※この京子は天然ではありません。   作:ジュースのストロー

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沢田綱吉の初恋編です。
甘酸っぱい……のかな?




恋をしました。《過去話》

 

 

「や〜いバカツナ!! ここまで来いよ!」

 

「酷いよ、返してぇ!!」

 

放課後の学校の教室で、まだ小さな茶髪の少年、沢田綱吉が必死に手を伸ばして剣の形のキーホルダーを取り返そうとしていた。しかし、相手は同い年とは言え複数人で、机を利用したり投げてパスをされたりしてしまえば中々取り返させる事は出来ず、綱吉の目には涙が溜まる。

 

──ガラガラッ

 

扉が開いた音に少年達がびくりと肩を震わせて音のした方を向くと、そこに立っていたのはまだ幼い笹川京子だった。誰にでも分け隔てなく接して男女問わずに人気のあった京子だが、虐めをしていた少年達も勿論例外ではなく、彼女に積極的に嫌われたい訳ではなかった。

自分達がしている事があまり褒められた事ではないと言うのは自覚していたのか、イジメをしていた少年達が気まずそうに目を逸らす。京子はそんな少年達を見てパチクリと目を瞬いた。

 

「何してたの? あ、もしかしてチャンバラごっこ?」

 

一瞬何を言われたか分からなかった少年達は、京子が1人の少年が持つ剣の形のキーホルダーを見ている事に気付いて、慌てて口を開いた。

 

「そうそう! さっきまでチャンバラごっこしてたんだ!」

 

「ツナが敵キャラで皆で倒してたんだよ!」

 

「ふ〜ん。」

 

京子の何か考えている様な顔に少年達は虐めていたのがバレたかと冷や汗が流れた。

 

「そっか! チャンバラって格好良いよね!!」

 

先程までとは一転して、満面の笑顔になった京子に少年達もほっと息を吐く。気になっている女の子に嫌われたらと思うと、少年達の心臓はいつ止まってもおかしくなかった。

 

「あ、でももう遅いから帰った方が良いよ。私は忘れ物を取りに来たんだけど、一緒に帰る?」

 

「えっ、良いのか?!」

 

「本当? うん、僕達もそろそろ帰ろうって話してたんだ!!」

 

まさか京子と一緒に帰れるとは思っておらず、内心ラッキーと呟いた少年達は奪っていた剣のキーホルダーをさっさと綱吉に返すと、ランドセルに教科書を詰めて京子の近くまで来た。

 

「あれ? あの子は良いの?」

 

京子の視線の先には先程まで自分達が虐めていた綱吉が1人で立っていて、わたわたとランドセルに教科書を詰めていた。少年達はその存在をすっかり忘れていたのだが、京子と接する時間が少しでも減るのが嫌だったので綱吉を追い払う事に決めた。

 

「あぁ……あいつはまだ学校に用事があるんだってさ。 だから先に帰ってようぜ。」

 

「え、そう、なの? ……分かった。」

 

勿論綱吉は学校にそんな用事なんて存在しないし、要領が悪くてランドセルの準備をするのに時間がかかってしまったが、京子達と一緒に帰るつもりでいた。

 

「じゃあね、沢田君。」

 

「またなツナ!」

 

「明日も遊ぼうね!!」

 

何にも気付かずに教室から出て行く京子と、からかい半分で別れの挨拶をして行く少年達を見て、綱吉はか細い声で別れの挨拶を言う事しか出来なかった。

 

「……はぁ。本当に嫌になる……」

 

「うん? 京子ちゃんごめん、何て言ったか聞き取れなかった。」

 

「いや、何でもないよ……それよりも」

 

「えっ、ど、どうしたの京子ちゃん?」

 

「ここここ、怖い顔してるぞ。」

 

「そうかな? 笑ってると思うけど?」

 

黒い笑みを浮かべた京子を前にして、少年達はたじたじだった。

 

「君達にはちょっと、道徳の授業が足りてないみたいだね……。」

 

「ひぇっ?!」

 

「きょきょきょ京子ちゃん?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

綱吉は翌日、自分の耳を疑った。何故か昨日まで綱吉を虐める中心となっていた少年2人が、今までの行いを綱吉に謝って来たからである。それどころか、性格が180度変わったのではないかと言う程に紳士的で親切で真面目になり、綱吉だけでなくクラスの誰もが少年達を二度見した。

何があったのだとクラスの皆が問い詰めるも、少年はやっと目が覚めただの今までの自分が愚かだっただのと言うだけで、詳細な事は何も話さない。

綱吉は持ち前の超直感故にか、もしかしてと思って京子の方を見ると、丁度京子と目があった。京子はすぐに慌てて目を逸らしたが、その反応を見て綱吉は京子が何かをしたのだと確信した。

 

「京子ちゃん」

 

「っうん? な、何か用かな?」

 

話しかけてみるとあからさまに挙動不審になった京子を見て、綱吉の確信が深まる。

 

「昨日はありがとう。」

 

「えっ、えー……、昨日何かしたっけ? ごめん、分かんないや。」

 

あくまでもしらを切る京子を見て、綱吉もそれ以上言及するのを止めて席に戻った。京子は1人、席でほっと息を吐いた。

それから綱吉は、京子の事をよく観察する様になった。今まで笑顔が素敵な女の子で可愛いなとしか思っていなかったが、京子は思っていたよりも不器用な女の子だった。

朝一番に来て花瓶の水を取替えたり、綱吉みたいに虐められていた女の子をこっそりと助けたり、堂々とすれば良いのに、何故か隠れて親切な事をやっていた。

また、綱吉が驚いたのが、今までも何度か綱吉が知らない所で綱吉を庇っていてくれていたと言う事実だった。机の落書きを消してくれていたり、隠された私物を取って来てくれたり、その後に実行犯達がいつかの少年達と同じ様に綺麗になって帰って来るので、綱吉はつい笑ってしまった程だ。

隠れてしか親切が出来ない不器用で嘘が下手な女の子、だけど綱吉の中ではヒーローみたいな存在で、いつか逆に自分が京子の事を助ける事が出来たらなと漠然と考えていた。

 

憧れが恋に変わるのは早い────

 

 





お土産屋さんでメタリックな刀や剣のキーホルダーって見た事ありませんか?
私的には、男の子は必ず1つは購入して持っているイメージがあります。懐かしいなー。


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