※この京子は天然ではありません。   作:ジュースのストロー

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友達がいなくなりました。

 

 

 

「はぁ……この空気本当に嫌だ。」

 

「本当にね。本人が違うって言ってるんだから信じれば良いのに……きっと何か事件にしたいだけなんでしょ。無視よ無視。」

 

教室にて、席について花と2人で話していると本当に落ち着く。

私が学校を1日休んでいる間に、学校では何故か雲雀先輩と私が出来ていると言う噂がたっていた。理由は雲雀先輩が気絶した私を兄に渡した事や沢田綱吉の告白を断った事からで、今朝の校門での出来事が皆に確信を与えたらしい。

私達を見たという生徒達は雲雀先輩がまるで悪漢から姫を守る騎士の様だと言っていたが、雲雀先輩が騎士なんて似合わな過ぎる。あの人はゲームのラスボスか何かだろう。

クラスで話していた友達に違うと説明しても、何故か「隠してるんだったら、秘密にしておきます……」と勘違いされ、しかも何処か距離を取られる始末。雲雀恭弥の彼女と言う立ち位置が悪いのか、私が雲雀先輩に何かを言うのではないかと仲の良かった子達も皆、私を遠巻きに見ていた。辛い。

そんな中でも一緒にいて、私の話を曲解しないで信じてくれた花の存在はとても有難い。言った途端に揺らぎ出す陳腐なセリフだが、私達ずっと友達でいようねと心の中で呟いた。

 

「あ……」

 

声の方を向くと、そこには一昨日ぶりの沢田綱吉の姿があった。表情はかたく、キョロキョロと落ち着きがない。

 

「おはよう、沢田君。」

 

「えっ、うん。おはよう。」

 

挨拶だけして、私は沢田綱吉から目を逸らした。

 

「京子、やっぱり沢田に何かされたの?」

 

未だ近くに立ち竦む沢田綱吉に聞こえない様に、花が私の耳に顔を近付けて小声で声を掛けて来る。

 

「えっ、何で?」

 

別に今回は顔色が悪かったりしない筈なんだが……

顔を手でペタペタ触っても何も分からない。

 

「だっていつもの京子なら、これからも友達でいようね位は言うじゃない。沢田から敢えて距離を取ってるみたいだから、何かあったのかなって……」

 

「あはは成程……花ってば鋭いね。」

 

「じゃあやっぱり……」

 

「半分正解で半分不正解だよ。確かに私は沢田君と距離を取ってる……だけど、彼に何をされたと言う訳じゃなくて単に気まずいだけだよ。」

 

「本当に?」

 

「本当に。……信じて、花。」

 

私は狡いな。信じて、なんて言葉を使ったら、花は私の事を信じるしかない。さっきまでクラスの皆に信じて貰えず、花だけが私を信じてくれたのだから尚更だ。

沢田綱吉に対して気まずい気持ちも確かにある……告白はする方もだけど、振る方も大変だ。嘘はついてない。確かに私はまだ、沢田綱吉に何もされていないのだから。

私が彼を振った事により未来が変わるかもしれない……いつもの修正力によって変わらないかもしれない。もしかしたら未来で私が彼に、いや彼を取り巻くマフィアに害されるかもしれないと奇天烈な事を言っても、花は私の言う事を信じてくれるかもしれない。だけど、優しい私の友達を僅かでもマフィアに関わらせたくはなかった。

 

「花?」

 

私の頭に花の手が載っかった。

 

「私は京子の事いつでも信じるから……それだけ。」

 

わしゃわしゃと少し乱暴に撫でられた頭はぐしゃぐしゃになってしまうだろうけど、花の照れた表情が可愛いくて、不器用な優しさが愛しくて、私は自然と笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、先生に書類を押し付けられて私は、単身応接室の前へとやって来ていた。

この学校には人の話を聞かない人が多すぎる。雲雀先輩の彼女ではないと言ったにも関わらず、定期報告の書類を出しに行くのが嫌だからと女子生徒に無理やり書類を押し付けるのはどうかしてるんじゃないか。

書類を頼まれた時に一緒にいた花に、付いて行こうかと心配されたが丁重に断っておいた。2人で行って群れてると思われた方が危ない。

雲雀先輩は彼の中に定められているルールを破らなければ、変に害される事はないので沢田綱吉なんかよりも余程気楽に接する事が出来る。なので別に応接室に行くのが怖くて嫌だという訳でもないのだが、無理やりという点ではモヤモヤした気持ちが燻っていた。

 

「失礼します。」

 

ノックを3回した後に掛けた言葉にはすぐに返事が帰って来た。

ガラガラと横開きのドアをスライドさせると、すぐに目に入るのは立派な黒髪のリーゼント。風紀委員の副委員長である草壁哲也先輩だった。

 

「何かご用件ですか?」

 

見た目とは裏腹の丁寧な口調で用件を聞いてくる草壁先輩に私は書類を渡す。

 

「こちらの書類を先生から預かって来ました。今週分の定期報告と必要物品の請求書みたいです。」

 

「確かにお預かりしました。委員長、こちらの請求書は机に置いておきますね。」

 

草壁先輩は請求書を雲雀先輩の座る机に置くと、定期報告の書類は専用のボックスに入れた。

私が入室してから、雲雀先輩は椅子に座ったまま腕を組んで目を瞑っていたのて寝ているのかと思っていたが、どうやらそうではないらしい。片目を開けて机に置かれた書類を見ると、机に置かれたペン立てからボールペンを出して、何か記入を始めた。

何となくそれを目で追っていると、やがて記入を終えた雲雀先輩がこちらを向いて自然と目が合う。

 

「これ、請求は認めるけど数が多いよ。君に書類を押し付けたやつに半分に減らしたって言っておいてね。」

 

「あ、はい。分かりました。」

 

訂正した請求書の控えだと先輩から紙を渡されて、私はそれを受け取ろうとした。

 

「……雲雀先輩?」

 

雲雀先輩の手から離れない紙に私が不審に思うものの、先輩はこちらをじっと見たまま手を離さない。

 

「…………もう、回復した?」

 

何がとは言わなかったが、私には分かった。あの時気絶してしまった私を、この人なりに心配してくれていたんだろう。

 

「はい、もうすっかり良くなりました。」

 

「そう、なら良い……」

 

すっと紙から離された手を少し勿体なく思いながらも、私は雲雀先輩から控えを受け取った。

 

「ありがとうございました。それじゃあ失礼します。」

 

そう言って軽く頭を下げても雲雀先輩は既に目を瞑って椅子に座っていたが、それが彼らしくて笑みが零れた。

 

「ご苦労様でした。気を付けて帰って下さいね。」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

草壁先輩はどこか私を観察する様な目をしていたが、いつも通りに丁寧な口調で言葉を掛けてくれた。

大きな音を立てない様にドアをスライドさせる。教室へと向かう廊下では、いつもよりも歩みが弾んでいた。

 

 

 


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