「ところで皆さんお昼食べました?」
ヴィヴィオのクラスに戻りお茶をしているとコロナがそんなことを呟いた。時計を見れば既に正午、お昼時となっていた。既に大人組のファイター何人かは試合に備えて練習メニューを消化する為帰路についており、残った面々でお昼をということになる。当然ここにきてから何も食べていないので空腹感は充分だ。
昼食はリオの勧めもあって中庭のベンチで食べることに。日当たりも程々で寒くもなくかと言って暑くもなく。ちょうどいいスポットで各々売店で購入したり事前に持ってきた弁当をつまむなどして食事をとる。そんな中、遅れてアインハルトが同級生を連れて合流した。
「初めまして、ユミナ・アンクレイヴです。ミウラ選手とアスカ選手ですよね!?」
来るや否や早口で自己紹介をすると、目を輝かせてミウラとアスカに詰め寄るユミナ。アインハルト曰く、格闘技が好きで自分達の試合も観ていたとのこと。
「お、ユミナちゃんは俺のファンなのかな?」
「はいッ!」
「・・・あ、うん。えっと、ありがtぅ」
「珍しい、先輩が壊れた」
「ボケってこういう風に潰されると対処できないんだ・・・・メモっとこ」
コロナが何故かメモを始めるのをあえて見ないフリするヴィヴィオ。最近、この子の方向性が大分危ぶまれるような気がするのは多分当たっているかもしれない。
「〝抜剣〟、凄いですね!お二人とも同じ技なのに全然違うなんて・・・・なんだかこう、兄妹って感じで熱いです!」
「よく見てますね」
「え、違うんですか?」
「うん。俺のはどっちかっていうとミウラより集束は遅いけど威力はその分高い。逆にミウラは速い代わりに威力は俺よりも劣る」
「炎熱変換がある分、先輩の方がボクより重いし痛いんですよね・・・・ちなみにヴィヴィオさんのラッシュに何とか食らいつけたのも正直な話先輩がスパーの相手だったからっていうのもあったりします」
「最初の頃は面白い具合にポンポン飛んでたからなぁ。ミウラって軽いからやるたびに飛距離伸ばしてたっけ」
「あ、ソンナコトモアリマシタネ」
何故か片言になり遠くを見るような目でスイッチが入ったミウラと、当時を思い出してケラケラ笑うアスカ。八神道場、こうして見るとやはり魔窟だなと思ってしまう自分はおそらく間違えてないとアインハルト含めた四人は思う。
「あ、お二人もお昼まだですよね。実はこれ、お母さんが皆でって作ってくれたんです!」
そう言ってリオが取り出したのは大きな重箱、段数にして四段はある。袋から取り出すと同時に空気に溶けて鼻へと抜ける香ばしいごま油の香りから察するにジャンルは中華とみて間違いない。そんな目星をつけたとたん、アスカの胃袋が壮大に声を上げた。
「ちょ、なんですか今の!?」
「すまんなリオちゃん。俺のストマックがそれを早くプリーズとコールするんだ」
「喋りのクセが凄い」
「アインハルトさん」
「ユミナさんの言いたいことはわかります。でもこれが先輩の素なんです。イメージを壊してしまって申し訳ないですが・・・・」
約一名軽く絶望しながらもなんとかノリに適応しようと精神的に奮闘ユミナ。一体どんなイメージを抱いていたのかはさておき、そこに思わぬ来客が訪れた。遅れてやってきた、スバルとディエチ。そして――――
「————イクス!」
ヴィヴィオとアスカの声が重なる。自分達の知っている姿とは大分異なるが、その愛くるしい姿はまさにあの日言葉を交わした友人のイクスヴェリアその人だ。大きさからしてユニゾンデバイスとしての姿の時のリインやアギトが近いだろうか。フワフワと浮遊しながら二人の元へとやってきて笑みを浮かべる。
「イクス、ごきげんよう」
ヴィヴィオがそう言うとかわいらしくワンピースの裾をつまんでぺこっと挨拶をする。その姿にリオとコロナはあまりのかわいさに「きゃ~!」となり、アスカに至っては。
「・・・ッ、いかん、危うくキュン死にするところだった」
軽く生死の境を彷徨った。
「一人だけリアクションのクセが凄い・・・」
「まあアスカだからね。ん~、それにしてもいい匂い!」
「あ、良かったら食べますか?もちろんイクスも」
「いいの?じゃあお言葉に甘えちゃおっかな」
「リオちゃんリオちゃん」
「はい、なんです?」
「スゥさん、大食いだから気を付けて。油断したら器まで持ってかれるよ」
「私はグラトニーか」
◇
「うめぇ・・・・バナn」
「バナナなんて入ってないですから。でも、そんなに喜んでもらえるなんて嬉しいです」
「リオちゃん」
「はい?って、顔近い・・・」
「結婚してくれ」
「アスカって見境ないっていうかさ、前まで保育士じゃないですとか言いながら今はこんなだよね」
「美少女で、八重歯の元気っ子で!しかも料理まで上手い!これほどポテンシャルの高い子なんてそうはいないんですよ!?」
だからと言って流石に節操がない・・・と言おうとした瞬間、何やら多方向から凍てつくような視線を感じてスバルとディエチは瞬時にイクスを守るようにして立ち上がる。冷静にその先を追いかけてみれば、照れに照れまくるリオと逢ったばかりのユミナ以外からのものだと理解する。ああ、この男は一体どれだけ周囲にフラグを建てるのか。きっと自分達はいつか救助対象として彼を助けろと言われそうな気がしてならない、とスバルとディエチは溜息をつく。
「アスカ、皆が大事なのはわかるけどお願いだからティアのお世話になるようなことはやめてね」
「え、それ逆なんじゃ――――」
「それ以上は本気で殴るよ」
スバルの拳は一番ヤバイとアスカ自身身に染みているのでそれ以上のボケはなかった。うん、やっぱりこうやって黙らせた方がいいんだと学習するアインハルト。現在ツッコミ役のルーテシアがいない為最年長はスバルとディエチ、そしてミウラを除けば自分だ。なら、私がしっかりしなければと心に誓うアインハルト。そんな光景を窓から見ていた保護者組、中でもフェイトはアインハルトを見てシンパシーを感じたのはまた別の話。
食事を終え、一端その場は解散となる。アスカはアインハルトとユミナと共に体育館へ。
「しっかしこの学校の学院祭すごいね」
「先輩は初めてですか?」
「実のところ、来るのは初めてって訳じゃないんだ。毎年ヴィヴィちゃんから招待状貰ってるから、今年で四回目」
「・・・・もしかしてですけど、去年の学院祭でやたらテンションの異常な人ってまさか・・・」
「あ、それ多分俺ー」
サッ、とユミナの顔から血の気が引いたのをアインハルトは見逃さなかった。一体なにをしでかしたんだこの人は。初対面でこれだけ他人に好印象から悪印象を与える人もそうはいまい。我ながら、つくづくどうして・・・。
まあ、それ以上にこの人にはいいところが沢山あるわけで。それを知っているのは今は自分だけということに一人優越感に浸ることで良しとする。
衣装に着替える都合でアインハルトと別れたアスカはユミナと共に他の種目も参加することに。サッカー、ボウリング、ストライクアウト・・・どのスポーツ種目でも無双するアスカの姿にもはや選手としての面影はまったくなく、対戦相手が年下の女の子であろうと圧倒的結果で叩き潰していく容赦のなさは観ていて大人げないという言葉が生ぬるいようにも思えるほどだった。
「というか、かなり身体能力高いですよねアスカ選手」
「アスカ、でいいよ。皆名前か先輩って呼ぶから」
「あ、はい・・・先輩は格闘技の方はいつから?」
「んー、今のヴィヴィちゃん達よりも前の年からやってたかな。その頃はあまりよくわかってなくてさ。でもやってく内に強くなりたい切っ掛けができて・・・それで本格的に訓練積むようになったんだ。だから、元々素質があったとかそこまで大それたもんじゃないよ。無我夢中で、ただ自分の定めた目標に向けて突っ走ってきて。偶に無茶とかしたりして、今の俺があるのかな・・・なんて」
少し照れくさいのか、苦笑いで頬を掻く。そんな姿に崩しかけていた印象を見直しつつ、アインハルトが準備ができたということで二人で向かう。
「・・・
「はい?って、先輩今私のこと――――」
「ハルちゃんのこと、よろしくね。あの子、クールだけど繊細な子だから。ユミちゃんならきっと、いい友達になってくれると思うからさ」
そう言って笑う。そんな彼を見てまたユミナも。
「はい、もちろんですっ」
負けないくらい、笑顔で返した。
◇
「アームレスリングで台が壊れるってハプニングはありましたけど、まさか消し炭になるなんて予想しませんよ誰も」
「うう、面目ない・・・」
アインハルトとアスカのアームレスリング。互いに全力でやるもんだから熱中しすぎてアスカのうっかり炎熱変換により台は真っ黒に焦げ、あわや大惨事。観ていたはやてが氷結魔法でアスカごと凍らせて事なきをえたが、ユミナの指摘はごもっともである。台が壊れるかもしれない。これはまあ、魔力を使っていればあり得る話。しかし誰が消し炭になるかもしれないなどと考えるだろうか。そんなことを言い出したら台一つだけで一クラスの予算どころか全学年のクラス予算を足しても耐性抜群の台などできはしない。
「・・・・でもまあ、期待の新星ファイターの二人のガチバトルが観れたので不問とします」
「ユミちゃんありがとう愛してる!」
「それはいらないです」
今日一日ですっかりアスカの扱いに慣れてしまったユミナ。
「・・・・あ、終演セレモニー始まりますよ!」
中央に設けられた木の祭壇に火が灯る。すっかり陽も沈んだ校舎を濛々と燃える炎の灯りが照らし、幻想的な雰囲気が漂う。
「そういえば、この後ダンスもあるんだっけ?」
ダンス。このシチュエーションで、しかもダンスとくれば出てくるのはそう、ド定番のフォークダンスだ。ここミッドでは多少その呼び名は異なるらしいが、それでもその形式は地球となんら変わりない。しかしそんなことは割とどうでもいい。重要なのは、それを誰と踊るかだ。
なのはの何気ない一言が引き金となり、その火ぶたが切って落とされる。
一気に詰め寄る後輩ズ。それを見て出遅れたと痛恨のミスを悔やむルーテシア。いらぬプライドが邪魔をしてしまい、結果アスカに近づく事すらできなかった事に口惜しさを噛みしめる。
「凄いですね先輩の人気・・・・」
「あははは。まあ、相変わらずですかね」
「ミウラ選手は行かないんですか?」
「ボクはダンスは苦手なので。観るだけでも楽しいですし」
「うちの長男はな、それはそれは人気なんよユミナちゃん」
「なんだかんだで面倒見はいいし、何よりあの性格だ。・・・・まあ、一部を除けばってのが付くが」
上げて落とされる。本人のあずかり知らぬところでこんな風に話題で扱われる人も中々そうはいないだろう。
「あーやっぱ困っとるな」
「うん。アスカ人気だからね」
「・・・・よし、ならここは」
何故か意気込んで歩み寄るのは事の引き金を引いた高町なのは本人だ。
「アスカ君」
「はい、なんでしょう?」
「私と、踊らない?」
えっ、と誰かが呟いた。まるでハトが豆鉄砲でもくらったかのような場の静まり返り方に傍観していたはやて達も思わずポカンとなる。
「あ、はい」
思わず返事を返してしまったアスカはそのままなのはに手を引かれダンスの輪の中へと入って行ってしまった。
「ちょ、ヴィヴィオどーいうことコレ!?」
「わ、私にも何がなんだか・・・えぇ!?」
「なのはさん、いや嘘ですよね・・・?」
きっと、冗談だ。そう期待を込めて見る。が、その視線に気づいて返ってきたのはイタズラっぽい笑顔とウィンク。そしてそれが意味するものを、娘であるヴィヴィオと幼馴染二人は知っていた。
あ、この人割とマジだ――――と。
(・・・・んー。ちょっとからかっちゃおってそれだけの気だったんだけど・・・・なんでかな。こんな風に手を握りたかった私がいる。うーん、本当にそれだけのつもりだったのに・・・・けど、何か忘れてるような・・・・?)
自分のした行動に疑問を抱きつつ、なのははアスカと踊りつつ濛々と燃える炎と目の前の少年を見て自問自答を少しの間繰り返した。
~某所~
「ねーねー王様、ボクら今年映画で大活躍だったからこっちでも出られるかな!?」
「知らぬ。というか、我らを使う度量も采配も、この塵芥にあるわけなかろう」
「それが王、そうでもないようです」
「・・・・マジか」
「あ、王様ちょっと嬉しそうな顔したー」
「なッ、そんな筈なかろう!?」
「フロガの末裔に会えるのが嬉しいのか、はたまた出番がある事が嬉しいのか・・・」
「きっと両方だね」
「ええい、やかましい!」
そんな会話がどこかであったとか、ないとか。