VividStrikeScarlet!   作:tubaki7

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♯28

 語られた過去。それは重く、辛く、痛々しい王たちの数奇な運命。よくある英雄物語でも、ましてや夢や希望の溢れるファンタジーなどではない。現実に起こり、戦乱の世に翻弄された者達の悲しき記憶。王であるが故に、守りたいが為に願った未来すらすれ違う。そうやって幾重にも重なった記憶だけが、少女の中へと受け継がれていた。

 

「私が話せるのは、ここまでです」

 

 そう静かにアインハルトは物語に幕を降ろした。覇王クラウスの記憶を色濃く受け継ぐ彼女から語られた物はその場の誰もが息を呑み、言葉を挟む隙間すら与えないほどの壮絶さだった。こんなもの、今までずっと背負ってきたのかと思うとアインハルトの心がどれだけ疲れ切っているかがわかる。

 

  それ故に、この男の行動は早かった。

 

 すぐに席から立ち上がり、椅子に座って物悲し気な顔をするアインハルトの元まで歩み寄る。その前に跪くように目線を合わせると、その頭にそっと手を置いた。急なことに驚き赤面するアインハルト。

 

「ありがとう」

 

 ただ一言。その一言と眉を下げて微笑む彼の顔が、記憶の中の人物と重なる。

 

  ああ、そうだ。こうやってあの人は、あの時も私を。

 

 過去の想いに馳せつつ、一筋の涙が頬を伝う。そこで漸く何か憑き物が取れたようにふと心と躰が軽くなったのを感じた。

 

「・・・・しかしまあ、なんだな。俺のご先祖様もだいぶやらかした人だったんだな。けどその気持ち、なんだかわかるよ。俺だって大好きな人が理不尽に振り回されてたら全部敵に回してでも(・・・・・・・・・)守りたいって思う。その果てが自滅でもさ。でもハルちゃんの話聞いてわかった。やったことは許されたこじゃないかもしんないけど・・・・それでも、俺はご先祖様のやったこと。かっこいいと思うよ。・・・こんなこと言ったら反感くらうかもしなんないけどさ」

「ぼ、僕は、その・・・先輩と同じです」

 

 アスカの想いを肯定するかのように、ミウラがおっかなびっくりに声を上げる。

 

「時代が変わっても人が変わっても、中身だけは変わんないよねー。アスカもそのフロガって人もさ。どっちも変態だ」

「おいシリアスぶち壊してなぁに言ってくれちゃってんのかねこの痴女シスターは。下乳見えてんぞこの発展途上」

「なッ・・・、やっかましい!大体アインハルトの話聞いてだでしょうが、なんで騎士が主君の着替え覗こうとしたりすんのさ!?」

「そこに美少女がいるならッ!男として、いや漢として見なければならないと思うのが性だろうッ!?」

 

 そして唐突に始まるシャンテとアスカの漫才。それまで厳粛だった雰囲気の一切合切を木端微塵にぶち壊した揚句、溜息と笑いを誘う。それまでどこか苦しそうだったアインハルトとジークからもそれまでの暗い表情から笑みを浮かべる。と、そこでヴィヴィオが何か思い出したようにリオとコロナの三人で話す。

 

「先輩!」

「なんだいヴィヴィちゃんちょっと待ってね。今この分からず屋に説教を――――」

「い い か ら 聞 い て」

 

 ヴィヴィオの剣幕に圧されて正座するアスカ。

 

「その、アインハルトさんが話してくれた古代ベルカ絡みの記載された本・・・もしかしたら、その本のタイトルにエレミアって文字があったかもしれないんです」

「それで、それがたしか〝無限書庫〟にあった気がして」

「三人ともそれを思い出したから、ひょっとするとあるかもなんです」

 

 ヴィヴィオ、リオ、コロナの三人が期待に胸を躍らせて言う。もし本当にあるのだとすればもっと当時の事がわかるかもしれない。しかし、だ。

 

「でも無限書庫って許可が必要でしたよね?」

 

 エルスの言う通り、無限書庫内部への一般の立ち入りは行われていない。主に調査資料目的で訪れる捜査官や執務官、後は施設の局員が利用できるぐらいでその全貌はアバウトにしか明かされていない。

 

「八神司令、社会科見学という名目で中に入ることは叶いますか?」

「ん、私が許可出してもええけどもっと手っ取り早い方法あるよ。な、アスカ」

 

 何故そこでアスカ?と一部を除いた全員の視線が彼へと集中する。

 

「あ、俺一応管理局員なんで」

「・・・・え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうみんな酷いよッ!どーして俺が嘱託やってるってだけで根底から疑おうとするのさ!?」

「だから謝っただろそれはよぉ」

 

 翌朝。無限書庫へとやってきたはいいものの、最後の最後まで疑われ続けたアスカはなお不満を爆発させ続けている。

 

「やれ犯罪者予備軍なんじゃなかったのかだの、保育士の間違いだろだのなんだの・・・・」

「実際チビちゃん達には好かれてるからじゃないか?」

「だまらっしゃいハリー選手の舎弟その1マスクウーマン!」

「もっとマシないじり方しろよリアクションしずらい・・・」

 

 そうギャーギャーと騒ぎつつ、一行はロビーへとやってきた。

 

「それにしても驚いたよ。まさかヴィヴィオちゃん達も司書資格を持っていたなんてね」

「えへへ」

「私とコロナは入場パスだけですけどね」

「いつも学校の調べものとかの宿題の時は三人で使ってるんで、結構中の構造は詳しいですよ」

 

 宿題で局員限定施設を使用する小学生。そんなパワーワードにもはやツッコむ気力すらなくなってきたハリーはあえてスルーする。

 

  今回探索する区画は古代ベルカ関連の資料が納められている迷宮型といって非常に迷いやすく、未だ手付かずで整理のされていない場所も多い区画だ。それだけに探すのも時間がかかるとうことで手分けして探すことに。各々組みたい人と組む中アスカは――――

 

『マスター』

「・・・なにも言わないでくれ」

 

 ボッチだった。

 

「いやね、人数的なもんとかそれぞれの仲とか色々考えたら薄々わかってたよ?でもさ、シャンテいるから大丈夫かなって考えてたけど・・・何なの!?アイツ朝の軽い練習終わったら教会に戻っちゃったじゃん!そりゃイクスのお世話とかあるから仕方ないけどさぁあ!?せめてこう、ねぇ!?」

 

 哀れな一人愚痴が書庫内部を反響していく。

 

「ヴィヴィちゃぁん、どーしてぼくをみすてたのぉぉおおおぉぉぉおおお・・・・」

 

 実際は取り合いになるからあえてそうしたんだけど、という意図を理解しているブレイブハートとは違いハブられたと勝手に勘違いするアスカ。オロオロとみっともなく泣きながら――――というよりはもはやうめき声に近いが。そんな声をあげながらも律儀に検索魔法を展開する。

 

「ぐすん・・・・こういう魔法って、ルーの方が向いてるのになんでアイツ今日いないんだ?」

『ルーテシア様は負荷の激しいアスティオンの整備で八神家宅にいます。セイクリッドハートも一緒ですよ』

「そう・・・はぁ。なんだか寂しい・・・」

 

 メンタル面において急に脆くなる主人を客観的に「ああ、この人ダメ人間だやっぱり」と決める。普段はや試合時は頼もしい程にタフなのにどうしてこういう時はダメなのか。

 

「あー・・・でもこう、無重力空間ってなんだか落ち着くわ」

『武闘家であれば煩わしく感じるものですがね』

「そりゃ地に足ついてた方が踏ん張りもきくし力もでるさ。でもほら、俺達って周りが周りだったじゃん?」

 

 かたや一等空尉、かたや海上司令。肩書だけ並べればお偉いさんのオンパレードな八神家。それも空戦と近接のスペシャリストが教導資格を持っていてそんな人たちに訓練されているのだから浮いているのが落ち着くという表現もありといえばありなんだろうか。最近は滅多に空戦もしないがたまにはやるのもいいかもしれないなと考えながらも検索魔法を展開していく。苦手と言いつつも、やはりこれもルーテシアやヴィヴィオと言った本好きの影響を受けているからなのだろうか。慣れた手つきでペラペラと本から情報を収集していく。

 

  が、その時だった。突如背中を駆ける悪寒に展開していた魔法を閉じる。

 

「なんだ、今の?」

『エリア6内で魔力反応消失を確認。他にもエリア2から4までの封鎖と結界の展開を認識しました』

 

 平和な筈の書物庫に起こった似つかわしくないトラブルの報告に、アスカは警戒心をとがらせる。

 

「外との連絡は?」

『ダメです。シュベルトクロイツ、ジェット、共にロストしました。おそらくこれは――――』

「ああ。封鎖結界だな。しかもちょっと細工してんのか、ベルカと感覚が違う」

 

 どんよりと、まるで肌にまとわりついてくるようなこの不快な感覚。立ち込める緊迫感が、徐々に忍び寄っていた。

 

「――――やっと見つけた」

 

 気配を感じて、振り返る。そこには黒い衣装をまとった金髪の少女が浮いていた。

 

「・・・・迷子かな?ここは一般人は立ち入り禁止エリアだよ」

「・・・・」

 

 返事はない。寧ろどこか睨むような眼でこちらを見ている。

 

「そんなに見つめられると、おにーさん照れちゃうな――――」

「――――アスカ・スカーレット。これを見て」

 

 そう言って何やら小悪魔をモチーフとしたぬいぐるみを差し出す少女。その瞬間、何かを直感したアスカはバリアジャケットを展開。すぐさまその場から緊急離脱を測り、回避する。

 

『対象物から魔力を検知しました。どうやらデバイスのようです』

「ヴィヴィちゃんやハルちゃんと同じタイプのやつか・・・さて、と。ねえお嬢ちゃん。聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

「・・・・なに」

「そのスカートにチェーンでぶら下げてる瓶の中。最初は可愛らしいアクセだと思ってたけどよく見るとあられもない姿で閉じ込められてる俺の大事な人達っぽいんだよね・・・・――――おい。その子達に何した?」

「・・・・」

「・・・・なンとか言えよォッ!?」

 

 炎を散らし、突撃するアスカ。しかし繰り出された拳は目には見えない不可視の障壁によって阻まれ、少女に至るまで届かない。

 

「貴方はフロガと違ってわかりやすい・・・」

「フロガ――――ッ、どうしてそれを!?」

「答えるつもりもない。答えを知る必要もない。だって貴方はここで――――」

 

 攻撃が来る。そう反応した時は既に遅く、体は錐揉みしながら壁に叩きつけられていた。魔法発動のモーションが全くなかった。それどころか彼女はデバイスすら使用してないようにも見える。いったいどういうからくりだと探りを入れるアスカの目の前で、少女はその身を変えた。等身は大きくなり、纏っていた服も変化している。

 

「――――ここで私に、呪われるのだから」

 

 その一言と共に体を、その空間にまで作用しているかのような強烈なGがのしかかってくる。地面に這いつくばるかのようにアスカはうつ伏せになり、なんとか動かせる首だけを少女の方へと向ける。

 

『魔法式がミッドともベルカとも違います。おそらくは固有術式のものかと推測されます』

「服も相まって、まるで本物の魔女だな・・・・っ」

「そう。私は魔女、ファビア・クロゼルグ」

 

 ファビア。その名前を聞いた瞬間、アスカはハッとなったように思い出す。その名前には見覚えがあった。

 

「ファビア・クロゼルグ・・・たしか、まだ勝ち残ってる選手の中に裁定ギリギリの勝ち方をしてる選手がいるってルーが言ってたっけ・・・でもどうして、こんなことを?ヘタをすれば選手登録抹消だって」

「そんなことはどうでもいい。私の目的はエレミアの書記と、貴方たちに思い知らせること」

 

 さらに重力魔法の威力を強めるファビアと名乗る少女。

 

「クッ・・・ソ・・・!」

『――――カ――――アスカ!?』

「その声、ルーか・・・!?」

『やっと繋がった・・・ごめん間に合わなくて。ずっと監視してたはずなのに裏をかかれてこんな・・・、今すぐ助けに行くから、無茶しないでよ!?』

 

 無茶。そう言われてアスカはフォビアのスカートから下がっている二つの瓶を見る。その中で囚われているアインハルト、そしてヴィヴィオとミウラの三人。ヴィヴィオは今しがた気が付いたらしく、此方に向かって必死に叫んでいる。

 

「先輩!」

「ヴィヴィちゃん・・・!」

「っ、どうしてこんなことをするんですか!?」

 

 ヴィヴィオが問いかける。しかしその声にもファビアがだした答えは同じだった。

 

「言ったはず。聖王オリヴィエ、覇王イングヴァルト。そして現代のエレミアと・・・・炎帝フロガ。貴方たちに思い知らせるの。魔女の誇りを穢した者は、未来永劫呪われよ・・・・これは、そう。復讐」

「復讐?」

「・・・・ふっざけんなぁああああぁぁああッ!」

 

 咆哮。無理矢理体を起こし、立ち上がろうとするアスカ。それを見てファビアの顔が初めて驚愕に変わる。

 

「正直きみがどこの誰で、どうしてそんなに俺達のご先祖様のこと恨んでるのかってのはまあ、一つも心当たりがないってわけじゃないんだけどさ・・・・ここにいンのは!普通に学生やってて、格闘技が好きで!今を一生懸命生きてる普通の女の子なんだよ・・・きみの気持ちもわかるけど、こんな事許されていいわけないだろッ!」

(そんな、この状況で立ち上がるって・・・!?)

「・・・相棒ッ!」

『フルオープン』

 

 手、足、全ての装甲が開く。そこから赤い粒子が散り、魔力が高まっていく。

 

「フル抜剣ッ!」

「・・・それなら」

 

 ズドン、と音を立ててさらに強力になる重み。

 

『このままこの術を受け続けると危険です』

「先輩、ダメです!逃げて!」

「・・・今ここで逃げたら、また(・・)約束を破ることになる。そんなのは――――死んでも御免だよッ!」

 

 跳躍。できるはずのないその行為を、愛機による術式への演算ハックを行うことで強引にやってのける。同じ目線まで昇ったところで、再び繰り出される拳。今度は弾きき返されまいと、懸命に踏ん張る。

 

「か、固ぇ・・・ッ」

「先輩ッ!」

「大丈夫だよ・・・今度こそ、絶対」

「でも・・・でもッ」

「・・・諦めるかぁぁぁぁあああああああああああああッ!」

 

 二度目の咆哮。一発でダメなら、二発。二発でダメなら三発。そうやってひたすらに障壁を殴るアスカ。

 

「亀裂が・・・ッ、何故そこまでこだわるの?貴方がいう事が正しいなら、この子だって――――」

「――――思い知らせる為さ。きみが見てる世界は、そんなに狭いものじゃないって!」

『両腕の負傷、40%を超えました。骨に影響が出ます』

「たかだか40ェッ!」

 

 骨に亀裂が入ったのがわかる。それを示すように切れた皮膚から血も出ている。それでも、アスカは止まらない。

 

「フロガの末裔・・・あなたは一体・・・!?」

「俺は俺だ・・・・アスカ・スカーレットだッ!」

「――――お兄ちゃん!(・・・・・・)

 

 ヴィヴィオからでた言葉に、アスカから笑みがこぼれる。そして、それまで感じていた痛みが不思議と和らいだのも。

 

「・・・今はただ、きみだけを守りたいッ!」

 

 一端距離を置く。そしてありったけの魔力を右手に集中させ、踏み込む。雄叫びと共に魔力で極限まで強化した拳をを構え、突き出す。技も何もあったものではないが、その一撃がファビアの障壁を破り彼女まで到達する。殴り飛ばすその刹那、振りぬいた拳を精一杯伸ばして強引に瓶を引きちぎり奪還することに成功した。

 

「やっ・・・た・・・っ」

「アスカッ!」

 

 と、そこへ漸くたどり着いたルーテシアが現れる。

 

「この馬鹿!無茶しないでよって言った傍から・・・ッ」

「悪い・・・けど、ほら。こうして今度はちゃんと守ったからさ」

 

 そう言って誇らしげに瓶を見せるアスカ。力なく笑う彼を、ルーテシアはそっと抱きしめた。




 ~裏にて~

アスカ「ああん、ボケたい!ボケが足りない!なんだこれはあああああああああああああああ背中がかゆいいいいいいいいいいいいいいッ!」
ルーテシア「たまに主人公したと思ったらコレ。ホントこのバカはまったく・・・」
ヴィヴィオ「ホクホク」
ルーテシア「だあああああああああッ!この子もか!?この子まで私を煽るっていうの!?というか何よこの展開は!?漫画10巻じゃここは私がかっこよく決めるとこでしょ!?大幅改変もはなはだしいわよッ!」
はやて「ルールー」
ルーテシア「はいッ!?」
はやて「ヒロイン(笑)>(´▽`*)」

 その後めちゃくちゃ白天凰したはやてであった。

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