金を入れて、手順に沿ってお祈りするんよ。まずは学生組から」
はやての仕切りでヴィヴィオ達が前に出る。お賽銭を入れて手を数回叩き、つるされている鈴を鳴らして手を合わせ、祈る。しかしながらその内容を声に出すなとは言わなかった為、小声ではあるが、その内容が駄々漏れとなって聴こえてくる。
(ありゃまー、これはうちの長男の人気が窺える光景やね)
(はやて、言った方がいいんじゃない?)
(そこら辺は大丈夫や。ほら)
はやてが指さす方向、そこには耳と目をジークとヴィクターに塞がれたアスカがいた。オマケに何故かは知らないが、口を思いっきりルーテシアに塞がれている。ジタバタと手足を動かすアスカ。ヴィヴィオ達の駄々漏れなお参りが終わったところで漸く解放される。
「プハっ・・・こ、殺す気かお前らは!?」
「ごめんごめん」
「乙女の純情、というものですかね。こういう時は殿方は聞いてはいけないものよアスカ」
「というか、貴女達どうして声に出して言ってたのよ。・・・・まさか」
ルーテシアがジロリ、とアスカに睨みを利かせる。
「ち、違う!確かに住所とか最後に言わないと神様がわからないから叶いずらくなるとは言ったけど、声に出した方がいいとは一言も言ってないぞ!?」
慌てぶりを見る限り、アスカの言っている事は本当のようだとあたりをつけるルーテシア。長年・・・・とは言葉に語弊があるかもしれないが、漫才じみたことをやってきた経験則が言っている。この反応は嘘をついている時のものではない。では、いったい誰が?思考を巡らせていると、意外な人物へとたどり着いた。
「え、お願いって声にだしていうものじゃないの?」
「スバル・・・犯人は貴女だったのね」
そういえば、と溜息をつく。スバルの姓はナカジマ。言葉にして出せば明らかにミッドではあまり聞かない響だし、以前先祖が地球の出身だと言っていたのを思い出す。なるほど、ド天然の彼女が言ったのなら納得がいく。
(まさか声に出して言うものじゃなかったなんて・・・・危うくあたしもやるところだったわ)
これにより、一人の若手執務官の窮地が救われたのは、誰もしらない。そうこうしている内に、今度はアスカ達の番がやってくる。大人組の後、さらには周囲が気を使いここはアスカ、フーカ、リンネの三人でお参りをすることに。手順に従い、願いを心の中で呟く。神聖な、厳粛な空気がわずかに流れた後、三人同時に目を開けた。
「ねえ、二人はなんてお願いしたの?」
さっそくリンネがきりだす。
「ワシは勿論、次の大会の優勝ともっと強くなる為に心身共に無病息災じゃ。リンネは?」
「フーちゃんらしいね。私も試合で一つでも多く勝てるようにってことと、最近始めたお菓子作りがもっと上手くなりますようにって」
互いに話しながら歩いていく二人の背中を眺めながら、その後ろを歩くアスカ。楽しそうに笑う妹二人を見ていると、こっちまで笑顔になると微笑ましく思う。こんな瞬間が、今より少しでも増えてくれたら・・・・。それ以上の喜びはないと、アスカは思った。
だから。
「そーいえば、お兄は何をお願いしたんじゃ?」
もし、本当に神様がいるなら。
「ん?俺か」
俺の願いは、正直叶わなくてもいいです。
「私も兄さんのお願い聞きたいな」
ただ、ひとつだけ。
「フッフッフ・・・それはな――――」
————みんなの願いを、叶えてやってください・・・。
◇
「あれ?どないしたん二人して」
「なんだかげっそりしてますね・・・・何かありました?」
「ああ・・・ハルさん、ジークさん・・・」
「いや、あのですね。さっき兄さんは何を願ったのかって聞いたんです」
「リンネ、貴女度胸あるわね・・・それで?」
ティアナの問い。しかし二人はその先を言わずにただ壮大に溜息をついて通り過ぎて行ってしまった。何があったのかさっぱりわからず首をかしげるでしかないでいると、とうの本人がやってきたのでとりあえずスバルが事情を聴くことに。
「どーしたのあの二人」
「まさかまたくだらないこと吹き込んだんじゃないよね」
「エリオ、お前酷いな・・・・別になんにもしてないさ。ただ・・・」
「ただ?」
「ここって、地球の神様じゃん?んで、俺らってミッドに住んでる。ってことはさ、地球が管轄の神様にいくらお願い事しても俺らミッドだし住所とかわかんなくね?だったらお願い事叶わないしダメじゃん、やっぱダメ神様だなって言っただけなんだけど・・・・って、あれ?なんで皆もそんなげんなりするの?ねー?」
アスカの一言を聞いてテンションをがた落ちさせる一同。年明け早々、結局この男にはしてやられるのかと元旦に思い知らされたのであった。
~とある後日談~
「あれ?なんだコレ・・・・アスカ先輩ともっと仲良くなりたい・・・できれば結ばれたい!?しかも同じような内容が沢山ッ!舐めとんのか!?こちとら正月からの受験シーズンで色々忙しいってのにリア充にかまってられるかッ!しかもなんだよ住所ミッドチルダって!何地名なの!?それとも住宅地の総称とか何か!?ダアアアアアアアア、イライラする!やってられっかっての!はい、今日のお仕事もうおしまい!さ、早く帰ってコタツに入って東方M-1グランプリ観ようっと・・・・あっ、新年あけおめことよろー。今年もヴィヴィスカよろしくー」