※この京子は天然ではありません。   作:ジュースのストロー

3 / 22
距離をおきました。

 

 

朝から教室内がざわついている。どうやら今日から転校生が来るらしい。海外からやって来た帰国子女でハーフらしいと生徒達が話していたのを聞いて、やって来るのはやはり彼かと当たりを付ける。

 

「全く皆ガキね。転校生くらいではしゃいでみっともない。」

 

「それは花が達観し過ぎてるだけだと思うけど……」

 

私だって今日やって来るのが、かのスモーキンボムこと、獄寺隼人でなければ年相応にはしゃいで楽しみにしていた事だろう。

いやだって、見た目も中身も完全に不良でマフィアの一員だし、煙草吸うし、ダイナマイトをすぐに投げつけて来るし、たまに誤爆するし、短気だし、ネジが1本抜けてるし……いくら文武両道のイケメンでも歩く爆破危険物の様な扱いのやつと関わりたいと思うだろうか、思うまい。

そんな訳で私は彼と目を合わさない様に、ホームルームを寝て過ごす事にした。花には悪いが、昨日夜更かしをしてしまってと嘘をつき、ホームルーム中に寝ててもおかしくない様にさっさと腕に頭を載せる。

正直眠気は全く襲って来ないのだが、転校生が来たら皆見るだろう。そこで自分だけが視線を向けなかったら非常に怪しい。しかし自分はあまり表情を取り繕うのが上手くないとは思っているので、獄寺隼人の顔を見たら警戒している事が筒抜けになりそうで怖い。それならば初対面時から、ホームルーム中に寝ていた女と思われていた方が良いと思うのだ。うん、きっと大丈夫。上手く行く。

 

 

 

 

「おいっお前っ!!」

 

上手く行くって、思ってたんだけどなー……

 

「はぁ……。」

 

人生って本当にままならない。廊下の後ろから追いかけて来る獄寺隼人の声を聞いて、私は歩みを早めた。

 

「くそっ、ふざけんな!! 待てって!!」

 

肩を思いっきり掴まれて体が傾く。そんなに引っ張らなくても良いのに、男子は女子のか弱さが分からないのだろうか。

 

「何か用ですか? 痛いんですけど、離して下さいませんか?」

 

「なっ?!」

 

未だ肩を掴んでいた手をパシンと振り払うと、口をパクパクさせて驚いた顔の獄寺隼人を残して私はまた歩みを進める。

私の目論見は途中までは成功していたのだ。そう、途中までは。

ホームルームの自己紹介の時に私は顔を伏せており獄寺隼人と顔を合わせておらず、獄寺隼人はそんな私に興味なんて欠片も抱いていなかった筈である。そして彼がわざわざイタリアから日本に来てまで会いに来た沢田綱吉とは原作通りに敵対し、ボンゴレの10代目として認められないと宣言していたのも聞いた。そしてクラスの人に教えて貰った話だが、獄寺隼人が沢田綱吉を校庭に呼び出しダイナマイトを投げ付けて勝負するも敗北。しかもダイナマイトを間違えて落としてしまうと言ううっかりを助けて貰ったらしい獄寺隼人は、今までの態度を一変させて従順な犬の様に沢田綱吉に懐いてしまったと。

クラスの皆が、不良の様に沢田綱吉に喧嘩を売っていた獄寺隼人が1日にして態度を改めたのに対して、沢田綱吉に畏怖の念を抱いていたまでは原作通り、いや目論み通りであった。

ここでの私の失敗は、獄寺隼人の忠誠心を甘く見ていたのと、原作とは異なり私こと笹川京子が沢田綱吉の事をスッパリと振ってしまった事であった。

現在話しかけられればきちんと話す、会えば挨拶をする、と言う最低限の付き合いである私達だが、沢田綱吉の表情はやはりかたい。獄寺隼人は自称右腕として、自らの主の変化を見抜き、少し前に沢田綱吉が私に振られてしまった事実を知ったのである。

その後すぐに獄寺隼人は花と話していた私の席の前に立つと、威圧感を出しながらも何故告白を断ったのか聞いて来た。曰く、10代目はこんなに素敵な方であるのにも関わらずその思いを断るなんて言語道断であると。花と共に呆れた目をして適当な返事をした私達であったが、その時は授業が始まってしまい、獄寺隼人は渋々自分の席に着いた。

それからである。彼はしつこい位に私に言い募って来た。こちらも段々と語尾が荒くなりながらも返したのに、それでも彼は言い募って来た。

きっと告白を断った本当の理由を私が言えないのにも理由はあるのだろう。沢田綱吉の事をそう言う目で見れないとか、なよなよしている所とか、優柔不断な所とか、自分に自信がない所とか、現実逃避が過ぎる所とか、甘ったれてる所とか…………結構な事を言ってしまったが、私が彼を振った理由の1番はボンゴレ関係者であるからだ。

マフィアにも争いにも、出来るだけ関わりたくはない。現在も、もしもの場合に備えた護身術や使える技術、語学等を学んではいるが、それらが光を見ないに越した事はないのである。

 

「獄寺君!!」

 

「え……」

 

廊下に突如飛び込んだ怒声に驚いた。怒声にもだが、この声はまさか……

 

「獄寺君、僕、笹川さんに迷惑掛けるのはやめてって言ったよね。」

 

「じゅ、10代目………これは…」

 

廊下を走って、私と獄寺隼人の間に割り込んだのは沢田綱吉であった。その分かりやすい怒りに、獄寺隼人も自分が機嫌を損ねてしまったと気付き、顔を青くする。

 

「言い訳は後で聞くよ。ごめんね笹川さん、獄寺君が迷惑掛けて……」

 

一気にショボンとしてしまった獄寺隼人を置いて、沢田綱吉は私に申し訳なさそうに言うと頭を下げた。

主が頭を下げた事に、獄寺隼人の焦った声が廊下に響くも沢田綱吉は無視をして頭を下げ続ける。流石にいたたまれなくなった私は、慌てて頭を上げる様に頼んだ。

 

「その、頭を上げて。それに大丈夫だよ。別に怖くはなかったし。」

 

「いや、それでも謝らせて。ごめんなさい、ほら獄寺君も謝って。」

 

主に命令されては逆らえないのだろう。ましてや主が頭を下げているにも関わらず、自分が頭を上げ続ける事なんて出来ないと、獄寺隼人もまた頭を下げた。その拳はかたく握られていたが……

 

「わ、悪かった。」

 

「…………はぁ。分かりました。その謝罪を受け入れます。」

 

その言葉に、沢田綱吉は少しだけほっとした様に表情を緩めた。

 

「だけど……、今後はなるべく私に関わらないで下さい。挨拶や用件があれば話は聞きますけど、最低限にして下さい。迷惑を掛けたと思うのなら、尚更です。」

 

「なぁっ?!」

 

獄寺隼人の出した声に、沢田綱吉は手で抑えてそれを止める。

 

「分かったよ、笹川さん。本当にごめんね、ありがとう。」

 

「10代目?!」

 

「行くよ、獄寺君。」

 

何かを言い募る獄寺隼人をあしらって去って行く沢田綱吉の背中を視界に収めて、私は冷や汗を1つ流した。あれは一体誰だろうか。少なくとも私が最近まで知っていたダメツナではなくて、ボンゴレのボスの影が感じられた。

この時期は獄寺隼人の手綱も碌に握れず、ビビりながらも振り回されていたのではなかったか……

私はここが物語の世界だなんて微塵も思ってはいない。それならば笹川京子と言うヒロインに甘んじて、危険と隣り合わせながらも安心と安全な日々を無為に過ごすだろう。しかしこの世界は現実で、原作通りになる確証はない。

だから私は気が狂いそうになりながらも努力をして、工夫をして、今まで過ごして来たのだが、今まで私の死亡フラグを折るためにやって来た事は、見事に修正力によってねじ伏せられて来た。

沢田綱吉に10代目候補としてのお鉢が回って来ない様にと、他の候補者を助けようと暗殺への警戒を高めるために爆弾テロの手紙を書いたりしたがあえなく全滅、骸達もエステラーネオファミリーから助け出そうとボンゴレに匿名で情報を伝えたがその伝えた相手が悪く何も解決せず、そもそも並盛町にいなければと両親に引越しをせがんでも子供の言う事に本気にして貰えず……

あくまで原作を崩す事をさせないのは修正力、いやトゥリニセッテのせいなのだろうか……それとも私の力が足りないだけなのだろうか…………分からない、分からないが確実に原作の今と現実の今の沢田綱吉は乖離して来ているのは確かだ。これがどう言う影響を及ぼすのか……私には良い方向になる様祈る事しか出来ない。

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。