VividStrikeScarlet!   作:tubaki7

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今回はヴィヴィオメインの回


♯10

「うーん・・・・」

 

 高町ヴィヴィオは悩んでいた。自室の勉強机に向かって座りたまにぽつりぽつりと独り言をぼやきながら腕を組んで難しい顔をしている。しかし彼女も初等科4年生。浮いた話の一つや二つあってもおかしくはない、いやむしろあってくれとすら母である高町なのはは願っていた。

 

  主に、将来自分のようにならない為にも。

 

 悩む娘の後ろ姿を部屋の外でそっと見守りながら何故か自分のメンタルを抉るという訳の分からない行動をとる幼馴染を不思議そうに首を傾げて見るのはフェイトだ。大会も近いとあり、連日の激務に言づけて溜まりに溜まっていた有休を消化している為珍しく高町家はそろい踏みである。

 

「なにやってるのなのは?」

「フェイトちゃんもその内わかるよ。これが、所謂”行き遅れ”って奴なんだね。お姉ちゃん・・・!」

 

 こっちもこっちで何やら勝手にダメージを受けて蹲り姉に共感を覚えている。何故だろう、最近彼に毒されつつある気がすると思うのは気のせいだろうか。・・・いや、きっとそうに違いない。それなら自分がしっかりしなければと気合を入れるフェイト。大の大人が二人もポンコツだとこうも話が進まないものか。

 

「ヴィヴィオ、今朝からずっとあんな感じだよね。練習で行き詰ってるのかな?」

「ノーヴェからは順調だって聞いてるからそれは多分ないと思うんだけど・・・だとしたら、もしかして」

 

 何やら勘付いたようで嬉々とした表情を浮かべながらドアをノックするなのは。ヴィヴィオの了承の声を聴いてから、二人で中へと入る。

 

「ヴィヴィオ、どうかした?具合でも悪い?」

「あ・・・ごめん、聞こえちゃってたかな。ううん、違うよ。私は今日も元気っ」

 

 フェイトの心配を払拭するかのように笑顔を浮かべるヴィヴィオ。顔色もいいし、なにより朝食はいつも通りしっかりと食べていた為どうやら気鬱だったようだと胸をなでおろす。

 

「ふふーん、当ててあげようか」

 

 何やらイタズラをする子どものような感じで怪しく笑うなのは。こういう所は本当に毒されてきたと思う。

 

「ズバリ、アスカ君でしょ!」

「ヴェ!?な、ななななんで先輩がそこで出てくるの!?」

「わかりやすいねヴィヴィオは。というか驚き方まで一緒になってきたことにお母さん軽く心配だよ」

 

 それは貴女も、というツッコミを呑み込んでフェイトはなのは同様ベッドに腰掛ける。顔を真っ赤にしながら両手を大きく振って否定してくるあたりもはや言葉にするまでもないとフェイトは娘の行動を微笑ましく思う。

 

「で、なんでそこまでアスカの事考えてたのかな?」

「うう・・・えっとね。どうして先輩は強くなりたいのかなって」

「んー・・・どうして、か」

「それは、本人に聞くのが一番なんじゃないかな」

「でも、いきなりそんな事聞いてヘンな子だって思われたりしないかな・・・?」

 

 本気で怖がっているようで大きな瞳をうるうるさせながら見つめるヴィヴィオ。そんな究極にかわいい娘の姿をこっそりと愛機にフォトショットしてもらい外見上はなんとか真面目を繕って返す。

 

「大丈夫だよ。だってアスカ君だよ?たとえどんなことでも笑って受け入れてくれるよ」

「それはそれで逆に心配だけど・・・・」

「ヴィヴィオは、どうしてそれが気になるのかな」

 

 フェイトの質問に空気が少し変わる。ややあって、ヴィヴィオは何故そう思ったのかの経緯を語る。

 

「アスカ先輩は、私の今より小さいころから、ずっと一緒にいてくれた優しいお兄さんで・・・泣いてるときは、必ず手を取って傍にいて笑ってくれた。ママ達と同じ、お日様みたいな感じで・・・でも、あの事件(・・・・)の後から何だか変わった気がするの。一緒に格闘技ができて、前よりもっと一緒にいれる時間が増えたのは凄く嬉しいよ?でも、何だか近くて、遠い・・・。だから知りたいんだ」

 

 娘の真剣な眼差しと言葉を受け、二人は顔を見合わせて互いに頷き合う。

 

「ヴィヴィオ、今日はアスカ君も呼んで一緒に晩御飯食べよっか」

「えっ、いいの!?」

「うん。連絡しておいで」

「うんっ。行こうクリス!」

 

 友人であり、相棒でもある愛機のうさぎのぬいぐるみ型デバイスのセイクリッドハートと共にリビングへと降りていくヴィヴィオ。はしゃぐ愛娘の姿を見送ったなのはは小さく息をついて。

 

「なんだか妬けちゃうなー」

「フフ、そうだね。何だかんだでヴィヴィオの中ではアスカが一番なのかも」

「・・・ね、もしヴィヴィオが大きくなってアスカ君と結婚する~!なんて言ったらどうする?」

「え、ええ!?・・・うーん・・・ヴィヴィオがちゃんと選んでそれでって言うなら私は反対しないけど・・・」

「アスカ君だしねー・・・よからぬことを考えそう」

「あり得る」

「・・・いや、でもそれでもいいかも」

「えっ?」

「えっ?」

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

「お呼びに預りこの不肖、アスカ・スカーレットただいま参上いたしましたァ!」

「えと、いらっしゃいませ・・・?」

 

 相変わらず対応に困るような登場をするアスカ。彼の辞書に”普通”と”常識”という文字はおそらく霞んで見えなくなっているに違いないとなのはは軽く溜息。水道の水を止め、自らも玄関に迎えに行く。

 

「いらっしゃいアスカ君。ごめんね、大会も近いのに」

「いえいえ。我らが女神のお呼びとあらばどこからでも飛んできますよ」

「ん?今どこからでも――――」

「なのはさん、それ貴女が言うと洒落にならない奴なんでストップです」

 

 やっぱり毒されてきてると確信するフェイト。仕事上の書類整理を終えて自室から階段を伝って降りてくればそんな光景が見えたので益々しっかりしなければと気合を入れ直す。

 

「いらっしゃいアスカ。あと、これ以上なのはを毒さないでね?」

「俺が何をしたって言うんですかフェイトさん」

「さ、先輩行きましょっ」

 

 手を引いて足早にリビングへと招き入れるヴィヴィオ。これまた微笑ましい姿に二人の口角が上がる。

 

  ヴィヴィオとアスカ。二人の出逢いは今から数年前に遡る。まだ機動六課が試験運用中だった期間内に起きた大規模テロ事件。後の”JS事件”と呼ばれる出来事が出逢うきっかけとなった。ミッド市内を放浪していたヴィヴィオを保護した病院で迷子になっていた彼女を保護して以来、懐かれてしまったらしく母親的存在であるなのはとフェイトが任務で留守にする時は決まって彼女の面倒を見てもらっていた。もはや兄妹と言って差し支えないであろうその関係は今もなお続いている。

 

「ご馳走様でした。いやー、やっぱお二人の手料理も美味いッスね。はやてさんも美味いですけど」

「はやてちゃんには負けるよー。でもありがとう。洗い物は私とフェイトちゃんでやるから、二人はゆっくりしてて」

「先輩、庭に出ませんか?今日は晴れてるし星も綺麗ですよ」

 

 ヴィヴィオの誘いに頷いて二人は縁側に腰掛け空を見上げる。空には雲一つない綺麗な星たちが数多に輝いており、遠い空の向こうから二人を照らす。風も程よく頬を撫で、春特有の温かい風が家の中を満たす。

 

 ややあって、ヴィヴィオが今朝の事を打ち明ける。

 

「あの、どうして先輩は強くなりたいんですか?」

 

 素朴な疑問。ヴィヴィオの色鮮やかな瞳がアスカの横顔を見つめる。少女の問いにアスカは少し笑みを浮かべて不意に頭を優しく撫で、ヴィヴィオもそれを受け入れる。

 

「・・・前に、約束したことがあってね。どんな事があっても、絶対に離れないって。でもさ、俺その約束を守れなかったんだ」

「約束・・・?」

「うん。弱くて、何もできなくて、ただその子が泣いているのを見ていることしかできなくて・・・最後は、大人の人に助けを求めて。本当は自分の手で守りたかった。でも、それができないってわかった途端にさ。すっごく悔しかったんだ。もうこんなのは嫌だって思って――――それからかな。俺が強くなりたいって思ったの。今度こそ、ちゃんと守れるようにって。みんなに笑顔でいてほしい・・・それが俺の、強くなりたい理由かな」

 

 少年の、初めて聞いた胸の内。憧れだった、一緒に歩いていきたいと思った背中の、本当の想い。それを知ったヴィヴィオは自分の手を見つめる。この人も同じなんだ。守りたい人たちがいて、その人達に胸を張れるように。笑顔でいてほしい・・・幸せで、あってほしい。その為に、強くなりたい。

 

「そうですか・・・でも、その約束した子って、誰ですか・・・?」

 

 聞くのが少し怖かった。どうしてかはわからないけど、答えを知ってしまったら・・・。それでも、気になって仕方なかったから。恐る恐るでた問いに、アスカは少し困ったように笑いながら「う~ん」と頬を掻く。

 

「・・・ナイショ、かな」

 

 イタズラっぽく笑って、そう返した。

 

  楽しい時間はあっという間に過ぎるもの。それからゲームしたりしてのんびりとした時間を過ごした二人は夜遅くにならないうちに解散となった。途中、まだ一緒にいたいと駄々をごねるアスカだったが迎えに来たシグナムにより強制連行されズルズルと引きずられていった。せめてもと見送るヴィヴィオは、ふと自分の心にあったモヤモヤに気が付く。

 

「・・・ママ」

「なに?ヴィヴィオ」

「私、先輩の事・・・・ううん、やっぱり何でもないっ」

「え、何?ヴィヴィオさん、今のは何なの!?」

「教えなーいっ。明日は朝早いからもうお風呂入って寝るね!」

「ちょ、ずるいよヴィヴィオ!私達に教えてよー!」

 

 今はまだ、胸の中にしまっておこう。そしていつか、この気持ちを打ち明けられる時が来たら。

 

「その時が来たら、私の気持ち。受け取ってくれるかな・・・」

 

 高町ヴィヴィオ、10歳。特別な春に、特別な気持ちに気づけた、そんな一日だった。




 ※一方その頃八神家では

はやて「ハッ!?なんやらラブコメの波動を感じる・・・ッ!」

 一人電波を受信したはやてであった。

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