何だろう、校門の方が煩い……
「あ……。」
「どうしたの京子? ん、了平さん?」
教室の窓から覗いた校門には、私の兄である笹川了平と沢田綱吉が何やら騒いでいた。私の声に外が気になったであろう花も、校門で騒ぐお兄ちゃんに気付いて疑問の声をあげる。
私はここからの展開に気付いてしまった。ここからは離れていて会話の内容は聞こえないが、恐らくお兄ちゃんと沢田綱吉が話しているのはボクシング部に入らないかと言う事だろう。
この話を通してお兄ちゃんと沢田綱吉はバトルする事になり、それを元にしてボンゴレファミリーに勧誘されるのが今後の道筋だ。正直私としてはボンゴレファミリーにお兄ちゃんが勧誘されるのはとても困る、困るのだが、お兄ちゃんの強さであればリボーンに見つかり勧誘されるのも時間の問題であり、今回の件を徹底的になくそうとしても対して意味がなかったのである。
「ど、どうしたの京子??」
「へ?……いや、何でもないよ…………」
いけない、いけない。花に不審がられる所だった。
つい、口元が笑ってしまうなんて、気を付けないと…………
「沢田! この勝負に勝ったらボクシング部に入って貰うぞ!!」
「ひぃっ?! て、手加減して下さいっ!!」
京子の予想通り、了平は無理やりツナを引っ張ってバトルを仕掛けていた。一方的に賭けの内容を伝えてツナをポジションに立たせた了平はしかし、部員に審判を任せると真剣な顔つきになった。
スタートの合図と共に聞こえる弾丸。リボーンの驚異の連射速度で発射された2発の死ぬ気の弾丸は、それぞれが両者の眉間にヒットした。弾丸がめり込んでグラつく体、了平は流石鍛えているだけあってその後は何事もなかったの様に立て直したが、ツナの体は1度盛大に倒れた。ーーーーがしかし、額に炎を灯して再び起き上がったのだ。
ここで驚くべきはツナの驚異的な復活か、否、了平が死ぬ気弾を撃たれてもグラつくだけで変化がなかった事の方が余程驚くべき事案だ。すなわちそれは元の状態が既に死ぬ気であったと言う証明にほかならない。笹川了平は、常に極限の死ぬ気の状態で生活する人間であったのだ。
「極限入部しろ! 沢田ぁああ!!」
「死ぬ気で断る!!」
お互い、死ぬ気の状態で拳を振るう。その一発一発が重く、プロテクターを付けている手に鉛でも入っているのではと疑う様な力が拳に加わり、お互いに炸裂する。
ここで明暗を分けたのは、言っては何だが、単なる経験の差。お互い同じ死ぬ気の状態と言う土俵で、どちらが勝つかと問われれば、より経験の高い方が挙げられるのは道理である────常ならば。
ところが沢田綱吉と言う男はボンゴレ1世の血を引く直系であり、超直感と言う優れた技能を持っていた。この超直感の恐ろしい所は、その直感から来る予知にも等しい予測と、どう体を動かせば良いのかスポンジの様に吸収する事であった。
「うぉおおお!!!」
「ぐぉおおおおおお!!」
その一撃は芯を震わせて脳を揺さぶる。了平のパンチを勢い良く喰らいながらも、しかしブレる事なく振りかぶった拳は、やすやすとよけられてしまう。大きくブレてしまった体制からアッパーを思いっきり喰らったツナは、一瞬だけ視界が真っ白になるも立ち直る。再び振りかぶった拳は、先ほどよりも脇が締められておりスピードも力も乗っていた。しかしそれもよけられ、反撃される。もっと速く、もっと強く、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も繰り返して、ボコボコにされて行くツナは、それでも倒れなかった。
「っはぁあああああああ!!!」
ここで、そのツナの経験値が了平を超えた。今まで何年もかけて打ち込んできたボクシングで、碌に練習すらしていないど素人がそれを超えた。
「がはぁっ?!」
一発、されど一発。勢い良く顎に向かって入ったアッパーは、了平の体を軽く持ち上げて浮かせる程の威力だった。
この短時間でボクシングの力を付けたツナの超直感がどれ程凄いか、あるいは驚くべきはそのタフネスさか…………
カウントダウンが終わり、立っていたのは沢田綱吉であった。
「うぬぅ…………ここは……」
「あっ、気が付きましたか 笹川先輩!」
「……そうか俺は、負けたんだな…………」
「……はい。」
数分後、ボクシング部の部室に運びこまれた了平は目を覚ましていた。
俯いて額に手を当てる了平に、ツナの声のトーンも下がる。それだけ了平がツナをボクシング部に入れたかったのか、はたまた負けたのが悔しかったのか…………きっと後者であろう。
「あの、笹川先輩……「沢田」……はい?」
俯いていた了平の手が、ツナの肩をガシッと掴み、思わず間抜けな声を出すツナ。
「これから、同じボクシング部員として極限頑張るぞ!!」
「はい?!」
了平が俯いていた顔を上げれば、それはそれは良い笑顔であった。
「うむ、良い返事だ。これからの活躍が極限楽しみでならないな。」
「っぇええ?! いや、俺ちゃんとボクシングに勝ちましたよね??」
「そうだな。素晴らしい試合だったぞ。明日からもまた試合が出来ると思うと、わくわくするな!」
「いやいやいやいや!! 勝ったんですから諦めて下さいよ!」
「極限何を言っている? この勝負に(沢田が)勝ったらボクシング部に入って貰うと言ったではないか。」
「えっ? ……勝ったらってそう言う事なの!?」
「自分よりも弱いやつよりかは、強いやつに入って貰った方が良いに決まってるではないか…………何を馬鹿な事を言っている。」
「えっ、ぇえええええええええっ!?」
ツナの大声が部室に響く。了平とこっそり部室に侵入していたリボーンの2人は、それぞれ笑みを浮かべていた。
「まっ、家庭教師としてダメツナが強くなるなら手を出す必要もねぇしな。別にいいか。」
「ふっ、極限京子の言っていた通りだったな…………これが戦いに負けて勝負に勝つと言う事か。」
隠れていたリボーンに視線を向けた了平は、しぃと口に指を当てる。リボーンはふっと笑って了平を見つめ返した。