VividStrikeScarlet!   作:tubaki7

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♯11

 ――――第27回インターミドルチャンピオンシップ。選考会場となるクラナガンにある総合魔法戦技の民間施設で、その開会式が行われる。毎年激戦区と称されるミッドでは数多くの総合選手が名を連ねており、現チャンピオンであるジークリンデもここミッドチルダの出身地ということで他とは規模も違っていた。見渡す限り人、人、そしてまた人。

 

 それを見た少年は、こう呟いた。

 

「見ろ、人がゴミのy――――」

「やかましいッ!」

 

 ・・・・呟けなかった。

 

「~、ッテーなルールー!何すんだよいきなり!」

「アンタ公共の面前でなんてこと口走ろうとしてくれてんのよ!バカなの!?ねえバカなの!?」

「バカじゃない!」

「じゃあなによ」

「アホだ!」

「ハッ倒すわよ!?」

 

 大会に参加するためミッドに来ていたルーテシアはそのまま八神家に泊まり、アスカと付き添いであるセインとウェンディと共に会場入りしていた。いや、お前こそ公共の面前でよくそんなツッコミができるなと半ば引き気味に笑いを浮かべるが、それが良かったのか悪かったのか、先に来ていたミウラとザフィーラと合流を果たす。

 

「何をやってるんだお前たちは・・・」

 

 呆れ切った顔で迎えるザフィーラ。後ろ二人とミウラは苦笑い、ルーテシアは顔を真っ赤にして俯いている。原因などわかりきったことだ。

 

「いやあこうも人が集まるとつい」

「そのついでいらぬトラブルを招かれては困る。気を引き締めろ」

「ザッフィーがいつになく真面目だ・・・ま、そうだろうね。今回は俺もミウラもおっきい大会は初めてだし」

「俺はいつも真面目だ。まったく・・・これから受付に行く。はぐれるなよ」

 

 保護者三人と受付エントリーを済ませ、アスカとミウラ、そしてルーテシアの三人は開会式が行われる為コート内に集まっている。ゼッケンをつけ、いつもの練習着を着てこのような場所に立っているとさすがのアスカでも気が引き締まる思いで呼吸を一つする。ここにいる、全ての選手がそれぞれの想いと夢を持ってここにいる。その中には、自分では決して超えられないようなものを持った選手がいるかもしれない。実力、精神、どれもこの時の為に鍛えてきた。辛い特訓も、もはや死刑に近いような修羅場もたくさん味わってきた。たとえどんな相手が来ても・・・一歩先へ、一秒前よりも強く。教わった全てを出し切って、勝つ。そして・・・彼女たちに、胸を張ってまた会えるように。今度こそちゃんと守れるものを守れるようになる為に。

 

「上へ行こうぜ、相棒。俺とお前の二人で」

『はい。貴方となら、どんな高みへも』

 

 首下で点滅する愛機の頼もしい返事を聞いて今度は頭をいつもの調子に戻し、見慣れた後ろ姿を見つけて声をかける。

 

「ヴィーヴィちゃん、おっはよ」

「あ、先輩っ」

 

 花が咲いたように笑うヴィヴィオ。以前一緒に食事した時からより一層距離感が近くなった気がするその後輩の少女は、自分を見つけると笑顔を浮かべ駆け寄ってくる。その友人二人も彼女の後に続いて此方に寄ってきた。

 

「リオちゃんとコロちゃんもおはよ。ハルちゃんは?」

「おはようございます先輩」

「あー、アインハルトさんなら、あそこです・・・」

 

 リオが指さす先。そこには鼻を抑えてなにやら悶える、いつもとは違うガッチガチに緊張しているアインハルトがそこにいた。どんな時でも、凛とした空気というかキャラを崩さない彼女だけにその姿はとても新鮮に見えた。

 

「あのハルちゃんでも流石に緊張するか」

「そういうアスカ先輩は緊張してないんですか?」

「そりゃコロナ、だって先輩だし」

「あー・・・そっか」

「おいちみ達。それはいったいどういう意味かおにーさん超気になるんだけど」

 

 後輩二人に軽くディスられたことにツッコミを入れていると、後ろで若干もじもじしているミウラに気が付く。それを見て。

 

「どうした、トイレか?」

 

 そんなデリカシーの欠片も存在しないことを言った。

 

「違いますッ!えっと・・・」

「ん・・・ああ、そっか。お前は会うの初めてだったよな。この子は俺の将来のお嫁さんの高町ヴィヴィオちゃん」

「え、ええッ!?」

「お、おおおおお嫁さん!?」

「ちょ、ヴィヴィオいつの間にッ!?」

 

 真っ赤になってパニックになるヴィヴィオ。それに慌てるリオとコロナの二人。ポカーンと思考停止するミウラ。まさにカオスがそこに広がっていた。

 

「アンタね、そんな言い方したら勘違いするに決まってんでしょうが。安心してミウラ。ヴィヴィオはお嫁さんじゃなくて、幼馴染で妹的存在ってことだから」

「ん?割と本気だぞ。ヴィヴィちゃんかわいいし天使だし。・・・いや待て、リオちゃんの元気っ子八重歯スマイルも捨てがたい・・・やや、コロナちゃんのこの年で母性溢れる包容力も・・・しかしハルちゃんの年齢ミスマッチ美人も中々・・・ええい、選べん!こうなれば、お前たちが俺のつば――――」

「天誅ッ!」

「ヘブン!?」

 

 マシンガンで止まらなくなった揚句いよいよ危険度が増したアスカの脳天に拳を叩き込むことで黙らせるルーテシア。本来はバリバリの後衛型である彼女が最近前衛もいけるんではとなのはに言わしめた戦闘スキルのルーツはここにあるのかもしれない、と観客席から見守るノーヴェは思った。ルーテシアによって意識をブラックアウトさせたアスカはそのまま首根っこを掴まれる。

 

「ごめんねみんな、このバカは私が責任もって手綱握っとくから。それじゃ、もう列に並ばないとだからまた後でね!」

 

 ズルズルと引きずられていくアスカ。ヴィヴィオら三人と一言二言言葉を交わしたミウラも二人の後を追いかける。

 

「ったく、此奴は毎回毎回どうしてこう落ち着きがないのか・・・」

「・・・フフ」

 

 愚痴をこぼすと、隣を歩くミウラが小さく笑った。

 

「どうしたのミウラ?」

「だってルーテシアさん、アスカさんの事を話す時って怒ってるのに何だか嬉しそうに話すからおかしくって」

「嬉しい?・・・まさか」

「本当ですよ?昨日の夜もそうでしたけど、何だかんだで一番近くにいるなって思いました」

「そ、それは偶々此奴の隣が空いてるからつい・・・」

「・・・もしかしたら」

「ん?」

「アスカさんの強くなりたい理由・・・それって、ルーテシアさんの事かもしれないですね」

 

 アスカの強くなりたい理由。以前、聞いた事があった。その時はうまくはぐらかされたが、確かこう言っていた。

 

  ――――約束、なんだ。とある子とね。その約束を果たす為に、俺は強くなりたい。

 

 だが、ヴィヴィオを除けば自分が一番あの中で付き合いが深い。そんな約束をした覚えなど、もちろんない。単に忘れているだけということもあるかもしれないが、彼と交わした約束を自分が忘れるなどありえないと、ルーテシアは絶対的なまでの自信で言い切ることができる。それでも、覚えはない。となれば、考えられることは一つだ。

 

「・・・どうかしらね」

「違うんですか?」

「多分。こう言っちゃなんだけどさ、あたしアスカとは結構古い付き合いなのよ。だから考えてることはある程度わかるし、約束事なんて尚更忘れるわけない。でもね、思い当たる節がないの。だからそれ、あたしじゃない」

 

 話していて、心がチクリと痛んだ。自分じゃない、他の誰かの為に強くなろうとしている少年。暗闇から、自分を救ってくれた少年。そんな彼の原動力とも言うべき根本的理由。それがなんなのかがわかるから、余計に辛かった。

 

 少し声のトーンを落として話したルーテシア。そんな彼女に何か悪いことをしてしまったのかとそわそわするミウラ。

 

「・・・あ、何もミウラがそうなることないのよ?」

「いや、でもボクなんだか話しちゃいけないことだったのかなって・・・」

「・・・アスカも、ちょっとは貴女ぐらいの可愛げがあってもいいのにね」

 

 ハア、と軽く溜息。

 

「まったく・・・どーしてこんな奴に惚れたのかしらね、あたしは・・・」

「え、ルーテシアさんてアスカさんの事好きなんですか?」

「え・・・ウソ、やだあたし声に出して・・・あああああ、ミウラ、今の聞かなかったことにして!ね、ね!?」

「うぁ、は、はいっ!・・・でも、ルーテシアさん。その気持ちなら・・・多分、ボクも負けませんよ」

 

 急に返された発言にルーテシアは一瞬面食らってしまう。

 

「・・・ボクも、先輩からたくさんのこと教わりました。引っ込み思案だったボクを八神道場に誘ってくれて、一緒に鍛えて・・・。あの時、アスカ先輩の誘いがなかったら、きっと今もボクは自分の中に閉じこもったままでした。そんなボクを、先輩はみんなと一緒に引っ張り出してくれた。だからボクは、先輩を想う気持ちなら誰にも負けないです」

 

 それは、恋・・・・と言うには、少しズレていて。でも確かに強い想いが伝わってきた。真剣に、真っ向から話すミウラ。そっちがそうなら、とルーテシアはあくまでも冷静にいつも通りにアスカを引きずって歩いていく。

 

「そう・・・ま、でもあたしも負ける気はないけどね」

 

 試合にも、もちろん恋も。だから。

 

「言っとくけど、あたしけっこー手強いから」

 

 いつもの通りに、ちょっぴり小悪魔に笑ってみる。




 その後、開会式。

《えいえい、オーッ!》

「・・・な、ルー」
「一応聞くけど、何」
「えいえいオーって、なんか古くないか?」
「あー、それはわかる」
「あ、ボクもです」
「うんうん」
《ちょ、ええ!?まさかの満場一致ですか!?」

 かくして開会式は無事に終わった。

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