泣きやめ馬鹿、泣いたって何も解決しないぞ。非生産的な事に時間を費やす位ならばすぐにでもボンゴレに対しての策を考えるべきだろう。
「はぁっ…………う……ふぅっ……」
泣きやめ、泣きやめ、泣きやめ、泣きやめ、考えろ、考えろ、考えろ。
言う事を聞かない自分自身にイライラして、また涙が出て来る。ダムが壊れてしまったみたいに目からボロボロボロボロと溢れ出て地面に落ちて、小さな水溜りが出来ていた。
何で何で何でどうして────何で私はこんなに生き辛いんだ。どうしてこんなに苦しいんだ。どうしてこんなに怯えて暮らさなきゃいけないんだ。どうしてあんなに親切で優しい彼を拒絶しないといけないんだ。
「ぁっ………あ………うぅー……」
苦しい、苦しい、息が苦しいよ………………
────大丈夫? 笹川さん
「……っ!?」
突然聞こえて来た声に反射的に振り向くも、そこには誰もいない。一気に血の気が引き、煩い程に鳴っている心臓の音もそのままに辺りを注意深く見て、やっと本当に誰もいない事に気が付いてから、深く息を吐いた。体から汗がダラダラと流れて未だ心配の鼓動が落ち着かないが、今の衝撃で涙は引っ込んだ様だ。
どうやら私は、沢田綱吉の声の幻聴を聞いてしまったらしい。これは無意識下で大空の炎を持つ彼に助けを求めてしまったのだろうか…………もしそうなら、我ながら苛つく所の話じゃなく、殺してやりたい位なのだが……。彼との関係を拒絶しておいて、それでも助けて貰いたいなんて一体何様のつもりなんだろうか。そうではないと思うが、否定しきれない自分がいるだけに苛々がつのる。
沢田綱吉が私の事を心配してくれている様な、助けてくれる様な幻聴を聞いて、私の体は強ばった。また同じ事を繰り返してしまうのではないかと、また彼に甘えて彼を傷付けて、それ以上に自分がこれ以上醜くなってしまうのではないかと恐ろしかった。
「……ひっ……は…………あ゛ぁ………はっ…」
涙は止まった筈なのに息がやっぱり苦しくて、大きく口を開けているのに酸素が上手く取り込めない。口がハクハクと開いて閉じて、あまりもの息苦しさに今度は生理的な方の涙が浮かんで来た。
このままではいけないと両手で口を覆って、意識して呼吸を深く遅くする。次第に何とか呼吸が落ち着いて来た私は、深呼吸を繰り返して何とか移動が出来るまでの状態に立て直した。あれだけ泣いてしまったせいか、立った時に体がぐらついて家の塀に手を付く。やるせなさに塀を右手で思いっきり殴ろうとして、止めた。
────自分自身で傷を付けるのは感心しないぞ。京子も女の子なのだがら、もっと自分を大切にしろ。
「お兄ちゃん…………。」
つい最近お兄ちゃんに自分の身を大切にしろと叱られたのだったと思い出して、固く握っていた手をゆるゆると降ろす。
お兄ちゃん、何だかんだ頼りになる、優しくて極限元気なお兄ちゃん…………お兄ちゃんに助けてと言えば、助けてくれるのだろうか……助けて、くれるだろうな…………。お兄ちゃんはそう言う人だ。
「でも、それだけは駄目だ。」
マフィアと関わりたくないのにマフィアに悪い意味で目を付けられて…………正直ここまで私がやった事が空回りするとは思わなかったが、ある意味自業自得のそれにお兄ちゃんまで巻き込ませる訳にはいかない。これは私の独善だけど、それでもマフィアと闘うも等しい状況でお兄ちゃんの力を借りると言うのは、お兄ちゃんを私自身が裏社会の一員にするのと同義だ。それだけは絶対に、絶対に駄目だ。
勢いを付けて手で頬を叩く。パンと大きな音が鳴った後に感じた、頬のビリビリとした感覚は自傷行為の内に入るのかもしれないが、傷跡は残らないので許して欲しい。
「っよし!」
死ぬ気で自分を、家族を守る。まだ何も良い案はないけど、諦めなければ何かがきっとある筈だ。持てる力を持ってして、全力で、何を敵にまわしても必ず、絶対に成し遂げてみせる。
服の袖で涙を拭って、空を見上げた。ムカつく位に快晴な青い空は何処までも広がっていて、それがボンゴレの強さを表している様で、私はただ空を睨み付けた。