VividStrikeScarlet!   作:tubaki7

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♯4

「はいみんな集合ッ!」

 

 突然の招集にアスカ属する青組は戦闘態勢からゾロゾロと集まってくる。そして、審議が始まった。

 

「ねえねえ奥さん、あの子参戦ですってよ?やぁね、最近の若い子ったら」

「いやアンタと一つか二つしか年齢変わんないでしょーが。というか何事かと思えばそんなこと?」

「そんなこととは何だそんなこととは。重要なことだぞこれは」

 

 またクダラナイことを。そう溜息をつくエリオ、ルーテシアはこのままスルーしようかとも考えたが後々駄々をこねられても面倒なので一応付き合おうことにする。

 

「ハイハイ。んで、何がそんなに重要なのよ」

「胸囲の格差社会」

「きょうい・・・?」

「シャンテさんって、そんなに脅威なんだ・・・ッ!」

 

 何故か気を引き締めるリオと、彼女の実力をある程度知っているヴィヴィオはリオと同じように険しい表情に。しかし真意がわかってしまったエリオは顔を真っ赤にして口をパクパク。ルーテシアは今にも飛び出してしまいそうな己の拳と怒りをワナワナしつつ何とか抑え込み、唯一なんのことかさっぱりわかっていないなのははかわいらしく首を傾げた。

 

「なのはさんって、やっぱヴィヴィちゃんのお母さんだよなぁ」

「そうだね~。で、アスカ」

「はい」

「向こうでティアが、後でOHANASIだって言ってるよ」

 

 試合後も地獄が確定したアスカであった。

 

 

「・・・アレ?私って、もしかしておいてけぼりくらってる・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 初めて出逢った日のことを今でもよく覚えている。当初は他人に対しても自分に対しても、常に何かに警戒心を抱いていた。大人たちにはもちろん、同年代にだって見下されるのは我慢ならなくてよく喧嘩にも明け暮れた。育ちは決していい方とは言えないし、所業だって褒められたものではない。

 

  貧困地域の、スラム街育ち。わかりやすく言えば、そんな場所が自分の育った場所だった。

 

 そんなゴミの吹き溜まりみたいな場所から、連れ出してもらって。あったかい手に引かれてたどり着いた場所は、餓えに苦しむ者も寒さに震える者もいない、穏やかで綺麗な笑顔溢れる場所。ベルカ領にある聖王教会本部、そこへと自分はやってきた。なんでも、シスターをやってみないかということらしい。言葉遣いも他人とのかかわり方も荒いしわからない自分がシスターなど務まるはずがない。ましてや、この人のように誰かに笑いかけるなど。睨みを利かせる事なら得意ではあるのだが。それと真逆、ましてや慈しみの心なんてクソくらえと思って生きてきたのだから、ここはいかんせん眩しすぎる。

 

  そんな私が、シスター。笑い話もここまでくるともはや苦笑しかでてこない。

 

 馬鹿々々しい。でも、不思議と人間の順応力という物は優れているようで。いつもどこかに連れまわされている内に、ある程度の関係者とは打ち解けられるようにはなっていた・・・・と、思う。多分。それでもまだあの人以外では、話すことすら少しの窮屈さはあった。そしてそんなある日、アイツと出逢った。自分より年上で、なんだか気に入らなくて。やれ「おやつは手を洗ってから」だの「食事は残さず喰え」だのと色々と口喧しいにもほどがある。オマケにこれで喧嘩も強いときたもんだからもう手に余る。ここに来る前は、誰にも負けない自信と実力があったのにここに来た途端コレだ。このままではいずれ、また子どもだからと見下される。

 

  そして、あの人からも見放される。

 

 考えてからの行動は早かった。なんでもシスターには騎士職も兼ねた戦闘要員の者もいるらしい。コレだと思った。自分の力を見せるにはいい機会だと。そしてそれからはアイツに隠れて慣れない勉強の毎日。最初はもう紙媒体の物を見るだけで吐き気を催すほどに嫌いになりかけたが、それでも成果が出るのを見るたびに嬉しかったし、教えてくれるあの人も笑ってくれた。それをもっと見たくて、さらに努力した。その結果、デバイスまで与えてもらって。いよいよ、その全てを出し切る時が来た。

 

  だと言うのに。そんな時に限って、アイツがやってきた。

 

 邪魔するな。ただそう一言怒鳴ってやろうかと思ったけど、アイツは本気で自分を心配してくれていたことに驚いた。アレだけ喧嘩して、拒絶して、嫌々だと思っていたのに。あの人に食ってかかるほどに、自分のことを、心の底から案じてくれた。それがたまらなく嬉しくて、訳が分からなくて。今までこんな感情、他人に抱いたことなんてなかったのに。出逢ってきた人間は皆、敵だった。敵にしか見えなかった。そんな自分を連れだして、広い世界を見せてくれた人。そして、初めて長く付き合った少年。多分、これから先もこんなことないくらいに沢山の出逢いと初めてを教えてくれた人たち。そんな大切が溢れているこの場所がいつの間にか大好きで、大事に思えて。初めて、本当の意味で強くなりたいと思った。

 

  だからこそ、今日は魅せてやる。自分と離れていた時間を、後悔するほどに。

 

 

「ヘッヘッヘ・・・アスカ、久しぶりだねぇ。元気してた?」

「真っ黒で変な笑い方しながらトンファーをブンブン振り回すような知り合いを持った覚えはない」

「いやあの、ツッコミはごもっともなんだけどさ。本気で忘れられてるんじゃないかって軽く不安なんだけど」

「んなわけあるか。じゃじゃ馬だったおまえと距離を縮めるのにどれだけ胃に穴を空けたと思ってる。おかげでリンネはふてくされるし、フーカに至っては顔を合わせるだけで殴りかかってくる始末だったんだぞ」

「それはなんというか・・・ゴメンナサイ」

 

 あれ?なんでこんな話してるんだっけ。冷静になった頭でよく考えてみれば、今はもう開始のゴングが鳴った直後だ。エンカウントした――――というか、そうなるよう動いた――――アスカに久々の再会と宣戦布告を言ってやろうかと思ったが、何故か謝罪をするハメに。

 

  というか、リンネとフーカって誰。

 

「えっと・・・シャンテも先輩も、もう試合始まってるんですが・・・」

「そういやそうだった。てなわけだシャンテ。再会の挨拶はこれくらいにして、今は試合に集中しようぜ」

「挨拶なの!?今のが挨拶なの!?」

「まあまあ。ってなわけでヴィヴィちゃん、リオちゃん。悪いけど、ここは二人っきりにしてくれないかな」

 

 ふざけたテンションから、その一言で空気が変わったことをこの場の誰よりも付き合いが長いヴィヴィオは表情を見ることなく察した。「わかりました!」とだけ返し、二人はその場を離れてフィールドの奥へと進んでいく。その後ろ姿を見送ったあと、再びシャンテに向き直る。目が合うと、その面立ちからはかつての尖った、他人を拒絶するような雰囲気はすっかりなくなり。一見すれば、人懐っこい印象の明るい女の子。

 

  その笑顔に、闘志が宿っていなければの話ではあるが。

 

「わざわざ人払いまでするなんて・・・いいの?このアタシと1on1なんてしちゃってさ」

「むしろこっちのエースはヴィヴィちゃんだし、スゥさんはノーヴェとマッチしてもわなきゃ困る。それにフェイトさんの速さについて行けるのはエリオくらいだし、ルーはフルバック。なのはさんはティアさんと撃ち合っててくれないと数の均衡を保てないんだよね。それに、現状最年少組の中で最も強いハルちゃんはヴィヴィちゃんじゃないと抑えらんないし。コロちゃんのゴーレムクリエイトも初見殺しだから俺には分が悪いからリオちゃんでないと対応できないからさ。ンで、そーなってくると俺が相手できるのっておまえしかいないわけよ」

「アスカが頭を使ってる・・・聖王様、哀れなおバカに頭脳の救済を」

「おいそこの万年見習いシスター(笑)が。とっととかかってこいよ」

「誰が(笑)だッ!もう一人前だっつの!」

 

 唸りながら愛機”ファンタズマ”を振りかざすシャンテ。瞬間、踏み込んだと思ったら視界から突如その姿を消す。気配を感じて振り返れば、既に目の前まで彼女の剣がその刃を煌めかせ眼前にまで迫っていた。それをなんとか特殊性のガントレットで防御する。ガキンッ!と金属同士がぶつかるような音を響かせた後にシャンテは詰まっていた距離を今度は最初のように5Mほど離して着地した。

 

「フ~、あっぶね・・・」

「初見で防ぐとは思ってたけどああもあっさりいかれるとはね・・・シャンテさん、ちょっぴりショックかも」

「だったらそのままショックで動けなくなっててほしいんだけど。つか、シスターがそんな卑猥な服着てていいのか?」

「い、いいんだよ!これは動きやすさ重視なのッ」

「あと、俺と色が被る!なんで赤なんだよ違う色あったろ!」

「こ、これは別に、その・・・あ、赤はアタシの好きな色なんだからしょーがないだろッ!」

 

 そこで、ハッとなる。走った寒気にその場を跳び退けば、直後に地面を抉る炎を纏った拳。開かれた装甲から赤い粒子を散らしながら振りぬかれたそれは、あっさりと地面に小さなクレーターを作り不発となった。

 

「ちょ、乙女の純情を利用するとかこの外道!」

「乙女の純情?なんのことか知らんが俺は苦情を言って奇襲をかけただけなんだが」

 

 いわれのないツッコミをくらい納得のいかない顔で首を傾げるアスカ。またしても口が滑りそうになったシャンテは我ながらどうしようもないわかりやすさに顔を紅に染めつつも構え直す。

 

「だぁもう怒ったもんね。ちょっとは手加減してあげようかと思ったけど、やーめた。本気でブチのめしてあげるよ・・・!」

「ハッ、その言葉。そっくりそのまま返してやるぜ」

 

 直後、拳と刃が交錯した。


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