VividStrikeScarlet!   作:tubaki7

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♯31

 天瞳流。ミカヤ・シェベルの用いる剣技の流派でその歴史は決して浅くはない。何物をも瞳が瞬く間に奔る斬撃にて繰り出される抜刀術の前ではその刃を防ぐことは至難の業だ。しかしその剣技をもってしても、不敗の王者であるジークリンデ・エレミアには届かなかった。そして今大会でもその夢であり目標であり、悲願はたった13歳のルーキーの少女により妨げられてしまった。

 

  しかし、それで彼女の刃は手折られるほど容易くはない。現に今、こうして自分ができることをやっているのだから。

 

 空を切る刀。その一閃は迷いなく澄んでおりその刀身と同じく一片の曇りもない。的確に相手との間合いを測り、自らの刃が届く距離に置き続け、斬る。流石はベテランの選手だと回避(・・)しながらアスカは思考し、唯一の隙である刀を鞘に納刀するその一瞬に攻勢に出ようと踏み込む。が、その対策をミカヤがしていない筈もなくものの見事にカウンターを食らい、床に倒れる。そこへミカヤが切っ先を突きつけて試合終了となった。

 

「だぁー・・・・やっぱスゲーよミカは」

「何を言ってるんだいきみは。今私は少し自信を無くしそうだよ」

「なんでさ?」

「天瞳流は、言ってみれば速さが売りな流派でもあるんだ。私も速さには覚えがあったけど・・・いやはや、実際こうして相対してみるときみのその〝目〟は本当に大したものだよ」

 

 グデっと項垂れるアスカにミカヤは汗をタオルで拭いながらそう評価する。

 

「アスカといい、ミウラちゃんといい。八神道場の選手は剣撃に対しての耐性がずば抜けているね」

「そりゃ、管理局一の剣士が師匠にいるんでね」

「なら尚更わからないんだ。そんな凄い人が身近にいるのにどうして私の所に急に練習を持ち掛けてきたんだい?」

「・・・実は言うとちょっと迷ったんだよね。ヴィクターにするかミカにするか。んで一度ヴィクターに連絡入れようかなと思ったんだけど、あの人はジークの恐ろしさは知ってるけど、怖さ(・・)は知らない」

「・・・なるほどね。つまりきみは、ジークの本気を超える為にあの子の技を引き出した私を相手に選んだ、と」

 

 それが今回アスカがミカヤを選んだ理由だった。ジークとヴィクターにはまだ二人が幼い頃から交流があった為よく知ってはいる。だが、本当の恐怖は彼女の技を味わった者にしかわからない経験がある。その経験を、アスカはミカヤを通じて学ぼうという事だ。

 

 起き上がり、コクンと頷くアスカ。

 

「エルスさんの時はなんとか勢いで押し切れたけど、ファビアみたいに固い防御持ってたり番長みたいなパワー特化がきた時に手数でも劣る。そうなったら俺に残ってるのは今のところ炎熱変換と、集束だけ。多分、今の俺じゃミウラにも勝てない。だから知る必要があるんだ。自分の出来る事、覚えられるだけの事は片っ端から吸収してものにする。でなきゃ、上になんて行けないから」

「見上げたものだな。まさかアスカの口からそんな真面目な言葉がでてくるとは思わなかったよ」

「あははは・・・・ま、後はシグ姉が本来多忙っていうのもあんだけね」

「で、本音は?」

「おっきいおっぱいのお姉さんと練習して強くなれるなんてめっちゃ俺得じゃね!?」

「斬る」

 

 それから命の危機を幾度となく掻い潜り、メンタル的にも危機管理能力的にも経験を積むことになったアスカ。その最中で自重という言葉を犠牲にしながらも、ミカヤとの特訓は続く。そんな、ある日。

 

「今日は少し休もうか。今朝は軽く躰を動かす程度に抑えて、それからは私に一日付き合ってほしい」

「それってデート!?」

「クネクネしないでくれ、殺意が抑えられないから」

「ア、ハイ。でもなんでいきなり?」

「私だって女子だぞ?たまにはそういう気分の時もある。それに息抜きも時には必要だ」

 

 そう言ってミカヤの決めた通りに朝は軽く試合を二本ほどこなした後、一度アスカは帰宅することとなった。

 

「おりょ、今日はやけに早いな?」

 

 リビングに入れば、はやてが掃除機をかけ窓の外にはルーテシアが洗濯物をシャマルと共に干していた。理由を問われるとアスカは荷物を降ろし、バッグの中から道着を取り出しながら「これからミカとデートなんだ」と返す。

 

「・・・・・・・アスカくーん?今お母さん聴こえヘンかったなぁ。もう一回大きな声でいってみよか。誰が、誰と、何をするんて?」

「俺が、ミカと、デート」

「・・・・シャマルッ!至急家族会議や!え、仕事?ンな呑気なこと言ううとる場合ちゃうで!今大事な大事な我が子が犯罪に手を染めてまう寸前やっちゅーのに仕事しとる場合ちゃうやろ!?ティアナかフェイトちゃんのお世話ンなる前に私らで更生せなアカンッ!」

「私まだ何も言ってません!というかとりみだしすぎよはやてちゃん!」

「なあルー。俺って養子組む家庭間違えた気がするんだけど」

「また・・・・増えた・・・・また・・・・倍率上がった・・・・」

 

 はやての過剰なまでのリアクションにあたふたしながらもツッコミを入れるシャマルと、もはや意味不明なことをぶつぶつと言うルーテシア。ああ、この家族と幼馴染はどうしてこうもバラエティーにとんでいるのか。真剣に自分の身の回りの人間関係を見直した方がいいかもしれないと思い始めてきたアスカは溜息をつき、取り出した道着を持って汗を流す為にシャワーへと向かおうとする。それを、ルーテシアが手を掴んで止めた。

 

「なんだよルー。俺だって女の子とデートする権利ぐらいあっても―――――」

「―――――わ、私も行くッ!」

 

 勢いで出た言葉。後からやってしまったと後悔して顔を赤くするもそれを表に出さぬよう必死で冷静を装うルーテシアは、少し俯きがちだった顔を上げる。

 

「あ、アンタ胸の大きい女の子にはホントに何しでかすかわかんないし?私が見張り役として同行します。それならいいですよねはやてさん?」

「ヴェ!?ナラダイジョブヤ!」

「いやなんでオンドゥルってんのさ・・・・まあ二人じゃなきゃダメってわけじゃないし、そんなに遊びたいなら一緒に行くのもいいけどさ?理由がイマイチ納得できない」

「だったらアンタのクローゼットの中にある洋服タンスの上から二番目奥の方にあるブツを本来の持ち主(・・・・・・)に返した揚句色々暴露するわよ」

「是非行こうルーテシアさんッ!いやむしろきみが一緒じゃないとイヤだ!俺と来てくれルーテシア!」

「誰がそこまで言えと言った無自覚タラシッ!」

「フアンッ!?」

 

 そんな経緯があり、アスカはミカヤに断りの連絡を入れてから準備をして二人で家を出る。待ち合わせ場所に行けば、先に来ていたミカヤがこちらを見つけて手を上げる。

 

「やあルーテシアちゃん。こうして二人で話すのは初めましてになるかな?今日はよろしく」

「いえいえ、こちらこそよ ろ し く」

 

 何故かミカヤに対抗心を燃やすルーテシア。訳の分からないアスカは置いてきぼりになるが、理由をある程度察したミカヤは敢えてその好戦的な態度に乗ることにする。

 

「それじゃ早速行こうか、アスカ(・・・)

 

 そう言って腕を絡ませるミカヤ。同年代の男子よりも身長が高めなアスカはミカヤとの身長差がかなりあるという訳でもないので彼女の豊かな胸元は当然、彼の肩へと当てられる形となる。

 

「ヴェ!?」

 

 母子揃って反応が一緒かよ、というツッコミはどうでもいいとしてミカヤにしてやられたルーテシア。自分との格差を完璧にわかった上で最大限の武器を早速投入してきた強敵に対して彼女も黙ってはいない。すかさず自らも同様に腕を配置する。

 

「ハァン!?」

「ちょっとミカヤさん、今日は暑いんですしそんなにくっ付いたら歩きずらいじゃないですか。暑 苦 し く て っ」

「今日は休日で人通りも多いから逸れると大変だからね。申し訳ないね自分で言うのもなんだがお お き く て ね」

 

 そして飛び散る火花。なんでこうなっているのかさっぱりわからないアスカはただ一人両腕の感触に挟まれながらも困惑するのであった。




 ~八神家出発後、道中にて~

アスカ「そう言えばルー。なんでおまえ俺のアノ隠し場所知ってたんだよ。というかもっと怒られるかと思ったのになんでだ?」
ルーテシア「えッ!?いや、それは・・・・そ、そう!乙女の直感よ直感!それにまだ一回目だし?私もそうそう鬼じゃないし無限書庫で無理させちゃったってのもあるからその・・・お、お詫びよお詫び!」
アスカ「乙女の直感スゲーな!?」
ルーテシア(言えない・・・自分のも混ざってたから嬉しさも相まって許しちゃったなんて絶対言えない・・・・!)


  ◇


 ~同時刻、キングスジムにて~

リンネ「兄さん・・・また妙なことを・・・・ッ!」
ヴィクター「ねえ、最近リンネのこうなる頻度増えてないかしら?」
ジル「ええ。はあ・・・この子がコレでさらにやる気になってくれるのはありがたいのだけれど同時に殺る気まで出してしまうのが最近の悩みです」

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