VividStrikeScarlet!   作:tubaki7

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今回は短いデス


♯6

 昼間の青空から打って変わり、現在は陽も暮れて夕食も済ませた頃。模擬戦の激しさからくる疲労により小学生組+アインハルトはぐったりとベッドで横たわっていた。

 

「もう動けない・・・」

 

 リオがもぞもぞとシーツの上で動きながらそう声を絞り出す。眠気は不思議とない、遊びたいという子どもならではの欲求はあるにも関わらず体が言うことを聞かないことがジレンマだった。どうしたものか、そう思っているとドアがノックされる。返事を返せば冷えたレモネードを人数分のコップに注いだものをトレイに乗せて運んできたアスカとルーテシアだった。

 

「あらまあ、みんなものの見事にグロッキーだね」

「そういうルーちゃんは流石だよね・・・」

「先輩も、なんていうか凄いですね。私とノーヴェさんだけでなく、シャンテさんも相手にしていたというのに」

「ま、これも年長者の成せる技っていうのかな。と言っても、実際はハルちゃんといっこしか違わないわけだけど・・・はい、疲労回復用のセイン特製レモネードだよ。味の保証は毒見したエリオが保証するよ」

「待ってください、今何か不吉なワードが聴こえた気がするんですけど」

 

 そうは言っても実際毒なんて入っているわけがないので手渡されたものを受け取る。するとドアを開けた時にも嗅覚を刺激したかぐわしい爽やかなレモンの香りがより一層強く感じられ、それに反応してか体もわずかに言うことを聞いてくれるようでなんとか体を起こす。ベッドのシーツを汚さぬようしっかりと持ちながらストローから中の液体を体内に流し込む。爽やかな香りと味。甘すぎず、かといって味も薄すぎずとちょうどいい塩梅のそれは疲れ切った心身に染みわたるようだ。

 

「ところでハルちゃん」

「はい?」

「合宿、どうだった?」

 

 明日で最後となる日程を前に、アスカはアインハルトに問う。ミッドにいた頃はまだ渋っていた彼女だったが、周りの熱気ややる気に刺激を受け今では率先してメニューをこなすほどになっている。しかし、それでもまだアインハルトには小さくくすぶっているものがあった。それは、自らの在り方と強さという概念の価値観の問題。自らの先祖、覇王クラウスの記憶を色濃く受け継ぐ彼女にとって、今の状況は目指すものからはかけ離れたことではある。それは忘れることはなく、今でもアインハルトを悩ませている種の一つだ。覇王流が、クラウスの積み上げてきたものこそがこの世界を統べるに相応しいと。だが――――

 

 

 ――――言いたいことは、まあわかったっていえばわかったけどさ。じゃあ、きみ(・・)の求めてるものってなんなのさ?

 

 

 あの時、街頭下で交わした言葉が脳裏をよぎる。彼は今と変わらない、真っ直ぐな瞳と言葉でそう言った。真に己にとっての強さとは何なのかと。そしてここに来る直前、ノーヴェにも言われたことがある。

 

 

 ――――この合宿が終わったら、おまえの答えを聞かせてほしい。

 

 

 答え・・・・。今まで漠然とした目的の中で探していたかもしれないこと。でもいつしか忘れていたこと。クラウスの無念を自分が成し遂げたい。できれば、納得のいく形で。でもやっていたことは結局ただの独りよがりで。過去の記憶を言い訳にして、ただがむしゃらに、その記憶から逃れたくてやっていたに過ぎないのかもしれない。だとしたら・・・この胸のモヤモヤはどうしたらいい?どうしたら晴れる?どうしたら・・・・。そんな中で、出逢った鮮烈。そして――――敗北。烈火の炎は言う。それでもいいと。でも、それは自分自身なのかと。自らに土をつけた男は、どこまでも素直で愚直なまでにブレない。芯の通った、しっかりとした意志の宿る真紅の瞳が今でも自分を映し、しかしながらその色は優しさを湛えている。まるで、微笑みかけるかのように。

 

「・・・自分の観ていた世界が、とても小さく感じました」

 

 黙って、ただひたすらにアインハルトの言葉を待つ。

 

「そして・・・まだまだ、強くなれる、強くなりたいと。反省点も見れました。今の私では、きっと・・・・」

 

 クラウスも、認めてはくれない。その先を綴ることなくアインハルトの言葉は止まる。それにアスカとルーテシアは互いに顔を見合わせてホロウィンドウを広げる。

 

「それなら、こういうのはどうかな」

 

 映像に映し出されているのは、何かの大会の開会式だろうか。スタジアムに集った男女が規則正しく整列し、その先頭に立つ眼鏡をかけて何かを言っている少女の言葉に耳を傾けているように見える。音声はないが、みな顔つきが真剣そのもので厳粛な雰囲気からそう感じた。

 

「これは?」

「あ、それって前回のDSAAの開会式の映像ですよね」

「DSAA?」

 

 リオの言葉の気になった単語を訊き返す。

 

「ディメンション・アクティビティ・アソシエイション・・・・公式魔法戦競技会の略ね」

「出場資格は10~19歳までの男女混合。全管理世界から若い魔導師たちが自分の力を競う為に集まった大会――――インターミドル・チャンピオンシップ」

「今年からは私達も参加資格があるんで、初参加するんですよ!」

 

 ヴィヴィオが嬉々とした表情で半ばオドオドしているようなアインハルトに言う。

 

「この大会には、色んな世界から色んな競技選手たちが集まる。その規模は毎年違うが、おそらく今回のはかなり多いだろうな」

「ええ。そしてこの大会の予選を突破し、首都本戦にコマを進めて」

「そこで勝てば・・・文句なし、次元世界最強ファイターって訳だ」

 

 次元世界最強。その言葉に、心が踊った。沸き立つ興奮、高まる高揚感。この舞台に、もしかしたら・・・・。そんなアインハルトに、ヴィヴィオが言う。

 

「アインハルトさん。私、今年からこの大会に出るんです。もちろん目指すは優勝・・・でも、それよりももっと、やりたいことがあります」

「やりたいこと?」

「はい。・・・・この大舞台で、アインハルトさんと、戦いたいんです」

 

 真剣な瞳。目の前の彼と同じような、あの時見た真っ直ぐな瞳がアインハルトをとらえる。そして、それに返すように自分もヴィヴィオを見据える。そして。

 

「・・・わかりました。私も、この舞台に立ちたい・・・この大会に、私も参加したいと思います」

 

 待ってました。そう言わんばかりにアスカが笑った。

 

「そうと決まれば、早速ノーヴェに報告と・・・あとはデバイスだな。そっち方面は俺に任せてくれ。俺も含めてバリッバリの古代ベルカ専門みたいなもんだからな」

「アンタは違うでしょ」

「使ってる術式は一緒なんだから問題なし!よし行くぞルー!」

「あ、コラ待ちなってば!・・・アインハルト、とにかくデバイスは任せてくれて大丈夫だから。貴女は貴女でできる事、やってくれればいいから。ちょっとアスカ!?」

 

 そう言って出て行くルーテシア。高まる胸の鼓動を抑えようとしてもどうにもならないほどの高揚を抱えたままアインハルトはヴィヴィオ達と大会への想いを語り合った。

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

「・・・まったく、なぁにが年長者の成せる技よ。いっぱいいっぱいのくせに」

「いや~はは、ルーにはバレてるか」

 

 追いかけて行けば案の定。肉体が悲鳴をあげているのは自分も同じだと言うのにこの男は色々と無茶をする。部屋から離れた廊下の壁に背中を預けて座り込んでいる姿を発見し溜息をついた。

 

「あたりまえでしょ。アンタの事なんてわかんないことなんてないわよ」

「さっすがルー。こりゃ勝てないわ」

「ホラ、肩かしてあげるから。立てる?」

「面目ない・・・」

 

 苦笑いを浮かべながらルーテシアの介抱を受けるアスカ。彼女に寄り添ってもらいながら、自分の部屋へと戻る。

 

「そんなんじゃ、大会で勝てないわよ」

「心配ご無用。それまでにはきっちり仕上げるからさ」

「フン、どーだか。アスカのことだから絶対土壇場になって風邪とかひきそう」

「そういうルーこそ、いざって時に体調崩しそうだよな」

「私は自己管理しっかりしてますからご心配なく」

 

 ぴしゃり、と論破するルーテシア。たとえ同い年でもお前には負けないという意地のようなものを見せつけアスカを負かす。

 

「・・・ね、アスカ」

「んー?」

「私、絶対勝ち上がるからさ。そしたら・・・私と、戦ってよ」

「なんだよ急に。言われなくったって戦うさ。ヴィヴィちゃんもリオちゃんもコロちゃんも、それにハルちゃんだって。俺は皆と全力の真剣勝負がしたいさ」

「違うわよ」

「何が?」

「・・・強くなったのよ、あの時と比べて。それを見てほしいの。もう、あの頃の泣いていた私じゃないってとこ」

 

 そう話すルーテシアの横顔は、とても真剣で。少し頬を紅に染めながらも、しっかりとした言葉でそう言った。自分の成長を見てほしいと。それは、小さいころ、暗い孤独にとらわれていた自分を救い出してくれた少年に向けた決意の言葉でもあった。

 

「・・・ま、勝つのは俺だけどな」

 

 なんだか、返事を返すのが照れくさくて。ぶっきら棒にそう返して互いに見えないよう、小さく笑みを浮かべた。


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