もし、神というものが実在するならば。
もし、運命という物が実在するならば。
私はそれを一生・・・・いや、未来永劫呪うだろう。
いつしかそんな言葉が彼の口から度々でるようになっていた。
「酷い・・・森が滅茶苦茶だ」
燃え盛る木々と逃げ惑う動物たちを交互に見ながらリッドがそう呟く。昨日発せられた聖王家よりの声明は瞬く間にこの大地へと広まった。その内容とは〝ゆりかご〟の起動。そしてそれに従わなければ滅ぼす・・・要するに脅しであった。戦乱の世であれば言葉よりも暴力がものをいう。力こそ全てのこの時代で聖王家の所有する〝ゆりかご〟はまさに最強を名乗るに相応しいほどの力を持っている。それを使用するという声明が大々的にだされたのだ。
全ては、争いを止める為に。しかしそれは返って火種を撒き、こうして降りかかっている。
「姫様とリッドは兵達とともに生き残った者達の避難と警護を。賊の
「私も行きます」
「それはなりません」
「何故です!?私が出れば、より早く解決を――――」
その先を言おうとして、此方を肩越しに見たフロガと目が合う。その瞳はいつもの明るい、太陽のような温かな赤ではなく。冷たい鋭利な刃物のような鋭さをもって怒りを讃えていた。その目に見られただけで、身体がすくむ。
「たしかに貴女様が出られれば早いでしょう。ですが、今の私は少々気が荒くてですね・・・・頑丈な殿下ならともかく、貴女まで焼き殺さない自信がない」
言葉だけ取れば、主君に向けていいようなものではない。だが、フロガの恐ろしさをこの場の誰よりも知っているオリヴィエは大人しくその言葉の前に引き下がる。それを見たフロガは小さく溜息をついてから手のひらに一冊の魔導書を出す。
「リッドと姫様がいれば心配はいりませんが・・・万が一という事も考えらえます。私の固有戦力のうち二機をつけましょう。湖の騎士と盾の守護獣、治癒と防衛に関してはベルカ一と言っても過言ではありません。どうか、お下がりください」
「・・・わかりました。ですがあまり無理はしないでくださいね。二人とも、怪我をしたら後でお説教ですから」
そう努めて明るく言い、負傷者と二機の守護騎士と共に森から離れるオリヴィエとリッド。彼女らの離脱を確認するまでもなく、二人は炎の中へと駆けた。
◇
その出来事が切っ掛けか、或はその前からこうなることが決まっていたのか。聖王家の思惑とは逆に、争いはさらにその戦火を広げていく。民も、兵も、国も、土地も。全てが疲弊しやがて枯れ行くのを待つしかないようにも思えた。
「お兄様・・・私、ゆりかごに行きます」
オリヴィエが静かにそう言った。誰もいない、彼女の部屋に呼び出されたフロガはただ黙ってオリヴィエの言葉を待つ。
「適合率がやはりよかったようです。これで、争いも終わり――――」
「――――いいわけ、ないだろ」
「・・・・」
「アレに乗れば、お前は得られたはずの幸せも、人としての生も、何もかもを全て失うんだぞ!?それなのに、何故そう・・・・笑顔でいられるんだ・・・・ッ」
背中越しに問いかけた言葉に振り返れば、オリヴィエはただ笑みを浮かべていた。聖王女、そんな言葉に恥じない慈愛に満ちた顔で。
「わかってます。ですが、それが私の運命だったんです。遅かれ早かれ、こうなることは薄々わかってましたから」
「だからってそんな――――」
「――――お兄様。私、幸せだったんですよ?決まり事や不自由な体だったけど、貴方と一緒で、色んな景色を見て。沢山の友人や大切な人・・・もう、抱えきれないほどに沢山、大切なものに巡り逢えました。彼らの未来を、明日を、争いのない世界に繋げられるなら・・・私にとって、これ以上の望みはありません」
そう口にするオリヴィエの屈託のない笑顔に、フロガはただ唖然と見入ることしかできなかった。「ダメだ」、「やめろ」。そんな言葉すら、口にできずに。ただ黙って、彼女の言葉を受け入れてしまった。
そして。遂に、時は訪れる。
「・・・いいのか主よ」
「何がだいシグナム」
「クラウス殿下への連合のジジイ共からの咎めはなし・・・あんなドンパチやらかしたのになんにもねーってことは、ヴィヴィ様が掛け合ったって聞いたぜ」
式典準備の行われている様子を自身の研究室から見下ろしながら、夜天の書の守護騎士であるシグナムとヴィータと言葉を交わす。
「そうだね。殿下がしたことは決して許されないことだ。でも、それ以上にその行動にはちゃんと意味があったよ」
「それが、今回の策・・・というわけですか」
「ああ。シャマル、首尾はどうだい?」
「主の望みを遂行、完遂するのが私達の使命です。もちろんですが・・・・その、何と言いますか」
「珍しいね。普段一番冷静沈着なきみが言い淀むなんて」
「シャマルだけではありません。我ら四機、今回の貴方の行動には少々納得がいっておりません」
ザフィーラが言う。
「私の知っている限り、
「酷い言われようだなぁ・・・これでもきみらの主なんだけど」
「・・・だが、それ以上に。私達――――いや、私にとって、おまえはた――――」
「――――ストップ。そこから先は、ダメだよシグナム」
「しかしッ」
「これは私の我儘だ。それを押し通す為にきみ達を利用する。できればこんな事を任せたくはなかったけど」
「だったらなんでこんな事すんだよ!?もっとマシなやり方あるんじゃねぇのか!?ホラ、いつもみたいに無駄にずる賢い頭使ってさ!・・・そうだ、リッドのとこ行こうぜフロガ!もしかしたらいい案をくれ・・・・る・・・・」
静かに首を横に振るフロガ。そして、笑顔。
「これが私にできる最善だ。・・・・ヴィヴィにも、殿下にも、リッドにも・・・・皆に、幸せであってほしい。だから、行くよ」
「・・・・承知しました。我らが守護騎士。主の剣となり、盾となり、主の願いの為・・・・その望みのままに」
こうして、フロガ・スカーレットにより起こされた聖王連合への叛乱は彼の望むままに事が運んだ。元老たちは彼の騎士によって命を絶たれ、
「・・・・どうしましたリッド」
「・・・なんでさ。なんでこんな事するんだよッ!?
ゆりかご内部、玉座の間に響く声。反響するリッドの声をしっかしと聞きながら、オリヴィエの体が一瞬の光に包まれて変わる。
「シャマルの変身魔法、時々自分でもわからない時があるのによく見破ったね。さすがリッドだ」
「からかうのはよしてくれ。それよりも、どうしてこんなことをッ!?」
「どうして・・・・か。リッド、きみは好きな人の為に世界を敵に回す覚悟はあるかい?」
「質問に質問で返さないでくれるかな。僕は真面目に――――」
「
フロガの一言に押し黙ってましまうリッド。
「ヴィヴィは俺にとって、たった一人の家族だ。そんな大事な人をこんなことの為に失うなんて我慢ならないんだよ」
「だからって、こんなんじゃきみが孤独になってしまうじゃないか!?連合はもう、犯人がきみだと気づいている。いずれ直ぐに事実が民にも知れてしまう。そうなったらもう取り返しがつかないんだぞ!?そうなったら、ヴィヴィ様もクラウス殿下も・・・・
「悲しむかい?その心配ならいらないさ。もうここら一体には記憶操作の魔法術式も展開済だ。直に発動して、何もかも上手くいく」
「そんな、いつの間に・・・・、まさかッ!」
「長かったよ。こうなると予想してずっと探って、そして手に入れたこの魔導書。ありとあらゆる知識の数々・・・・全ては、この日この時、この瞬間の為に用意してきた。・・・・さて、もう時間だ」
「フロガッ!・・・・最後通告だ。今すぐやめるんだ。でなければ私は貴方を――――」
言いかけて、視界がぐらりと揺らいだ。一体なにが起こったのかも分からず、リッドの体内から強制的に酸素が吐きだされる。まだある意識を繋ぎ留めながら視線を動かせば、彼女の鳩尾を抉るように拳を叩きつけている銀髪の女の姿が見えた。
「主に敵意を向ける者は、私が排除する」
「く・・・・そ・・・ッ」
ドサっ、とその場に倒れるリッドを銀髪の女が抱える。意識を失った事を確認するとフロガは彼女のもとに歩み寄りそっと腰を下ろし、頭を撫でた。
「・・・・まったく、本当に予想外だったよ。殿下もヴィヴィも封じたと思ったのに、まさかリッド・・・・きみにこちらの切り札を使うとはね。すまない、手間をとらせてしまって」
「いえ。私にできる事は、貴方を少しでも手助けすることだけですから・・・」
「ありがとう。・・・・リッド。きみもありがとう。戻ったら、まずはヴィヴィの傍にいてあげてほしい。あの子、こういう事には耐性強いから少し混乱すると思うけど、直ぐに安定するからさ。あと、殿下にもよろしく言っておいてよ。それから、殿下はまだきみの事女の子って気づいてないみたいだからそこら辺も気を付けた方がいいかもね。あの人の全力で殴られれでもしたらせっかくの可愛らしい顔が台無しだ。・・・・本当に、本当にありがとう。多分・・・・初恋だった」
そう別れを告げ、転移魔法で外へと送る。そうして後で深く深呼吸をし、再び玉座へと戻る。
「そうだ、いつまでも〝きみ〟じゃ不便だね。名前を考えてあげないと」
「よろしいのですか?」
「もちろん。少しの間かもしれないけど一緒にはいるんだし。シグナム達だけ名前があるのもちょっと不公平だからね」
そう言って「うーん」と考えるフロガ。そこでふと、過去の事を思い出す。
幼い頃、妹と笑いあった想い出。クラウスと出逢い、共に訓練に勤しんだ想い出。リッドに出逢い、沢山の本と知識に触れた想いで。――――四人で、過ごした数多の時間。短い間ではあったけれど、それでも大切な想い出だ。どうか、そんな時間を過ごすことができる人達に、悲しい雨が降らないよう。優しい風と共に、青空がそこにありますように。
「・・・・幸運を運ぶ、祝福の風。そんな意味を込めて、きみに名を送ろう。
「・・・・個体識別名所。〝リイン・フォース〟登録完了。・・・・我らが夜天の騎士、貴方と共に」
「ありがとう・・・・」
こうして、ゆりかごは天高く浮上した。
◇
「・・・・あれ、ここは?」
目が覚めると、そこには見知らぬ天井が広がっていた。白く清潔感溢れるベッドと部屋、少し薬品の匂いがする辺りここはどこかの医療施設の病室だろう。そうあたりをつけて辺りを見回す。
「先輩ッ」
蛍光灯の光をさえぎって影を落としたのは、金髪オッドアイの少女だった。
「ヴィヴィちゃん・・・よかった、無事だった」
「よくないですよもうっ。あんな無茶して・・・」
涙ぐむヴィヴィオ。そんな彼女は小さな手でアスカの右手をギュッと握りしめている。若干痛い気もするが、今はそれがどこか安心するようで咎めはしない。
「ごめんね心配かけて。でも・・・今度はちゃんと守ることができてよかった」
そう言って笑ってヴィヴィオの手を握り返す。少ししてからなのはが顔をだした。
「アスカ君、目が覚めたんだ」
「はい。・・・・あの、すみませんでした。俺、なんか色々迷惑かけちゃったみたいで」
「そんなことないよ。むしろヴィヴィオやみんなをちゃんと守ってくれた・・・ちょっとヒヤヒヤしたけど、でもみんな無事だったから。あんまり無茶しちゃダメだよ?今は大会の最中なんだから」
フォローとしっかりとお説教をくらったところで、アスカはそれまでの経緯をヴィヴィオの口から聞くことに。エレミアの書記に書かれていたこと、それを読んだことでフロガが施した記憶のロックが解除されたこと、それにより思い出したことなど。それはアスカ自身も眠っている間に自然と思い出したらしく聞いている間にその時の情景や感情が入見だって多少の混乱はあったものの、現状の把握はできた。
「いやーでも嬉しいな。まさか前世でヴィヴィちゃんと兄妹だったなんて。これってやっぱり運命だと思うんですよ。だからなのはさん、娘さんをボクに―――――」
「――――ダメです。というか、この話されて出てきたことがソレって・・・やっぱりアスカ君はアスカ君だね」
マイペースを崩さないアスカの調子に苦笑いで返す。どうやら心配などするだけ気苦労だったようだ。
「・・・それで、ヴィヴィちゃんはどうするのかな」
「・・・私は―――――」
~とある場所にて~
ガシャァン!
ジル「どうしました?今スゴイ音が・・・ってリンネ、どうしたんですか!?」
リンネ「あ・・・すみませんコーチ。なんだか兄さんの事を考えていたら何だか他の女の子に爆弾発言した気がしてつい全身鏡を全て割ってしまいました・・・」
ドォンッ!
フーカ「すまんのう・・・いまのワシはちと機嫌が悪うての。加減はできんぞ?」
アスカ「ガクブルガクブル」
ヴィヴィオ「せ、先輩大丈夫ですか!?」
アスカ「なんだか怒らせちゃいけない人達怒らせてる気がする・・・というか俺無実でしょ!?」
リリカルマジカルそれも乗り切れ!